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学生を主役に 地域社会と共創 地域社会をキャンパスに見立て、人間力を育てる

対談×トップ・インタビュー:金沢工業大学 大澤 敏 様


金沢工業大学は、建学綱領である「高邁な人間形成」「深遠な技術革新」「雄大な産学協同」を経営の柱に、「教育付加価値日本一」という目標を掲げて、社会に貢献する大学運営を実践されています。理工系総合大学として4学部12学科で6,000名を超える学生が学び、その7割以上を石川県外出身者が占める全国区の大学です。東京の虎ノ門には経営学修士(MBA)の取得を目指す社会人向けの大学院を運営しています。


大澤 敏 様 プロフィール

金沢工業大学 学長

東京理科大学の理学研究科博士課程を修了後、マサチューセッツ大学博士研究員を経て1996年に縁あって金沢工業大学の講師となる。2015年に副学長、2016年に第6代学長に就任。生分解性プラスチックなどの高分子化学が専門分野。


失敗することで学び人間力を身につける


大塚(以下色文字):金沢工業大学といえば人力飛行機、ソーラーカーなどの大会に出場し、高い実績を上げられているという印象があります。こうした取り組みは大学としてどのような狙いがあったのでしょうか?

大澤様(以下略):確かに本学は、様々な大会での実績が知られているようですが、決して大学が率先して学生に参加を促しているわけではありません。これらの活動は「夢考房」 ※1 という場で取り組まれています。自ら考えて行動できる技術者に成長するには、学生自身が自発的に行動することが必要です。そこで実験設備や工作機器を揃えた夢考房を整備して、前述の大会参加をはじめ、様々な活動に自発的に取り組めるようにしています。ただし、本学の主役は学生ですから、教員が口を出すことはありません。教員は学生の意欲を引き出すだけです。

── 学生の主体性に任せた活動でも、優れた成績を残されていますね。

ありがとうございます。ただ、好成績を残した時に学生が成長しているのかというと、決してそういうわけではないようです。多くの活動は先輩から技術を受け継ぎます。ある時に優勝できたとしても、それは先輩の努力の結果かもしれません。それを忘れて優勝できたと喜んでいるだけでは人間力の成長はないでしょう。逆に成績が振るわなかったときは、誰しも挽回しようと試行錯誤しますから、その過程で得られるものは大きいです。


※1 夢考房
学生が自主的に活動できるよう、実験設備、工作機器、部品を販売するパーツショップなどの機能を備えている。各分野の専門技師が常駐しており、モノづくりに関するアドバイスを受けることもできるようになっている。


社会との関わりで学生の意欲が高められる


── 教員は必要以上に口を出さないという指導方針の下、教員の皆さんは学生の意欲をどのように引き出しているのでしょうか。

今の学生は何でも手に入るのが当たり前の時代に生きていますから、高級車に乗りたい、豪邸に住みたい……といった物欲を満たすことには執着していないように感じられます。そういう学生を相手に意欲を引き出すのは難しいように思われるかもしれませんが、自分が社会の役に立てるのだと感じると、それが自己肯定感につながり、思いの外、意欲を示してくれます。

近年、SDGs ※2 の達成が求められるようになってきていますが、その1番目は「貧困をなくそう」です。このことを電気系の学生に紹介すると、太陽光発電を用いてアフリカの無電化地域に電力を供給したいという話になります。電力の安定供給には、蓄電池などの周辺技術の組み合わせも必要だ、それを輸出する新事業を興そうとなります。こうして学生が目標を見いだしたら、全教職員が全力でサポートするという文化があり、それが本学の魅力の一つになっています。また、事業化は通常、卒業してからという話になりますが、本学では大学にいながら社会実装を進めることだって可能なのです。そのためにイノベーションを創出する場として「Challenge Lab」 ※3 を開設しました。全国から学生が集まってきているのは、こうした指導体制が注目され、自分たちにもできるのではないかと感じてもらっているからだと思います。

※2 SDGs
持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)の略称で、2015年の国連サミットで採択された。「貧困をなくそう」、「飢餓をゼロに」、「すべての人に健康と福祉を」などの17の目標が掲げられている。



※3 Challenge Lab
分野の垣根を越えて人と知識がつながり、未来の社会に必要とされる新しい技術や価値を創出する拠点として、2017年7月に扇が丘キャンパスに開設された。最新のカッティングマシンや3Dプリンタが導入されており、学生自身が設計してモノづくりに取り組むことができる。


あらゆる垣根を取り除いて地域社会の課題解決を目指す


── 地域社会との共創を掲げ、様々な取り組みを進めていらっしゃいます。具体的にご紹介ください。

野々市市内の扇が丘キャンパスから30㎞ほど離れたところにある白山麓キャンパスに「地方創生研究所」を開設しました。この施設の特徴は大きく分けて二つあります。一つはあえて何もないところから社会実装を目指す環境を整えたということです。実は周囲にサルやイノシシがたくさんいるような環境でして、ここで新たな産業を興すことができれば、他の地方に行ってもできるはずです。二つ目は垣根を越えた協働です。例えば、スマート農業 ※4 ではバイオはもちろんのこと、気温、湿度などの栽培環境をセンシングするIoT、さらに、得られたデータを解析するAI が求められます。園芸施設の環境を効率よく制御するため建築や土木の知識も欠かせません。新産業を興すには複数以上の分野の知識を駆使しますので、その過程を学生に体験してほしくて社会実装キャンパスを作りました。


※4 スマート農業
情報通信技術( ICT )やロボット技術を取り入れて、省力化、精密化、農作物の品質の向上を実現する新しい農業生産手法を指す。金沢工業大学ではイチゴ生産の実証試験が行われている。


データサイエンスの重要性


── 異分野の連携が求められますが、特にデータサイエンスの必要性は高そうですね。

本学でもカリキュラムの改革を進める中でAI、ICT の科目を新設し、2020 年度から全学科で必修にしますが、あらゆる分野でデータサイエンスは重要になっていくでしょう。大学の教育活動にも生かすことはでき、一例を紹介させていただきますと、学生が抱える問題を把握するために、各教員が学生に対して説明に用いる学習支援計画書(シラバス)を解析したことがあるんです。機械工学関連の授業なら、モノづくりに関連したワードが出てくるものと考えていたら、予想外のキーワードが出てきて、一部の教員が大量の宿題を学生に課していることが明らかになりました。時には宿題を課すことも必要ですが、あまりに多すぎるのは問題です。データの分析により、授業の改善を促せるようになりました。アシストのようにデータ活用を支援する企業ならご存知と思いますが、現場にはちょっとしたデータの活用で解決できる課題がたくさん転がっているのですね。

── データを活用する上で、分析に使うデータの事前準備に時間がかかりすぎるという問題があります。分析以前の、データのクリーニングや整形に全体の8 割の時間を要しているという調査結果もあるほどです。弊社ではこの課題を解決するために、数年前に「データプレパレーション」と呼ばれるデータ分析の前準備に特化したソフトウェアの取り扱いを始めましたが、非常に多くの企業から引き合いをいただいております。

データサイエンティストが不足する中で、データ分析があらゆるシーンで求められていますので、作業の効率化を求める企業のニーズはよく分かります。それは本学でも同じです。


地域社会や企業に期待すること


── 大学として地域社会や、そこでビジネスを営む企業に対して期待することはありますか?

地域全体をキャンパスにすべきという考えにも通じることなのですが、地域や企業の方々にはどんどん大学に関わっていただきたいと考えています。研究テーマの決定は学生の主体性に任せていますが、社会課題に即したものにするため、自治体や地域住民に話を聞きに行くことがあり、是非ともご協力いただきたいのです。

また、企業の方々には実務家教員になっていただき、その企業に学生が学びに行けるようにしています。このように説明すると、インターン制度と勘違いされるかもしれませんが、人手不足の時代にあっては、近々入社してもらえるかもしれないと考え、インターン学生をお客様扱いして、しっかり指導してもらうことが難しくなるため、実務家教員という立場にこだわっています。その一方で企業の方々には大学に戻って学んでいただきたいと思います。忘れたことを学び直すのではなく、日進月歩で進歩し続ける技術を学び足すという感じで大学に戻ってきてもらいたいと思います。こうした社会人共学者の存在は、現役学生にも刺激をもたらし、いろんな人と関わることで、人間力が培われ、磨かれていきます。研究成果を社会実装する産学連携のためにも、多くの方が大学に感じているハードルの高さをとことん下げていくつもりです。

── 社会と大学が一体化することの大切さがよく分かりました。アシストもデータ活用のプロとして、これからも積極的に関わらせていただきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。


※注釈の参考文献※
http://www.kanazawa-it.ac.jp/yumekobo/
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html
https://www.kanazawa-it.ac.jp/kitnews/2018/0314_Challenge_Lab.html
https://www.kanazawa-it.ac.jp/kitnews/2018/1105_torigoe.html
http://www.maff.go.jp/j/heya/sodan/17009/02.html


(対談日:2019年11月)

  • 掲載内容は取材当時のものです。

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