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監視社会へようこそ

[掲載媒体]INSIGHT NOW!
[日付]2012年5月9日

『テロとの戦い』という名の下で、監視社会に向けてさまざまな技術が導入されている。それは国民の安全、国家の安全のためと言われるが、実際は誰が、なにを監視するためなのだろう。


株式会社アシスト 代表取締役会長
ビル・トッテン

「テロとの戦い」以前から、アメリカ政府が情報機関を使って盗聴などを行っていたことはもはや周知の事実である。1970年代にも、政府の不法行為を捜査するために「チャーチ委員会」という上院外交委員会が民主党上院議員フランク・チャーチによって作られCIAやFBIなどの職権乱用を調べる大規模な捜査が行われている。

1975年、チャーチ議員は「国家安全保障局(NSA)が行っている諜報活動は、いつなんどきアメリカ市民に対して向けられることになりかねない。電話、電報などすべてが監視されれば、アメリカ人にプライバシーはなくなるだろう」と発言しているが、彼の懸念はもはや現実となった。

2008年、元ニューヨーク州知事がホテルの客室で高級売春クラブで「買春」をしていたことが米FBIの盗聴で明るみになり、知事を辞任した事件があった。元知事の買春が公になったのはFBIが政府にかかわる銀行取引に関する捜査をしていた関係からだといい、おそらく一政治家を失脚させるのによいタイミングであったのだろう。なぜならこの知事はそれまでにウォール街の不正取引を告発してきた経歴があるからだ。失脚させることで何かを隠そうという大きな力が働いていたのであろう。

そのNSAは今、ユタ州に20億ドルをかけて巨大な施設を構築している。ここには世界でもっともパワフルなスーパーコンピュータが装備され、アメリカ人の電話、メール、インターネット利用状況、購買やレンタルの記録、すべての暗号化されたもの等々をモニターし、データは永久にそこで保管されるという。アメリカが全体主義国家になる日は遠くないかもしれない。言い換えると、ジョージ・オーウェルの『1984年』、オルダス・ハクスレーの『すばらしい新世界』はすでに到来しているということだ。少なくとも技術的には。
   
ルモンド紙によれば、昨年リビアではカダフィ大佐が殺害された後、トリポリにあるリビア政府の監視センターを訪れたウォールストリートジャーナルの記者は、政府がインターネットから携帯、衛星電話までをモニターしているのを見たという。そこに導入されていたのはフランスのBullの子会社であるAmesysの情報監視設備であり、2007年、サルコジ大統領が武器や原発設備とあわせてリビアに納品したものだという。

ここで使われている技術はディープ・パケット・インスペクション(DPI)と呼ばれ、プロバイダーのコンピュータに専用の機械を接続して、利用者がサーバーとの間でやり取りする情報を読み取る技術である。これを利用すると利用者が閲覧したサイトや購入履歴、検索したものなど情報を全て手に入れることも可能となる。内容を書き換えたり、別の人に転送することもできる。またインターネット検閲といえばすぐに思い浮かぶ中国でも、もちろんこのDPIが使われている。

つまり、これらのコミュニケーションネットワークを監視する技術を持つ企業は、将来有望な、新しい産業なのだ。営利目的の企業ならこの技術がどのように使われようともそれを広めようとするのは当然であろう。DPIをWebのブラウジングに使えばオンラインでの動きはすべて記録でき、その情報こそマーケティングの専門家が求めているものだ。つまりDPI技術を使ってWebサイトを分析すればプロバイダーはGoogleのように利益を出すことができるようになる。また知的所有権の観点から違法ファイル共有をやめさせたい場合も、DPI技術を使えばファイルをダウンロードしようとする人をブロックすることも可能になる。

商用だけでなく、フランスではこの技術を使い捜査の一環として容疑者の通信を監視することは合法的におこなわれている。この技術を使えば、政府は好ましからぬと政府が認めた国民の通信をモニターすることは可能だということだ。

アメリカもフランスも、IT関連機器のメーカーに対し、こうしたインターネット利用の監視や制限を可能にする機器を外国政府に販売しないよう求めてはいる。しかし欧米が利用しているものを、イランや中国が利用しないはずはないし、日本政府ももちろん同じである。

電子通信の濫用は、電子通信そのものが使えないような状況をもたらすか、またはオーウェルの記述したようなすべての国民を監視の対象下に置くような世界を作るか、どちらかになる可能性はぬぐえない。スマートフォンユーザはこうした現実を理解しているのだろうか。


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