変化に直面する「小売」「雇用」「社会」
◆ 企業は、今どうあるべきか ◆
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新しい産業に脱皮できないと百貨店は終焉を迎える?
【トッテン】 安森さんとは数年前に異業種交流会でお会いして以来、色々な話題で勉強させていただいています。本日は商売と経営がテーマですので、安森さんが百貨店業界の今後をどう考えていらっしゃるかを伺ってもよろしいでしょうか。
【安森】 百貨店の時代はもうおしまい。事業体として建物の中で完結する形で非常に内向きな場所なので、百貨店があっても街への広がりがない。そんな産業がいつまでも小売の王者でいるわけがありません。私は百貨店は20世紀の産業だと思います。
【トッテン】 これからは専門店の時代でしょうか。
【安森】 おそらく。ただ、百貨店は産業としては残らなくても建物は残ります。今、高齢化が急速に進み、また若者の自動車離れも起きています。将来的には百貨店の中に専門店がたくさん入る時代になるような気がします。要は、以前は自動車で行かなければならなかった郊外のショッピング・センターが、近所の百貨店の中にできる。つまり百貨店が商店街的な存在となる。そうなれば新しい産業として脱皮できるかもしれません。
【トッテン】 「百貨店はなくなる」…40年間百貨店業界を見てきた安森さんが言われるから、とても説得力があります。
【安森】 83年に筑波研究学園都市の開店準備室長を任され、開店してからは店長として計4年半筑波にいました。赴任した当時、そこには何もない。人なんていないのです。こんなところに百貨店なんて、貧乏くじを引かされたと思いました。ところがそこが商圏として成り立たないと思ったのは私が都市型の人間だったからで、筑波では20~30キロ離れたところからも車で買い物に来る、という50万人規模の商圏だったわけです。
【トッテン】 自動車中心の社会で、アメリカと同じですね。自動車の普及によって伸びた郊外型の百貨店が、高齢化や石油の減耗の結果、再び鉄道の駅中心の、商店街のような展開に変わっていく。社会の変化に合わせて、ビジネスの仕組みは変化し続ける、ということですね。百貨店がだめだと思い始めたのはいつ頃ですか。
【安森】 1990年代初めの外商事業部時代です。外商のビジネスは今年うまくいっても来年の保証はなく、同じクライアントでも毎年ゼロベースからスタートします。予算の増減など、要するにクライアントの条件が変わるからです。クライアントの要請に従って自分で仕事を組み立て、商品に落として納品するビジネスが外商です。一方で、百貨店の売り場は、役職者の下に社員数人という命令系統でビジネスが行われ、あとは自分の管理下の問屋さん、メーカーさんの商品を派遣社員をつかって売るだけです。どちらが商いの本質かと考えた時、店頭での百貨店ビジネスに疑問を持ったのが、百貨店がだめになるのではと感じた最初ですね。
【トッテン】 そのような西武百貨店から95年にロフトに入っていかがでしたか。
【安森】 筑波の時と同様に、嫌でした。女性に例えると、見栄えは良いけど性格が悪い女性っているでしょ、そんな感じでした(笑)。
【トッテン】 具体的には当時のロフトで悪かったところはどこだったのですか。
【安森】 膨大な不良在庫が問題でした。渋谷ロフトの売上約70億円に対して、在庫が14億円もありましたから、効率的とは程遠い状態でした。
人間の洞察力なしにコンピュータを使うと、
大きな過ちを犯す
【トッテン】 ロフト改革では、どういったところから大ナタを振るわれたのでしょうか。
【安森】 顧客の対象を絞ること。お客様が決まれば商品が決まります。当時のロフトはデザイナーやクリエーターといった横文字の職業の人からの評価が高かったのですが、私は先端の人より、一般の人たちを豊かにしたいという思いがあったので、対象は都市生活をしている20代の女性に絞りました。客層が絞られ、彼女らがどのような食器や家具を欲しているかが鮮明になったため、それ以外の商品は不良在庫からすべて処分しました。
【トッテン】 コンピュータ化とか、データをとって人気商品を調べたりされたのですか。
【安森】 むしろデータを取り始めて失敗しました(笑)。99年、店舗拡大とコンピュータ導入を同時に行い、コンピュータで集めたデータを品揃えのデータに使いました。つまり売れているものをどんどん取り揃えたのです。お客様にしてみれば、どこにでもある商品ばかりだから「なに、この店?」となる。本当はデータを武器にして、次に流行るもの、これからすたれるものの区別をしないといけなかった。
【トッテン】 それはコンピュータができることではなく、人間の仕事ですね。
【安森】 その通りです。必要なのはコンピュータを使った洞察力。ところが便利だから、どうしても使い易い方向へ走る。データを見て、社員が同じ方向へ走って最初の年は売れに売れました。売れ筋商品は全部揃っていたので。そして次の年からどんどん売上が落ちた。ところが新店舗の数がどんどん増加していったため、全体の数字で見ると売上は伸びている。風船を膨らませるのと同じで、表面上は大きくなっていくけれど、どんどん薄くなっていったわけです。既存店の売上が落ちているのを知りながら新店舗に力を注ぎましたが、2003年、さすがに持たないと新宿から撤退しました。これらはすべて、コンピュータのデータの使い方が間違っていたからです。
【トッテン】 コンピュータは数字を並べることはできても、その意味はわからないし内容も知らない。その数字の裏にあるものを見極めるには、読む人の知恵が必要です。
【安森】 もう1つの失敗はデータの管理を本部でやっていたことです。現場を見ていない人がデータを管理したら、品揃えは売れている商品にシフトする。しかも、売れているから商品が入ってこないと売り場は不安に思う。それが全店舗、ある意味掛け算で行われたため、ロフトはあっという間にコンビニと同じになってしまったわけです。
【トッテン】 本部はデータだけしか見ていない、でも現場の人はデータと肌で売れ行きを見ている。現場主義の大切さですね。
【安森】 それから数字の裏に隠れたお客様の本当の姿って何なんだろうと考えるようになり、新店舗にばかりお金をかけて既存店にかけるべきお金をかけていなかったという反省が、2004年、2005年からの業績につながっています。ロフトの場合、ここで失敗の本質をしっかり捉えて、同じ失敗をしないようにと考えることができたのが幸いでした。百貨店はそれができなかった。だから新しい業態への発展もなかったし、新しい試みがなかったのだと思います。
【トッテン】 具体的には、組織を変えたのですか。
【安森】 それまでは情報の流れは本部から店舗、つまりバイヤーから現場の係長というルートしかなかったのを、現場の声を本部に上げる流れを作りました。情報は上下、両方向に同じ量だけ流れないと会社はだめになる。一番お客様を知っているのは現場だから、現場の声が正しく本部に上がる仕組みを2本作りました。1つは、こういう商品が足りないとか、こういう商品の足がはやくなったといった情報を上げる仕組み。もう1つは、私は店長の最大の仕事は売上を上げることではなくて、お客様をメンテナンスして安全を確保することだと思っているので、お客様の情報を上に上げていく仕組みを作りました。そして商品部からはどういう品揃えをしなさいという商品のルートが1本、現場に落ちる。今ロフトにはこの3本の情報ルートがあります。
安易なリストラではなく、
経営者は雇用創出に目を向けるべきである
【トッテン】 企業のリストラが進んでいます。旧聞になりますが、麻生首相が昨年12月、非正規雇用者の処遇を含む雇用というテーマでロフト渋谷店を訪問されましたね。
【安森】 雇用問題ということで訪問してくださいましたが、マスコミは人気とりという観点で記事を書くから中途半端になってしまって残念に思っています。単品管理という点において、ロフトでは常時、品数が15万アイテムあって、それが1年で2回転するので年間では30万アイテムもの商品数にのぼります。それをラックへの品揃えの組み立てからお客様へのアプローチまで行うのですから、正社員だのパートだのといった雇用区別があったら良いサービスはできません。全員が誇りを持って仕事に取り組めるような会社にするため、2008年3月に、パートタイム社員、契約社員を原則として期間の定めのない契約とし、パート、契約社員、正社員の従業員区分をなくして「ロフト社員」に一本化しました。
【トッテン】 景気が悪いからと社員を首にするのは、社会を非常に不安定にします。1929年、株の大暴落で始まった世界恐慌は、急激というよりは翌年から徐々に広まり、ニューディール政策がとられたのは1933年でした。日本経済もこれから数年低迷することを視野に入れて雇用を考えるべきです。
【安森】 昨年10月のリーマン・ブラザーズの破綻の時、ちょうど私は欧米に行っていて、これは本当に大変なことになると感じましたが、日本に戻ったら単に景気後退という危機感のない報道でした。今後10万人単位で失業者が出た時に、どうやって雇用を創出するかということを企業経営者は真剣に考えないといけない時代にあると私は思います。「それぞれの企業の姿勢に任せます」なんていうものじゃいけない。給料は安くなっても、ワークシェアリングをしていくべきです。
【トッテン】 私もずっとそう言い続けてきました。アシストはリストラしないから、売上が半減したら給料も半減する。ほとんどの経営者は最悪の状況に対処するシナリオを用意していないから、業績が悪化すると手っ取り早く人件費を削減、リストラです。私はそれはしたくありません。
【安森】 すでに大恐慌の序奏は始まっていると思います。わが社は「ロフト社員」に一本化したばかりなので、最悪の時にはワークシェアリングを考えなさいと言っています。サラリーマンの特長は定期的に収入が入ること。明日から職がなくなるということは大変なことですから。
【トッテン】 どんな商売をする上でも、その成功は社会の安定が大前提で、ほとんどの人は働かないと食べていけない。こんな当たり前のことをわからない政治家や経営者が多いのは情けない。人間の幸福と健康のために雇用を提供することは企業の役割です。
本日は有難うございました。
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◆◇◆ 安森 健(やすもり たけし) 様 プロフィール ◆◇◆
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1967年 西武百貨店入社。趣味雑貨部長、筑波店店長などを
経て88年に取締役で百貨店事業本部 有楽町事業部長。外商
事業部長などを経て95年に商品部 ロフト事業プロジェクト
長。96年 ロフトの分社化と同時に社長に就任。2008年5月
より現職。
取材日:2008年12月
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