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人工知能時代の経済を問う

アシストテクニカルフォーラム2017 特別講演

「人工知能(Artificial Intelligence 、AI)」というのは、知的な作業をするソフトウェアのことで、コンピュータ上で稼働する。最も身近な人工知能としては、iPhoneなどで使われている音声操作アプリ「Siri」、またビジネス界では、IBM社の「ワトソン」、競技の世界ではコンピュータ将棋ソフト「PONANZA」や囲碁AIの「アルファ碁」がプロに打ち勝つなど、AIは今、大方の予想を大きく覆すようなスピードで進歩していると言える。

産業革命における技術的失業

18世紀以降の第1次から第3次までの産業革命においては、「汎用目的技術(General Purpose Technology、GPT)」という概念があった。これは補完的な発明を連鎖的に生じさせるとともに、あらゆる産業に影響を及ぼす技術のことであり、第1次では「蒸気機関」、第2次では「内燃機関や電気モーター」、第3次では「情報革命、コンピュータ、インターネット」がGPTと位置づけられている。

しかしそうした技術的革命が発生するたびに問題となったのが、新しい技術の導入がもたらす失業「技術的失業(テクノロジー失業)」であった。ただこのような新しい技術が発生しても、既存産業が効率化し消費需要が増大するか、新しく生まれた産業に労働者が「労働移動」することで、技術的失業は解消されてきた。

第4次産業革命

それでは、「第4次産業革命」ではどうか。

第4次産業革命では「汎用AI、Iot、ロボット、3Dプリンター」がGPTになるであろうと言われている。この汎用AIとは、人間のように様々な知的作業をこなすことができる人工知能のことだが、私は第4次産業革命が2030年くらいから進展し、2045年くらいには従来人間と機械で行ってきた生産活動が「純粋に」機械化され、汎用AIやロボットなどの機械が直接的な生産活動を行う「純粋機械化経済」の形が作り上げられるものと考えている。こうなるとそれまで超長期的な視点でも2%前後に落ち着いていた経済成長率が、ボトルネックになっていた「人間の労働を破棄」したため、年々どこまでも成長率が上がっていくことが理論上可能と言える。

第4次産業革命に向けて日本がすべきこと

第4次産業革命において汎用AIにより高度なオートメーションを実現させた国が、第1次産業革命でのイギリス、第2次、第3次産業革命でのアメリカに続く次世代の「ヘゲモニー国家」(覇権国家)になる可能性があると言える。

それでは日本はどうすべきか?

第4次産業革命は「実空間」(ロボット、センター等)で勝負できるので、モノ作りに強い日本は有利と言われているが、この実空間にもITが進出して、あらゆる企業がIT企業化していくことが考えられる。その場合、単なるモノ作りだけではなく、「研究開発」「設計・デザイン」「ブランディング」「マーケティング」をさらに強化して、付加価値をいかに出すかがポイントになる。つまり「頭脳」=クリエイティブが重要となり、「労働者の数ではなく、頭脳のレベルが企業の売り上げや一国のGDPを決定づける」時代が来るということである。

「ITを活用した問題解決力が低い」と言われている日本人は、今後さらにIT化を進めてコンピュータにできる雑務はコンピュータにやらせ、人はクリエイティブな仕事に特化していく環境作りが必要となるだろう。政府が提言している「働き方改革」は単なる労働時間の短縮だけではなく「想像力を引き立てる」ということでもあり、真の働き方改革を実現するためにも、クリエイティブな活動時間をいかに増やしていくかが今後重要になると考える。

  • 当記事は講演の内容をアシストの視点でまとめたものであり、講演者である井上智洋氏には文責はございません。

駒澤大学経済学部准教授  井上 智洋 氏

井上 智洋 氏  プロフィール

駒澤大学経済学部准教授。
慶應義塾大学環境情報学部卒業、早稲田大学大学院経済学研究科博士課程単位取得。2017年4月から現職。博士(経済学)。専門はマクロ経済学。最近は人工知能が経済に与える影響について論じることが多い。AI社会論研究会共同発起人。著書に『新しいJavaの教科書』『人工知能と経済の未来』『ヘリコプターマネー』などがある。


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