世界的な景気後退にあってその先を展望すること
トッテン
業種、業態で多少の違いはあるにせよ、国内企業の多くが厳しい環境の中での経営を迫られています。もちろんこれは日本だけでなく、世界にも波及しています。NTTコムウェアはIT、通信インフラの先進企業ですが、本日はこのような経済状況をふまえた上での経営をテーマに対談できればと思います。
日銀は景気が「持ち直しつつある」との見方をしていますが、私はさらに厳しくなってきていると実感していますが、いかがですか。
杉本様
先般、中国など海外を視察してきたのですが、あらためてリーマン・ショックで世界経済が被った痛手の大きさと併せてグレート・チャイナの経済の息吹をひしひしと感じました。この1年間、世界各国で約500兆円の、日本でも約20兆円の資金が投じられ、経済浮揚策が行われています。しかし、いまだ景気回復の実感はありません。マーケットでは「山高ければ谷深し」という言葉があるそうですが、2002年から2008年頃まで好景気が持続した日本経済が、現在は長い谷の時代に入っているという見方をどう受け止めていますか。
トッテン
景気予測はしたくないのですが、見通しは悲観的と考えています。私は、3年前から、もし経済規模が現在の半分になったとしても、社員をリストラせずに乗り切るため、会社として対策について考えてきました。
日本経済が悪化した理由の1つは、金融機関が多額のお金をサブプライムローン、金融デリバティブなどに貸し出したことです。そのため、金融機関の準備金が減り、中小企業への貸し渋りや貸しはがしにつながったと考えます。実体経済から乖離した規模での、ギャンブル性の高いこのような状況を、私は「カジノ経済」と呼んでいます。そして、もう1つの理由は、日本の大企業の多くが、主要な輸出先をアメリカとする「輸出依存」になっていることです。外需頼みでは、今日のような世界的不況にあっては、なかなか経済は安定しません。
杉本様
ある大学教授から、「景気回復はV字回復だけではなく、L字型の将来展望もあれば、V字回復の後に落ち込むW型、さらにはドットコム回復というのもある」という話を聞いたことがあります。ドットコムとはどういう意味か、それはつまりWorldWide Webの「WWW」で、山と谷が延々と続き、真の景気回復をいつまでも実感できない状態を指すそうです。(笑)
トッテン
1700年代に資本主義が登場してから、経済はずっと8~9年ごとのバブルと暴落を繰り返してきました。しかし、1929年の世界恐慌以来、各国では厳しい規制が敷かれ、大きな金融バブルはなくなったのです。ただ、1980年代以降は規制緩和が進み、世界経済は1929年以前のようなアップダウンの起こりやすい状況に戻りつつあります。山と谷が小刻みかつ連続的に訪れる「ドットコム回復」しか望めない可能性は、とても高いでしょう。
経済的な発展のみで人間の幸福度は測れない
杉本様
30年ほど前のことですが、私はカーター大統領のブレーンであったジェレミー・リフキンが著した『エントロピーの法則』を読んで強い感銘を受けました。それは、世の中の森羅万象は秩序だったものからカオス(混沌)の方向に向かう、という法則を取り上げたものでした。熱力学の第2法則であるエントロピー増大の原理は、物理学の唯一普遍の法則とされていますが、国家や経営にも通ずる法則として経済界でも注目を集めました。現在の世界経済は、エントロピー増大の方向に向かっていますが、私としては低エントロピーな世界を志向しなければならない時代だと感じます。無限の成長よりも再生産や循環に重きを置く、仏教や東洋思想の「輪廻」に近い考え方です。それはトッテンさんも同じではないでしょうか。
トッテン
確かに、今は「エントロピーの法則」とは反対の考え方が目立っています。何事によらず、いつも右肩上がりで成長するものではないと私も思います。仏教の「輪廻」については、私も以前から関心を持ってきました。拡大と成長を義務づけられているように経済を捉える、という発想が正しいとは限りません。低エントロピー化を理解しなければ、進化を望むことはできないでしょう。
杉本様
私は、GDP(Gross Domestic Product)を経済指標として重視しすぎる傾向を疑問に思っています。GDPは、マクロ経済学に言う経済成長の1つのバロメーターとしては必要でしょう。しかし、「国内の総生産の付加価値」と言いながら、環境破壊につながる投資のような、負の構成要素も入っています。経済の1つの指標であることは確かですが、それがイコール国力として捉えられることを、今一度考え直してみる必要もあるのではないでしょうか。
トッテン
GDPは第二次世界大戦当時のアメリカで初めて定義されたものです。経済全体が急激に軍需産業化していった当時の、軍事大国としての生産能力を重んじた指標といえます。もともと、人間の幸福を測るために作られたものではないのです。GDPは生産物やサービスの金額以外のものは算入されません。例えば「外食をやめて、家庭菜園で作った野菜を家族で食べる」、「ミルクではなく母乳で育てる」などの行動は、サービス業や工業など産業に直結しないため、GDPを下げることになります。そう考えると、金銭の取引が増えるほど私たちが幸福になる、という考え方はいかがなものかと思います。
杉本様
まったく同感です。ブータンが、国の豊かさを示す値としているGNH(GrossNational Happiness)が思い出されます。これは、国民の心の豊かさを大切にし、幸福感で国の発展を測るというものです。フランスでも種々の試みが開始されていますが、東京の荒川区では、区長の強い想いからブータンに学び、GAH(Gross Arakawa Happiness)という尺度を区政に取り入れていると聞いています。これらは、過度に経済的な発展にのみ依拠することへの警鐘の現われではないでしょうか。
People Assisting People - 企業活動の原点は人にある
トッテン
これからの企業経営者は、人を第一に考えるべきです。私の会社では「People Assisting People」をスローガンとしており、社章も「人」という文字を基にデザインしています。それは、どれほど大きな企業と仕事をしようと、基本は対人関係にあり、私たちの商品を認めてくれた人との間で仕事をしている、と考えているからです。仕事は契約書がベースになるとしても、顧客企業のある社員が稟議書を書き、周囲と上司を説得してくれた、という事実が根底にあることを忘れてはいけないのです。
ここで1つエピソードをお話ししましょう。先日、私の部下がお得意先のプロジェクトでミスをしました。しかし、お客様は「確かに間違いはあったが、彼には厳しく言いすぎないでほしい。これまでの長い付き合いで、非常に良くしてくれましたから」と私に話してくれました。これは人と人との関係が良好に結ばれている結果だと、私は非常にうれしく思いました。経営者である私にとっては、アシストが「人」の社会で認められる企業であることが、最大の目標ですからね。
杉本様
それはうれしいことですね。大いに共感します。人は、企業経営の原点ですからね。弊社の創業当時、松下幸之助さんの下で経営を学んだ木野親之さんに、松下グループに流れ続けている経営哲学を指南していただいたことがあります。松下流の経営の原点とは「人に光を当てる経営」であり、売上・利益のみを一義的に追求するスタイルとは大きく一線を画していることを学びました。アシストさんの「People AssistingPeople」も、人を重んじるという点で共通していますね。 そもそも、国、社会、企業の活動の総体とも言える「経済」という語も、語源は「経国済民」という中国の言葉に由来します。これは「国を治めて民を救う」という意味です。
トッテン
日本語の「経済」の中にはPeopleが含まれているのですね。実に興味深い。健全な経営自体が、人の、社会の役に立っている。今まで38年間そういう思いでやってきました。今日、杉本さんとのお話の中で改めて見えてきたのは、大切なのは「数字」ではなく「哲学」ということです。NTTコムウェアは、アシストは、何のために企業活動を続けているのか。その原点を考えることにつながります。
杉本様
弊社も一昨年、10周年を迎え、社員の総意からなる新経営ビジョンを制定しました。この心を読み解く過程で、私から発信したキーメッセージの1つが“全体最適からなる経営品質の追求”です。結果指標である財務諸表にのみ極端に偏った経営ではまずい。良い会社は社会に貢献し、すなわち人を幸福にする、ということですね。これが企業経営の大前提です。
トッテン
これからも原点を忘れない経営をしていきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。
本対談は、NTTコムウェアのコーポレートマガジン『Tera』41号(12月中旬発行予定)にも掲載されます。
◆ 杉本 迪雄(すぎもとみちお)様プロフィール ◆
1972年3月、早稲田大学大学院理工学研究科修了後、同年4月に日本電信電話に入社。97年9月、NTTコミュニケーションウェア(現・NTTコムウェア)の設立にともない、同社の経営企画部長に就任。その後、取締役や常務取締役、副社長を歴任。08年6月、代表取締役社長に就任。現在に至る。広島県出身。
取材日:2009年10月