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IoT・AI時代のビジネスモデル ~自動化・超速化とサービス化の進展~

アシストテクニカルフォーラム2018 特別講演

アシストテクニカルフォーラム2018 特別講演


現実世界とITの世界の間のやりとりを自動化する

情報システムのそもそもの役割は、一言でいえば「現実をモデル化し、コンピュータ上でシミュレーションする」ことにある。例えばコンビニのシステムを例に挙げれば、POSレジ端末を通じて入力した商品情報や顧客特性情報をデータウェアハウスに集め、統計分析処理を施すことで現実世界のモデルを構築し、商品の動きと顧客の購買行動を可視化する。この可視化においては、現場が気候などのデータもチェックしながら参考データとして過去の傾向を見ながら、商品発注をできるようにしている。このコンビニの例では、一連のプロセスにおいて、現実世界とITの世界の間で行われるデータの入力や、モデル化された情報の可視化、さらに現実世界の最適化は、自動化+人間による処理という形で行われている。

現在注目を集めているIoTは、簡単に言うとこの「データ取得」「可視化」「最適化」という、現実世界とITの世界とを結ぶ3つのやりとりを自動化する取り組みにほかならない。これらすべてが自動化された暁には、モノ同士の通信によって情報のやりとりの円環が閉じられ、現実世界のモデルとしての情報システムが現実をオーバーレイするようになる。これがまさに、IoTの完成形のイメージだといえる。工場現場のIoT活用では、このイメージは「デジタルツイン」と呼ばれている。

親戚関係にある「IoT」と「AI」

IoTを謳ったソリューションは既に数多く存在するが、先ほどのIoTの完成形のイメージと照らし合わせると、あるものはデータ取得だけを自動化しており、またあるものは可視化だけを自動化しているなど、その完成度はまちまちである。また業種・業態によっても、どの部分の自動化が進んでいるかは異なる。従って、先ほど挙げたIoTの完成形のイメージと照らし合わせながら、自分たちが実現しようとしているIoTの目的や方向性をあらかじめきちんと確認しておくことが必要だ。

ここで重要なのは、完成形に早く到達するべきだということでは必ずしもないということだ。完成形のイメージを持ちながら、手作業が残る部分についてはその妥当性を検証しながら進むべきだということである。

IoTのソリューションを洗練させていく過程では、AI技術の活用が不可欠になる。例えば自動運転システムの完成形では、画像情報の取得、その内容の解析と可視化、さらにはその結果に基づく自動車のハードウェアの制御と、すべてが自動化されて円環が閉じたIoTシステムになっている。このプロセスでは、画像認識や情報のリアルタイム分析、ハードウェアの制御のそれぞれにおいて、AIが極めて重要な役割を演じている。このように、IoTの進展には自ずとAIが必要になってくるため、両者は親戚関係にあるテクノロジーだと言える。

IoTの未来はアライアンスとエコシステムの世界へ

さまざまあるAI技術の中でも、近年特に発展が著しく、IoTとの親和性が高いのが「ディープラーニング」である。ディープラーニングの特性を簡単に言い表せば、「過去データの学習結果を基に、未来を予測する」ものである。過去のデータがあって初めて成り立つものであり、かつ学習させる過去データに偏りがある場合は、出力する将来予測も偏ったものになってしまうので注意が必要だ。

事実、アマゾンはAIを活用した人材採用システムを試行したが、AIに学習させた過去の応募データが男性応募者のデータに偏っていたため、AIが応募者に対して下す評価も男性優位で女性差別的な傾向が見られたという。そこで同社は2018年10月、このAIを使った人材採用システムの利用をやめると発表した。ディープラーニングを利用する際には、こうした学習の偏りの問題に十分留意する必要がある。

なお、AIとIoTの取り組みを拡大していく過程においては、AIが予測した結果に基づいて現実を最適化していく「範囲」も広げていくことになる。例えばタクシーの配車サービス会社が、タクシー以外のバスや鉄道といった移動手段の最適化にも手を広げていくようなケースがこれに該当する。AIとIoTを使った現実世界の制御をビジネス対象にした場合、こうした範囲の拡大は必然であり、自ずとアライアンスやオープン化による他社との協業、つまりエコシステムの形成がビジネス発展の重要なポイントになってくる。




根来 龍之 氏 プロフィール

早稲田大学ビジネススクール教授。早稲田大学IT戦略研究所所長。京都大学卒業。慶應義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)修了。鉄鋼メーカー、英ハル大学客員研究員、文教大学などを経て現職。経営情報学会会長、国際CIO学会副会長、CRM協議会顧問などを歴任。プラットフォームビジネス、ビジネスモデル、競争戦略などを専門とする。主な著書に『プラットフォームの教科書』『ビジネス思考実験』『事業創造のロジック』(いずれも日経BP社)、『代替品の戦略』(東洋経済新報社)、『IoT時代の競争分析フレームワーク』(中央経済社,監修)、『プラットフォームビジネス最前線』(翔泳社,編著)、『デジタル時代の経営戦略』(メディアセレクト,編著)などがある。



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