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情報誌『アシスト』

2010 Autumn 2010/09/01
コラム 【USA NOW】

カリフォルニアから最新の米国事情をお届けします。

マネー資本主義の矛盾とポピュリストの台頭

杉田 成彦


2008年秋の金融バブル崩壊から丸2年、景気回復への糸口がつかめず、アメリカ経済は未だ病床に臥したままだ。経済を破綻させた金融証券業界を税金の投入で支え、消費を刺激してきたが、いよいよ財源が枯渇し、蘇生術が尽きようとしている。この財政出動などにより、アメリカの今年の財政赤字は、約1兆5千億ドル(約140兆円)という未曾有の額に達するが、財政の逼迫は国の懐だけにとどまらず、州、郡、市町村のすべてのレベルで危機的な状態に陥っている。

カリフォルニア州の多くの自治体では、住宅ブームと金融バブルがもたらした潤沢な税収によって活発に行われた開発投資が、一転してバブル崩壊で焦げ付き、資産壊滅による税収の激減も重なって、財政が極端に逼迫しているケースが相次いでいる。そのため基本的なサービスが提供できず、インフラ維持の中止、授業と教師のカット、警官の解雇や警察組織の解体、図書館の閉鎖、大学プログラムの削減、高齢者サービスの廃止など、社会の骨格を削り取るニュースに触れない日はないと言ってよい。そしてついに南カリフォルニアでは、金融バブル崩壊で財政が破綻し、職員を全員解雇して、市の仕事のすべてを民間に委託する初めてのケースが登場している(1)


混乱する民主主義

血の気のないアメリカ経済からの輸血によって二足歩行を始めたアメリカの金融証券業界は、自らが引き起こした世界経済不況を乗り切るために各国が行った財政出動の顛末を、独自の利益獲得のために再び断じ始めた。市民の福利を切る財政再建をしないとマネーゲームにうまみがなくなり、投資が逃げて国の経済リスクが高まると警告する一方で、税金による財政出動をしないと消費が落ち込み株価が下がると問題視し、都合良く自己だけを利する「マネー資本主義の矛盾」を振りかざす。

アメリカの地方財政赤字の現状と同様、バブル時に潜在的発展性で格好の投資対象とされたギリシャやスペインなどの国々の変わり果てた姿は、まさにこのマネー資本主義の矛盾によるものである。「こんなことを続けていては、どの国ももたない」と語ったドイツのメルケル首相(2)の言葉通り、景気の下支えに振り回された多くの国の政権を揺さぶり、民主主義をも混乱に陥れている。


市民間の対立を生む茶会運動

「先行きが異常なほど不透明なアメリカ経済(3)」は、名目約10%、実質16.5%(4)という異常な高さの失業率が長期にわたって居座り続け、アメリカ社会を背負う中産労働者と、退職を控えて資産霧消の憂き目を見るベビーブーム世代を強烈にへこませている(5)。アメリカでは現在、18世紀のイギリスによる課税に反発したボストン茶会事件になぞらえて、オバマ政権の税金投入による経済下支え政策に反対する茶会運動(Tea Party Movement)なるものが勢いを得ているが、これは、物心両面の抑圧にあえぐアメリカの不満が生み出したものだ。

しかし、茶会運動などに代表される「反現状/反既成(Anti-establishment)ムード」の高揚は、政府や他のグループを加害者に見立てるあまり、経済的惨状に生け贄を求める市民同士のいがみ合いを生じさせ(6)、人種の別や移民の位置づけ、所得階級、居住地域などを軸にした軋轢を引き起こして、アメリカ国民の目をマネー資本主義の矛盾から遠ざけている。

アメリカでは不満を募らせる市民同士が目先の鬱憤晴らしで対立し、マネー資本主義の矛盾が不問に付されているのを良いことに、経済崩壊の根源である金融証券エリートや権力富裕層の手中へパワーの集中がますます進み、マネー資本主義が国家をかしずかせるシステムが確立しつつある(7)その結果、反現状/反既成ムードに乗じて、個人で数十億円もの選挙資金をつぎ込める元CEOなど、マネー資本主義の側から「既成システムへの造反者を気取るポピュリスト(Populist=大衆人気取り)候補者」が数多く名乗りを上げ、人気を博している。

中間選挙を控えたこの秋のアメリカでは、台頭するこのポピュリストたちが政治の波乱要因だ。しかしそれは議会のバランスを変える波乱でしかなく、マネー資本主義を問う波乱ではない。マネー資本主義の矛盾を解消せずにアメリカ経済の真の覚醒はないが、そのためには人びとは市民同士の対立をやめ、そのエネルギーを人種、移民、地域に超えてアメリカを覆うシステムの変革に向けなければならない。



※写真:
オークランド市を南北に貫くインターナショナル通りは、サンフランシスコ・ベイエリアで最も多様な移民が集まる地域の1つ。治安の向上を目指して景観の改善が進められた通りの中心地で、帰宅のバスを待つ人びと。
【本文の注釈解説】
  1. Maywood市の例。『New York Times』2010年7月19日、10 o'clock News『KTVUテレビ』2010年5月5日ほか
  2. 『Spiegel』2010年6月9日
  3. Sewell Chan.“No Fed Plans to Give More Support, Bemanke Says”『New York Times』2010年7月21日
  4. David Leonhardt.“The Recovery Is Losing Steam”『New York Times』2010年7月2日ほか
  5. Doyle McManus.『Washington Week』PBSテレビ、2010年7月16日
  6. Sheryl Gay Stolberg, Shaila Dewan and Brian Stelter.“With Apology, Fired Official Is Offered a New Job”『New York Times』2010年7月22日ほか
  7. Ross Douthat.“The Great Consolidation”『New York Times』2010年5月16日


ライター 杉田成彦 ● text by Naruhiko Sugita

米国カリフォルニア州、サンフランシスコ・ベイエリアに在住。テクノロジー企業から地域マーケティング・ファームまで、幅広いカスタマーの多様な媒体に、日本語ローカリゼーションやコンサルティング・サービスを提供。