サービスの特性に学ぶ、ITサービス・マネジメントの勘所
“顧客にとっては、知覚できるものがすべてである” ---- トム・ピーターズ
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図1
ITサービス・マネジメントとサービス
「ITサービス・マネジメント」。この言葉は我々を、「本来の目的は何か」という基本に立ち返らせる。「システムを運用管理することの本来の目的は何か」。この問いの本質的な答えは、どんなシステムであっても「顧客(利用者)にとって価値のあるサービス(システムではなく)を提供すること」にあると筆者は考える。例えば、バックエンドで陽の目を見ることなく黙々と稼働するバックアップ・システムも、その目的は顧客に価値のあるサービスを提供し続けることだ。
この本質的な答えは、他のサービス業の目的とも一致する。例えばレストランであれば、「お客様にとって価値のあるサービス(料理の質、料理の品揃え、店の雰囲気、接客)を提供すること」となる。サービスをマネジメントするという考えは、システムに限らず、あらゆるサービスに通じる普遍的な考えなのである。
サービスとは何か
サービスという言葉にどんなイメージを抱かれるだろうか。「サービス業=接客業」「サービスはあくまでおまけ(ただ)」「モノ作り以外の仕事」といった印象をお持ちの方もいるかもしれない。しかし現実を見ると、サービスがGDP(国内総生産)に占める割合は、米国では約80%、日本でも70%に達し、すでに全産業でかなりの割合を占めている。また、企業競争力においても提供する製品のみならず、提供するサービスの優劣が重要視される。
これだけ世の中にあふれているサービス(無形財)は、モノ(有形財)と比べてどのような特性があるのだろうか。今回は様々な文献で紹介されているサービスの4つの特性を通して、マネジメントの対象であるサービスが何なのかを考えてみたい。
■ サービスの4つの特性 ■
特性1: 無形性
サービスは物理的な形がなく、消費者は商品(サービス)を購入する前に、見たり、試したりすることができない。そのため比較検討や評価することが難しい場合がある。
特性2: 生産と消費の同時性
サービスは提供者と顧客の相互作用の中で提供されるため、生産と消費を時間的、空間的に分離することができない。
特性3: 異質性
サービスは提供者が管理できない顧客側の状態等の要因によって、その内容や品質、顧客満足が変動してしまう。また、提供者側の経験、スキル等によっても顧客満足は同様に変動する。つまり、提供する側、される側の双方に変動性を内包している。
特性4: 消滅性
サービスは物理的な形がないため、保存ができない。また、生産と消費の同時性ともあいまって大量生産することもできないため、需要調整が困難になりやすい。
上記4つの特性を理解した上で、それを最大限に活かすことがサービスの価値を向上させる重要な鍵となる。次項で各々の特性について、具体例を交え考えてみる。
サービスの4つの特性を深く理解する
特性1: 無形性
[モノの場合]
新車の購入を考えた時、販売店に出向き実物を見て、触れて、場合によっては試しに運転することができる。つまり「製品」の場合、購入する前にそのモノが自分の期待する価値に合致するか判断することが可能である。
[サービスの場合]
子供を安心できる託児所に預けたいといったニーズがあった場合、その託児所のサービスが自分のニーズに合致するかどうか事前に判断することは困難である。
[ ITサービスの場合]
ITサービスで考えた場合、ITサービスを通じて提供されるのは「情報」である。したがって、これもまた無形である。
サービスの「無形性」については、提供するサービスの中身を見える化することで評価が可能になる。例えば最近の宅配便サービスでは自分の荷物が今どこにあるかWebを通じて確認できる。つまり宅配サービスの中の配送プロセスが見える化されている。ITにおいても、提供するITサービスの価格や、制約条件、サポートする条件、サービス提供時間などを見える化する“サービス・カタログ管理”や、平均応答時間、稼働率、平均オンライン応答率など顧客との合意事項を見える化する“サービス・レベル管理”などのITIL(Information Technology Infrastructure Library、ITサービス・マネジメントにおける成功事例をまとめた書籍群)のプロセスも、サービスには形がないという特性を利用すると違った見せ方ができる。つまりサービスの見える化が、サービス・マネジメントの第一歩となるのである。
特性2: 生産と消費の同時性
[モノの場合]
野菜の購入を考えた時、野菜が生産された時間と場所は、野菜を消費する時間と場所とは異なる。
[サービスの場合]
例えばタクシーの場合、単に移動の手段を提供するサービスと考えるのではなく、移動中の心地よい空間や体験も含めてサービスとして提供されていると考えると、移動中の会話も重要になる。多くは運転手から初めに語りかけるが、それに対する顧客の返答によって、次の話題の方向性は大きく異なる。
[ ITサービスの場合]
ITサービスで考えた場合、同じデータであっても、顧客にとって価値のある情報となるか否かは、その時のニーズによって変化するため、これもまた生産と消費の同時性を持つ。
サービスの「生産と消費の同時性」を理解し、その時の受け手のニーズや期待をどれだけ想定できるかが重要となる。
特性3: 異質性
[モノの場合]
デジタル・カメラ等の製品の場合、品質検査で不良品を事前に発見し、ある程度一定の品質を保つことが可能である。
[サービスの場合]
レストランでの食事を考えた場合、サービスを提供する側、される側の双方に変動性を内包している。急いで食事を済ませたい場合は、あっさりした接客に好感を持ち、逆に丁寧すぎる接客に不満を持つかもしれない。反対にゆっくり食事を楽しみたい場合には逆の感覚を抱く。提供者の管理の及ばない、顧客の気分等の状態によって満足度は変動する。
[ ITサービスの場合]
ITサービスで考えた場合、利用者は状況に応じて、レスポンスを重視する場合もあれば、操作性を重視する場合もある。また、その人の事前期待値によっては、同じレスポンス時間であっても「遅い」と感じられたり、「早い」と感じられたりする。
この、サービスの「異質性」については、顧客の事前期待を作り込むことが重要である。コンサルタントの諏訪良武氏は、その著書『顧客はサービスを買っている』の中で、以下のように述べている。「(略)…ユーザーの事前期待に適合しなければ、余計なお世話だったり、迷惑行為だったり、無意味行為となり、サービスとはみなされない」
以前、とある空港内の食堂で、『早だしメニュー』なるものを見かけたことがある。出発時間の合間に来店する客が多い中で、素早く提供できるメニューが明示的に示されており、他のメニューもおおよその提供時間が書いてあった(カレーは早だしメニュー、パスタ類は15分程度など)。これはまさに事前期待をうまく作り込んでいる例と言えるだろう。
特性4: 消滅性
[モノの場合]
日用品などの製品は、生産されると在庫され、需要に合わせて供給される。つまり需要の変化に合わせて生産量をコントロールすることができる。
[サービスの場合]
例えば美容院でのヘアーカット・サービスは、生産と消費の同時性の理由も絡み、事前にヘアーカットのサービスを作り置き、在庫させることはもちろんできない。
[ ITサービスの場合]
ITサービスも、将来必要とされる情報をあらかじめ作り置くことは通常できないため、これもまた消滅性を持つ。
サービスの「消滅性」については、季節や曜日、イベントや市場のニーズなど、様々な要因を事前に分析し、受身ではなく積極的に需要を予測し、提供するサービスをコントロールしていくことが大切である。旅行会社のGW等のハイシーズン価格設定なども需要予測に基づきサービスをコントロールしている例と考えられる。またITサービスの場合、仮想化、クラウドなどスケーラビリティの高いインフラを活用し、幅広い需要に柔軟に対応することも有効な解決手段になるだろう。
先日こんなことがあった。筆者が3歳になる息子と電車を待っていると、駅に到着した電車の運転手が、息子が手を振っているのに気づいて笑顔で手を振り返してくれた。さらに驚いたことに、さっとホームに降りてきて、電車のカードを取り出し息子に手渡したのである。筆者は通勤でこの電車を日々利用しているが、まれに遅延することや駅員の横柄な態度に腹を立てたこともある。しかしこの一件以来、この電車会社に特別な感情を持つようになった。引越したとしても同じ沿線に住みたいとさえ思う。「電車のカードが欲しい」というニーズは息子自身が潜在的に抱いてはいたものの、もらえることを期待してはいなかっただろう。そこへ潜在ニーズに応えたサービスが提供された場合、それは驚きとともに大きな満足、もしくは感動に繋がる。そして「魅力的なサービス」として記憶に残るだろう。実際にサービス業で成功を収めている企業は、まさにこの「魅力的なサービス」の部分で差別化を行っているのである。
“顧客にとっては、知覚できるものがすべてである”
----- トム・ピーターズ
ITサービス・マネジメントにとっても、提供側の一方的な思いだけではない、「標準的なサービス」を超えた、「魅力的なサービス」をどう実現していくのかが重要であり、同時に大きなチャレンジでもある。
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参考文献/『顧客はサービスを買っている』ダイヤモンド社、 『サービス・マネジメント』ダイヤモンド社、『 サービスサイエンス入門 』オーム社、『現代マーケティング論 』有斐閣アルマ、『マーケティング用語辞典』日本経済新聞社、『ITIL入門 ITサービスマネジメントの仕組みと活用』ソーテック社
本稿に関するお問い合わせ
株式会社アシスト
ソフトウェア・リサーチ・センター
E-Mail srcneo@ashisuto.co.jp
ソフトウェア・リサーチ・センターはアシストの組織を横断するメンバーから構成され、アシストの特徴を活かした中立的な立場でのソフトウェア製品の調査や市場動向調査を行っています。
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