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「PGDay UK 2015」参加レポート

PGDay UK 2015参加レポート


昨年に続き、海外のデータベース事情として2015年7月7日に開催された「PGDay UK 2015 」の様子をレポートします。

「PGDay UK」はPostgreSQL Users Groups UK主催の年1回の主要なイベントで、日本で開催されるJapan PostgreSQL Users Group(JPUG)主催のPostgreSQLカンファレンスとよく似ており、開発者による新機能の紹介やユーザ導入事例など最新情報を得る絶好の機会と言えます。PostgreSQLカンファレンスと比べるとビジネススーツを来た人は少なく、オープンソース系イベントらしく、カジュアルな雰囲気があります。

会場となったのはLondonの中心地にある「30 Euston Square」と呼ばれるカンファレンスホールで、今回は100名近い参加がありました。昨年が60名ほどの参加だったことを考えるとじわじわとPostgreSQLへの関心度の広がりが伺えます。また、一般的にデータベース系のイベントは女性の参加率が少ないものですが、今回女性の参加者が10名ほどあり、それもまた筆者にとっては喜ばしい状況でした。

英国政府のCTOが登壇!


最初の登壇は、英国政府のCTOを務めるLiam Maxwell氏です。英国政府にはGovernment Digital Service(以下、GDS)と呼ばれる組織があり、公共サービスをよりシンプルかつ分かりやすく、迅速に提供できることを目指した活動が行われています。GDSは利用者側のニーズの変化にコストを抑えながら素早く対応するためにオープンソースソフトウェア(以下、OSS)を積極的に利用しており、さらに自分たちが開発したプログラムコードも可能な限りオープンソースとして公開しています。「Make things open: it makes things better.」を原則の1つに掲げており、プログラムコードだけでなく、デザインやアイデア、狙いや失敗まで自分たちが行っているすべてのことを「オープン」にすることが、ミスを減らし、より適した方法を見つけることにつながり、結果として全体のレベルを向上させるという考えです。あらゆるユーザ層に対してサービスを提供するという政府ならではの考え方とも言えますが、政府が明確な方針を示してOSSを積極的に利用するという環境が民間企業のOSS利用の強力な後押しになると感じました。

新バージョンPostgreSQL 9.5の新機能がお披露目


今回はPostgreSQLの運用管理において押さえておくべき項目(行数の見積方法やインデックス削除方法など)やバックアップ・リカバリに便利なツールの紹介がありました。本イベントのスポンサー企業であるEnterpriseDB社は、複数サーバのデータベースのバックアップを取得し、一括管理できる「Backup and Recovery Tools」を、また2ndQuadrant社は商用RDBMSのバックアップツールのようにバックアップカタログによって増分バックアップや世代管理が可能な「Barman」をそれぞれ開発、提供しています。また、近年、規模の大きいシステムでのPostgreSQLの採用が増加している背景を受け、マルチスレッド形式で高速なバックアップが可能な「pgBackRest」の開発も進んでいます。

参加者の期待が大きかったセッションの1つは、やはり次期バージョンPostgreSQL 9.5の話でしょう。9.5はAlpha1が7月2日にリリースされたばかりで、正式版のリリースは2015年11月頃に予定されています。最新バージョンの内容が聞けるとあって、話が進むにつれて会場の温度も少しずつ上がっていくように感じました。セッションでは、PostgreSQL開発コミュニティのコアメンバー Magnus Hagander氏から「性能」「DBAと管理」「開発とSQL」の3つの観点で新機能が紹介されました。

Magnus Hagander氏

Magnus Hagander氏

性能向上のための新機能の1つに「BRINインデックス」があります。「BRIN」とはBlock-Range Indexの略称で、インデックスを構成するページ群をいくつかのグループに自動的に分割し、インデックスにはグループに含まれる対象列データの最小値と最大値の情報が格納されます。昨年のPGDay UK 2014ではMinMaxインデックスとして紹介されていた機能が名称変更されて9.5へ組み込まれた形です。大規模テーブルから特定範囲のデータを使った分析や集計などのBI系処理でBRINインデックスを利用すると、対象データを含まないページグループを読み飛ばすことができるため、ディスクI/Oを抑え処理の高速化を実現します。

管理面の仕様変更の1つに「checkpoint_segmentsパラメータの廃止」があります。checkpoint_segmentsはWALを構成する1ファイルあたり16メガバイト(MB)のWALセグメントファイルの個数を指定することでWAL全体のサイズとチェックポイントのタイミングを制御することができ、PostgreSQLでは性能チューニングの対象となるパラメータです。大きい値を設定するとWALサイズが大きくなり、負荷の高いチェックポイントが実施される間隔も長くなるため、性能への影響を抑えることができます。checkpoint_segmentsパラメータには「3」がデフォルト値として設定されており、実システムでは処理用途に応じて値を大きく設定し直す必要がありました。9.5ではmin_wal_sizeとmax_wal_sizeパラメータが新たに追加される予定で、特にmax_wal_sizeパラメータのデフォルト値は1ギガバイト(GB)となっており、規模の大きいシステムでのPostgreSQLの利用をあらかじめ想定した変更と言えます。また、WALサイズをバイト単位で直接指定することができるようになったことも管理の容易性につながります。

開発面で期待の大きい機能の1つに「行レベルセキュリティ」があります。テーブルにポリシーを設定することで、テーブルに対して問い合わせが行われた際に、同一のSQLであっても処理を実行したユーザに応じて表示する行データを制御する機能です。PostgreSQLはセキュリティ要件の高いシステムへの採用が厳しいケースがありますが、行単位でのアクセス制御機能が標準で組み込まれることは新たな一歩と言えます。

また、PostgreSQL 9.2で組み込まれた外部データラッパ(以下、FDW)が拡張され、リモートサーバのテーブルをパーティションとして利用できるようになります。FDWは商用RDBMSのデータベースリンクと同じくデータベース間でデータを連携する機能で、FDWを介すことでリモートテーブルに対してローカルテーブルと同じようにアクセスすることができます。今回、FDWの他にもテーブル単位で複数サーバにデータを水平分散する機能として「pg_shard」が紹介されました。同一サーバ上でデータを分割し格納するパーティションは、大規模データに効率よくアクセスするための手法としてPostgreSQLでも一般的に利用されています。それを応用する形で、FDWを介して複数サーバへデータを分散配置するシャーディング手法の選択肢が増えることで、大規模システムでの採用の広がりが期待できます。

PostgreSQL 9.5やその先の9.6の開発ではBIやDWH機能の強化が優先的に進められています。9.5の新機能として最も期待していたパラレルクエリは9.6へと先送りとなりましたが、9.5では「Tablesample」と呼ばれる関数によって、テーブルデータの割合や行数、所要時間を元に大規模テーブルから平均値など分析処理で必要となる値を素早く取り出すことができるようになります。テーブルの全データから長時間かけて取得した分析結果よりも、ある程度データを絞り10分で分析結果を取得できるのであれば、そのほうがデータの鮮度を活かした分析と言えるというのがこの関数を組み込んだ背景です。パラレルクエリの実装が先送りとなったための措置のようにも思えますが、少しでも早い段階でPostgreSQLがBIやDWH用途に対応できるようにとの開発者の意気込みを感じました。

9.6ではPostgreSQLカーネルの機能拡張に加えて、「双方向レプリケーション」や「ロジカルレプリケーション」などレプリケーション機能が強化される予定です。いずれのレプリケーションにもPostgreSQL 9.4に組み込まれたロジカルデコーディングと呼ばれるWALファイルからDML(INSERTやDELETE、UPDATE)による変更履歴を抽出できる機能が効力を発揮します。近い将来には、ロジカルデコーディングを使ってPostgreSQLと他RDBMSとのレプリケーションも計画されており、PostgreSQL標準機能で実現できることが格段に広がります。

会場の様子

会場の様子

大手企業でもPostgreSQLの利用が標準に


今回は、世界的な投資銀行であるゴールドマン・サックスでのPostgreSQL利用事例が紹介されました。ゴールドマン・サックスでは、全体でデータベース数は77,000、28ペタバイト(PB)にのぼる大規模データを管理しており、RDBMS、NoSQLあわせて10種類以上ものデータベースが導入されています。PostgreSQLは5年の利用実績があり、パッケージソフトウェアのリポジトリやクリティカル度合いの高くないシステムでの利用に限定する形で適用範囲の棲み分けが定義されています。

また、サポートは社内で完結できる体制が整えられています。今回は、残念ながらシステムに特化した話は聞けませんでしたが、PostgreSQLに対して今後期待する点として挙げていた「監査機能の強化」「圧縮機能の実装」「明示的な領域の割り当て」は多くのユーザが欲しいと考える機能と言え、PostgreSQLを採用する企業がイベントを通じて直接要望を伝えることが新たな機能実装につながっていくと感じました。

終わりに


PostgreSQL 9.5のBeta版が8月にリリースされる予定となっており、オープンソース系イベントらしく、イベント中に主催者側から「ユーザテストと結果のフィードバックをしてほしい」と何度も投げかけがありました。弊社でも本記事でご紹介した主要機能を含め、弊社視点での検証を実施予定です。結果はまた次の機会にご紹介したいと思いますので、ぜひお楽しみに。

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ぜひ皆様のご参加をお待ちしています!

  • Postgres Plus は、EDB Postgres の旧製品名です。

執筆者紹介

高瀬 洋子(Youko Takase)

株式会社アシスト データベース技術本部

アシスト入社後、Oracle Databaseのサポート業務を経て、2009年よりPostgreSQL、EDB Postgresのサービス立ち上げに参画。「PostgreSQLなら高瀬に聞こう」と社内外から言ってもらえる存在となることを目標に日々活動。2014年4月よりイギリスに拠点を移し、PostgreSQL、EDB Postgresの啓蒙活動と顧客対応の後方支援を担当。

高瀬の紹介記事はこちら

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