プレミアムインタビュー 運用部門の価値創出へ。 経営に貢献する機会を生み出す
2019年10月24日
■プロフィール 1994年石川島播磨重工業株式会社(現IHI)に入社。主に基幹業務システムの開発に携わる。
2016年より現所属となり、基幹業務システムの運用保守を担当。趣味はゴルフとマラソン。 ただ、いずれも伸び悩み中。 |
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日本を代表する大手製造業の1社であるIHI。そのグループ企業としてIHIグループ全体のIT施策全般を一手に担っているのが、IHIエスキューブです。同社はIHI本体およびそのグループ企業が利用する業務システムの設計・構築・運用を行うほか、IHIグループ以外の企業に対してもさまざまなSIサービスやパッケージソフトウェアを提供しています。現在、IHIグループ内の本社系システムの運用部門を率いる古山氏に、システム運用部門のマネジメントを行う上で心掛けていることや、課題に感じていることなどをざっくばらんにお話しいただきました。
積極的な人事ローテーションでスキルやノウハウの交流を図る
これまでのご経歴をお聞かせください。
1994年にIHIに入社した後、しばらくは、設計開発部門が利用するCADシステムの開発を担当していました。その後、会社がITの外販ビジネスに乗り出したことに伴い、兵庫や愛知、東京のお客様先に常駐しながら、業務システムの設計・構築の仕事に従事していました。10年前に常駐先から東京に戻ってからは、IHIグループ内の業務システムの開発を担当する部署でマネジャーを務め、3年前にグループ内システムの運用を担当する現在の部署に着任しました。
開発部門から運用部門に移られた際に、戸惑いはありませんでしたか。
同じグループ内システムの開発を担当していましたから、メンバーの多くはもともと顔見知りでしたし、業務知識もありましたので戸惑いはありませんでした。ただし、運用部門で具体的にどんな仕事をしているかは、外からはなかなかうかがい知ることができませんでした。そこで運用部門に異動になった際、私自身が業務の詳細を把握する必要性もあり、業務の詳細や作業ノウハウなどを広く見える化する取り組みを始めました。「きちんと監視しています」「問題がありましたけど対処しました」という報告だけではなく、例えばJP1の監視画面を大画面に映し出してバッチの稼働状況を誰もが確認できるようにしたり、毎月1回必ずSL A報告書を作ってシステムオーナーに報告するようにしました。
運用部門では、どうしても業務が属人化してしまうというお話をよく伺います。
長い間、同じ部署で同じ仕事に従事していると、だんだん資料も作らなくなり、担当者の頭の中ですべてこなしてしまうようになってきます。私が運用部門を担当するようになってからは、メンバーを定期的に他チームに異動させたり、他チームから人を受け入れて人員のローテーションを行うようにしました。これによって業務の属人化の弊害を少しでも減らすとともに、他部門と人を行き来させることでグループ内のコミュニケーションが少しでも円滑になればと考えています。
運用業務の見える化を行い蓄積されたノウハウを部門間でシェア
古山様が率いる基幹業務グループは現在どのような組織体制になっているのでしょうか。
担当する業務ごとに3つのチームに分かれていて、部門全体で60名程です。業務部門と密接にコミュニケーションを取りながら、それぞれの業務分野に特化した運用業務を遂行しています。チーム内では、分野に最適化したプロセスやノウハウの共有や蓄積が進む一方で、チームの垣根を超えた情報共有はあまり行われていませんでした。実際のシステムは業務の垣根を超えた連携が行われていますから、本来は互いのシステムの機能や改修などに関する情報を共有すべきと考え、週に何度かチーム間で状況を共有する場を設けました。
新しい取り組みに対しては、部門内ではどのように受け入れられたのでしょうか。
現場のマネジャーや担当者にとっては、手間が増えることになりますから、当初はごくシンプルなレベルの情報だけを共有するようにして、仕組みが回るようになってから徐々に詳細なレベルの情報を共有するようにしました。まずは、自分が手本を示すということもありました。
また1カ月に1回「フォローアップ」と称して、それぞれのチームで発生した障害の情報をチーム横断で共有する場も設けました。これによって、あるチームが持っている知見を他のチームの課題解決に生かせるようになり、ノウハウの横展開が進むようになりました。またこの場では、若手が積極的に発言できるようにすることで、チームの垣根を超えた現場同士のコミュニケーションが活性化することを期待しています。
また1カ月に1回「フォローアップ」と称して、それぞれのチームで発生した障害の情報をチーム横断で共有する場も設けました。これによって、あるチームが持っている知見を他のチームの課題解決に生かせるようになり、ノウハウの横展開が進むようになりました。またこの場では、若手が積極的に発言できるようにすることで、チームの垣根を超えた現場同士のコミュニケーションが活性化することを期待しています。
部署の垣根を超えたコミュニケーションを活性化させるために、いろんな施策を講じているのですね。
こうした取り組みは現場主導ではなかなか進みませんから、まずはトップが主導して情報共有の場を設けるようにしています。「勉強会」というのもその1つで、毎朝30分間集まって、現場のメンバーが担当システムの概要を発表するというものです。なかなか人前でプレゼンテーションを行う機会の少ない若手に貴重な場を与えるとともに、各システムの概要を定型フォーマットにまとめて整理することができました。どのシステムも詳細な設計資料は揃っているのですが、上層部や他部門にその概要を簡単に説明できるような資料がありませんでした。しかしこれを機にそうした資料の整備が進み、上層部にシステムについて説明する際も苦労することがなくなりました。また、残業時間の適正化・見える化のために、“フラワープロジェクト(*1)” を実施しました。これにより、その日一日の時間管理を主体的に行うことができ、社員同士でお互いの状況を知ることができるようになりました。オフィスの雰囲気も明るい印象になったと思います。
(*1)午前中に仕事の状況を見ながら、昼休憩にその日の退社時刻を示す3色の花を飾ります。定時で退社する予定の社員は白色、20時退社は黄色、22時まで残業する場合は赤色の花を机に置きます。申告した時間と実際の退社時間を比較するなど、職場全体で残業時間の適正化・見える化を実現しました。
(*1)午前中に仕事の状況を見ながら、昼休憩にその日の退社時刻を示す3色の花を飾ります。定時で退社する予定の社員は白色、20時退社は黄色、22時まで残業する場合は赤色の花を机に置きます。申告した時間と実際の退社時間を比較するなど、職場全体で残業時間の適正化・見える化を実現しました。
運用部門が経営に貢献するということ
システム運用に従事する技術者にとっても、プレゼンテーションスキルやコミュニケーション能力は重要だと
お考えですか。
他部門やユーザーとのコミュニケーションを円滑に進めるために必要なのはもちろんのこと、自分たちの仕事の価値を社内できちんと認知してもらうためにも、プレゼンテーションスキルやコミュニケーションスキルは重要だと考えています。かつて外販のシステム構築の仕事でお客様先に常駐していたころ、名だたる大手メーカーやSIerのトップクラスのプロジェクトマネジャーの方々と一緒に仕事をする機会に恵まれましたが、その際にご一緒させていただいたとあるプロジェクトマネジャーの仕事ぶりにはとても感銘を受けました。業務知識や技術力が優れていただけではなく、常に他のメンバーの方々のことを気にかけてくれていて、自然と「この人と一緒だったら頑張れる」という一体感がプロジェクトに芽生えていました。やはり技術者といえども、ヒューマンスキルやコミュニケーションスキルはとても大事だと思います。
現在、運用部門をマネジメントする上で、最も課題に感じていることは何ですか?
ビジネス面では、コスト削減の課題が挙げられます。国内の大手企業ではIT予算の7、8割をシステムの保守運用費に充てており、これを少しでも減らして新規システムの企画や開発に投資することが重要だと言われています。IHIグループ全体のビジネスのことを考えれば、この考えには同意します。一方で、運用部門の売り上げも確保しなければならない立場にありますから、運用コストを減らすことに対しては一種のジレンマも感じています。この課題を解決するには、運用業務は、人月ベースの費用換算だけではなく、機能やサービスレベルをベースにコストを定義するようなビジネスモデルに移行する必要があるのかもしれません。まだ手探りではありますが、運用部門がビジネスに貢献する機会や方策をメンバーと一緒に考えていきたいと思います。
最後に、JP1ユーザ会の印象をお聞かせいただけますか。
開発部門から運用部門に異動した3年前からJP1ユーザ会ワークショップに参加しています。ワークショップでは運用のエキスパートの方々がたくさん参加しているので、勉強になることばかりでした。当時、自分が抱えていたことは、運用部門の皆さんが共通に悩んでいることなのか、というのも理解できました。議論といっても1 ~ 2時間しかできないので、すべてを深く掘り下げることはできませんが、そうした時間を共有するだけでも充実感を持って、職場の取り組みにフィードバックすることができます。先日は、ワークショップでレクチャーしていただいた「組織モチベーションの高め方」の手法を実際に自部門に適用し、とても興味深い結果を得ることができました。
参加者がお互いに高め合うことができるのが、ユーザ会の良さだと思います。