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北の大地を走る
「変化しながら、生き続けるためのデュアル・モード・ビークル」

【対談】北海道旅客鉄道株式会社 鉄道事業本部 DMV推進センター所長 今村紳彌様

本州に次ぐ広さでありながら人口は約540万人、冬は寒さの厳しい豪雪地帯である北海道で、その地に根ざした交通ネットワーク・サービスを提供している北海道旅客鉄道株式会社(以下JR北海道)。JR北海道では、過疎地域でもユニバーサルなサービスを提供すること、また新しい交通体系構築の試みとして、世界でも始めてのデュアル・モード・ビークル(DMV)の開発が進んでいます。採算性に悩まされている日本の各自治体からも注目を集めているDMVについて、同社鉄道事業本部 DMV推進センター所長 今村紳彌様を大塚辰男がお訪ねし、お話しを伺いました。


──大塚(以下色文字):アシストは全国4拠点でサポートセンターを展開してきましたが、今年1月、5番目の拠点として北海道札幌市にサポート業務に特化したグループ会社を設立しました。本日は北海道や新しく開発された乗り物についてお話しを伺うのを楽しみにやって参りました。

 今村様(以下略):北海道は人口が約540万人と少なく、JR北海道を利用されるお客様も1日約36万人くらい、北海道の人口の約7%ほどです。マイカーなど道路交通網への依存、長距離は航空機、またバスも発達しているのが日本の他の地域との大きな違いだと思います。もう1つは冬が非常に寒く、雪が多い。鉄道事業全体の費用約1,100億円のうち除雪に関する費用が約7~8%、多い年は10%ほどかかります。それほど寒さに関する手当に費用がかかるという特徴があります。

 昭和62年、国鉄の分割民営化ということで日本で旅客鉄道事業を行う会社が6つに地域分割され、北海道全域を担当するということで発足したのがJR北海道です。当時の分割民営化のゴールは、国が保有していた株式を市場に売却することでそれまでの借金を埋め合わせることでした。地域に応じた企業経営をするということで地域分割されましたが、人口の少ない地域が赤字になるのはわかっていましたので、赤字が予想された北海道、四国、九州の3社は、経営安定基金をあらかじめ用意し、その資金運用で得られる利息を事業の赤字補填に使うという形でスタートしました。これは今も同じです。金額は北海道が7千億円弱、四国が2千億円、九州が4千億円ですので、金額を見ればJR北海道がどれほど赤字を出る会社かということがわかると思います。毎年鉄道事業だけで500億円程度の赤字が出る想定でスタートしています。

変化への対応が発展につながる


──そのような中でデュアル・モード・ビークル(DMV)が開発されることになった経緯についてお聞かせください。

 北海道には赤字ローカル線が多いため、都会のような「高速大量輸送」の発想では成り立ちません。多くの乗客が利用すれば鉄道はエコですが、数人しか乗っていなければエコではなく、マイカーで動いたほうが安いし、燃料消費量も少なく済むからです。そこでこの鉄路を活かした乗り物を作れないかとJR北海道の現在特別顧問・技監で当時代表取締役専務・鉄道事業本部長であった柿沼博彦が開発に着手したのが、線路と道路の双方を走れるDMVです。マイクロバスを改造しているので、購入費、燃費、保守費などが従来の鉄道車両と比べ低コストで運用可能です。

 線路も道路も走れる乗り物を作る試みは1930年代からイギリスやドイツ、旧国鉄でも行われましたが、車輪がガタついたりモード・チェンジがうまくいかなかったりで完成に至りませんでした。この新型DMVは、モード・チェンジをわずが15秒ほどで行います。また大きな特徴は線路の上も後ろのゴム・タイヤが線路をけって安定した走行を実現することです。これが可能になったのも雪の上でも滑らないスタッドレス・タイヤを使用しているからです。

JR北海道の「新型DMV」

──スタッドレス・タイヤとは、雪の多い北海道ならではの発想ですね。

 それだけではありません。走行状況に合わせて後部鉄車輪へかかる荷重をコントロールするというのは除雪車の油圧技術を利用しています。これは鉄道や道路用の除雪車を製造する株式会社日本除雪機製作所に技術を提供していただいています。雪対策の技術がなければDMVは成し得ませんでした。

 試験車が最初に完成したのは平成16年1月で、平成19年4月から2年間、試験的に営業運行を行いました。大型バスでは大きすぎて線路に乗らないためにマイクロ・バスを使っていますが、当時DMV用に改造したバスは重量オーバーでお客様は14名しか乗れないという壁にぶちあたっていました。いくらローカル線とは言え通学時間帯には20~30人の高校生が乗車されますのでこれでは使えません。そこで試験的に営業運行をしてお披露目をすることで、何か技術的ブレークスルーができないかということで定員の少ない車両であえて行いました。その結果トヨタ自動車グループのご協力をいただくことができ、それまでは市販のマイクロ・バスを改造していたのを、ボディはマイクロ・バス、足回りは日野自動車のレンジャーという、DMV向けのマイクロ・バスを製造いただき、それを購入し日本除雪機製作所で鉄車輪や油圧機器を取り付けるという形になりました。

──そうして鉄道とバスをシームレスに走行する「ダーウィン」が誕生したのですね。

 ダーウィンは、『線路だけでは生きられない、道路だけでも生きられない、変化への対応が成長、発展につながる、だからDMVが生まれた』という、ダーウィンの進化論に倣って付けられた愛称だと聞いています。平成23年4月にDMV技術評価委員会の報告書で有効有用性が認められ、現在営業運行開始の機会を待っている状況です。

ローカル線は地域だけでなく国の問題


──言葉が少ない路線の小型列車にDMVを使えば、赤字ローカル線や廃線区間への乗り入れも可能になりますね。通学の足でもある鉄道ですし、赤字だからと廃線してしまっては地元への影響が大きすぎますね。

 実際、ある地域で鉄道が廃止されてバスに代わり、1時間かけて高校に通っていたのがバスで2時間かかるようになり、始発に乗っても始業時間に間に合わなくなりました。そのご家庭は高校のある町へ引越し、お父さんだけがマイカーで仕事に通うようにしたのですが、これは人口流出です。お父さんは仕事を続けたとしても次の世代はどうでしょうか。交通の所要時間が延びることは地域の経済的損失、社会的損失となり、結果的に取り返しがつかないことになりかねません。

 北海道の人口は約540万人ですが、食料自給率は200%を超えており、多くの食料は本州の人たちのためのものなのです。農業や漁業は都市部ではなく、まさにローカル線が走っている地域で行われていて、そこに住む人が減ればいずれ食料生産も減り、北海道だけでなく日本の食糧自給率にも影響が出るでしょう。ローカル線を残したいのは、そういう地域を我々が自ら壊してはいけないということでもあるのです。

 地理的にカーブや坂が多いなど、鉄道が不利でバスのほうが便利な場所もありますが、多くは鉄道からバスに代わって所要時間が増え、生活が成り立たなくなった例も出ています。種の起源のダーウィンではありませんが、そのような地域社会は絶滅危惧種を取り巻く生態系のように、少し変化すると崩壊してしまう状況にあると言えます。結果的に日本全体に与える影響も大きいので、お客様の移動時間を長くせず、そこで生活ができるようにしていきたい、それをDMVで支援できるよう、今、国土交通省などと話を進めているところです。


──赤字ローカル線の問題は、地域再生ひいては国の再生にも通じる大きな問題ということですね。今村様ご自身は北海道のご出身でしょうか?

 出身は横浜で、北海道に来たのはJR北海道に就職してからです。今言われた地域の問題ですが、私が学生だった昭和の末期は「グローバル化」という言葉が言われ始めた時代でした。世の中がグローバルで外に向かうなら、私は中を見ようと鉄道と路線バスを使って日本全国を回りました。就職先に北海道を選んだのは、経済学部の経済地理というゼミで「鄙(ひな)の論理という本を読んだことがきっかけになりました。当時熊本県知事だった細川護煕氏と出雲市長だった岩國哲人氏が、国が代わらないのなら地方から変わろうと書いたもので、地方にこそ人間の営みや生活の型があり、ローカルなオンリーワンの存在を主張する内容でした。それを読んで私は、心豊かな生活を考えた時、地方で価値を生み出す仕事もいいのではないかと思い、九州と北海道のJRの採用試験を受けました。鉄道会社を選んだのは、日本全国を見て回る中で鉄道の駅員さんや運転手さん、車掌さんと接した時、その業務を通して「遠くからよく来てくれたね」と温かく迎えてもらった良い思い出があったからです。自分も次の世代にそうしたサービスや場所を受け渡していけるような仕事がしたいと思いました。そして鉄道の中でも特に思い出深いのはローカル線でしたから、それなら一番ローカル線が多いJR北海道へということでこちらへ参りました。

──一口に鉄道会社といっても、環境や経営課題はそれぞれ地域で異なるのですね。JR北海道以外でもDMVの活躍の場は多いのでしょうか。

 例えば同じJRと言う名前がついていても本州のJR3社は東日本、西日本、東海と大都市圏なので北海道とは全く違う課題を抱えていると思います。また九州、四国、西日本などは台風など自然災害が多く、復旧に時間がかかるという問題があります。ローカル線ということでは熊本に南阿蘇鉄道という会社があり、平成20年にはDMVの実証実験走行を行っています。昨年、その沿線一帯が水害でかなり被害が出たのですが、鉄道線路が無傷だったので鉄道が町の唯一の交通手段となりました。ですから災害時のリスク分散の観点から南阿蘇鉄道を存続しDMVを導入したいとおっしゃっています。

 これまで南阿蘇鉄道をはじめ、岐阜、徳島・高知、静岡の4箇所で実証実験走行を行っています。これらは国鉄時代に赤字で廃止になった路線で、第三セクターで鉄道を維持していますが、お客様が少なく経営に苦労されています。利用者の少ないローカル線だからこそ、道路も走れる乗り換えなしのサービスを地域の住民に提供し、また観光客の方にもサービスを提供して観光地に行けるように、というのが導入の目的です。

──私は新潟の出身ですが、故郷で暮らす両親を見ているといつまで自分で車を運転できるかわからないので、公共交通の大切さを痛感しています。鉄道とバスが一体化して乗り換えなしというのは、移動時間の与える経済効果もそうですが、お年寄りが買い物や医療機関へ通うのにも必要ですので、すぐにでも運行していただけると嬉しいですね。本日はお忙しい中、興味深いお話を誠に有難うございました。

今村 紳彌 様(いまむら しんや)様 プロフィール

北海道旅客鉄道株式会社
鉄道事業本部 DMV推進センター 所長

平成4年、北海道旅客鉄道株式会社入社。財務部、鉄道事業部などを経て平成18年より現職。

取材日:2013年7月


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