アシスト
English Korean サイト内検索
people assisting people
ホーム > アシストについて > 会社情報 > 情報誌『アシスト』

会社情報

情報誌『アシスト』

2009 Winter 2009/12/01
コラム 【USA NOW】

カリフォルニアから最新の米国事情をお届けします。

変化が不可避の日米関係

杉田 成彦


世の中の常識が変わると、コトバが変わる。「コトバ(Language、Term)」とは「会話や議論の軸」を指し、「新たな常識を形成する見方」のことだ。物事がこれまでと違ったコトバで語られる時、世の中が変わり、人びとの考え方が変化したことが示される(1)

オバマ大統領は、アメリカの政治のコトバを変えた。守旧の羽織を剥ごうとするアメリカ市民の意識の変化が、オバマ大統領のコトバに反映されていく。市場原理がすべてを支配し、政治がそのしもべになり下がって、政策のアイデアが貧困を極める中、オバマ大統領は、市場の算盤勘定を押しやって、社会倫理(Moral)と人間精神(Spirituality)を政治のコトバの中心に据えた(2)

例えば、健康保険改革では、医療ビジネスの利益率談義に陥る政争に、「国民皆保険はアメリカが果たすべき義務だ」と社会倫理のコトバを打ち立てた。また、献金先をオバマ民主党へと大シフトさせて政治の足元を見る金融業界に対し、無秩序放任の錬金手法へルール導入を目指すオバマ大統領は、「戦いを挑まないで欲しい。新しい規律はアメリカの未来のために必要なのだ」(3)と語っている。


新しいコトバを語る日本

日本の過去の政権も、これまで例外なく「改革」を唱え続けてきたが、この秋に誕生した鳩山政権では、政治におけるコトバが大きく変わった。機能不全に陥った守旧政治からの脱却を求める日本社会の思いが噴火点を迎えて時代の変化をもたらし、内政、環境、外交など、あらゆる分野が新しいコトバで語られている。

中でも、重要な変化を示すものは、「社会破壊をもたらしたアメリカ型市場原理主義からの脱却」であり、この点は去る8月末の鳩山首相による『ニューヨーク・タイムズ』紙への寄稿文で明快に披瀝されている。そして、変化に向けて充満してきた日本のマグマは、第二次世界大戦後のアメリカによる占領体制という地殻を揺り動かす「対等な日米関係の構築」というコトバを生んだ。

アメリカはこれを「上辺の粋がり」だと捉えて、冷笑や批判を繰り返しているが、4年ごとのルールによる変化で動くアメリカは、1つの体制が限界に達すると雪崩を打つように時代が急変する日本社会の歴史年表的な変化の仕方に気付いていない。対外問題を語るアメリカのメディアと専門家は、米国内の情勢とは無関係に自国利益の擁護論を展開して相手を牽制するため、日本のメディアは動揺しているが、見当違いである。

ヒラリー・クリントン国務長官は、秋の総選挙での自民党の惨敗を「世界では今、考えられないこと(Unthinkable)が起こる」と言ってため息をついた。これまでの日米安保のあり方が永劫に続くと見ているアメリカが、「日本が厄介な問題になる」(4)と警告するのは、軋轢を必定とするコトバの変化を生み出す新時代に日本が突入したことを認識していない証拠であろう。


対等な同盟に必要な意志

数千万の人口が密集する日本の中枢部や、一県の中心をなす島に広大な米軍基地が幾つも配置されていることは、ニューヨークやサンフランシスコなどの中心部に他国軍の巨大基地があり、ロサンゼルスの上空に他国軍機が常に舞うことが想像し難いように、過去の経緯や理屈を超えて国民心理を歪め続ける異常な現実である。どの国においても他国の一方的なプレゼンスは、それ自体が高圧的であり、長期にわたる反動なき継続は理論的に不可能だ。

日本とアジア地域との経済面での結び付きがかつてなく深まる中、地域に緊密な信頼関係を築くことは大切だが、複数の非民主主義国が相手になることを日本は肝に銘じなければならない。今日、民主主義国家同士が戦争に突入することは滅多にないが、権力機構が硬直的な非民主主義国家が戦争に絡むケースは圧倒的に多い。対等な日米関係の構築とは、アメリカからのレンタル鎧を少なからず脱ぐことだが、それには自前の新たな鎧を纏う意志が必要になる。旧来の武、斬新な知…。どのような形にせよ、独自の鎧をあつらえなければ、近隣諸国と言えども友愛関係は築けず、対等な日米同盟は覚束ない。

世の中が変わり、コトバが変化するアメリカと日本にあって、日米関係におけるアメリカの守旧アプローチだけが、占領思考が抜け切らない古いコトバに深くしがらんでいる。新しいリーダーが、尾を引く過去にたたられ、時代の変化を具体的な成果に結実できないとしても、日米で変化を遂げた市民の思考とコトバは後戻りしない。日米関係を新思考で捉え直すことは、不可避となっている。



※写真:
アメリカ国内では、都市部にある軍事基地の民生転用が進められている。サンフランシスコ中心部の対岸に位置するアラメダ・ポイントは、大規模な基地閉鎖プロジェクトが進行する場所の1つ。
【本文の注釈解説】
  1. 知覚認識と表現を政治現象にあてはめた言語学者George Lakoffの理論
  2. Harvard大学教授、Michael J. Sandel“. Charlie Rose” 『PBSテレビ』2009年10月12日
  3. World News with Charles Gibson.『ABCテレビ』 2009年10月20日
  4. “Japan: No base decision soon.”『Washington Post』紙 2009年10月23日ほか


ライター 杉田成彦 ● text by Naruhiko Sugita

米国カリフォルニア州、サンフランシスコ・ベイエリアに在住。テクノロジー企業から地域マーケティングファームまで、幅広いカスタマーの多様な媒体に、日本語ローカリゼーションやコンサルティング・サービスを提供。