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ソリューション研究会

効率よりも創造性重視の「知的仕事術」

アシスト・ユーザ会、「ソリューション研究会」の2008年度定例会(東京、名古屋)では、松竹株式会社の小山龍介氏を講師にお招きし、効率よりも創造性を重視する「知的仕事術」についてご講演いただきました。以下は、講演内容の抄録です。

講師:松竹株式会社 経営情報企画部 新規事業担当プロデューサー 小山 龍介 様


私はもともとアートの世界の住人だった。大学では美学美術史を専攻し、卒業後も広告代理店で、クリエイティブの世界に身を置いた。その後、米国のビジネス・スクールに入学し、アートとは対極にあるサイエンスを学んだ。その結果、今のビジネスにはアートとサイエンスの両方が必要だと痛感することになった。「B(ビジネス)スクールはもう役に立たない。これからは、D(デザイン)スクールの時代だ」という記事をアメリカのビジネス誌で目にし、その思いをさらに強くした。
本日は、ビジネス・スクールと対比して、このデザイン・スクールが、発想の転換をもたらし、創造性を養うためにどのような思考スタイルを重視しているかを、私の経験を踏まえてお話ししたい。

ビジネス・スクールは通用しない


ビジネス・スクールは、過去の莫大なデータを分析して、1つの正解を求める「分析的パラダイム」を基本とする。それに対してデザイン・スクールでは、答えは1つではない。様々なシナリオや可能性を探り、複数の仮説を立てる「創造的パラダイム」から出発するのだ。ビジネス・スクール対デザイン・スクールは、「科学」対「芸術」であり、「分析」対「創造」というパラダイムの違い、また「左脳」対「右脳」という使用する脳の部位の違いでもあり、さらには「収束思考」対「拡散思考」といった思考方法の違いなのである。

では、なぜ今、分析よりも創造、左脳よりも右脳的考えが求められるのだろうか。それは、市場や仕事の内容が複雑化し、先が読めない時代だからである。例えば、高度経済成長の時代であれば、ある程度、「分析的パラダイム」が成り立ち、予測が立った。しかし、現代のように複雑化した時代では、先を読むことができない。サブプライム問題もそうだったし、大企業の突然の倒産もそうである。こんな時代に1つの解を求めて新商品やサービスを開発すれば、大失敗する可能性が高いため、色々なシナリオを想定する創造的パラダイムが重要になる。

創造的な発想力を養うには


デザイン・スクールで創造的な発想力を養うために行われることは、「インプット→アウトプット→フィードバック」という教育方法である。膨大な量の作品をアウトプットし、他人からのフィードバックによって、スキルを身につけていく(一方、ビジネス・スクールで教える理論は、原則的に、一度覚えてしまえば誰もがすぐに使える知識として扱われる)。

この時、脳の中で起こっているのは、スキーマ(認知心理学で言うところの思考の枠組み)の増加である。現実を認識する時に、人は過去の経験や知識といったスキーマに当てはめて理解する。スキーマが豊かであればあるほど、現実を多様に受け止めることができる。ビジネスの世界で言えば、市場の微妙な変化を敏感に感じ取り、対処するためのスキーマが重要となる。

情報は文脈によって意味が変わる


情報は、分母と分子から成る。分子は事実であり、分母は文脈である。情報は、事実をどのような文脈で捉えるかで違ってくる。例えば、ペットボトルの水は、砂漠であれば「命を救うもの」であるが、コンビニ店員にとっては、「重くて扱いにくい厄介なもの」かもしれない。メーカーの社員からすれば「給料の源泉」である。分母が変わると、情報は劇的に変化する。

この分母はスキーマと言い換えてもよいだろう。頭の中に豊かなスキーマがあれば、分母をたくさん入れ替えることができ、その結果、情報を多様に捉えることができる。これもまた、デザイン・スクール的なアプローチには欠かせないスキルである。

豊かなスキーマを持っているということは、単に物知りであるということではない。物を知っているというのは、情報の分子をたくさん知っているということ。分子はしかし、そのままでは新しいアイデアを呼び込まない。アイデアは、分子の下に意外な分母を持ってくることによって生まれる。優れたクリエーターは、物を知っているかどうかには無頓着だが、分母をたくさん持っていて、色々な文脈から物事を多様に捉えられるのが特徴である。

思考の伸びを許すシステム


ここまで、分析的思考と創造的思考の違いを見てきたが、私は、システムの分野でも、豊かな思考を許容するシステム、というのが必要になってくるのではないかと考えている。

アフォーダンス、という言葉がある。アフォーダンスの考え方においては、動物や人間の行為、反応は、環境や物体によって与えられた(アフォードされた)ものだと考える。例えば、椅子を見ると座りたくなるが、これまでの考え方では、「私」が座りたいと思うから座る、というように主体の意思が重視されていた。しかし、人はそれほど自覚的に行動しているわけではない。アフォーダンスでは、椅子から「座っても大丈夫だ」という情報が送られてきて、それにより「座る」という行動が誘発されると考える。

ビジネス・スクールの世界では、分析に基づき、こうしなさいという指示が出せた。主体による意思によって行為を決定できた。しかし、デザイン・スクールの場合は、指示を出すのが難しい。現場の若い社員に、「自分で考えろ」というが、自分では考えられない。「自分で考えろ」と指示することが、かえって社員を指示待ちにさせてしまうというパラドックスも生まれる。上司が言えることは、「答えはない。色々なことが起こり得ることを想定して、行動しなさい」という内容になるが、言われた方はいよいよ混乱する。では一体どうすれば良いのか。

ここでアフォーダンスの考え方が必要となる。主体の意思を問題にするのではなく、ついつい色々なアイデアを考えてしまう環境やシステムを取り上げるのだ。創造的な、仮想の世界を促進するのに必要なのは、「創造的になれ」という指示ではない。それを引き出すような環境である。こう考えると、現在のシステムは、コンプライアンス重視に象徴されるように、創造性を阻害するアフォーダンスに溢れているように感じる。しかし、創造性なくして企業は生き残れない時代になった。優れたデザインの椅子が、ついつい座りたくさせるのと同様に、創造的なアイデアを社員から引き出すような、創造性をアフォードするシステムが、これから求められるのではないかと思う。

小山 龍介様 プロフィール

松竹株式会社
経営情報企画部 新規事業担当プロデューサー
小山 龍介 様

1975年福岡県生まれ。京都大学文学部哲学科美学美術史卒業。大手広告代理店勤務を経て、サンダーバード経営大学院でMBAを取得。現在、松竹株式会社プロデューサーおよび松竹芸能株式会社 事業開発室長として、歌舞伎やお笑いをテーマにした新規事業立ち上げを行っている。SIS編集学校師範代・代匠。

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