貪欲に取り付かれてマネー・ゲームに奔走し、経済を崩壊に導いたアメリカの金融業界という罪人に、昨秋、巨額の血税という褒美を付けて立ち直りを支援したアメリカ市民は、金融業界の自己変革を期待した。しかし、銀行/証券/保険会社は、納税者の血税を吸い取った上、桁違いの退職金や報奨金を身内に支払い続け、恩を返すべき市民に対して与信回復や救済を行うことはなかった。それどころか、救済を受けた金融機関は、弱体化した自らの足腰強化のために所望した公的資金のほとんどを、高額なボーナスや株式投資の財源に使用していたことがわかり
(1)、そもそも税金の投入は不要だったのではないかと、アメリカ市民を大いに懐疑させる有様だ。
これまでの金融機関の建て直しの過程で明らかになったことは、「血税による救済が市民に何の利益ももたらさない改革なき救済であり、ウォール・ストリートの貪欲文化は全く変わっていない」
(2)こと。そして、今やギンコーが議会を牛耳り、規制を回避させる力を持っているという現実である
(3)。
経済の活力を削ぐ、無責任の蔓延
理不尽に不満が募るアメリカに、ここへきて政府による国民向け経済救済策の矛盾が表面化し、新たな苛立ちが広がりつつある。サブプライム・ローンの借り手であれば、自己の財政状況を逸脱して身の丈以上に高価な家を手に入れた無責任な消費者であっても、価格暴落後の時価への元本の引き下げと、特別低金利ローンへの切り替えが可能だが、自分の経済能力を認識して収入に見合った物件を正規のローンで購入した人には、何の援助もなされない。良識的な経済市民を放置し、無責任な財政運営を行った人に好条件のローンで家の保有を保証する救済策が、自制なき貪欲を褒賞する結果になっている。
どの社会でも、自分と家庭の財政に厳しい自律を求められるのは中産層だが、アメリカでは、この必要支出と収入を均衡させることで手一杯の年収3万ドルから7万ドルの勤労世帯は、今や全世帯の3割に満たない。ジリ貧の中産層にあって、自分の懐を自律できる人が、経済破綻の張本人である貪欲なゲームに明け暮れた金融界や巨大ビジネスの失敗の尻を拭い、節操なき無責任な消費者を救済することは、勤勉な労働と責任ある経済行動、自律に基づく家計運営を幾重にも罰することに他ならない。
しかも、ブッシュ前大統領による富裕層減税や経済失政、イラク戦費などのツケが、大不況による税収不足と経済支援策によって大化けし
(4)、今年度末に1兆8,410億ドル(約180兆円)という天文学的な数字に膨らむ見通し
(5)の財政赤字の穴埋めを、将来、生真面目に背負わされるのも、この自己の経済を律する中産層だ。そして、大不況下の現在、庶民の暮らし振りとは何ら接点を持たない経済成長率や株価などの数字をよそに、失業率の高まりは凄まじい。これほど努力が報われず、勤労者の意欲を削ぐ時代は、かつてなかった。金融業界が自制を失って没頭したマネー・ゲームが蔓延させたギャンブル経済は、個人の経済観念を破壊する局面にまで到達しつつある。
オバマ大統領、自己定義の秋
変化を掲げて登場したオバマ大統領は、国民皆保険に向けた健康保険案やホームレス対策、自然保護などの分野で、ブッシュ前政権のアプローチから180度の転換を示し、課題の処理にチーム全員を取り込んで道筋を示していく技量には依然として評価が高い。ただ、あまりに多くの処理課題を一度に抱え込みすぎ、そのどれもがまだ具体的な形にならずに上空をさまよって、どこに着地するのか、衝突するのか、あるいは墜落してしまうのか、とりわけ外交と経済の分野では先が読めないと、多くの専門家が指摘するのも事実である。
社会のすみずみにまで気を配る情けの言葉は本物でも、自律を罰する金融救済策と雇用の不透明さがたたり、高かった支持率も6割を切って、人気に陰りの兆候が出始めている
(6)。前任者の失策の置き土産に手こずるたびに「Not my making(引き起こしたのは私ではない)」を連発するオバマ大統領だが、任期初年の秋までには過去のすべての大統領が確立したように、「オバマ大統領は何をする大統領なのか」という基本的な定義を明確にする時期が迫っている
(7)。そこには、すべての経済活動に自律と良識を取り戻し、人びとの経済動機を高める決意が何としても必要だ。
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| ※写真: |
シャッター商店街ならぬ「板張りや紙張りの空き店舗」が続出するアメリカ。失業率が20%近くに達するオークランド市のダウンタウンで。 |
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【本文の注釈解説】
- NPRニュース『KQED』2009年7月20日
- Paul Krugman.『New York Times』2009年7月17日
- “FORUM (Michael Krasny)”『KQED』2009年7月7日ほか
- Yale大学学長、Richard Levin.“Charlie Rose”『PBS』2009年7月15日
- 米財務省発表。2009年7月13日
- 世論調査結果『CBS』2009年7月14日
- Bob Woodward.“Charlie Rose”『PBS』2009年7月16日