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情報誌『アシスト』

2010 Summer 2010/06/01
コラム 【USA NOW】

カリフォルニアから最新の米国事情をお届けします。

日本の意思を問う 実利至上のアメリカ

杉田 成彦


譲ってばかりでは、他人の足ふきになってしまう。アメリカで生活を始めたころ、在米経験の長い日本人たちからよく忠言を受けた。アメリカでは、人は実利の獲得に向け、最大限の自己主張(Projection)を展開して他者との関わりを開始することが極めて多い。その主張の衝突で盛り上がった地殻を、せめぎ合いながらならし、利害の落とし所を探るのである。互いの謙譲によって生じる溝を、思慮を促し合って埋めていこうとする日本とは対照的だ。

決して弱みを見せず、常に威風を売り込む態度は、アメリカの人びとにしてみれば下心のない極めて常識的な交渉行動に過ぎない。好き嫌いや、同意不同意、自己の判断と信念を、決して感情的にならず、ウィットを交えて率直かつ大胆に表明することは、思慮から調和を見出す美徳を保とうとする日本人には生易しいことではないが、アメリカでは堅固な関係を築くための基礎になる。逆に、謙譲や自粛は、確証のない不安の表れだと理解されることが多い。


トヨタ問題:謙譲が生んだハイプ

昨年の秋から続く一連のトヨタ問題では、トヨタが日本的謙譲で臨んだことで、アメリカ側の主張のほぼすべての容認につながった側面は否めず、熱病のようなハイプ(Hype=誇張された集団高揚)が全米を覆い、健全な検証を差し挟む余地を失った。しかし、一連のトヨタ騒動を取り巻くアメリカの様相は異常である。国有化されたGMの経営側である運輸長官によるトヨタ使用中止奨励。矢継ぎ早に訴訟を練り上げる業界団体と弁護士。さらなるハイプで大衆を煽るメディアとそれに乗じる政治家。証言と実証の不可解さ。トヨタとホンダを徹底的にこき下ろす中傷広告とも言えるGMとフォードの販売キャンペーン。さらに、GMとトヨタの合弁自動車工場のNUMMIの閉鎖では、早々に手を引いたGMに原因があるとする社員の声をよそに、執拗にトヨタの責任論を展開する大衆紙やテレビ…。

これらは、トヨタ車が統計的に他のメーカー と遜色なく安全だとい う実証や、NUMMIによってアメリカ車に品質向上をもたらしたトヨタの啓蒙的な貢献、騒ぎの最中にあっても上位の信頼性を保っている事実など、冷静な客観データと真っ向から食い違う(1)。トヨタ叩きが、アメリカ特有の魔女裁判だという指摘(2)は、あながち的外れだとは言えないのである。だからこそ、トヨタにも日本政府にも、謙譲ではなく、アメリカのやり方に則って主張してもらいたかった。


オバマドクトリンと日本

トヨタ騒動が、普天間基地移設問題を中心とした日米同盟の波立ちと期を同じくしていることは興味深い。第一次大戦時の敵国貿易法まで持ち出した70年代の日本潰し、80年代の日本叩きと輸入規制/制裁の乱発、90年代の日本敵視と中国のパートナー扱いなど、アメリカは事あるごとに、アメリカ市場の日本製品を締め上げることで、同盟を笠に着た日本統治の手綱を締めてきたからだ。

オバマ大統領の外交ドクトリンは、人権などの理想を二の次とした「国益至上の実利主義」である(3)。オバマ大統領の温情はアメリカ国内に向けられるのであり、日本に対してではない。実際、国益に実利をもたらす数理的な国際政治に徹して中国に擦り寄るアメリカは、日本には旧来の貿易障壁の改善を再び突き突ける有様だ。そして、日米同盟は、世界史にも稀な異文化間の長期主従関係である(4)。アメリカでは真の友人に対する打算なき「信頼(Trust)」と、実利達成のために敵とでも手を組む「同盟(Alliance)」は対で使用されるが、これまでのアメリカの日本の扱いにおいて、西欧の同盟国と同様の信頼は示されていない。

世界中の国が例外なく究極の目標として掲げる国益擁護とは、国土、交易、ビジネス、文化、イメージ発信など力の源のすべてを守る自国の防衛に他ならないが、日本では過去も現在も、根底の価値観を巡って国内が割れ、国益擁護に関するビジョンを描けないことが最大の悲哀である。同時に、トヨタ問題にせよ、普天間移設問題にせよ、アメリカのハイプをそのまま持ち込んで片棒を担ぐ日本のメディアや野党は、アメリカの言うことを常に呑まねばならぬと言っているに等しく、国益を葬る点で同罪だ。

宗主的な抑圧を伴う日米同盟(Alliance)を信頼(Trust)に高めることは必然かつ健全な流れであり、日本が不可避的に獲得しなければならない実利だが、国が一丸にならずして外国の利益が絡む現状の変更は覚束ない。



※写真:
アメリカの代表的な自動車販売スタイルである大型ディーラーを集積させた大規模なオート・モール。トヨタとGMの合弁自動車工場のNUMMIの操業地であったFremont市で。
【本文の注釈解説】
  1. John Shook.“How to Change a Culture: Lesson FromNUMMI”『MIT Sloan Management Review』2010年Winter/カリフォルニア大学バークレー校教授Robert Cole.『ThisWeek in Northern California』2010年2月26日/RobertWright.“Toyotas Are Safe (Enough)”『New York Times』2010年3月9日/『KTVUニュース』2010年4月1日/“ThisAmerican Life: NUMMI”『KQEDラジオ』2010年4月3日ほか
  2. Terence Corcoran.“The war on Toyota”『Financial Post』2010年2月3日ほか
  3. Peter Baker.“Obama Puts His Own Mark on Foreign Policy Issues”『New York Times』2010年4月13日
  4. George R. Packard.“The United States-Japan Security Treaty at 50”『Foreign Affairs』2010年March/April


ライター 杉田成彦 ● text by Naruhiko Sugita

米国カリフォルニア州、サンフランシスコ・ベイエリアに在住。テクノロジー企業から地域マーケティングファームまで、幅広いカスタマーの多様な媒体に、日本語ローカリゼーションやコンサルティング・サービスを提供。