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ソリューション研究会

明るく元気なIT組織を創るために

プロマネ、ITアーキテクトのプロフェッショナルとしての資質、能力、スキルをいかにして育てるか

アシストのユーザ会 ソリューション研究会主催の講演会において、株式会社アイ・ティ・イノベーション 林衛様より、人材育成の重要なポイントについて、ご講演を賜りました。本稿は当日のご講演内容の抄録です。

講師:株式会社アイ・ティ・イノベーション 代表取締役社長 林 衛 様



1998年に当社が事業を開始した頃から、頻繁にITプロジェクトに関する様々なご相談を受けてきたが、「人財育成」についての関心が高まったのはこの2~3年である。IT組織にとって人財育成は極めて重要であり、人財育成に成功した企業は必ず企業力革新が実現できる。私は、30年近いIT業界での経験を生かし、良い「人財育成」のメカニズムを作ることで、明るく元気で活性化した組織ができると確信している。能力のある人がどんどん成長し、良い仕事ができる世界を作る必要がある。最終的には、誇りを持って自分の子供をこの仕事に就かせたいと思えるIT業界になった時に、人財育成のメカニズムが成熟すると考えている。

ITの動向と現実に起こっている問題


情報通信技術が進化し、システムの多様化、複雑化が進んでいる。要員不足のために処理すべき仕事が山積し、品質も保てないという状況も少なくない。さらにプロジェクトの計画時に致命的な誤りがあったり、システム設計力が落ちていることがトラブルの原因の7割程にもなっている。これは本質の理解不足、基礎力の不足といった基本的な土台の部分が欠けているためであり、今の延長線上では、もはやたちゆかない状況にある。

ITの人財に関わる課題


皆さんはご自分のIT組織の現状を把握されているだろうか。残念ながら、IT業界で働く7割くらいの人は、自力で仕事ができない、ベテランの指導が必要な状況にある。当社では、自らプロジェクト・マネージャ(以下、PM)と称する数百名の人たちの能力構造を示す詳細な診断データのベンチマークを保有している。IT全般の「ITスキル」(分析、プロジェクト評価、進捗コントロール、戦略策定等)と高業績者の行動特性である「コンピテンシー」について調査し、突出した成果を出しているトップのPMと一般的なPMを比較したところ、非常に興味深い結果が出た。それは両者とも、ITのスキルや、真面目さを表す時間管理、協調行動、責任、約束に対する姿勢はさほど変わらないが、トップのPMは上流のマネジメント・スキルともいうべき、情報戦略、ビジネス・モデル定義、計画策定、ITプロセス管理といった、戦略/計画マネジメント力が強かった。そしてそれが大きな差をもたらす。また、スキルの高いPMでは、向上心、改革改善行動、コミュニケーション能力、企画力などが強いことがわかった。これは、一般のPMと呼ばれている人でも、一度覚えたことは変えたくないという傾向があるからである。その中でも本当に高い成果を出しているPMは全般的にコンピテンシーが非常に高かった。リーダーシップやプレゼンテーションという外向きの力だけでなく、特に、問題解決、改革改善行動、といった能力の点でも大きな差がある。

人財育成のポイント


人事管理については私も過去に様々な試行錯誤をし、失敗も経験してきたが、最終的に実感していることは、「色々な個性があっても良いが、ビジョンがあり役割/ミッションがしっかりしており、方向性やベクトルが揃っている組織が強い」ということである。以下は、IT教育をする以前に、重視したい点である。

「会社組織とIT組織のミッションを明確にし、徹底すること」。組織の存在意義を共有できていないと力が湧かない。このためIT組織のミッションを明らかにする必要がある。技術力があるのに、うまくいかないプロジェクトのリーダーを見ると、会社自体のことに関心が薄い。ミッションが明確になれば、リーダーの意識、目的指向がはっきりし、IT組織に対して、誇りを持って貢献するといった崇高なものを目指せる。

「現状の組織と個人の能力を測定し、強み/弱みを明確にすること⇒動機付けが大切」。戦力を知らずして、改革は行えない。まずは自社の戦力を知ることから始めることが肝要である。

「組織とは何か、プロジェクトとは何かを明示し、基礎教育を行う」。うまくいっていないプロジェクトではメンバーが「やらされている」感覚を持っており、プロジェクト活動がいかに創造的で価値が高く、誇り高い仕事かということを理解していない。マネージャに選出され、いやいや取り組むのではなく、「チャンスだ!」と捉らえ、この仕事がどんなプラスの影響があるのか、ということを知る必要がある。

「現場の実務力を向上させるケース・スタディ教育を徹底的に実施すること」。最初からうまくいくためのマネジメントなどない。手法をいくら学んでも、知識が身につくだけで答えは見つからない。ITの世界では理論ではなく実務を通して、能力が向上する。「プロジェクトへの参画を機会と捉らえて、自らの問題を解消していく」という考え方である。

これからの人財像(例)


  ・優れた人格、明るく、温かいものを持っている人。
  ・社内外の会社組織を横断的に理解し、会社に関心があり会社のことをよく知っている人。
  ・体系的な方法論が重要なため、基礎的なことを理解していないといけない。再現性のあるやり方が
   できる人。
  ・想像力・企画力があり、抽象的、具象的な要素を組み合わせ、新たな価値を創造でき、かつ多様な
   価値観がわかる人。
  ・強靭性があり、諦めずに目標を実現できる知的体力のある人。

人財モデル構築のプロセスで大切なことは、まず組織のミッションを徹底することと、職務の定義を明確に行うことである。これを職務の能力定義で行うと、失敗するケースが多い。なぜならばひとつの職務に数多くの能力を定義しなければならないからだ。必要な能力やスキルを評価すること自体は間違いではないが、給与や制度などと結びつける際には注意が必要だ。またコンピテンシーはITスキルよりもその人物の行動の傾向を示すため変えにくいが、プレゼンテーションやリーダーシップなど、場数を踏むことで能力向上を実現することができる。実際に本気で育成するということを考える時に、組織や役割、ミッションといった土台があると、そこだけで半分くらい育成の動機付けが終わっている。

PMとITアーキテクトに必要な資質


“PM”は、“プロジェクトの計画を立案し、資源を調達し、そのプロジェクトを円滑に推進し、プロジェクトのビジョンを実現する総責任者”である。IT業界の一番の問題は、プロジェクト遂行の責任者がITアーキテクトの役割を兼任しているということである。今後、役割の分割が必要になるだろう。兼任してできるプロジェクトの範囲は、金額にして1億5千万円であろう。PMの能力の中でキーとなるのは、観察力、洞察力である。そして、明るく力強い、ムード・メーカー的な存在であること、さらにはコミュニケーション能力が特に必要とされ、調整力と責任感、また困難な状況をも楽しいと思い、逃げない姿勢が必要だ。“ITアーキテクト”とは、“複雑で品質が高く、美しい情報システムを構築するためのITアーキテクチャ(システム設計)とそれを実現する工法(システム化方法論)を設計する総責任者”である。ITアーキテクトの能力としては、決断力と視野の広さ、そして多様な価値観を持っていることが求められる。さらにITアーキテクトには、瞬発力よりも、むしろ、知的体力、粘り強さが必要である。

最後に


人財育成を確立させることで、(1)IT組織で持つべきアナリスト、PM、ITアーキテクトの担う機能のバランスが整い、(2)開発方法論(ソフトウェア・エンジニアリング)が業界に普及し、ITサービス品質が向上し、(3)ITに関わる目指すべき職業観が確立され、企業間の専門分野での役割分担が円滑化し、(4)IT業界の評判が向上し、若者が夢を持ってITビジネスに取り組むような世界を目指せるようになる。こうした世界が実現すれば、ますます人財の確立ができるようになるだろう。IT組織を継続的に成功させるために、今後の将来に向けた課題としては、短期的にはITアーキテクトのためのメソドロジーへの取り組み、そして長期的には、日本だけでなくグローバルに機能するようなITアーキテクトの育成も必要であろう。

林 衛 様 プロフィール

株式会社アイ・ティ・イノベーション
代表取締役社長 林 衛 様

1955年生まれ、名古屋大学工学部応用物理学科卒業。
ITSS協会理事、PMI会員、UMTP主査、Microsoft MVP。トッパン・ムーア・システムズ株式会社において、ソフトウェア開発、方法論とCASEの開発適用に従事し、モデルベース開発方法論(DOA,OO手法)を多くの企業に導入する。その後、ジェームスマーチン・アンド・カンパニー・ジャパン株式会社においてユーザ系企業、SI企業へのIT戦略コンサルティング、革新的なIT方法論の普及、適用を行った。1998年7月、日本においてIT革新を専門に行うコンサルティング会社の必要性を強く感じ、株式会社アイ・ティ・イノベーションを設立する。2005年からインド政府機関のIT教育プログラム(CDAC/ACTS)を活用した日本のIT技術者向けのソフトウェア・エンジニアリング教育に取り組んでいる。ITに関する著書多数。

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