データドリブンの実現へ。Hondaのチャレンジを紐解く
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本田技研工業株式会社(以下、Honda)の小川様をゲストにお迎えし、「モノづくりとデータとの関わり」「データ活用戦略」「人材育成・推進体制」などをテーマに、データドリブンの実現に向けた取り組みについてお伺いしました。
DXを推進する統括部門の立場で語られる小川様の実体験には、同様に推進役を担われている各企業の皆様も共感できるポイントがたくさんあるのではないでしょうか。
(本稿は、アシスト主催で2022年3月に開催した「第10回 aebisユーザー会 2022」のセッションを基にした記事です。)
HEADLINE
GUESTプロフィール
本田技研工業株式会社
デジタル改革統括部 バリュークリエーション部 データ解析活用課
チーフエンジニア 小川 努 氏
株式会社本田技術研究所に入社。四輪R&Dセンターで四輪自動車の開発に携わる。2004年に第39回大量生産車用アルミニウム部品低コスト化技術の開発において一般財団法人軽金属学会「小山田記念賞」受賞。
「気持ちいい乗り心地とかっこいい車」を科学する
まず、小川様がモノづくりの中でデータに関わることになった経緯をお伺いします。
小川様は、本田技術研究所で四輪自動車の設計・開発に携わる中、生産技術や性能設計のシミュレーションをしながらデータに関わられていたそうですね。
「ビッグデータ」が旬なキーワードになっていた時代ですね。
シミュレーションして早く答えを出せるようになった後は、精度が求められるようになる。
ここが難しいところだと思っているのですが、本当に求められている車の性能は何か?という観点から「気持ちいい乗り心地とカッコいい車」をどう科学するか?というところに足を踏み入れることになりました。そこで、人(お客様)の感情を定量的に測るために統計に触れ始めたのが、データに関わるきっかけでした。
次に、Honda様でのデータドリブン組織の成り立ちと役割について教えてください。
現在、私が在籍しているデジタル改革統括部(下図のDigital Transformation Supervisory Unit)は、プロダクトに関係なく事業部門横断で統括部門として機能し、データを通じて事業部門と関わり、開発品質支援などを行っています。振り返ってみると、社内のデータに対する考えが成長する中で組織が変化してきました。
「CASE*に取り組むためのデータ」という考え方から「このデータがあれば何ができるのか」という考えに成長させてきた部門と、「集めたデータをどうマネージメントすればよいのか」を考えた二つの部門が一つになり、2019年にデジタルソリューションセンターが発足しました。
さらに2020年、本田技研工業株式会社に再編されたタイミングで、データで変革をするための組織ができて、現在に至ります。
※CASE:Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared(カーシェアリング)、Electric(電気自動車)の頭文字をとった造語
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HondaのDX
Honda様でのDXの定義を教えていただけますか?
■ デジタルトランスフォーメーション(DX)
デジタル技術を浸透させることで人々の生活をより良いものへと変革すること
既存の価値観や枠組みを根底から覆すような革新的なイノベーションをもたらすもの
DX=デジタル化と捉えている方もいらっしゃいますが、私はそれは正解ではないと思っているんです。ただ、DX推進の過程にはデジタル化は必要なことだと考えています。
デジタル化で入手できる情報がリッチかつ速くなった。これにより判断の仕方が変化しているはずですから、デジタル化でオペレーションの効率化が図れて早くなるのもDXの通過点なのかもしれません。でも、そこで終わりではなく、企業として競争力を優位にするために何を改革しなければいけないのか、データ"ドリブン"と言っているのだから、データで革新的なインサイトや変化をもたらすところまでを考えましょう、という話を社内でしています。
Hondaのチャレンジ1. データ活用戦略の立案
デジタル改革統括部の成り立ちと役割については、先のお話のとおりですが、データ活用を推進していく中で、これだけの数の事業部があると「サイロ化」が課題にならなかったのでしょうか。
小川氏:
全社的にデータ活用を進めると、どの企業様でも各部門で独自のやり方が確立することは、よくありますよね。
弊社でも何年かそのような状況でしたが、DXやデータドリブンに取り組むには、全社視点で考えて、サイロではなく横断的に、効率良く進めることが必要だと思います。「会社全体として変わるんだ!加速するんだ!」という意識で統括部門ができました。私が在籍する部門の役割は、全社を推進するために集中すべき資源はどこなのかを判断するほか、各事業部門の生かすところと助けるところをどう導いていくかだと認識しています。
費用:デジタルにはコストもかかるから、方針を決めて戦略的に投資する
人材:エキスパートを集めて委員会や組織をつくり、データをどう活用すればよいか考える
事業部門ごとにデータを保有し、データ活用の推進の仕方やポリシー、温度感が異なる中で、デジタル改革統括部は、各事業部門とどのようにコミュニケーションをとられたのでしょうか。社内での立ち回り方のポイントをお伺いします。
小川氏:
お客様に最も近いところにいる事業部門(現場部門)が、一番課題感が大きい。だから、半分コンサルティングのような仕事になりますが、「何が課題で、どう解決するか」という最初の課題設定を事業部門と一緒にきちんとやるようにしています。単に「この道具(分析ツールなど)を使ってくれ」という言い方ではなく、その課題解決のためにこの道具で何が解けるのかを共有する。
また、われわれに助けを求めてくる部門が多い中、自分たちのやり方を主張する部門があるのも事実です。そこは、無理に全社のやり方を押し付けるのではなく、「価値」を共有し、一緒に取り組みましょうというスタンスで支援し、終わった後に各部門で自走できるようにしています。
Hondaのチャレンジ2. 人材育成・推進体制づくり
次にチャレンジの2つ目としての「人材育成・推進体制づくり」ですが、以下3点についてお伺いします。
・データドリブン人材の育成
・事業部門を巻き込んだ推進体制の構築と発展
・パートナー企業との関わり方
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小川氏:
われわれは、「データを活用できる人材の数」と、「データを扱えるスキル」の2軸で捉えた時に、データを活用できる人材の数を増やしつつ、上級者を育成していこうという方針です。
データ活用できる人材を育てる中で、専門性を持てる人が生まれてくる。その中からエキスパートを養成する。ちょっと変わった人たちがすごい力を持っていて、周りを率いる人に化ける、というのを見てきているので、われわれは、その人たちへの支援を惜しみません。
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小川氏:
こちらの図は、自分たちで人材教育の位置付けを決めて何をするか検討するために作った弊社のデータ活用の教育Mapですが、「ツールが使えるか(ツール習熟度)」と「業務に適用できるか(データ活用実践スキル)」の2軸で表しています。
入口は、やはり統計の基礎教育で、いわゆる道具(分析ツール)が使えるかという点に集中します。初期教育は、教材の用意から自分たちで始めた経緯もあり、寄り添って支援する中で、何を教えなければいけないか、何を知りたいのか、どこにつまずくのかという知見を蓄積してきました。
また、各部門で違ってくる取り扱うテーマ、ぶつかる壁に合わせて考えた必要なソリューションなどの要素を取り込んでいく中で、教材が進化し、サイクルを回すことで課題のレベル感も高まっていきます。
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小川氏:
教育する人数が増えてきたことと、内容が高度になるにつれて支援のボリュームも増えてきました。そこで、ツールの専門家であるアシストに支援を依頼しました。
ユーザーは、つまずいた時にすぐに手当をしないとそこで離脱してしまう(Excelでの分析などの従来の手法に戻ってしまう)ため、アシストのテクニカルサポートが役立ちました。Hondaではこれを「家庭教師」と呼んでいるのですが、わからないところを家庭教師に自分で相談して解くという体験。これができたことによって、支援部門とコンテンツが増えてきたと思っています。
Hondaのチャレンジ3. データ活用基盤の構築
チャレンジの3つ目「データ活用基盤の構築」においては、ユーザー部門の方々が自由にデータ活用したいということと、データ管理やガバナンスは二律背反の側面もありますが、ご苦労された点などを含め、データマネジメントとガバナンスについてお伺いします。
小川氏:
ここはまさに苦労しているところです。環境の乱立もよく起こることです。
われわれ統括部門には、データ活用の支援という側面の他に、インフラやデータの標準化などガバナンスを効かせながら効率良く使える環境を提供する役割もあります。
少し話を戻しますと、私は、元々設計者だったため、会社のデータにアクセスしようとした時に様々な障壁がありました。「使う人間が簡単にアクセスできなければいけない。」「何でデータを出さないんだよ!」と思っていましたが、今は逆ですよね。守る立場になったら「なに勝手なことをやっているんだよ!」と。笑
やはり、データを使用する側と提供する側、さらに言うと、守りと攻めがあり、このバランスが要ですね。管理してしまい込むのではなく、ユーザーが使いたいときにすぐにデータを引き出せる基盤を構築するには、どんな考え方が必要なのかという点は、われわれも試行錯誤中です。
あとは、データの品質を担保するために、データカタログで言われるようなデータの諸元がきちんとしていなければいけないと思っています。
続いて、内製化方針についてお伺いします。
小川氏:
何を内製化するかだと思いますが、そこはやはり、道具自体を内製するのではなく、進化の早い時代に沿った世の中の道具をうまく使えばいいと思っています。進め方や考え方を内製化するべきであって、場合によっては既存のものの組み合わせで良いものが作れて解決できるかもしれない。要は、何がやりたいのか、そのためには何が最適なのかを自分たちで考えるところが内製化じゃないかなと思っています。
Honda様での人材育成・推進体制づくりとデータ活用基盤の関係性についても、さらに詳しく教えてください。
小川氏:
人材育成・推進体制づくりと、データ活用基盤は、データ活用戦略の車の両輪とも言えます。
データ活用基盤を作ったことをきっかけに進めるという考え方もあれば、人材育成や体制を作ってから基盤を作るという考え方もありますが、どちらかが先、ではなく、まさに両輪で進めるものだと思っています。
データ活用を推進するために、Hondaでは組織として委員会を作りました。当時の「データ委員会」は、ある時から、DXをどう捉えて誰が何のために推進するのかを定義づけるための検討委員会として「DX委員会」に名前を変えました。その中で人への投資が必要という判断に至り、教育などの人材育成と推進体制ができたという流れです。
データドリブン文化・風土の醸成
Honda様において「データドリブン文化・風土」はどのように変わってきたのでしょうか。
小川氏:
データに取り組み始めてから、もう10年以上もたっています。先程、サイロという言葉も出ていたように、部門最適で進めたい人たち、ゴールが違う人たちを集めて委員会を作ったりしてきました。
実は、先日そのDX委員会が主催する各部門のDX活動をPRする社内イベントがありました。そこで発表された30~40のテーマの内、データを見える化して、それによって判断の仕方が変わった、効率が上がった、というような事例が半分以上もありました。
社員教育に携わりながらこのイベントの準備の様子も見ていたのですが、まさに発表しているユーザーの方々が大きく変わりました。変化について語っている姿が非常に印象深かったです。
大きな成果が出るのは、まだこれからかもしれませんが、風土・文化の変化に一歩踏み出せたのかなと思った次第です。
最後に、今後の展望についてお聞きしました。
小川氏:
来年度以降は、安定して成果が拡大できるように進めていく予定です。
人材育成においては、底上げと同時にけん引していく人たちを育ててきました。では、その人たちが次につまずくのはどこか、次のステージに向けて統括機能としては何をやっておかなければいけないかを考えているところです。
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