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情報誌『アシスト』

2010 Spring 2010/03/01
【巻頭×特別インタビュー】

社団法人経済倶楽部は、東洋経済新報社の主幹を務めた三浦銕太郎、石橋湛山(元首相)両氏らにより1931年に設立された会員制組織です。今回の対談は、東洋経済新報社においてジャーナリストの視点から40年以上にわたり日本経済を見守ってこられ、現在経済倶楽部の理事長を務める浅野純次様に、ビル・トッテンがお話を伺いました。

対症療法からホリスティックな視点へ 
健全な社会、健康な身体を目指して

浅野 純次 様
経済倶楽部理事長
浅野 純次 様
ビル・トッテン
株式会社アシスト
代表取締役
ビル・トッテン



対症療法からホリスティックな視点へ

◆ 健全な社会、健康な身体を目指して ◆
 



グローバル化で企業は変わった


トッテン
『会社四季報』は弊社でも日々活用しています。浅野様は東洋経済新報社で、昭和の時代から40年以上にわたりジャーナリストの立場で日本企業や日本経済を見守ってこられました。この間、日本企業がどのように変わってきたのか、本日はお話を聞かせてください。


浅野様
大きく変わったのは、企業のグローバル化に対応する動きが非常に強くなったことです。記者として仕事を始めた45年前にも「国際化」という言葉はありましたが、当時は輸出を増やすとか、海外拠点を1~2箇所作るといった話でした。1ドル360円の固定相場制でしたから為替のリスクもなく、苦労はあってもある意味で楽な時代でした。また最近では企業会計も国際会計基準に対応しなければならなくなり、それが特に大きく変わった点だと思います。


トッテン
日本を市場として商売をしている会社までもが国際会計基準を採用しなければいけないというのは、おかしいと思います。


浅野様
この国際会計基準に関する動きはネガティブな変化と言えますね。グローバル化に合わせて自己資本比率8%というアングロサクソンの基準を満たすため、日本の銀行が無理な増資を迫られる一方で、経営破綻に追い込まれたり、四苦八苦しています。国際会計基準は欧米の株式市場に上場したい企業には必要でしょうが、株式公開している日本企業3,800社すべてが国際基準に合わせないと世界競争に勝てない、などというのは間違った問題提起だと私は思います。そういう意味からも、「グローバリズム以後」を考えなければならない時期にあるのではないでしょうか。

一方、良いほうの変化には「CSR」、企業の社会的責任があります。昔はそうしたことを考えず、公害を撒き散らしてでも、売上や利益を上げさえすればよいという風潮がありました。それが、ステークホルダー経営のような、地域、取引先、従業員等をトータルに考えた最適な経営というものを目指す方向に徐々に変わってきました。


トッテン
確かに昔は水俣、石綿など公害問題が多かったのが、最近は企業の責任論が強まってきています。


浅野様
社会的責任を考慮しなければ、企業は存在し得ないことがわかってきたからです。昭和の時代から様々な公害問題を取材してきましたが、あの経験がなければ今の日本企業にCSR的な考え方は根付かなかったかもしれません。マイナス面は地域や取引先、住民、従業員に押し付けるというやり方では、最終的に企業を含め誰もが損をすることがわかったからです。これは大きな変化でした。

もう1つ変わったと言えるのは、企業会計で「キャッシュフロー経営」という概念が導入されたことです。以前は貸借対照表と損益計算書だけ見て私たちも取材していました。しかし、実際のお金と合ってないという企業が多く、黒字の企業だったはずなのに突然経営が破綻する例もたくさんありました。キャッシュフローを重視するようになったことは大きな転換ポイントだったと思います。


トッテン
個人はすべてキャッシュフローです。入ってきていないお金は計算できませんよね。


浅野様
企業は複式簿記ですが、売掛金が膨れ上がってお金が足らないなどということが起きたのです。もっとも役所はさらにひどくて、単式簿記なので問題点は明らかにされません。キャッシュフロー経営では入金があって初めて売れたということになりますので、経営の実態はより明瞭になったと思います。また、60~70年代は「量の経営」で、どうやってシェアをとるか、生産を増やすかがポイントでした。当時はどの企業がどこにどのような設備投資をするかという取材が重要でした。設備投資をすればするだけ需要はついてくるし、その分利益を得られる時代でした。そのために企業にとっては設備投資のお金をいかに調達するか、銀行との関係が重要で、私の仕事も財務担当副社長とか経理部長への取材が中心でした。

それが、転換社債や時価発行といった自社で資金を調達できる直接金融システムができ上がり、また平成になると設備投資よりも、いかに高品質の商品やサービスを提供するかが重要事項になってきました。生産は国内でなくてもいいし、アウトソーシングや自社で生産設備を持たないファブレスでもいい。そういう時代になると広い意味の「ブランド」をどう作り上げるか、お客様のロイヤリティをどうやって高めていくかが大切になる、そういう時代に変わってきました。


トッテン
一般論として、これから企業はどのような方向へ向かっていくのでしょうか。


浅野様
一番大切なことは、ステークホルダーが高く評価してくれる経営ができるかどうかだと思います。1つひとつの商品作り、サービスを高めることと、トータルに考えた際の企業評価を高めるためのブランド戦略ですね。例えば、「アシストなら安心して頼める」、というのがブランド力です。抽象的ですが、顧客、地域、取引先、従業員といったステークホルダーから見て、そういう安心感をいかに確立していくか。これからはますますそういうことが重視されていくと思います。



合成の誤謬(ごびゅう)に直面する日本


トッテン
今、日本社会は非雇用社員問題など、厳しい問題を抱えています。


浅野様
経済学で言う「合成の誤謬(ごびゅう)」が起きています。つまり、1つひとつは正しいと思うことをやっているけれど、全体では意図しない結果となり、その袋小路に入ってしまっているのです。企業は利益を上げようとして正社員を派遣社員に切り替えたり解雇したりする。個人は収入が減っているからお金を使わなくなり消費が減る。または安いものしか売れなくなる。皆がデフレ対応へ向かうと、企業は投資はできないし、人は雇えない、給与は下がります。政府も財政再建を迫られて政府支出でお金を使うと批判の対象になってしまい、こうなると国家全体としては見通しのつかない状況に陥ってしまうわけです。


トッテン
それが20年も続いています。それを打破するためには何が必要だと思われますか


浅野様
このサイクルを壊すとしたら政治です。将来が明るい、希望が持てると国民に信じさせ、実行する。個々の努力だけでは変わらないでしょう。


トッテン
そんな閉塞感から国民は民主党政権を選んだのだと思いますが、メディアの報道は民主党に厳しいように思います。なぜメディアは協力よりも、バッシングをするのでしょう。


浅野様
マスコミもエコノミストも、現状や見通し、あるいは政府を批判したほうがリスクが小さいし評価が高いのです。「あの人はオプティミストだ」と言われてしまうと、評論は成り立ちませんから。


トッテン
私が40年前と変わったと思うのは、企業や国民の道徳観の低下です。端的に言うと、恵まれているのにけちな人が増えたと思います。


浅野様
確かに冷たい社会になっています。芸術や文化、そして社会的弱者に対する企業のメセナやフィランソロピーもいっこうに増えていません。私は企業は、効率性、倫理性、人間性、この3つが正三角形でバランスが取れているのが理想だと思っています。それが効率性だけを追求するから従業員の福祉がカットされる。経営者が、そうしなければ生き残れない、と信じているんですね。


トッテン
競争相手である世界の多国籍企業が社員をクビにして安い国に生産拠点を移し、また環境を汚染し、と効率性だけを追求しているため、日本企業にもそういう風潮ができてしまったのでしょう。


浅野様
それはあると思います。例えば京都の地場企業だったら、京都の人たちから支援されなければやっていけません。近江商人の「三方よし」という言葉がありますが、グローバル企業はそんなことは言ってられませんから、アジアがだめならアフリカ、次は中南米と移っていく。グローバルというのはそういうことで、東南アジアで金融危機が起きたのもアメリカの金融資本がそのように動いたからです。



閉塞感を破るために


トッテン
40年間変わっていないと思われる点はありますか。


浅野様
東洋経済は「個の確立」、ということを言い続けてきました。つまり、1人ひとりがしっかりと自立することで、企業も、自治体も、個人も、お上に頼ったり、横並び意識で動いたり、前例がないからできないというのは個の確立と正反対です。自分で考え抜き、行動して責任を取る仕組みが、日本では弱いと思います。40年前は欧米という見本があったし、供給を増やしていけば成果が上がった時代でしたから個がしっかりしていなくてもある意味ここまでこられましたが、現代は、自分で問題提起をして自分で答えを出していかなければならない時代です。相変わらずそれができていないことが低迷の根底にあると思います。

日本の教育制度が戦後ずっと変わらなかったことがその原因としてあると思います。日本の教育は異質なものを排除する教育です。東洋経済は、主幹を務めた石橋湛山など、常に異端の少数意見を述べ、世の中と違う考えを主張してきました。その代わりあまり大きくなってはいませんが、大きくならなくてもいいと思っている企業で、私が在職中も、数字ばかり追うなと言われたものです。良いものを出せば数字はついてくるという信念でやってきました。ある方から「世の中に迎合しなかったから、出版社として100年生き延びた」と言われたことがありますが、そうかもしれません。世の中が右へ行ったら右へ、左なら左へ行くのは単なるポピュリズムで、ジャーナリズムではありません。


トッテン
報道に対して政界や財界から圧力というのはあるのですか。


浅野様
政財界から訴訟で圧力をかけられたケースもありますが、あからさまな圧力というよりも、メディアは部数や視聴率を増やしたい、という内在的圧力が問題です。部数を増やすためには少数意見を書くのではなく、世の中に迎合する必要があります。また、広告を取るために経済界の悪口を言えない新聞、テレビは多いですね。事実、財界首脳は、悪口を書かれたら広告を載せない、などと圧力をかけたりしています。そういう財界も悪いのですが、しかしメディアはもっと問題です。


トッテン
部数が増えるほど固定費が増え、だからなおさら売らなければならないという悪循環になるのですね。大きさにこだわって、シェアをとらないと生き残れない、とよく聞きますが、その考えに私は反対です。


浅野様
身の丈経営をやっていればいいのです。


トッテン
国民自身にも問題がありますね。この前も日米間の「核密約」文書の存在が報道されましたが、政権がすでに交代しているとはいえ国民は怒らない。報道も一過性ですぐに終わってしまいました。


浅野様
国民もそうですが、やはり政治家がもっと強く反応すべきだと思うし、あるいはメディアも継続して報道すべきです。


トッテン
最近、インターネットなど個人の情報発信が活発ですが、これも大きく変わった点ではないですか。


浅野様
新聞、ラジオ、テレビにすくい上げられない情報にはかつてはアクセス不能でしたが、今は誰でも意見や情報をインターネットで流せます。その意味で新聞の存在価値が低下し、アメリカなど特にそうなっています。今雑誌は書籍化して、東洋経済も大特集主義となり、特集が良い時はよく売れます。逆に新聞は内容が細切れなので雑誌化を志向しています。ただ、インターネット上の情報はそれが正しいのか、評価が難しい。その分やはりメディアがしっかりしなければと思います。東洋経済は、東洋経済オンラインという情報サービスで企業情報と企業評価を提供しているので課金ができますが、一般情報は課金するのは難しい。今後メディアがどうなっていくかは大きなテーマです。



食は医力


トッテン
浅野様は『食は医力』(教育評論社)という本を著されていますが、どういうきっかけで「食」について書かれたのですか。


浅野様
私が食に関心があることを知った編集者から言われて、『週刊東洋経済』に食と健康をテーマにしたコラムを1992年から4年間、連載し、それがもとになって本になりました。


トッテン
健康的な食生活も実践されていて肉は全く召し上がらないと伺いました。


浅野様
魚は時々食べますが、肉は40年くらい口にしていません。肉を食べない理由は、日本人は長い間肉を食べないできたわけですから穀類、野菜、魚などのほうが身体に向いているのではと思ったのが1つ。それと、一時、玄米にした時に肉が美味しくなくなって食べなくなりました。倫理的なことを言えば、牛や豚が殺されるのは好きじゃないし、また最近考えるようになったのはエネルギー効率で、牛肉を食べるためにはとうもろこしや大豆がカロリーベースで10倍以上も必要になるので、地球のことを考えると肉は食べないほうがいいかなと。肉を食べない、と言うと「たんぱく質は足りますか」とよく聞かれますが、豆や穀類にも十分たんぱく質はあります。長年食べずに、こうして元気でこられたことがそれを実証していると思います。


トッテン
日本社会で身体の病気やうつ病が増えているのは食生活が問題だと私は思っていますが、いかがですか。


浅野様
市場原理主義という言葉がありますが、それに例えれば私は「食・原理主義」なのです。人間の健康、体質、性格や行動を規定するのは家庭や環境もありますが、食が左右するところが多いと思います。


トッテン
英語でも‘You are what you eat’と言いますね。


浅野様
最近突然怒り出す老人が多いそうですが、それはミネラル不足が一因だと思います。本当に食は大切です。何を食べるかというだけでなく、どう食べるか。家庭で、家族そろって美味しく楽しく、親が子供と話をしながら食事をしていたら、世の中全く変わってくると思います。


トッテン
怒りながら、悲しみながら食べると消化されないと聞いたことがあります。著書で「健康を保つための食の10ヵ条」を挙げておられますが、その中から3つを選ぶとしたら、何を選びますか。


浅野様
食物繊維を十分に摂ること、微量ミネラルを摂ること、楽しく食べること、でしょうか。日本人の食は圧倒的に食物繊維が不足しています。ミネラルについては、カルシウムはよく言われますが、亜鉛や銅、セレン、マグネシウムなども、身体の調整にとても重要です。何となく調子が悪いとか疲れる、というのはたいていミネラル不足です。微量ミネラルのためにはサプリメントよりも、野菜や海産物をたくさん摂るべきだし、楽しく食べることで食物の命を最大限に引き出すことができます。そもそも楽しく過ごすことで免疫力を高めるNK(ナチュラル・キラー)細胞が活発に働いてくれることは医学界の常識となっています。


トッテン
食べるものも大事ですし、身体に悪いものを食べないことも大事。飲み過ぎが悪いように食べ過ぎも毒です。自動販売機で買えるような加工品は避けたほうがいいですね。


浅野様
食もそうですが、私は医療について、ホリスティック(全体的)な考え方が大切だと思っています。また人間の身体だけでなく、経済や組織、政治とか経営などにもそれが当てはまります。経営や政治は何か問題が起きるとすぐ対症療法をとります。ここが悪い、これが売れない、となるとそこだけ直そうとする。そうではなくて全体をどうすればいいかという視点で見るべきです。部分最適の集合が全体最適ではないのと同じです。身体も全く同じで、我が家では、熱や痛みが出たり、湿疹などの炎症が出ると、薬を塗ったり痛み止めを飲んだりせずに、「良かったね」と冗談を言いながら症状をむしろ引き出すようにします。そのほうが病気の本質を解決し身体全体のために良いと思うからです。


トッテン
熱や痛みは、身体からの信号だから薬で止めたらいけないという考え方ですね。


浅野様
そうです。理由があるから熱が出ているのです。政治も経営も同じで、全体を見ることなく対症療法をするから全体が良くならないのだと私は思っています。


トッテン
学校でも経済学を専攻すると、社会学や政治、エコロジーは学ばず、経済しか教えない。それではだめですね。


浅野様
経済学を学んだり経済関係の仕事をする人は、同時に経済哲学、倫理学、経済史をトータルに勉強しないと誤ると思います。だからバブルがはじけてヘッジファンドのLTCMも破綻したのです。医学や医師が、1つの臓器、1つの症状だけでなく、「気」も含めて身体全体が関係しているという視点から人間を取り扱わなければいけないのと全く同じです。


トッテン
食に気をつけることは、その意味で自分だけでなく動植物、環境について考えることでもありますね。本日は大変興味深いお話を有難うございました。





◆ 浅野 純次 (あさのじゅんじ)様 プロフィール ◆


1940年生まれ。1962年に横浜国立大学経済学部を卒業。同年、株式会社東洋経済新報社へ入社。『会社四季報』『週刊東洋経済』各編集長の後、1989年取締役。常務取締役を経て、1995年社長、2001年会長。2004年から現職。


取材日:2009年12月