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ベストセラー『統計学が最強の学問である』の西内啓氏に学ぶ
「本当に価値を生むためのデータ分析の考え方」
アシストテクニカルフォーラム 特別講演

「本当に価値を生むためのデータ分析の考え方」


アシストでは去る10月29日、ITの“最新技術情報”を全27セッションにわたりお届けする「アシストテクニカルフォーラム」を開催しました。特別講演として『統計学が最強の学問である』の著書で知られる統計家 西内啓氏をお迎えし、「本当に価値を生むためのデータ分析の考え方」をテーマにご講演を賜りました。

医学の分野で統計学が必要な理由


今や医学の世界で不可欠な学問が統計学です。医療の大きな時代の転換点、それはわずか20数年前の1990年前後に訪れました。統計学が利用される前は、医師は、経験と勘、そしてロジカル・シンキングですべてを決めていたと言っても過言ではありません。例えば、急性心筋梗塞(=心臓発作)で病院へ搬送された際、技術の進歩により一命はとりとめられるようになったものの、術後、不整脈で亡くなるというケースが経験上知られていました。ならば急性心筋梗塞を起こした人には不整脈を防ぐ薬を投与すれば良いのではないか、と思われるかもしれません。しかしながら、実際にデータをとってみると、これまで誰もが正しいと思っていたことが実は間違っていたということが徐々に知られるようになったのです。これをEvidence-based Medicine(科学的根拠に基づく医療)と表現し、医療の世界では当たり前のように統計学が使われ始めました。そしてデータに基づけば予見できたことを無視して不適切な治療を行えば、医療側の過失責任が問われるようにさえなったのです。これはいずれビジネスの世界でも当てはまるようになると思います。今後はビッグデータやデータ分析などを実施しないと株主やお客様からお叱りを受ける時代になるのではないでしょうか。

なぜ企業はデータを活かせないのか?


データ分析は簡単そうに見えますが、そうそううまくいくものではありません。企業で分析結果を活かした施策にまで至らないのは、最初のデータの入口となる「1.市場」から「2.データ」⇒「3.分析者」⇒「4.管理者」⇒「5.担当者」⇒「6.施策」に至るまでの工程のどこかに必ずボトルネックがあるからです。

まず、分析するデータ量が「何テラ〜何ペタ」であったとしてもその質が粗悪では全く意味がありません。こうした状態のことを私は「データ・マネジメントがきちんとできていない」と表現しますが、これでは余程データに手を加えない限り分析は先に進みませんし、先に進んだとしても誤った結果にたどり着くリスクもあります。また「データ」が良質でも、現場の事情を分かっていない「分析者」が分析したのでは往々にして的外れな結果となります。だからといってプロのコンサルタントを使って現場のヒアリングを行えば、とてつもない時間やコストがかかります。また、仮に見た目が綺麗な分析結果が出たとして、今度は意思決定する「管理者」たちがその結果を読み解けなければ、利益につながる施策が打たれることはありません。同様にその分析結果を現場の「担当者」に丸投げされたところで施策にまで至らないのは当然のことです。この6ステップのどこかにある問題点をどう潰していくかが重要なポイントなのです。

「仮説」より「オープン・クエスチョン」が重要


「なぜデータ分析できなかったのか」という問いに対して、多くの企業が「仮説を考えるセンスがないから」と回答します。しかし分析には、仮説よりもむしろイエスかノーかでは答えられないオープンな「問い」を考えることの方が重要です。データの中に「情報」が埋もれているならば、できる限り早くそうした情報を発掘できるよう「問い」を進めていくことが肝要です。当然、企業の場合「分析の目的」は「XXすればもっと儲かるはず、ではどうすればもっと儲かるか」を「データ」から求めます。そしてその「質問」を少しだけ具体化します。例えば、「●●の▼▼に影響しそうなものには、どのような■■があるのか?」といった質問です。

こうした「質問」は、後述する「●●:解析単位」、「▼▼:アウトカム」、「■■:説明変数」がわかっていれば、経験も勘もセンスもない人でも「分析方針」が立てられます。それができればツールを使うにせよ、外部に依頼するにせよ、コミュニケーション・ミスなく進められます。

分析方針の3つのポイント


「分析方針」の1つ目のポイントは「アウトカム」、いわゆる「成果」または「成果指標」です。言い換えるなら「望ましさ」を具体的あるいは定量的に定義したものです(例:売上げ、在庫、コストなど)。そして分析時には、比較という考え方が必要になります。これが2つ目のポイントである「解析単位」です(例:顧客、従業員、商品)。そして3つ目が「説明変数」。例えば売上げの高いお客様とそうでないお客様の違いって何だろう、という「問い」に対する答えの候補が説明変数です(例:属性、行動、心理特性など)。

分析の切り口:「解析単位」とは


まず最初に、本当のゴールはどこかを明確に決め、そこからブレイクダウンする枠組みが重要です。ゴールが明確なら、失敗は避けられます。成果指標となるアウトカムとして「売上げ」に重点を置いて考えた時にも、売上げの高い/低い『お客様』の違いを考えるのか、売上げの高い/低い『商品』を考えるのか、売上げ増につながる/つながらない『広告』を考えるのか、といった具合に色々な見方ができますがこの『 』で囲んだ部分が「解析単位」です。こうした解析単位を理解していると、分析の切り口の自由度が増します。また「解析単位」としては、5W1HからWHYを除いた4W1Hを考えると良いでしょう。以下の表ではビジネス分野の分析で使われる解析単位の定石を頻度順に並べました。

WHO 顧客、従業員、パートナー、...
WHAT 商品、サービス、設備、取引、...
HOW 広告、研修、キャンペーン、...
WHEN 年、シーズン、月、週、日、時、...
WHERE 地域、営業所、店舗、施設、...


そもそもなぜデータ分析が価値を生むかというと、認知不可能な量のデータをきちんと分析するれば利益を生みそうだという経営判断が見えてくるからです。このとき重要なのは、利用可能なデータから何がわかるかとただ「見える化」をすればいいというのではなく、逆にこのデータから何を見つけなければいけないのかについて、分析方針からゴールを設定した方が良いということです。例えば解析単位として、お客様というものを考えたのであれば、漫然と色々なグラフを見るのではなく、まずは自社に存在するデータの限りを尽くしてお客様の特徴をひたすら定義していきます。これが説明変数ということになります。ここまでのことが考えられていれば、すべての説明変数を候補として、どの説明変数がどれだけお客様の売上げと関連しているのかを分析するのはどんなツールを使うにせよそう難しいことではありません。

分析結果からアクションへ


「分析結果は出たがアクションが打てない」という話をよく聞きますが、実はアクションの打ち方にも定石があります。以下の3つのパターンを覚えていれば分析結果からアクションにつなげられます。

1) “動かし得る”「説明変数」の場合


例えば、お客様のアンケート回答を分析した結果、商品の印象やブランド・イメージによって、お客様の購買傾向が全く異なると分かったと仮定します。

“動かしうる”「説明変数」


ここで言う「心理要因」や「広告接触」とか「ブランド力」というのは、変えようと思えば変えられなくはない「説明変数」です。また「ブランド力」を細分化すると、「信頼できる」、「格好良い」、「性能が高い」、「価格が安い」など多岐にわたります。その中で「お客様がどう思っているかで全く売上げが違う」ということが分かったとしたら、その適切な方向に広告や商品開発を行ったり、あるいはそれ以外にも動かせるものは動かしてみようという意識をすることが大切です。

2) “動かせない”「説明変数」の場合


当然、動かせない説明変数が見つかることもあります。例えば、男性より女性の方がよく買うモノとか、年齢が高い人の方が買うモノがあるとします。性別や年齢といった説明変数は動かすことはできませんが、ただ狙いどころを少しずらすという方法があります。

“動かせない”「説明変数」


女性にターゲットを絞ることで、女性が来店しやすいお店作りをしたり、女性読者の多い広告媒体に出稿したり、女性好みのデザインの商品を作る、等色々な施策ができます。このように、動かせない「説明変数」があったとしてもこの例のように工夫して売上げを向上させることができるわけです。

3) “ずらせない”「説明変数」の場合


季節や天候などの説明変数では狙いどころをずらすことさえできない場合があります。例えば夏の売れ筋商品で、夏以外は商売できなかったり、冬場に在庫ロスが発生するということがわかっているならば、予測の精度を上げて、これまで経験値で決めていた仕入れ数や製造数等を最適化し在庫ロスを少しでも減らせるのではないでしょうか。

“ずらせない”「説明変数」


このように、説明変数を動かしたり狙いをずらしたりできないものだったとしても、実は打てる手というのは、その領域の外に暗黙の何かが隠れていたりします。

※これら3つのアクションこそ、いわゆる日本が昔から得意とする「改善」です。

フィリップ・コトラーのイノベーション・レベル


留学中にお世話になったこともある、マーケティング学の第一人者のフィリップ・コトラー氏は「イノベーション・レベル」について「イノベーティブな製品を作るのは当たり前。「製品」のイノベーションよりもどの「マーケット」に売るかを変えるイノベーション方がさらに高いレベルのものだ」と言います。つまり、同じものを全く異なる顧客層や違うニーズに訴求したりするというイノベーション。そしてさらにそれより大きなイノベーションは、物流、販売、製造などの「プロセス」に関するものです。これら「プロセス」、「マーケット」、「製品」の3つのイノベーションが、先述した分析結果からのアクションに当てはまります。「動かし得るものは動かす」。例えば格好良いと思わせたいなら「製品」を格好良く変えよう、あるいはずらした方が良いならずらそう、というのが「マーケット」のイノベーションです。そして色々な状況に合わせて「プロセス」を最適化していこう、ということもデータ分析が得意とするところです。

データ分析を企業競争力にできる企業


自分がお手伝いする中でデータ分析を進められるようになられた企業は着々と競争力を持ち始めています。まずデータの管理者、エンジニアたちが、業務が効率化できさえすればいいという従来のデータの持ち方ではなく、分析を意識して全社のデータを統一的に管理し、常に分析可能な状態を保つようになりました。そしてそのデータを使って分析の方針を立てる人も実際に手を動かす人も全員社内に存在するため、業務や組織の事情に関するコミュニケーション・コストもかかりません。管理者もゴール設定から関わり、統計リテラシーを身につけていますので、上がってきたレポートの結果を読み解き、適切な意思決定ができます。このような分析方針の立て方と統計リテラシーが現場レベルでも共有され、着々と利益に繋がる施策へつなげられるようになりました。

コストを下げたり、売上げを上げたりすることで得られる効果は、それぞれ数%程度のものかもしれませんが、仮に百億円の利益を上げている企業が全社をあげて数%の改善を行うことができたのだとすれば、それはすなわち数億円の利益が新たに生まれるというわけです。

最後に


科学というのは「型」を先人たちが作ってくれていますので、経験や勘やセンスではなく、是非今日お伝えしたような「型」を活かしてデータ分析をしていただければと思います。そして「アウトカム」に直結するアクションあるいはイノベーションを実施することで、それが価値につながります。またかつての日本の工場における品質管理と同様に、データとサイエンスが日本中のオフィスで当たり前のように活用されれば、それが日本の国際競争力につながるのではないかと私は考えます。ご清聴有難うございました。

講演の様子


西内 啓 氏 プロフィール

東京大学医学部卒(生物統計学専攻)。東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野助教、大学病院医療情報ネットワーク研究センター副センター長、ダナファーバー/ハーバードがん研究センター客員研究員を経て、2014年11月より株式会社データビークルを創業。

35万部を超えるベストセラーとなった『統計学が最強の学問である』(ダイヤモンド社刊)、その続編である『統計学が最強の学問である[実践編]』(同社)など著書多数。



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