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2016.04.18

Oracle Cloudの可能性

Oracle Cloudの可能性

GoogleのEric Schmidtによってクラウドという言葉が生み出されてから、間もなく10年になります。最近はクラウドファーストの方針を採用する企業が増え、傍流から主流へとクラウドの役割が変化しています。本稿では、最後発のパブリッククラウドとして国内で本格展開が始まったOracle Cloudに焦点をあて、その特長と可能性について考察します。


クラウドの利用を阻む壁


総務省の調査によると、平成26年末の時点でクラウドサービスを一部でも利用している国内企業の割合は38.7%※1で、クラウドを利用していない、あるいはこれから検討するという企業の方が統計上は多く存在します。

クラウドサービスを利用しない理由


クラウドは「必要がない」という回答を除けば、クラウドを利用しない理由は主に3つあります。

1. セキュリティへの不安
2. メリットがわからない、判断できない
3. 既存システムの改修コストが大きい

1と2は、誤解や情報不足があるかもしれません。例えば、クラウド市場を牽引するAmazon Web Services(以下、AWS)は世界の著名な第三者認証をほぼすべて取得しており、データセンターとしてはセキュリティがむしろ強固であると言えます。また、クラウド化のメリットを広く伝えるために国内で1万人以上が参加する大規模なイベントを開催するなど、ユーザの声を積極的に発信しています。事例の数も日々増えており、実際にこれらの情報を得ることでクラウド利用に前向きになった企業も多いはずです。

一方、3の既存システムの改修コストが大きいという回答について、Oracle Databaseを例に考えてみましょう。

Oracle Databaseの場合、ミッションクリティカルなシステムの定番構成であるOracle Real Application Clusters(以下、OracleRAC)をどのようにクラウド上に実装するかが課題となります。OracleRACは、複数のデータベース・ノードから共有ディスク上のデータベースにアクセスするShared Everything構成です。アプリケーションは、どのデータベース・ノードにアクセスしても同じデータを参照・更新でき、データベース・ノードに障害が発生しても、残存ノードでの処理は継続され、障害が発生したノードに接続していた処理は、残存ノードに自動的にフェイルオーバされます。さらに、データベース・システムの処理能力を増加させるには、ノードあたりの性能を高めるスケールアップ、処理ノードを増やすスケールアウトの両方の手法がとれるのも特長です。そのため、OracleRACに接続するアプリケーションの多くは、OracleRACで提供される可用性と拡張性、アプリケーションからの透過性を前提に設計されています。

現在、AWSをはじめとする多くのパブリッククラウドはShared Nothingを基本とし、OracleRACはサポートされていないため、OracleRACを用いずに可用性、拡張性、アプリケーションの透過性を実現する必要があります。パブリッククラウドでのデータベースの可用性や拡張性を担保するためには、変更履歴を他のデータベースに反映させるレプリケーション技術が基本となります。レプリケーションの場合、検索ノードはスケールアウトできますが、更新ノードはマスターとなるノードに限定される構成が一般的で、更新ノードはスケールアップで拡張要求に対処するか、データを分割して複数のデータベース群で更新負荷を分散するなどを検討しなければなりません。アプリケーション側も更新ノードと参照ノードを意識して処理を振り分ける仕組みを実装する必要も生じます。可用性については、クラウドでは遠隔地のデータセンター間でのデータの複製は実装しやすくなりますが、データベース・ノードに障害が発生した際の処理の中断がいくらか発生するため、OracleRACと同様の可用性を求める場合には注意が必要となります。

実は、このような実装方式の違いによって生じる機能要件の差異は、クラウドとオンプレミスの違いではありません。事実、不特定多数のユーザからアクセスされることを前提としたインターネット上の大規模なサービスは、オンプレミスであってもデータを分割した複数のデータベース群で実装されたり、更新ノードと参照ノードを分けた構成を採用しているシステムが珍しくありません。前述したようにパブリッククラウドの多くはShared Nothingを基本としているため、不特定多数のユーザからの参照要求が多く、更新頻度が比較的少ないインターネット向けのサービスに適合しやすい仕組みであると思います。今後、よりクラウドが浸透するためには、Shared Everythingを前提に実装されている企業内の業務システムが簡単にクラウドに移行できる方式の提供がポイントになると思われます。

Oracle Cloudとは


国内のクラウド市場はAWSを筆頭にMicrosoft Azure、Google Cloud Platformなどが高いシェアを占めています。これらの先行企業に挑むのが、今回取り上げるOracle Cloudです。Oracle CloudはSaaS(Software as a Service)、PaaS(Platform as a Service)、IaaS(Infrastructure as a Service)の全域をカバーする包括的なサービスを提供しているのが特長で、SaaSはすでに世界2位のシェアを誇っています。PaaSやIaaSについては最後発になりますが、世界の主要地域に21のデータセンターを構え、1日の利用者が7千万人を超える規模にまでサービスを拡大しています。

先行するAWSやGoogle Cloud PlatformとOracle Cloudの決定的な違いは、既存ユーザを抱えている企業が提供するクラウドサービスであるか否かです。OracleDatabaseはRDBMS分野でのデファクトスタンダードであり、企業内で利用される多くのシステムで導入されています。そのため、多数の既存ユーザをクラウドへ導くための仕組みがOracle Cloudには実装されています。

Oracle Cloudのサービス


Oracle Cloud 6つのデザインゴール


昨年10月に米国サンフランシスコで開催されたOracle OpenWorld 2015で、LarryEllison取締役会経営執行役会長兼CTOはOracle Cloudに6つのデザインゴールがあることを明らかにしました。

Oracle Cloudの6つのデザインゴール


Costは導入コストと総保有コストで最安を目指すこと、ReliabilityとPerformanceは単一障害点を排除しながらデータベースやミドルウェアで最速を目指すことを意味します。その上で、SQLやJavaなど業界標準(Standards)の技術に準拠した互換性(Compatibility)の高いクラウドを強固なセキュリティのもとで提供するというのがOracle Cloudのデザインゴールです。

オンプレミスとクラウドを行き来する


デザインゴールの1つである互換性の高さを示す最たる例が、データベースのサービスです。Oracle Cloudでは、Oracle DatabaseをPaaSとして提供していますが、オンプレミスと全く同じソフトウェアで構成されています。他社のクラウドで移行の懸案であったOracleRACもオンプレミスと全く同じように動作するため、OracleRACを前提とした企業内の業務アプリケーションにクラウドへの道筋をつけたと言えます。また、オンプレミスとクラウド上のOracle Databaseのデータの同期を保ち災害対策構成として機能させたり、DWH用途で利用することも容易です。さらに、Oracle Database 12cの機能であるマルチテナント・データベースを使用し、個々のデータベースをカプセル化することで、オンプレミスとクラウドを意識することなく、双方の環境を簡単に行き来できます。これはクラウドへの移行を容易にすることに加え、オンプレミスへの回帰をも同時に実現できることを意味しています。例えば、リソース調達の容易なクラウドを開発や検証環境として集中的に利用し、その結果をオンプレミスに反映するという使い方ができます。これまで、オンプレミスからクラウドへの一方通行だった考え方が双方向になることで、オンプレミスの資産を活かしつつクラウドを柔軟に利用するという新しいクラウドの活用方法が見えてきます。

さらに、ハードウェアとソフトウェアを一体化したアプライアンスであるOracle Exadata Database Machineをクラウド上でも選択できるため、ハードウェアを含めてオンプレミスと全く同じ構成でミッションクリティカルなシステムを構築できます。一般的なクラウドは安価なハードウェアを横に並べてスケールアウトで拡張性を担保しますが、Oracle Exadata Database Machineを利用してオンプレミスと同様のスケールアップにも対応することができます。ハードウェアのレベルでオンプレミスと完全に互換性があるというクラウドはおそらく他に存在しないでしょう。

Oracle Cloudのデータベース・サービス


コモディティ化の先に何が見えるか


クラウドのサービスは日々コモディティ化が進んでいます。例えばIaaSの場合、クラウド事業者が提供するサービスのサービス・レベルやコストの差は少なくなってきています。こうした動きに合わせて、クラウドの選択基準も変わっていくでしょう。最初にご紹介した統計が示すような、セキュリティへの不安や移行コストといった壁を乗り越えるためのサービスが選択されていくことも考えられます。Oracle Cloudはこうした時代をすでに見据えており、オンプレミスの資産を確実に活かすことができるクラウドとして歩み始めています。アシストはOracle製品の取り扱いを開始して25年以上になりますが、Oracle Cloudはその歴史の中で最も大きな転機になると考えています。お客様のビジネスを加速させるためにクラウドをどう活用するのかを、導入支援やサポートなどのサービスを通じてご支援すると共に、オンプレミスとの組み合わせなど、アシスト目線で最適な使い分けをご提案して参ります。

  • 本稿は弊社が信頼できると判断した情報源に基づいて執筆していますがその情報の正確性、完全性を保証するものではありません。また本稿に記載された、弊社意見、予測などは本稿作成時点における弊社の判断であり今後予告なく変更されることがあります。
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執筆者のご紹介

アシスト関 俊洋

関 俊洋
クラウド技術本部

2006年入社。データベース・システムの構築や運用トラブルの解決といった業務を経験し、その後新製品の検証やソリューションの立ち上げを経てエバンジェリストへ。2016年にクラウド事業を立ち上げ、現在はクラウドとデータベースの二足の草鞋を履いている。

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