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社会/経営/デジタル技術激変の中、今企業がなすべき対応とは

社会/経営/デジタル技術激変の中、今企業がなすべき対応とは

大手製造業3社でIT革新、経営革新を一貫して推進して来られ、現在も複数の企業でITや経営の分野で精力的に活動をされている、NPO法人CIO Lounge 理事長の矢島孝應様に、これからの企業ITを考えるヒントとして、「企業ITと経営」をテーマにご経験談を交えてご講演いただきました。


1. コロナ禍における企業ITの現状 - IT投資の変化

WBCを見て皆さん何を感じられましたか? 私は、野球に限らず、かつて日本人では世界では勝てないと言われたスポーツで、どんどんトップを取りにいっている状況を、素晴らしいと思うんです。しかし、企業や経済を見ると日本の状況は、どうでしょう。

われわれ、色々な方々に「IT化やデジタル化は進んでいますか」とお聞きするのですが、企業経営者も、政府自治体の方も、教育関係者の方も、皆さん、「コロナ禍の外圧もあり、ようやく加速してきた」「非常に進みました」とおっしゃいます。
ところが、IMDが発表した世界デジタル競争力ランキングを見ると、この3年間、毎年ランキングは落ちていて2022年は29位。日本は進んだと思っていても、世界はもっと早く進んでいるということです。WBCだと出場さえできない順位にいるんですね。

コロナ禍における企業ITの現状 イメージ

ところで、企業のIT投資は、コロナ禍により大きな変化がありました。経費、販管費と共にITコストを下げる会社。ITを強化することによって乗り切っていこうという会社。消極的な会社と積極的な会社がありますが、コロナが世間を騒がせている頃の調査情報を見ると残念ながら消極的な会社の数が多かったのです。ところが、IT通信業界はこの3年間で、ほとんどの会社が成長しています。ということは、消極的な企業が削減した分を上回るIT投資を、積極的な企業が進めたということです。コロナ禍以前はIT投資が多い少ないの差でしたが、コロナ禍中はプラスとマイナスの差で、両者には大きな差が出ています。消極的な企業でも、経費削減で利益が出ている会社もありますが、1年後、2年後に、IT投資の差がボディーブロー的に効いてきます。

IT投資分野も大きく変わってきています。コロナ禍前はERPや基幹系業務への投資が多かったのですが、ここは減少傾向で、顧客接点もしくは社員の働き方に対する投資が、今は増えています。


2. 経営からみたIT - ITは苦手の克服が重要

1年半ほど前に、中堅から大手企業200社の経営者に、自社のITの進捗の認識を質問したことがあります。過半数は「自社のIT化は他社に比べ遅れている」と感じておられ、「自社はIT先進企業」とお答えいただいたのはわずか1%でした。

Before コロナのことですが、年商5,000億から数兆円のいわゆる超大製造業の社長33名の前でITと経営という講演をさせていただいたとき、講演前に幾つかのITやデジタルに関わる用語の認識と自社での採用有無を質問してみました。
当時、新聞紙面上にバズワードとして出ていた、ビッグデータ、クラウド、AI、5Gなどについて「一般的な説明はできる」「自社での業務で活用している」という回答が多かったのですが、「自社の経営改革に活用している」という回答は少数でした。お話してみても、「わが社なら使っているはずだ」という認識で、まだまだ「使えている」とは言えない。また、DXという言葉は、「DXの言葉の意味は知っている」に留まっている方が大多数。これが、わずか3年半ほど前の経営者の認識でございます。

われわれ、中小の会社の経営者からもご相談を受けていまして、素直な本当の声をお聞きします。「経営にコンピュータを使いたい気持ちはあるが、どこからどう手をつけたら良いか分からない」「自社にとってどんなIT活用が必要で、経営にどう役立つのか」「そもそもの話、ITが良く分からない」こんなことをおっしゃっているのですが、実は大企業の経営者も同じかもしれません。

日本の経営者の課題ですが、いまだに残念ながら、「私はITは苦手だ!」と正々堂々とおっしゃる方がおられる。これは、欧米の経営者ではありえない。一方、「財務諸表は読めない」「人や組織の管理はできない」とは、絶対におっしゃらないですよね。そんなことを言っては経営として失格だと思っているから。日本人はITを専門的に考え過ぎて苦手意識を持っている気がします。

例えば、プロゴルファーで、とにかくうまく打てるクラブを持ってきてくれと言う人はいない。クラブの素材や製造の仕方なんて知る必要は無い。でも、自分が使用するクラブには事細かに指示を出す。道具の特性を熟知して勝負に勝つ。
経営者が、「経営」や「事業」という勝負に勝つプロであるには、ITというツールの特性を理解して指示しなければならない。


3. 企業におけるITの変遷 - 個人ユースから社会システムへ

皆さんも、ITやデジタル化、心の中でこの何年かの変化を思い浮かべてください。ハードウェア、回線、OS、ソフトウェア、業務アプリケーション、デバイス、コミュニケーションツール、システム開発、スマートフォンのアプリケーションなど、大きく変化してきたと思います。

3-1)1970年代から2000年代 - 個人ユースからエンタープライズへ

私が大学を出て就職した1970年代は、表計算、ワープロなど個人の作業のIT化が進み始めた時代です。
1980年代。給与計算、請求書作成、入出庫管理など、課、部レベルでのITの活用が進みました。
2000年頃。SAP、Oracle EBSのようなエンタープライズレベルでのERPもしくは統合サプライチェーンモデルの導入が進みました。ITの技術はエンタープライズレベルの統合システムが出来るところまで来たものの、この頃のシステム導入には反省があります。

3-2)企業として何を統合化/標準化するか - 経営者の悩みとIT化への対応

少し話しが違いますけど、ここで、データとプロセスという整理をします。縦軸がデータで、横軸がプロセスと思ってください。
縦軸のデータ。大きな会社で考えると、データを統合が必要なのは、全社レベルか、事業レベルもしくは地域や国レベルか、各部署別で良いのか。これは、経営者が全社情報を見るのか、地域や事業で見るのか、もしくは部門の責任者が見れば良い話か、個人が分かれば良いのか。つまり、情報の話なので、これはデータベースとしての統合を考えていけば良い。横軸はプロセス。いわゆる業務の仕方をどのレベルで統一したいのか。

企業として何を統合化/標準化するか イメージ

システムをERPなどで統合するということは、プロセスも情報も全部を統合することになって、非常にハードルが高いわけです。
このデータとプロセスの9象限は非常に大事で、その整理ができないままに統合を進めたのが、2000年代の大きなミスでした。

製造会社のサプライチェーンの例です。製造会社は研究開発して調達して生産して販売してサービスを提供します。

製造会社のサプライチェーンの例、相反する目標 イメージ

各部門には部門ごとの目標があります。経営者は売上げを上げろ、利益を上げろ、キャッシュフローを良くしろと言います。でもこれ、一つ一つを見ると、相反する目標がいっぱいあります。在庫一つを取っても、売り上げるために安全在庫を持つのか、キャッシュフォローを良くするため在庫を徹底的に減らすのか。こういう相反することを、優先順位をつけないままでも、統合化できるという錯覚に陥っちゃった。何かを強化すれば別の何かが落ちるのです。

データとプロセスを整理しない限り、いくらIT投資をかけて、新しいテクノロジーを使っても企業としての進歩はありません。
例えば経営課題。売上げ、利益、キャッシュフロー。これをどういう順番で良くするかにより経営のKPIが変わってくる。施策重点ポイントも、自ずと変わってくる。本来、経営者は会社の方針として重点課題をはっきり示して、そのために組織を改革し、社内ルールを策定し、そして人を作って、それを動かすITを使わなくてはなりません。

最近、新しいツールが出てきました。AIです。面白そうです。他社は使っています。ということで、情報システム側から経営にツールを使いましょうと提案している話を聞きます。それはどのレベルのKPIに基づく指標でやるのかを、無意味な投資にしないためには考えなくてはいけない。それぞれの部門最適で進めてしまうのも違う。システム統合ができ、必要情報の取得が可能となっても、結局のところ、経営との意思合わせが無ければなりません。

3-3)従来の基幹システムで管理できるのは一部 - システム構造の変化、管理データの変化

2020年代に入った今。企業はお客様、業界、社会レベルとのIT化が必要になってきています。顧客接点であり、製品のIoTであり、業界、社会システム、エコシステムになってきた。

システム構築は、昔はSoRと言われ、大きなハードウェアの上に大きなオペレーションシステム、ミドルウェア、データベースを乗せて、アプリケーションを作ってきた。ウォーターフォール型で何百人もかけて時間もかけて動いてきた。ところが、今はSoEと言われる世界で、オープンプラットフォームの上にデータ、機能、業務を乗せてアジャイル的に短期で作っていく。そして、それをデータで連携していく。プラットフォームで連携していく。

SoRの基幹システムが駄目だと言っているわけじゃない。必要な物は必要なんですよね。でも、これをさらに顧客、社会、業界との連携、そして今までの文字、数字だけではなく、非構造化のデータの管理を合わせていかないといけない時代に今入ってきている。つまり、一つのシステムで何でも動かすことは、もう不可能な時代になっているのです。基幹システムのスリム化や連携を考えて行かなくてはなりません。

少し話が逸れますが、世界が社会システムに力を入れていく中、日本は遅れているのが現状です。例えば、ドイツはインダストリー4.0で国を挙げて進めていますが、日本はどうでしょう。全体を牽引する力が弱いのです。これから、政府・自治体が牽引できるのか、業界団体が進めるのか、企業がリーディングしていくのか。例えば、今、トヨタさんが、「Woven City」で町全体のデジタル化を試験的に進めていますが、やはり日本の場合はリーディング企業が推進していくしかない気が私はしています。


4. 企業にとってのDXって何?

そもそも、DXって何でしょう。どう進めて行けばいいんでしょう。

4-1)DXは、Business Transformation by Digital じゃないかな

周りを見ると、デジタイゼーションのことをDXと言っていることもいっぱいある。でも、DXは、デジタルトランスフォーメーションですよね。トランスフォーメーションって日本語に訳すと変革、改革です。企業にとって変革、改革は、新たなビジネスモデルを作り上げていく「起業(おこすぎょう)」。これをやるには、企業の使命、パーパスに照らした方向性に沿っていかない限り、絶対に成功しない。簡単に利益が出る話ではありません。

このデジタルトランスフォーメーションという言葉が、私はみんなに誤解を与えてきたんじゃないかと思うんです。DXが何かというと「ビジネストランスフォーメーション by デジタル」じゃないかなと。ビジネスを変革して行くには今の時代、デジタルを使わざるを得ない。だから、BX by D っていうのが本来のDXじゃないか。そうしてお客様の価値の最大化を図っていかなくてはと思うのです。

本来のDX イメージ

4-2)DX推進は経営そのものの方向性

ここで、企業使命とDXの関係を少し考えてみます。社員が目的を迷わず、価値観を共有して進めていけるものが企業使命。

例えば、ビルの清掃会社が2社ある。
A社の使命。「効率良くビルをきれいに清掃し、より安くサービスを提供することによって、お客様のご満足を得る」
B社の使命。「お客様が気持ち良くお仕事をしていただけるビル環境を提供することで、企業や社会へ貢献する」

ある朝、ビルのトイレ行くと、A社の方が清掃をされていました。「申し訳ございません。今掃除中なので終わってからまた来ていただけませんか」とおっしゃる。A社は安く早くきれいに掃除をするという企業使命ですから、この社員は正しい判断をされています。
B社が掃除しているとこに行くと、「どうぞどうぞ。床が濡れているので滑らないように注意してください。ごめんなさい、ご迷惑かけて」とおっしゃる。B社は気持ち良く設備を使っていただく企業ですから、B社の方はこういう判断をされる。
これ、どちらが正しいとか間違えているとかではありませんが、会社と人が変わると評価も変わりますよね。

A社がDXを考える。たぶん、掃除の効率化を進める新たな技術。自動掃除ロボットですとか、汚れ感知管理でDXを進める。
B社だと、たぶん、使用される方の顔認証をして、この方が入ってきたら、この方の好きな曲が自動的に流れるとか。席にいてもトイレの使用状況がスマホですっと見られるとか。いわゆる、使いやすい気持ちいい環境を提供するDXを進める。

その企業が果たすべき使命に基づく中でDXを考えていくというのは、経営そのものの方向性でございます。

4-3)お客様への新しい価値創造 - ヤンマーの事例

ヤンマーは、ディーゼルエンジンの小型実用化に世界で初めて成功した企業で、2012年の創業100年を機に、会社のブランドイメージの刷新に取り組んでいます。私自身は、2014年にパナソニックグループからヤンマーのCIO 取締役として転入しました。
これは手前味噌な話です。もうだいぶ前の話ですが、なぜ私たちはヤンマーでDXを進めたかについてお伝えします。

世界人口の2050年の予測は、2010年の1.4倍。となると、食料も1.4倍要る。エネルギーはさらに必要で1.8倍。日本は人口が1億2,000万から8,000万人と減少予測ですが、農業や漁業など食糧生産に当たっている労働人口の下降の方がさらに速い。世界中が食糧不足の予測なのです。そこでわれわれは、100年先も、省エネ、食の恵を安心して享受できる会社になろう。それがヤンマーだ。として、ミッションステートメントを作り上げて行きました。

ヤンマーの創業者は、農業で苦労されている方々に、もっと楽になっていただきたいと、小型化したディーゼルのエンジンを農業分野に適用し産業を作ってきました。ならば、われわれは、IoT、ICT、ITでもっと効率的な農業を作っていこうじゃないか。従来のSCMでは、社内の効率化のための整理をしてきたけれど、われわれが提供していく商品で、お客様の効率化をもっと進めていこうじゃないか。と、視点を変えて行きました。今までは、商品を発売、購入というところが最初で最後の接点だったものを、お客様の目的を達成するところまで、製造会社が支援できる、IoT、ICT、ITになってきたというのが、当時の取り組みです。

お客様が喜んでいただけると、お客様に色々な提案ができるようになる。実際、稼働状況を取ることで、TPM、タイムベースのメンテナンスから無駄な部分ではないコンディションベースのメンテナンスに切り替えていく。新しい商品の仕様で提案をしていく。
こんなことが出来てきて、お客様は喜ぶ。店舗もディーラーも伸びていく。こんな世界を作り上げてきたんです。

この10年で、農業でのIoT導入は急速に進みました。これは経済産業省が出している 『IoT、AI、ビッグデータに関する経済産業省の取り組みについて』をまさに実践していたのです。機械化、ITデジタル化によってかなり効率化が進みましたが、さらに効率化を進めるためには、社会システムの必要性も感じています。


ヤンマー株式会社の取り組みは、多方面で高い評価を得ています。

  • 公益社団法人 企業情報化協会:2018年度最高賞の「IT総合賞」受賞
  • 2019年12月 APAC CIO Outlook :最先端テクノロジーソリューションで解決している企業として “Company of the Year” 受賞

4-4)真のDX推進 or DXの名の下で進めるIT化

ヤンマーでの経験からも、経営者が、真のトランスフォーメーションを考えている企業であれば、将来の企業使命、パーパスに沿った皆さんのDXを進めていかれることが必要でしょう。結局のところ、「何かDXをやれ」と指示を出される経営者がいるのは、やっぱりおかしい。

でも、IT化やデジタル化をまず進める取り組みも、経営や事業を強化する上で必要です。
「DXしてます」と言いながらも、IT化、デジタイゼーションをまず早くやっていこうということで進めても良いじゃないですか。これも一つの方法だと思います。

でも、どちらの方法を取るにしても、経営者と現場とIT部門がもっと一体になって進めていかないといけない。この取り組み無くしては、どの方法でも成功には結び付かないという風に思います。


5. デジタル化による企業内組織の役割変化

企業の中のIT、ICT、デジタル化によって組織の役割というのも変化していかないといけない。ということも理解いただきたい。

5-1)部門に閉ざされた情報の幅広い活用が企業競争力を向上

戦後縦割り組織でずっときた日本ですが、デジタル化により大きな変化が起きています。例えば2000年頃までは電話、テレビ会議、コピー機、複合機。これは、総務部門が、担当していた会社がほとんど。でも、デジタル化になってネットワーク系は、今、IT部門、もしくは情報システム部隊が担当している会社が多いんじゃないでしょうか。

工場、倉庫、物流、いわゆるOTと言われる世界。これもOTとITで今まで違う組織で動いていた会社があるのではないでしょうか。
顧客情報、これ営業の情報ですよね。でも、デジタル時代の今、顧客情報は技術も品質もサービス部門も商品企画部門も不可欠の情報になっている。
設計情報、CAD、CAM、部品表、3次元データ。今まで技術部門の情報として扱われてきましたけど、工場、営業、サービス部門。ここでいかに使うかが、これからの企業としての重要な方向性になってきています。

いわゆる縦割りの組織で考えてきたことをデジタル化を推進する中で、やはり横串を刺していきながら、それぞれの情報プロセスをみんなが連携していく。こういう組織化をしていかないと、今後の企業、IT先進企業としては勝てないと思います。

5-2)足元にある情報の重要性/必要性

コロナをきっかけに、経営に必要な情報の在り方も変わっています。コロナ禍に入った頃、私もまだヤンマーにいました。今までERP、基幹システム、統合データベースなどにお金をいっぱいかけてきました。もちろん、これは先程言いましたように要るんです。ところが、コロナになった瞬間、目線が変わりました。
紙がいっぱい残っていた。連絡が取れない。ワークフローが回らない。部下や上司は何をしてるかわからない。いわゆる、足元の情報が非常に重要だということに改めて気づき、従来のシステムでは対応できていなかった情報を見直すことになってきたわけです。

従来のシステムでは対応できていない情報には、SDGS、ESG、CO2、お客様の困り事や社会業界の課題などもあります。
例えば従業員のHRシステム。従来のHRシステムでは勤怠、給与、家族構成、評価、こんなものは入っているかもしれません。でも、数年前から経済産業省でも言われ始めた人的資本経営を行うための各種情報。いきいき働いている社員は何人いるんですか。全社員の男性の育児休暇日数は何日ですか。こんなこと、どこにもHRシステムの中では管理できていないのが今の現実。
ようやく、CO2排出量の管理が必要と言われ始めています。でも、非構造化データ。例えば、感情、感性、表情、こうしたものも今後必要になってくる。これって今までのITじゃない世界になってきています。

5-3)IT化/デジタル化は全社員が推進

企業の中では、基幹システムに始まり、製造系ならCAD、PDM、MES、建築系であればBIM。紙や印鑑や名刺、声、画像、感情、こんなものにまで、システムがどんどんどんどん今広がってきているわけです。これって全て情報システム部隊がやる仕事か。SIerにお願いする仕事か。違いますよね。

例えば、グローバル企業ですと言っている会社は、通訳を連れて仕事に行かないですよね。IT先進企業、ITを活用した強い会社を作っていくには、IT化、デジタル化は全社員が進めていかなければならない。そんな世界に入ってきている。
業務プロセスの効率化。経営のPDCAを回す情報管理。商品へのソフトウェアの組み込み。ソリューションサービスの開発。どんどん、どんどん、ITは現場にも広がっています。

でも、共通的なネットワーク、サーバ、デバイス、データ、コード、連携するプラットフォーム、部門間での情報活用、セキュリティ、お客様へのトータルサービス、ライセンス管理、関連法対応。こうしたものは専門的に集中して管理をしないといけない。
例えば、グローバル企業でも、M&Aと交渉するときには、変な英語は困るので、しっかりとした英語を話せる人にしか任せない。いわゆる専門は専門。みんながITを使いこなしていくためには、しっかりとしたガバナンスマネジメントというのを集中化していかないといけない。セントラルステーションとされるところは、専門部隊がしっかりやる。そして実行は社員全員がやっていく。

私。ヤンマーを辞める2年前に「ヤンマー全社員SE化」という方針を出しました。これは何も全社員がプログラムを組めと言っているわけじゃない。各部門がやりたいことをやるのがベスト。各部門のアイデアはそれぞれが自分たちで実現してもらう。その代わり、しっかりとガバナンスはシステム部門で回す。こういう方針を出させていただいて、やってまいりました。


6. さらにこれからの経営に必要な情報は

6-1)企業におけるITやデジタル化の急速な広がりへの対応

ここまでお話したように、企業におけるコンピュータの活用は、個人、組織、エンタープライズ。そしてこれからは顧客、社会とのつながり、業界連携になってきている。そして、企業におけるITの役割は、どんどん広がっていますし、新たなビジネスモデルの創出により、企業革新を支えるための技術にもなってきている。元々の数字や文字だけではなく非構造化データも含め、色々な情報を管理していく必要が出てきています。

アジャイル、アジャイルと言いますが、ビジネスの変革でビジネススピードが加速する中で、ITの開発にアジャイルなのではなく、アジャイルにITテクノロジーを使いながらビジネスに追随していかないといけない。そうして、情報によって作り出される価値は非常に重要になってきています。

このように、ITが経営、事業に関わる範囲や役割は非常に大きく変化しています。全社員がこれを推進できるよう、デジタル人材を育成しなくてはならない。基幹システムで管理する情報だけでなく 自分の周りにある情報管理が不可欠。各職場では、BIやAI、ノーコード/ローコードでの開発環境の活用も必要かもしれません。また、IT部門は「ITガバナンス」「ITマネジメント」を強化する必要があります。

6-2)企業におけるデータやプロセスのガバナンス - 経営とITの真の連携

冒頭お話したように、残念ながら、企業における経営陣のIT推進活用の認識は低いのが実情です。一部の業界を除いて、企業のいわゆるボードメンバーにはCIOが少ない。執行役員のCIO、常務執行役員のCIOとだいぶ増えてきましたが、特に製造業では情報システム部門の取締役はまだまだです。欧米ではCIOはボードメンバー。もうこれは当たり前の事実です。

私は、IT化、デジタル化に向けた企業統制はいまだ弱いと感じています。「データの管理、活用、保持責任」「業務プロセスの正当性、効率性責任」「IT環境の健全性」こうしたものに対して、誰が責任を持っているのかという部分。いわゆる職務分掌へのデータオーナー、プロセスオーナーとしての責任なり役割なりが明示されている企業は少ない。
お金であれば、財務、経理、監査という三権分立ができているにも関わらず、情報というものに対しての、ルール制定、実行、監査の三権分立は、企業の中では明示されていない。こんな実態ではないでしょうか。

経営者、現場、IT部門が真に「三位一体」で、お客様、社会、市場に取り組んでいただきたい。それが、IT先進企業、さらにはデジタル推進における企業強化につながると思います。

今回、時間の関係で説明できなかった分野としては、情報セキュリティがあります。こういう環境下において、情報セキュリティと今後どう向き合っていくか。このあたりが、さらに皆さんが考えていっていただきたい分野です。

(本稿は、アシスト主催で2023年5月に開催した『「システムの内製化」が、なぜ今注目されるのか』の特別セッションを基にした記事です。)


NPO法人CIO Lounge について

「企業経営者と情報システム部門」「企業とベンダー」の架け橋となり、各企業様の効率化・持続的成長に貢献することを理念に。大手企業でCIOおよびIT部門責任者としてこれら課題に先進的に対応されてきた方々が集い、知見を集積した「IT RESCUE」集団として、IT化やデジタル化を進めていくのに悩まれている企業の経営者や推進責任も持つ情報システム責任者(CIO、IT部長)の悩みをオープンにお聞きし、一緒に対応を考える取り組みを進められている団体です。


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