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「クラウド」は企業とITベンダーの何を変えるのか!?

クラウド・コンピューティングが国内企業に急速に普及している。このクラウドは、企業システムとITベンダーの販売スタイルを根本から変えるとされている。本稿では「『クラウド』は企業とITベンダーの何を変えるのか!?」をテーマに、企業がクラウドを利活用するメリットやクラウドを扱うITベンダーがどうビジネス・モデルを変革すべきかを論じる。

BCNビジネスメディア部長
週刊BCN 編集委員
谷畑 良胤 様

1964年12月、埼玉県所沢市生まれ。日本大学法学部新聞学科を卒業。日本教育新聞社に記者として入社。その後、ソフトバンクBBのEC(電子商取引)サイト「バーティカルネット」に入社。2002年11月、BCNに入社。2007年5月、「週刊BCN」編集長に就任。2012年12月からは編集委員。得意分野は業務ソフトウェアとプリンター。

クラウド市場はIT市場の2%程度


 本格的な普及時期に差し掛かった法人向けクラウド・コンピューティング(以下:クラウド)だが、企業にITシステムを提供する「情報サービス産業」の中で、どの程度のインパクトがあるのだろうか。各種調査会社の調査によれば、国内のクラウド市場は3年後、2,000~3,000億円に成長すると予測している。年平均成長率は20%を超える勢いだ。この数値を見る限り、情報サービス産業に携わるITベンダーにとって、今後の成長を支える重要なサービス形態であることは間違いない。

 国内情報サービス産業は、特定サービス産業調査のデータを分析すると約17兆円に達する。元請けベンダーと下請けベンダーが同一案件の売上高を計上する「ダブルカウント」を除けば、15兆円という規模だ。毎年1~3%程度しか成長しない産業で、国内市場は成熟したとさえ言われる。この中で、前出の予測を換算すると、クラウド関連の占める割合は、2016年でも2%程度でしかない。情報サービス産業の主軸の領域とまでは、言い切れないのだ。

 このように数値だけを読み込むと、調査会社の予測はクラウドに対してシビアに見える。それでも、企業のITシステムに関連する企業内のIT部門やシステムを提供するITベンダーで、なぜ今、クラウドに注目が集まっているのだろうか。一言で言えば、従来、企業システムは企業内(オンプレミス)に「所有」していたが、従量課金制などの利用形態で「利用」することで、企業システムは成り立つ可能性があるということだ。情報サービス産業界では、この「所有から利用へ」の流れが加速することを「パラダイム・シフトが起きる」と表現する。 日本IBMの幹部が公の場で話す中で、必ず口にする言葉がある。「日本の企業のIT投資は、7割程度がシステムの保守/運用費に使われている」。つまり、「守りの投資」が大半を占め、企業が成長していく上で重要な「戦略的なIT投資」は、3割しか割かれていないのだ。同社の指摘によれば、米国の企業ではIT投資に占める保守/運用費の割合は4割程度という。現在の企業システムを根本から再構築しない限り、「戦略的なIT投資」は増えず、ひいては日本企業のグローバル競争力を高められないばかりか、労働生産性をも改善できないのだ。

 日本生産性本部が、OECD(経済協力開発機構)加盟国の比較をもとにまとめた2011年版「労働生産性の国際比較」によれば、日本の労働生産性は68,764ドル(766万円/購買力平価換算)で、OECD加盟34 ヵ国中で第20位。2年ぶりに順位を上げたものの、主要先進7ヵ国では最下位だ。米国は3位で英国が18位だが、フィンランド(14位)やカナダ(17位)より低い水準。同本部は「ITの利活用の差」が主要因であることを指摘している。また、驚くことに、日本の産業別労働生産性を見ると、2005年との比較で生産性を10ポイント以上下げた業種もある。卸売業や金融業/保険業、不動産業、建設業などだ。加えて日本は、急速に少子高齢化が進展している。高知県によれば、同県内の農業従事者(就農人口)は、毎年1,000人単位で減少している。個人の労働生産性を上げ、高品質な食物を生産し、持続的に産業を維持するには、ITで効率化するしか方法が見当たらない。労働人口が急激に減る地域は高知県に限らないが、この状況を改善するためにITを利活用するにしても、従来のように受託ソフトウェア開発などで一から作り込むITシステムでは、時間が待ってくれないのだ。

 労働生産性の改善、戦略的なIT投資の増額、グローバルで勝ち抜く企業を構築する上で、早期に構築し展開できるクラウドは魅力的であり、これら企業が抱えるITシステムの課題を一気に解決に導く可能性を秘めているというわけだ。経済産業省では現在、「IT融合政策」を展開している。ITシステムに無縁だった農業や漁業などの第一次産業や第二次産業を問わず、すべての産業領域でITを利活用し、新たな事業領域を生み出そうとする活動だ。グローバルで高い競争力を有するには、既存事業の高付加価値化を図る必要があり、この実現にクラウドが欠かせないと言う。

 もう1つ、昨今のクラウドを語る上で、スマートフォンやタブレット端末といったスマート・デバイスが企業向けに急速に普及していることがキーワードになっている。いわゆる「ホワイトカラー」だけでなく、従来パソコン端末を持ち込めず使わなかった「ブルーカラー」の層へコンピューティングが入り込んでいく。各種調査会社の予測データによれば、3~5年後には、企業向け端末が、導入台数ベースでスマート・デバイスがパソコンを抜くという。詳細は後述するが、スマート・デバイスの普及は、クラウド市場の拡大を後押ししそうなのだ。

 注目が高まるクラウドだが、「守り」中心の企業システムに光明をもたらし、企業にITシステムを提供するITベンダーの発展に寄与することができるのだろうか・・・。その両者で、自問自答が始まっている。

クラウド・サービスの数は、まだ少ない


 情報サービス産業は、1980年代のメインフレーム(汎用機)の時代に始まり、マイクロソフトの「Windows」の登場でオープン化の時代が到来し、同時期に安価な高速大容量の有線/無線通信が整備され、大きく花開いた。今はオープン化の時代を経て、クラウドへの移行が進もうとしている。
 
 さて、このクラウドだが、その定義について米国立標準研究所(NIST)がこう示している。「クラウドとは、ネットワーク、サーバ、ストレージ、アプリケーション、サービスなどの構成可能なコンピューティング・リソースの共有プール(雲「cloud」の向こう)に対し、便利かつオンデマンドにアクセスでき、最小の管理労力またはサービス・プロバイダ間の相互動作によって迅速に提供され利用できるモデルの1つである」。

 国内に汎用機が3万台程度残っているとされるが、多くの企業では、サーバやストレージなどを使ったクライアント/サーバ(C/S)型のシステムを使っているはずだ。このC/S型システムに一から受託開発したソフトウェアやパッケージ・ソフトを組み込んでいる。従来はそれを、企業が自分自身で保有/管理していたのに対し、クラウドでは企業はインターネットの向こう側からサービスを受け、月額制などのサービス利用料金を払うだけで済む。企業がクラウドを使う上で用意すべきものは、パソコンやスマート・デバイスなど端末、その上で動くブラウザとインターネットの接続環境だけだ。

 クラウド市場を知る上で、重要な要素として3つの分類を理解しておく必要がある。上記のように、グループウェアやSFA(営業支援システム)、販売管理システム、会計システムなどのアプリケーションをC/S型でなく、端末とインターネットだけでサービス利用する形態は、SaaS(Software as a Service)と呼ばれる。また、課金やアプリケーションを構築/稼働させるSaaSサービスの実行用のプラットフォーム(基盤)をPaaS(Platform as a Service)と言い、クラウドを提供するための仮想マシンやネットワーク・インフラなどのインフラ側をIaaS(Infrastructure as a Service)やHaaS(Hardware as a Service)に分類している。

 クラウドの提供方法についても、データ・センターを保有しクラウド・サービスを提供する事業社側のクラウド・サービスを利用することを「パブリック・クラウド」、企業内(ファイアーウォール内)にインフラを置き、企業内やグループ内などで利用することを「プライベート・クラウド」と呼ぶ。

 クラウドの市場規模で出てくる企業向け数値は、現在のところIaaSが中心であり、プライベート・クラウドの利用形態が主流で、SaaSサービスの売上高は少ないとされる。IaaSは、言葉を換えれば「場所貸し」ビジネスであり、従来のC/S型システムをコロケーション(ハウジング/ホスティング)する形式とさほど変わらないと筆者は見ている。企業内での置き場所に困り、あるいはコスト削減の一環としてC/S型システムをデータ・センターなどに預け、そこからクラウド・サービスとして企業内で使っているに過ぎないからだ。SaaSがクラウド市場に占める比率が少ないのは、依然としてパッケージ・ソフトの企業向け販売が好調であり、多くのソフトウェア専業メーカーがクラウド製品を出すことに二の足を踏み、SaaSサービスの種類が不足し企業側の選択肢が少ないことが理由として挙げられる。

 また、プライベート・クラウドが国内の主流になっている理由は、日本企業の多くが自社内でなく外部に機密情報を含めた重要データを置くことで、情報漏えいなどセキュリティ面を懸念している企業が多いため、自社内にクラウドを構築するプライベート・クラウドが導入例の主流になっているのだ。ただ、この辺りの議論には誤解が多い。

 例えば、会計システムをはじめ基幹業務ソフトを業界に先立ちSaaS型で提供し始めたピー・シー・エー(PCA)の「PCAクラウド」の稼働率(夜間はバッチ処理などでSaaS利用はできない)は、99.999%以上で、ほとんど事故はない。2012年には、データ・センター事業社のファースト・サーバで人為的なミスが重なり、大規模障害が起き、クラウドの安全神話にケチが付いた。同センターには、サイボウズなど有力ソフトウェア専業メーカーのSaaSサービスのシステムが置かれ、一部データが消去され復旧できなかった。だが、データ・センターのサービス停止時間だけを見れば、企業内にあるC/S型システムの平均的な障害時間に比べても少ないというデータもある。こうした点は意外と企業側に伝わっておらず、依然、クラウドに対する理解が不足しているのは事実だ。

 ただ、2011年3月11日に発生した「東日本大震災」は、クラウドに対する企業側の認識を一変させた。東北地方では、沿岸部で社屋自体が津波に流されたり、内陸部でも多くの社内システムが倒壊し、システム復旧に時間を要した。大手サーバ・メーカーによれば、震度5強を超えると、通常時に比べ1.5倍もサーバが倒壊または故障を発生するという。

 2004年10月に起きた「新潟県中越地震」では、当時システムの主流だった汎用機の多くが故障した。この際、多くの企業がサーバを中心としてC/S型システムへ移行したとされる。しかし、2007年7月に再度大きな地震を観測。移行したばかりのC/Sシステムの多くが、サーバ倒壊などで破損した。

 そこで、新潟県内の大規模システムを抱える企業を中心に、企業内にあったシステムをシステム構築会社(システム・インテグレータ/SIer)のデータ・センターなどへ移す現象が多く見られた。事業継続やディザスタ・リカバリ(DR)の体制整備を余儀なくされ、自社内で「守る」のではなく、堅牢なインフラを備え、安価に使えるSIerなどのデータ・センターにシステムを預けるようになったのだ。

 「東日本大震災」のあとも、東北地方や余震に怯える東日本地域の企業を中心に、自社内だけでシステムを管理/維持することの難しさを痛感したはずだ。この震災を境に「クラウドを利用する」機運が一気に高まり、企業側の危機意識の高まりは各種調査会社のデータを見ても明らかになっている。

クラウド導入前の“棚卸し”が重要


 「東日本大震災」を機に、クラウドに対するセキュリティ上などの不安は、徐々に解消に向かっている。この2年間でクラウドの技術進展は目覚ましく、利用形態の企業の実状に即したサービスが多種多様に揃ってきた。経済発展期のように、既存システムをビッグバン(段階的な導入ではなく、必要な機能を一括して導入/稼働する方法)でシステム投資することは見込めない。中期的なスパンで段階的に必要な機能を継ぎ足す形がほとんどだろう。

 クラウドの導入に関しても、現在のC/S型システムを全部一気にクラウドへ移行する企業は少数派と思われる。企業の成長度合いや戦略面との整合性を見て、コスト見合いで段階的にシステムを構築していくはずだ。

 では、クラウドを導入し効果の出るシステムを構築するには、どうすればいいのか・・・。まずは、どんなプレーヤーが、どんな仕組みで、どの程度の価格でサービスを提供しているかを分析した上で、各企業に最適な方法を探すことが重要だ。

 クラウドで、今後5年以内で見て最も伸びる形態はSaaSサービスだろう。SaaSサービスは、先ほどのPCAのように同社と競合の基幹システムを含め、多種多様に提供されている。最もポピュラーなのが、ソフトウェア専業メーカーが自社か通信事業社などのデータ・センターにIaaSとPaaS環境を整備し、クラウド・サービスを提供する形式だ。前者は、多額のインフラ投資と運用管理費が伴うので少数派で、通信事業社の場所を借りて提供する後者のパターンが主流だ。後者の場合、インフラとしては、通信事業社やデータ・センター専業ベンダーのほか、富士通やNEC、大手SIerやAmazon、Google、セールスフォース・ドットコムなど外資系ベンダーのインフラを利用しているケースが多い。ここに名の挙がっているクラウド・ベンダーの顧客から得た利用料の売上高が、クラウド市場統計のPaaSやIaaSの一部として換算されている。

 企業でクラウド導入を検討する際、AmazonやGoogleなど、クラウド・サービスが並ぶマーケット・サイトへ直接入り、そこで契約をしてサービスの提供を受ける企業は少数派だろう。ただ、自社内のデータを保存する場所として、クラウド・ストレージを自社のIT担当者が操作して利用することは増えているし、東日本大震災の際など、一時避難的に多く使われた。重要なシステムをクラウドに変える際は、従来と同じように身近なITベンダーに依頼し、どのクラウド・サービスを利用すれば、最適なシステムを作れるかを相談しているはずだ。クラウド・サービスは、Evernoteなどコンシューマで利用されているクラウド・サービスと異なり、専門家の説明が必要な製品/サービスなのだ。

 前述した通り、クラウドを一気に利用する企業は少数派だろう。クラウドが注目され始めた当初、“パブクラ破綻”という言葉が一部、業界関係者の間で流行った。クラウド・ストレージの容量をデータの増加に伴って不用意に上げたため、知らず知らずにストレージ利用料が増え、これが理由で破綻した中小企業があったためだ。つまり、従前のシステムを導入する際と同様に、中期的な展望に基づき設計していかなければ、クラウドも無用の長物と化す。

 ビッグバンでC/S型システムを導入していた時と同じように、クラウド利用でも、既存システムの現状把握をする必要がある。いわゆる、全体最適化を図る前の「棚卸し」をしなければいけないということだ。恐らく、多くの企業では、異機種混合のシステムが分散的に配置され、全体を掌握できなくなっているはずだ。これを見直し仮想環境などを施し、集約/統合化した上で、クラウドの利用を検討すべきだ。その際に、SIerの手助けが必須になるのである。これを怠れば、C/S型システムと同じように全体のシステムを管理/監視できず、結局は非常時の事故に対処できないことが起きてしまうからだ。

 クラウドの価格についても企業側で注意が必要だ。通常、クラウド・サービスは利用当初にイニシャル・コスト(初期投資)は微少だ。月額の利用料金を払う形になる。クラウド・サービスによっては、C/S型システムを構築しイニシャルで投資した上で、5年程度の減価償却した方が安価に収まる場合もあるからだ。多くのクラウド・サービスは、5年程度であればサーバやストレージ、その他ミドルウェアなどのインフラ投資が必要ないので、C/S型システムに比べ安価に収まる。企業内の端末規模や期待するシステムの規模によっては、クラウド・サービスの方が高くなるケースもあることを念頭に置くべきだ。

 クラウドに対する安全面での不安は払拭されつつある。あとは、企業にクラウド・サービスを提供する側が、クラウドを利用して顧客にどんな投資対効果(ROI)をもたらすことができるかが問われている。

クラウド・サービスは保守契約率が100%


 クラウドの普及当初、こんな質問をよく受けた。ASPとSaaSの違いは・・・(図2)。そこで筆者は、同じ敷地の土地に販売価格は同じ住居の一軒家とマンションを建てるのとの違いだ、と返答した。ASP(Application Service Provider)は、技術的に見ると「シングル・テナント・アーキテクチャ」であり、個々のユーザ別にデータベースなどシステム環境が構築されている。したがってASPは一軒家。一方のSaaSは、「マルチ・テナント・アーキテクチャ」を採用し、複数のユーザが同じ環境を共有しているという点でASPと異なる。なので、SaaSはマンション。同じ敷地面積に一軒家を建てて販売するか、マンションを販売するかの違いだと言っている。厳密に言えばこの論は誤っているかもしれないが、クラウド・サービス提供側からすれば、この「マルチ・テナント・アーキテクチャ」は革新だ。

 クラウド・サービスを提供するITベンダーにとってASPは、顧客が増えるごとにインフラを増強する必要があり、保守/運用費も膨れるため、粗利が出にくい。ASPが国内で普及しなかったのは、インターネットの速度が遅く、作業遅延が発生したことも起因しているが、ITベンダー側の問題が大きかっただろう。クラウド・サービスは、マルチ・テナント方式なので、インフラ投資の増加がASPほど急激ではない(図3)

 ちなみに、前述のPCAは通信事業社のデータ・センターを借り、自社で選定したサーバなどインフラを構築したが、すでに5年の減価償却を終え、クラウド・サービス単体で黒字を計上した。現在は二期工事に歩を進めているが、これまでに契約した企業のクラウド・サービス利用料が積み上がっているわけだから、顧客を増やすごとに粗利が積み上がってくる。仮に、競合ベンダーが同等のクラウド・サービスを提供しても、すでにストックが積み上がり、インフラの膨大な初期投資も必要ないので、既存クラウド・サービスの価格を下げるという対抗手段も打てるのだ。

 もう1つ、ソフトウェア専業メーカーにとって重要なことは、クラウド・サービスは保守契約率が100%ということだ。多くのメーカーのパッケージ製品は、保守契約率が5割に満たない。保守契約によるストック収入は、メーカーの収益を支える重要なバロメーターだが、クラウド・サービスが伸びれば、これを解消することも可能だ。

 ソフトウェア専業メーカーにとっては、事業メリットの大きいクラウド・サービスだが、企業側にとってはどうなのだろうか。最近では、「クラウドAPI」なるクラウド・サービスを個別企業向けにカスタマイズするツールが用意されるようになった。日本企業は、中小企業とてカスタマイズしたがる傾向が強いが、「クラウドAPI」の普及で企業側の不満がこれで1つ消えた。

 とは言え、クラウド・サービスはイニシャル収入がなく、月額課金で収益を得る安価な仕組みであり、全体として1案件の額が減る。前述の通り、ソフトウェア専業ベンダーの“勝ちパターン”は徐々に見えてきたが、クラウド・サービスを「売る」SIerなどの収益モデルや販売モデルは確立されていない。IT流通専門紙「週刊BCN」の視点で見ると、クラウド・サービスの流通網が築けていないのだ。従来のようなC/S型システムのごとく収益を得るには、より数多くの案件を拾い、獲得していく必要がある。金融機関や地方自治体などの大型案件に安住していたITベンダーにとっては、参入しにくい領域だろう。しかし、各種調査会社のデータを見る限り、官公庁/自治体を含めクラウド利用のニーズは高まる一方だ。これら要求に応えられないITベンダーは、将来的に埋没する。安価なクラウドを今までの倍以上の顧客に提供しなければ、現在の収益確保は難しい。安価な製品を大量に「売る」仕組みが必要になるが、これを確立できているSIerなど、「売り手」はごく少数だ。イニシャルを得ることで営業成績が積み上がるスタイルを変えることをはじめ、ビジネス・モデル(収益モデル)を根本から変える必要に迫られている。

 最後に、クラウド市場を押し上げるトリガーとして、高度のコンピューティングを搭載したスマート・デバイスの存在が注目されている。各種調査を見ると、数年内には、企業内に配置する端末台数はパソコンを抜きスマート・デバイスが上回る。一方で、企業内の構造化データだけでなく、非構造化データ、いわゆる“ビッグデータ”を活用する動きが加速している。スマート・デバイスにはHDDがない。スマート・デバイスを利用した企業システムを構築する際、データの保存場所としてクラウド環境の利用あるいは、リアルタイムに情報を得る手段としてクラウド環境の整備が必須になる。

 スマート・デバイスの普及に伴って、企業人のワークスタイルが変わり、利用方法もクラウド型にシフトしてくるのだ。ここまで述べてきたファクターを重ねると、冒頭の調査以上に国内クラウド市場は伸びる可能性がある。ITベンダーにとっては、クラウド・サービスで儲けるビジネス・モデルを構築することが喫緊の課題だ。このモデルを築いたITベンダーは、PCAなどと同様に先行者利益を得ることができるだろう。


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