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情報誌『アシスト』

2010 Autumn 2010/09/01
アシストの視点 【最新技術動向】

ビジネスがますます加速化する中で、市場には「クラウド」という文字が躍る。しかし一方で、「クラウド」は掴みどころがない、自社での活用を見出せないといった意見が聞かれることも少なくない。サービス事業者とその利用者という二軸で考えるのではなく、すでに多くの企業で採り入れられている仮想化技術を基点とし、その延長線上にあるクラウド・コンピューティングを見据えた視点で、企業内での活用を考察する。

手のひらの雲
~ 何のための仮想化、誰のためのクラウドか ~

株式会社アシスト
システム基盤ソフトウェア事業部
(ソフトウェア・リサーチ・センター)
板木栄樹
株式会社アシスト
システム基盤ソフトウェア事業部
 
中尾有揮




1. はじめに

今春、米国出張時に、米国では「クラウドとは何か」という議論はほとんどされなくなった、という印象深い話を耳にした。米国では何かという議論から、どう使っていくかの議論に移行しているという。昨年9月に米国国立標準技術研究所(NIST)がクラウド・コンピューティングの定義を発表したことも、その転換に大きく寄与したとも言われている。最初に、このNISTによる定義を見てみよう。


2. クラウド・コンピューティングの定義から見えるもの

NISTによると、「クラウド・コンピューティングとは、迅速に提供もしくは開放することが可能なコンピューティング・リソースの共用プールに、サービス提供者との最小限のやり取りでアクセス可能とするモデルである」とされている。またそれは、以下の5つの特徴を持つ。
前出の5つの特徴と3つのサービス・モデル、4つの実装モデルが定義されている。
ここで特徴的な単語は、"on-demand"、"self-service"、"elasticity(伸縮性)"である。このNISTの定義に照らし合わせると、クラウド・コンピューティングが実現しようとするところが具体的に見えてくる。つまり、利用者が欲する時に、必要な資源を、物理的な制約なしに手に入れる(もしくは手放す)ことができるコンピューティング・スタイルの実現である。もちろん、これを実現するためには、仮想化技術が必須である。こうしてみると、仮想化技術の採用は、今まで多く言われてきたコスト削減の手段としてだけでなく、次の変化への手段とも見ることができる。NISTによる定義を手がかりに、当社での実例を踏まえ、企業にとっての仮想化とクラウド・コンピューティングを再考したい。


3. アシストにおける取り組み

アシストのシステム基盤ソフトウェア事業部でも、そのテスト環境および一部本番環境において、コスト削減と業務効率化の観点から、その基盤となるサーバ仮想化技術、アプリケーション仮想化技術を2年程前より実装している。また昨年からはデスクトップ仮想化技術やストレージ仮想化技術を採り入れ、パフォーマンスおよび柔軟性の高い環境を実現済みである。この改革により、以前と比較してエンジニアが「必要資源を必要時に」、「自分で」、「瞬時に」得ることができるようになった。特段クラウド用ソフトウェアや、利用状況による課金は採用していないが、前述のクラウド・コンピューティングの要素をほぼ備えた環境と言える。この環境を提供するにあたって、想定していたこと、予見できなかったことがいくつか発生した。以下に詳述するので、今後のクラウド・コンピューティングの参考となれば幸いである。


4. サーバ仮想化とコスト

まず、基本基盤である「サーバ仮想化」に纏わるコストについて考察する。すでにサーバ仮想化技術を採用済みの企業においては、その検討時にITトータル・コスト削減効果についてさんざん議論済みのはずである。詳細は割愛するが、概ね以下の視点についての議論であろう。
  • ハードウェア・コスト
  • ソフトウェア・コスト
  • 管理システムと運用コスト
  • 電力、設置面積等のコスト
当社においても、仮想化の推進により、一定のコスト削減効果を確認できた。しかし、運用後には仮想化環境がもたらす特有の「利用者の意識変化」と「新たなコストの発生」に気づくことになる。


5. 仮想/物理環境の管理手法の違い

仮想化環境特有の新たなコストについて説明する前に、物理、仮想環境の差異を簡単に述べる。

物理サーバを新規導入する場合、最小限のワークフローとして、「申請」→「承認」→「導入」という手続きが必要とされる。予算は有限であるため、サーバ増殖もまた有限である。しかし、仮想サーバ(VM)の場合、利用者は物理資源を準備する必要も、また、不要になった際に、廃棄、撤去の必要も基本的にない。当社の場合、ITコストは部門毎の一括計上であるため、部門内で資源利用状況に応じたコストの再配分をする必要がない。つまり、利用者にはVM作成時のコスト意識は皆無である。また、物理サーバの追加時は、設置場所、配線、電源の確保や空調に気を配る必要があるが、VMの場合は、特に考慮の必要がない。VMは、このような物理インフラには基本的に依存しないからだ。


6. 仮想化環境特有の新たなコストの発生

利用者による自立的なVMを用いたシステム構築により、利用者の利便性は格段に向上した。当社では、最速で約2分後には必要なVMの提供が可能である。これは物理環境下ではあり得なかった変革を意味する。しかし、この環境でVM環境専任管理者を設置せず、緩やかな統制のもと、『あえて』自主的な運用に任せて開放してみたところ、システム設計段階では見えなかった問題に直面することになる。

■「VMスプロール現象」■

この言葉をご存じであろうか。VMスプロール現象とは、VMの無秩序な増殖を意味する。当然ながら結末は、共用資源の枯渇である。このVMスプロール現象は、当社の経験から以下に分類することができる。
  1. 稼働VMの増加
  2. クローンVMの増加
  3. オーバー・プロビジョニング
  4. 操作ミスによる資源放置


1. 「稼働VMの増加」

開発/テスト環境の場合、ほぼそれらのVMは常時起動されたままで、プロジェクトが終了するまで停止されることはまずない。このため、当社ではIPアドレスとVM資源の両方が瞬時に食いつぶされることになった。利用者は個人業務停滞を避けるため、各自「勝手な」対策を採り始める。例えば、テスト環境であることを理由に、DHCP帯域を勝手に固定アドレスで利用したり、PING応答のないアドレスを勝手に利用したりと、結果として「無法地帯」とも呼べる状況になった。このような身勝手な対応により、他にも影響を及ぼすような問題も何度か発生してしまった。

2. 「クローンVMの増加」

アシストでは、安定した製品供給のため、自社内で可能な限りのテストを行う。つまり、製品に修正を加えた前後でのスナップショットや、そこから生成された別VM等様々な環境が都度新たに作成されることとなる。これらのVMもまた削除されることがなく、そのままストレージに残存される。ストレージに存在するVMはバックアップの必要性があり、プライマリ・ストレージ資源だけでなく、バックアップ・ストレージ資源もまた食いつぶされる羽目になる。

3. 「オーバー・プロビジョニング」

当社では、利用者が頻繁に利用するVMのOS毎、また、OSに導入されたアプリケーションがあらかじめ自動的に配布されるようにテンプレート化してあり、その数は20程である。上記テンプレートに対し、各利用者による資源の自由な追加/変更を可能とした。これは、専任管理者を置かない苦肉の策である。すべての要求を管理側で把握するわけではなく、資源追加は利用者任せであるため、追加で巨大なストレージを割り当てたり、CPU数、メモリ容量を変更することも可能である。運用中に監視すると、高スペックのVMであってもほとんど資源が使用されていない。つまり、実際に必要とされる資源を遥かに超えるオーバー・プロビジョニングがなされていることが多く、資源の無駄な占有が多数見受けられる。

4. 「操作ミスによる資源放置」

プロビジョニング・ミスや、利用が終了したVMを利用者が削除する場合がある。しかし、この時の操作ミスにより、削除されない領域が多く残存し、ストレージ圧迫を引き起こしていたことも判明する。当社では月に一度、VMに紐付いていない仮想ディスクを削除することで対応しているが、平均20仮想ディスク/月存在する。容量にして400GB、年間5TB弱と計算できる。これは無視することができない。


課題解決のために

これらの経験を踏まえ、VMスプロールを抑止したプライベート・クラウド実現のために、弊社では以下を必要事項であると考える。
  • VM資源の効率的な運用のためのVMライフサイクル管理
  • VMテンプレートとアプリケーションのプロビジョニングの効率化
  • 物理資源と仮想資源の視覚化
  • コスト意識を根付けるために効果的なインフラストラクチャ・コストの開示
  • VM環境下での、効率的なソフトウェア・ライセンス管理
  • オープンソース・ソフトウェアの積極的な利用
現在、アシストでは、これらを包括的に管理する仕組みを試行錯誤しながら、実装中である。


8. まとめ

当社においても、仮想化を進めることで、当初一定のコスト削減効果を確認することはできた。しかし、その前提は「利用者の要求が以前と変わらない」という範囲内においての結果である。仮想化が進めば進むほど物理的制約を意識しなくて済む。利便性等のメリットは直接利用者自身が享受できるようになり、逆に、モラルの欠如等、人に起因する問題が顕在化し、直接管理面に跳ね返ることになる。利用者による自立的な運用体系を推進するとなれば、これらの問題は必ず起こりうる。自由度を高めるということは、それを見越した管理が必要なわけである。

別の面から捉えると、自由な環境を与えることによって急激に利用度が上がった。この現象は、そもそも以前からニーズが潜在していたということでもある。当社では利用者がこの環境を手にすることで、現場業務の生産性は劇的に向上し、今やこの環境なしには業務は遂行できなくなっている。

他社においても、このようなオンデマンド・サービスを活用することによって、大きな効果が期待できる場面も多くあるのではないか。つまり、業務企画からシステム化、サービスインまでの期間は大幅に短縮され、利用者のアイデアが自由に生かされ、即効果が得られるビジネス環境に近づく。もちろん、利便性を確保の上、さらなる向上を目指すと同時に、運用の効率化とガバナンスの確保を目指さなくてはならないというIT部門の使命は変わらない。

クラウド・コンピューティングは、技術側面ではIT基盤の変革であり、利用者にはビジネス・スピードの変革をもたらす可能性を秘めている。企業としては、単にコスト削減面だけでなく、この変革を活用するのか否か、活用するならどうメリットを活かすのかを議論し、場合によっては積極投資するという考え方もあるであろう。アシストでは経験を踏まえ、必要な場面で必要な規模でプライベート・クラウドを気軽に構築できる仕組みを検討中である。ソフトウェア・ベンダーには、仮想化環境に単に「対応」したソフトウェアのみならず、仮想化環境、クラウド・コンピューティングならではのメリットを「活用」した新たなイノベーションを期待したい。


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本稿に関するお問い合わせ
株式会社アシスト
ソフトウェア・リサーチ・センター
E-Mail magazine@ashisuto.co.jp

ソフトウェア・リサーチ・センターはアシストの組織を横断するメンバーから構成され、アシストの特徴を活かした中立的な立場でのソフトウェア製品や市場動向の調査を行っています。




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