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「農業に休日を!」
IoTを活用した農業の“自動化”で農家を支援

「農業に休日を!」 IoTを活用した農業の“自動化”で農家を支援



アシストでは会長ビル・トッテンの「休日に農業を!」の掛け声のもと、社員に家庭菜園を推奨しています。経済危機などで収入が減少しても社員と家族が豊かな暮らしをおくるために何ができるかを考えることから始まった活動で、2015年には農業部検討プロジェクトが発足しました。

一方で日本の農業を活性化させるため「農業に休日を!」を提唱し、IoTを活用した取り組みを行っている企業があります。今回は、アシスト農業部検討プロジェクトの藤井宏樹が、土壌環境制御システム「ゼロアグリ」を開発された株式会社ルートレック・ネットワークスの佐々木伸一様に農業をテーマにお話を伺いました。

佐々木伸一様


  株式会社ルートレック・ネットワークス

  代表取締役社長 佐々木 伸一 様



藤井宏樹


  株式会社アシスト

  農業部検討プロジェクト 藤井 宏樹


IoTを活かす市場を模索して農業にたどり着く


藤井(以下色文字):2005年の創業当時から農業に関わっていらっしゃったのでしょうか。

佐々木様(以下略):創業当時はインターネットを介して機械と機械をつなぐ、いわゆる“M2M”(今でいうIoT)を中心に展開していました。ルーターのリモート監視を集中的に行い、ルーターから得られるデータを分析して予兆診断など様々なソリューションを提供していたのです。一方で、培ったIoT技術を応用できる市場も探し求めていて、例えば、ヘルスケア分野への進出を検討した時期もありました。健康保険組合と連携して健康診断のデータを分析して、症状があらわれていない未病状態で病気の予兆を察知して、保険契約者に早期の診断を促していくようなサービスを目指していたのです。この目論見自体、今でも間違っていなかったと思いますが、時代を先取りしすぎたんですよね。当時は安価なストレージはなく、データ解析に欠かせない人工知能も未発達で、ビジネスとして軌道に乗せることまではできませんでした。そこで、次に着目したのが農業でした。農業の取り巻く状況を調べてみると、経験と勘に頼った旧態の体質が残っていてICT化が大幅に遅れており、これまでIoT開発で培った技術をそのまま活かせると考え、本格的に農業分野に乗り出すことにしました。

どのようにして土壌環境制御システム「ゼロアグリ」を開発されたのでしょうか。

実は弊社に農業の知見は全くなかったため、川崎市工業振興課に相談して近隣の明治大学黒川農場を紹介いただき、黒川農場の方々との産学連携によるシステム開発が始まりました。しかし、最初は大変でした。黒川農場の方々は農業の専門用語を当たり前のように使いますし、私たちはICTの専門用語を自然に話してしまうので、お互いに話していることを理解するのが難しい状態で。そんな手探り状態で始まった開発でしたが、結局はコミュニケーションが重要であることに気づかされたこと、また農業に対する思いが同じだったので少しずつ歩み寄ることができ、なんとか2013年8月にゼロアグリの出荷にこぎつけました。

ゼロアグリを導入した農場


ゼロアグリを導入した農場

ゼロアグリを導入することで、経験と勘に頼った農業からの脱却が期待できる。


このゼロアグリは、農場に設置した土壌センサー、日射センサーで得た栽培環境の情報をもとに、農作物に与える水や肥料の量を制御できるようになっています。

土壌環境制御システム「ゼロアグリ」


土壌環境制御システム「ゼロアグリ」

農場に設置した土壌センサー、日射センサーで栽培環境のデータを採集し、そのデータに基づいて自動で潅水、施肥が行えるようになっている。


実は、農業へのICTの利活用は他社でも取り組まれていますが、農場の土壌全体の栽培環境のデータを得るにはコストの増大という課題があり、うまくいっているという事例は多くありません。自動制御には農場の土壌の状態を的確に把握することが必要ですが、規模の拡大や管理精度を高めようとすると、センサーなどの設備コストが上がってしまうため採算が取れなくなってしまうのです。

一方、ゼロアグリでは、人工知能を取り入れることで、限られたセンサーによるデータで農場の栽培環境を的確に把握し、潅水(水やり)や施肥を自動制御できるため、設備投資の負荷をかなり抑えられています。

常に農場を気に掛ける農家の精神的な負担も軽減


栽培環境のデータに応じて、潅水、施肥を自動制御できるようになると、農家にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。

これまでの農業では経験と勘が頼りで、新規就農者がベテラン農家の下で研修を受けても、「見て覚えろ」という古い体質でした。農作物や土の状態を見ながら行う水やり一つとっても、一人前になるまでに10年はかかると言われています。この記事のテーマである「道を究めた」人しかできないことではあるのですが、これでは新規就農者が増えません。しかし、センサーで栽培環境を把握して、データに基づいた農作物生産が可能になると、新規就農者でも初年度からある程度の収量を望めるという大きなメリットがあります。

それにセンサー類が測定したデータに応じて自動で潅水、施肥がなされるため、大幅な省力化にもなります。一日に数時間もかけて行っていた作業を自動化できるので、空いた時間を従業員の研修や、新しい栽培技術の勉強に充てることもできます。

また、農場にいれば農作物や土の状態をチェックできますが、時には外出しなければならないこともありますよね。ゼロアグリの場合はその日の天候に応じてスマホなどで潅水や施肥の加減を遠隔操作できるので、労力だけでなく、外出時の精神的な負担が大きく軽減されたとお客様から大きな評価をいただきました。そのお話を聞いて決めたゼロアグリのキャッチコピーが「農業に休日を!」です。農場が気になるから、レジャーには出かけられないという農家のお子さんは可哀そうですよ。ゼロアグリを導入したことで、家族でお出かけできるようになっていただけたなら、こんな嬉しいことはないですね。

ゼロアグリの普及で持続可能な社会を実現する


ゼロアグリに関し、今後はどのような展開を考えていらっしゃいますか。

近年、行政による新規就農の支援策が充実していて、農地の斡旋だけでなく、ビニールハウスなどを建てるのに必要な資金をほぼ無利子で融資してくれる公的金融機関もありますが、やる気と栽培技術のある人材が不足していることが課題です。そこでゼロアグリを基盤に、データに基づいた農業生産のノウハウを栽培技術としてパッケージ化し提供すれば、新規就農者を増やす大きな後押しになるはずです。

また、日本の質の高い農産物を海外へ輸出していこうという動きも活発になっているようですが、農産物そのものの輸出でなく、日本の栽培技術を海外に輸出することも可能になります。もちろんゼロアグリの輸出も検討中です。乾燥地で農業を営むには潅漑が不可欠ですが、一度に多くの水を撒くと、地下深くまで水が浸透して土壌中の塩分を溶かし出して表層に浮き上がらせてしまいます。表土に塩分が溜まって農業ができなくなる「塩類集積」が大きな問題になっており、乾燥地での潅漑は慎重に行わなければなりません。その点、ゼロアグリは電磁弁の調節次第で植物の栽培に必要な水を複数回に分けて少量ずつ潅水できるので、塩類集積を起こしにくくなります。施肥についても同様です。これまでは一度に大量の肥料を撒いていたため、多くが農地から流れ出して、周辺の河川の富栄養化を引き起こしていました。肥料も少しずつ投入できますから、肥料の流出による周辺環境への負荷も大幅に抑えられます。

農業のことを調べてみると、いかに環境に負荷を与えながら農産物を生産していたかがよく分かります。ゼロアグリによる潅水や堆肥の制御が、糖度の高いトマトのようなブランド品の生産や作物の品質向上だけでなく、減農薬による食の安心・安全にもつながると考えています。近年では国連が「持続可能な開発目標(SDGs)」として17の目標を掲げています。これらの目標に照らして従来の農業には改善すべきことがいくつもあるのですが、その多くをゼロアグリの導入で解決できます。ゼロアグリの普及で持続可能な社会の構築に貢献したいですね。

事業を行う上で大事なこととは


今回、「道を究める」というテーマでのご登場ですが、佐々木様ご自身が事業を行う上で常に意識されていることは何でしょうか。

それは年齢とともに変わってきましたね。若い頃は経済も右肩上がりでしたので、何に着目するかその目利きが大事だと思っていましたが、2011年の東日本大震災が一つのきっかけとなり、自然への回帰や社会への貢献が重要だと考えるようになりました。事業を始めるにはまず社会貢献できる方向でかつ永続的に使える自社のコア技術が何かを選択することが重要だと思います。しかし、社会情勢や技術は変化していくので、実際にやってみないとわからない部分が多くありますよね。そのため、コア技術がどの分野に適用できるかをスモールスタートでどんどん試していくことで、競争力や差別化につなげていけるのではないかと考えています。

「休日に農業を!」のアシストへのアドバイス


先ほどお話のあった「農業に休日を!」は就農人口が減っている農家の現状にまさに救世主のようなキャッチフレーズですね。実は弊社では会長のビル・トッテンの旗振りで「休日に農業を!」を謳って、社員が週末に家庭菜園に取り組んでいます。経済危機などで収入が減少しても社員と家族、少なく見積もって3,000人以上が豊かな暮らしをおくるためには、衣食住は自分で用意できるようにならないといけないということから始まった活動で、菜園の賃借料や農機具、苗などの購入費を助成しています。

経営者の方が社員と家族をまもるために農業をというお考えは素晴らしいですね。その週末農業は事業として取り組んでいらっしゃるのですか。

将来的には事業化も見据えていますが、まずは社員と会社にとって有意義な活動として広がるようにしたいと考えています。農業に興味がある社員には必要な助成などのサポートを継続しますし、より興味を持ってもらうために、収穫体験イベントや、味噌作りをする食育イベントなどの農業体験会を開催して啓蒙活動を行っています。

アシストの農業部検討プロジェクト

アシストの農業部検討プロジェクト


少しずつ農業に興味のある人は増えてきましたが、現時点で取り組んでいるのは40人程度とまだまだ少ない状況です。もっと農業に興味を持つ社員が増えれば嬉しいのですが……。

そこまでやっていらっしゃるのなら、今一度、事業化を検討してはいかがですか。といっても、社内に農業部門を新設するのではなく、御社の場合は、コンピュータ用のソフトウェアを販売し、コンサルティングも取り組んでいらっしゃるのですから、農業生産のノウハウを蓄積し、それをパッケージ化してサービスとして提供することは決して難しいことではないと思います。もし弊社とコラボレーションができるのなら、ゼロアグリを基盤にデータに基づく農業技術のパッケージ化もできますね(笑)。新規就農者や既存の農家の方々の成功事例が出てくれば、今は農業に対する関心の乏しい社員の方の中から、「自分にもできるかもしれない」と考える人があらわれるかもしれませんし、先ほどの話のように栽培技術を海外へ輸出するという話も新たなビジネスにつながるのではないでしょうか。

確かに興味のある・なしで考えるのではなく、成功事例の共有などコミュニケーションを活性化させて浸透を図るというのは大切ですね。プロジェクトの中でもいろいろと検討してみたいと思います。本日はありがとうございました。


インタビューを終えて

アシストでもお客様企業におけるデータ活用をご支援する製品・ソリューションを提供していますが、データに基づく農産物の生産を可能にするゼロアグリは、日本の中小、特に小規模の農家の課題解決に役立つすごいソリューションだと思います。また、ゼロアグリの普及で社会に貢献していこうという佐々木様の姿勢には本当に感銘を受けました。


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