スペシャルレポート クラウドサービスの「超」活用術
2016年01月19日
ひとくちにクラウドサービスと言っても、インフラ基盤やアプリケーションプラットフォーム、ソフトウェア、ストレージなど様々である。クラウド活用を積極的に推進する企業もあれば、オンプレ中心の企業もまだまだ多いのが現状だ。クラウドファーストと呼ばれる今、JP1ユーザ会東日本支部では、「クラウド時代の運用管理」をテーマに、各社のマネージメント層によるワークショップを開催した。
「クラウド活用」に向けて
クラウドサービスに移行した理由。
クラウドのメリットは、「コスト」「スケール」「スピード」の3つと言われる。「必要な時に必要なだけ、すぐに利用できる」ということであり、ITの所有から利用へのパラダイムシフトといっても過言ではない。一方で、日本国内での利用実態は拡大してはいるものの欧米に比べるとまだまだ少ないのも現状である。そこで、まずは「クラウドサービスに移行した理由や目的」について意見交換を行った。意見を大別すると、1「ITコスト」 2「利便性」 3「使いたい時に使える」という3つに集約された。
1.ITコスト
ハードウェア/ソフトウエアともにピーク予測に基づいた過剰投資を抑えることができるため、初期投資に対するコスト負担の軽減につながるという意見が多かった。また、ハードウェア増強や最新機器への対応はサービス事業者側で実施し、常に最新の環境で利用できるため、これまでのように定期的なシステムリプレースも不要になり、その結果ITコストの平準化にもつながっている。
2.利便性
業務やシステムの特性に応じて様々なクラウドサービスを選択できるため、利用する上での利便性が高い。インフラ基盤だけでなく、アプリケーションやデスクトップサービスなど様々なサービスを選択して組み合わせて利用することもできる。また、利用にともなうメンテナンスやトラブル対応なども軽減されている。
3.使いたい時に使える
ITリソースの調達から設置、構築までのリードタイムが不要となり、暫定的な期間での利用が可能となるなど、「使いたい時に使い」、「やめたい時に止められる」というクラウド特有のメリットは非常に大きい。また、クラウドサービスは事業者側が周辺環境の整備や設備増強、セキュリティや性能面の担保を確保しているため、自社だけでは相当なコスト負担となるようなIT環境を手軽に利用できるといった意見もあった。
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気軽に始められて、いつでも止められる。
コスト削減やリソースの集約は、本当に実現できるのか?
ワークショップでは、さらにクラウドサービス利用面での不満や課題もリストアップされた。クラウドサービスに一定のメリットを感じる一方で、思ったような効果がまだまだ得られていないのも実状である。また、オンプレ中心のユーザからは、クラウドに対して払拭し難い不安要素も残るようである。クラウドサービスの利用を定着させるためには、事業者もユーザ企業もこのようなハードルをクリアしていかなければならない。さらに、次のような課題が話し合われた。
●セキュリティ
クラウドサービスにとって、安全性や安定性、信頼性はサービス提供の大前提となるものであり、特にセキュリティ対策やデータ保全に関しては、設備面やプロセス面では相当な投資を行っている。しかしながら、「自社の機密データをパブリッククラウド上に置くことには抵抗がある」などセキュリティ面での不安はやはり大きいようである。一方で、「セキュリティ面での対応状況をしっかりと吟味し、さらに自社でのシステム運用や手法自体を見直す良い機会ともなった」という前向きにとらえる意見もあった。
●データ保全、連携
クラウドサービスだけでクローズして利用しているケースが多いが、様々なデータ連携を必要とするものは部分的にクラウド化することが難しく、移行への障壁になっているケースが見られた。さらに、マルチクラウド利用は、クラウド間でのデータ連携が課題となっているようである。
●コスト
コストに関しては、メリットと感じているところがある一方で、「インフラに導入するソフトウェアのライセンス費用や、カスタマイズへの対応にかかる費用など、実際にシステム利用をしていくと、コストがかかってしまう面も多く、運用コストが軽減しているかどうかが実感できない」という不満を残す部分も見られた。
このように「セキュリティ」「データ保全、連携」「コスト」の課題・要件を満たすことがクラウドサービス活用の近道となる。ユーザ企業は、クラウドサービスのリスクや課題を理解したうえで、より良くクラウドを利用していく工夫が必要となるだろう。
これまでの運用管理とどこが変わるのか?
今回、ワークショップに参加した企業は、クラウドサービスを積極的に活用する企業から、ほとんど利用していない企業まで様々である。さらに、クラウドサービスを提供する事業者も参加してディスカッションを行った。現在、オンプレ中心の企業も、パブリック/プライベート含めて、将来的にクラウドサービスを利用することは避けられないという認識であり、様々な事例や情報収集や検討を実施しているという企業も見られた。いずれにしても、クラウドサービスを利用することで、「IT環境がどのように変わり、運用管理はどのように変えていかなければならないのか」、また「IS部門として変えていくべきところ、そこに求められる力は何か」ということをそれぞれの立場でしっかりと見極めなければならない。
- 1.クラウドサービスで提供される“サービスレベル”をどのように企業側で受け入れていくかが大きな課題となる。
- 2.クラウド検討にあたっては、自社で蓄積してきた運用ノウハウを整理してナレッジ化していくことが必要になる。
- 3.クラウドへ移行する際には、企業側で想定した効果が享受できるように事業者側とのハードな折衝や調整も必要となる。
企業側は、クラウド化すればコスト面をはじめ、様々な効果を得られるという良い面にだけ着目するのではなく、サービスをよりよく活用するために何をすべきか、解決すべき課題は何かをきちんと見極めて取り組む必要がある。クラウドを積極採用するIS部門長の一人がこう締め括った。
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