危機の今こそ、聖域を作らない“ムダ取り”を
オープンソース・ソフトウェアは、 情報化投資の最適配分における大鉱脈
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“入るを量りて出づるを制す”という諺がある。これは、どれぐらい収入があるかをあらかじめ計算して、支出を制御するという意味である。この諺を知る知らないに関わらず、私たちは日常、衣食住から成り立つ生活をこの考え方に基づいて営んでいる。
例えば、1日三食すべて外食する家庭はまれだろう。限られた収入の一般家庭でそんなことを続けていたら、家計は早晩破綻してしまう。何かの記念日にお祝いとして外食しても、普段は旬のリーズナブルな食材を組み合わせて料理を作り、自宅で食べる。基本的に、生命を適切に維持していくための食事はそれで十分なのである。それが経済観念というものだ。舞台が家庭でお金の出所が自分のフトコロだと、論理は非常に明快で、そこに疑問の余地はない。
しかしこれが一転会社の支出となると、途端に考えが甘くなるのが私たちの困ったところだ。だが、100年に1度と言われる米国発の経済危機の勃発を機に、日本企業の多くは崖っぷちに立たされている。もはや“会社は金持ち”“会社のお金”と漫然と浪費している場合ではなくなった。情報化投資もまた然り。そうした中、経済資源の最適配分を考える上で、最も有望な鉱脈と言えるのがオープンソース・ソフトウェアだ。
企業の経済観念が問われる時が来た
100年に1度と言われる経済危機の中にどっぷりと迷い込んでしまった現代の日本。製造業界と言わず、流通業界と言わず、大半の企業の収益状況は“つるべ落とし”と言えるほど急速に悪化の一途を辿っている。2008年10月以降、新聞紙上には年度決算予想の下方修正が続々と発表された。苦境に立たされ、やむなく雇用調整に踏み切った企業も少なくない。年末年始、契約を打ち切られた派遣労働者のために東京・日比谷公園に特設された年越し派遣村の風景は胸に迫るものがあった。
この雇用調整が象徴するように、すでに日本企業の多くは身を削るような思いで、従来の活動体制を抜本的に見直し、随所に大胆なメスを入れ始めている。そこにもはや聖域は存在しない。
投資もスポットライトが当たっている分野の1つである。計画された新規設備投資が延期されたり、白紙撤回されるニュースは日々報道されている。情報化投資も然り。だが、今や企業活動にIT活用は歯車としてしっかりと組み込まれている。また、本来は未来への布石であるものをやみくもに断つというのは、自らの成長を自ら止めるようなものである。
ここで考えたいのは、IT活用のために割り当てている予算の最適配分だ。
思いをめぐらせてみよう。私たちは現在色々なITコストを必要なものとして了承しているが、果たしてそれは投資対効果の観点から見て本当に適切なのだろうか。喫煙者はたばこ代をムダとは思わない。いったん習慣化してしまった消費に対して疑問を抱きにくいのは人間の習性だが、そこをあえて一度、すべてを疑ってみるのである。私たちは日頃考えているようで考えていない。新鮮な気持ちであたりを見渡してみれば、最適配分のための“ネタ”は容易に見つかることだろう。
オープンソースに目を向けよ
その中でも有望な鉱脈の1つと言えるのが、オープンソースの活用だ。日本でもすでに導入が進み、大きく市場を拡大している。図1は、ミック経済研究所が2008年6月~9月にかけて調査/分析してまとめた「OSS活用ITソリューション市場の現状と展望2008」からの引用だ。ここでいうOSS活用ITソリューションとは、ITソリューションを提供するに当たり、OS、ミドルウェア、アプリケーション開発などにおいて、OSS(Open
Source Software)を1つでも使用している案件のことを指すのだが、同調査によれば市場は急速な拡大基調にある。2008年度の予想市場規模は前年比10.5%増の1兆1,600億円となる見込みで、2012年度には1兆6,170億円まで拡大し、年平均成長率9.0%で推移するものと予想できるという(図1)。

なぜオープンソースなのか。同じくミック経済研究所が企業のシステム開発を手がけるシステム・インテグレータに対して行った調査によると、顧客からの主な声として以下のような理由が挙がっている。
- ▼ コスト削減
- 商用ソフトウェアではないため、ライセンス料を低く抑えることができ、保守料の負担を回避できる。やはりそれが企業にとって大きな魅力になっているようだ。
- ▼ ベンダーフリー
- 特定のベンダー製品依存から解放されることも選定理由の1つになっている。これは公共分野の組織ユーザに多く見られる意見で、特定のベンダーに依存すると公平性に欠ける点が憂慮されているのだろう。
- ▼ 柔軟性
- ソースコードが公開されていることによる、柔軟なシステム構築を利点に挙げるユーザも少なくないようだ。これは、高いITスキルを蓄積し、スタッフを潤沢に抱える大企業に多く見られる意見である。
- ▼ 普及率および先進性(業界標準)
- オープンソース・ソフトウェアの中にはすでに市場で幅広く採用され標準的に活用されているものもある。業界の技術標準に準拠してシステム構築したいと考える企業は、そのためにこれらを採用したいと考えているようだ(図2)。
“食わず嫌い”は損をする
ただ、市場規模を拡大していると言っても、現状ではオープンソース・ソフトウェアは主流になり得てはいない。その浸透を阻害する要因は何か。同調査がシステム・インテグレータに尋ねた中では以下のような声が多く挙がっていた。
- ユーザ理解
- 人材/組織
- サポート
- ライセンス
- 品質/技術
しかし、これらの多くは従来の“因習”上の問題であったり、すでに市場での体制が整いつつあることで解決のための方策が用意されているものもある。
まずはオープンソース・ソフトウェアのユーザ理解が進まない理由だが、これは不慣れなものに抵抗感を示し敬遠したくなるという、保守に傾きがちな人間の心理によるものではないだろうか。もとをたどれば商用ソフトウェアも最初は習得が必要だった。全体最適の観点から見てメリットが多々あるのであれば、尻込みせずにチャレンジすることも必要だろう。組織で利用するものは、組織の論理で選択することが理にかなう。例えば、ペンは業務遂行のために支給される文房具だが、そこで1本何万円もする万年筆が社員に配られたりすることはない。たいていは量産品のボールペンや鉛筆だ。書くという行為はそれらで十分満たせる。万年筆の“書き味”という付加価値は、組織の論理から言えばオーバースペックであり、どうしても使いたいというのなら、私費購入が適当だ。
ユーザ理解が進まないもう1つの理由として、社内外とのデータ流通や連携に対する懸念があるかもしれない。主流でない製品を採用することでやり取りに困難が生じることに不安があるのだろう。しかし、これは前提に歪みがあるのであって、流通の問題を俎上に載せるのであれば、それが標準規格に則っているかどうかを基準に考えるべきである。例えば、HTMLはISO(国際標準化機構)とIEC(国際電気標準会議)によって早くから認められたオープンな文書フォーマット規格で、それで記述された文書は、変換作業を施さなくともどのブラウザでも閲覧できる。主流だから流通が容易なのではなく、標準規格だから流通が可能というように発想を転換していきたいものだ。
人材/組織については、オープンソース・ソフトウェアを採用すると、自社内にスキルやノウハウを蓄積しなければならなくなり、そのためにかかるコストを覚悟しなければならないということだろう。しかし、これは逆に言えば、ベンダーやシステム・インテグレータに依存しがちだった従来の体制から脱却するチャンスだ。便利に使っているが中身についてはよくわからない、何か重大な事態が発生した時に自分たちで機敏に対処できない、というのは、企業や組織としてそれだけで大きなリスクである。自らで自らを正しく完璧に制御できるIT環境の構築こそ、ITの重要性がますます高まるこれからの時代、競争力向上の観点からも必要なことではないだろうか。
そうは言っても、自ら開発したものではないという点ではオープンソース・ソフトウェアも商用ソフトウェアも同様で、サポートが欲しくなる時もある。そのような時、誰に聞けば責任ある答えが得られるのか、という懸念が浮かぶ。だが、商用ソフトウェアで保守料を払っているからといって、怒る権利はあったとしても、発生した問題がすべて解決できるわけではないのである。つまり、状況はそれほど変わらない、ということだ。また現在は、オープンソース・ソフトウェア分野に積極的に取り組んでいるベンダーやシステム・インテグレータ、ソリューション・プロバイダが多数出現しており、年数も経過してきていることからスキルやナレッジも蓄積されてきている。“この分野で多くのコミュニティが存在するのはわかっているが、接触するのは気がひける”という場合は、そういう事業者を頼りにするという手もあるはずだ。
品質/技術については、“食わず嫌い”を脱却して、実際に触れて検証してみるのが一番だろう。避けたいのは、現状の全肯定で思考停止に陥ってしまうことだ。
依存体質を脱却して自社主導のIT構築体制を
IT投資における最適配分の有望な鉱脈としてのオープンソース・ソフトウェアを見てきた。これは決して、全面的に移行してこのテクノロジー上ですべてを構築すべきだと主張しているわけではない。世界中のエンジニアが日々改良を続けているオープンソース・ソフトウェアとて万能ではなく、実現できない機能や発揮できないパフォーマンスもあり、適用分野にも向き不向きがある。使いたくてもそのようなソフトウェアが存在しないという場合もある。そういう時は無理せず商用ソフトウェアを利用すればよい。月並みな言葉だが、要は適材適所で、それが危機管理対策でもある。
ここで心に留めておきたいのは、ソフトウェアは目的ではなく、目的を達成するためのツールにすぎないということだ。業務効率向上のための良いツールは必要だが、代替不能というほどに固執するのはかえって足かせになる。変えることが現実解なら、過去を断ち切る勇気も必要だ。日本のITユーザは概して優秀かつ器用で、最初は戸惑いを見せても、ツールが救いがたいほど劣悪でなければそのうちに習熟する。
企業や組織にとって重要なことは、あらゆる状況で“依存”や“固執”という体制から、できる限り遠ざかることである。常に選択肢を用意しておこう。AがダメならB、BがダメならCと、あらかじめ代替手段を確保しておけば、ITの可用性は大きく高まる。オープンソース・ソフトウェアは、その意味で格好の代替手段と言える。複数の選択肢を持ち続けるには、人的体制を含めてそれなりの工数を割かなければならないが、それで低減できるリスクや、外的要因に振り回されないIT活用体制が確立できることを思えば、かえって“安上がり”なのではないだろうか。
経営トップ自身がこの損益分岐点に気づき、声を上げれば話は早い。ピンチはチャンスとも言う。企業の経済観念が徹底的に問われる今こそが腰を上げる好機だ。
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