「本当に共感するなと思って聞いていました」|AI実装エグゼクティブサロン開催レポート

「皆さんの言っていること、本当に共感するなと思って聞いていました」
約1時間のラウンドテーブルを終え、各テーブルで話したことを共有していたとき、一人の参加者からこんな言葉が出ました。
会社も違えば、立場も違う。AI活用がどこまで進んでいるかも、それぞれです。
それでも話を聞いていると、
「AIの成果って、どう示せばいいんだろう」
「これから増えていくAIエージェントを、誰が面倒見るんだろう」
と、似た悩みがいくつも出てきました。
2026年8月28日、アシストAIテラス(AIT)は「AI実装エグゼクティブサロン」をシャングリ・ラ東京で開催しました。

今回AITが目指したのは、他社の話を聞いて「それ、うちにもある」と気づき、自社に戻ったときに誰かと話したい問いや、次に試してみたいことを一つ持ち帰れる時間です。
「正解」より、次に何を試すのか
「人間の力が、まだまだ必要ですね」
オープニングで、そんな一言がこぼれました。
AIT代表取締役社長 松山が用意していたのは、自分の声に反応してスライドが進むプレゼンです。
ところが途中でうまく反応しなくなり、最後は進行役の林が操作することに。
AIとの協働を、自分たちのプレゼンでも試してみる。この日は、そんな実践から始まりました。
AIが変わり続ける中で、何を軸にするのか
松山がまず紹介したのは、AITが起点に置いている「Outcome First」という考え方です。

新しいテクノロジーが出るたびに、「これは使えるだろうか」と考えたくなります。
一方で松山が起点に置いているのは、そのもう少し手前にある「自分たちは何を実現したいのか」という問いです。
AIの世界では、新しいモデルやエージェント、サービスが次々に出てきます。この日も、直近48時間に出てきたAI関連のニュースを紹介しました。
技術を追い続けるだけでも大変です。
だから、自社として何を実現したいのかを先に決める。そうすれば、新しい技術が出てきたときにも、「これは自分たちの仕事に使えるか」という見方ができます。
続いて、松山がラスベガスのAIイベントで感じた変化を紹介しました。
3日間、24のセッションに参加する中で、繰り返し聞こえてきたのが、「デモから本番へ」という言葉でした。
AIで何ができるかを見せる段階から、本当に業務の中で使う段階に移りつつあるという話です。そうなると、どのデータにつなぐのか、どこまでAIに任せるのか、誰が管理するのかと、急に現実的な問題が増えてきます。

オープニングの最後に、松山が参加者に投げかけたのは、
「次に何を試すのか」
という問いでした。
壮大なAI戦略を考えるというより、まず、自分たちの現場でいま何が起きているのかを話してみる。
そこから参加者は、四つのテーブルに分かれて議論を始めました。
AIの話をする前に、まず「話せる状態」をつくる
参加者には、異なる企業・立場の方々が集まりました。
自己紹介が始まると、あるテーブルには同じ業界の参加者が並んだことから、
「三つですね」
「私は他業種なので、挟まれた感じがします」
と、早くも会話が始まりました。
「真ん中に座っている方のプライベートを、根掘り葉掘り聞いてください」
ファシリテーターのそんなユーモア溢れる声掛けから、運転中の習慣など、仕事とは直接関係のない会話が広がっていきました。

AI実装について話す場だからといって、最初から「御社のAI戦略は?」と聞けば、本音が出てくるとは限りません。
特に、会社も役職も違う人が集まる場では、最初はどうしても「会社として正しい話」になりやすい。
その前に、一人の人として普通に話せる状態をつくる。
今回のラウンドテーブルは、そこから始まりました。
AIを使わなくても、仕事は回ってしまう
「究極、困ってないんですよね。自分で回っちゃってる」
議論が一段深くなったのは、この言葉が出てからでした。
AIを使えば、生産性が上がる場面はある。でも、使わなくても今日の仕事は終わる。
では、すでに回っている仕事を、人はなぜわざわざ変えるのか。
最初に話されていたのは、「AI活用を誰の仕事にするのか」でした。
ITやDX部門が旗を振っても、事業部から見れば「そちらの仕事だよね」となってしまう。
成功事例や、うまく使った部署の「ヒーロー」を紹介しても、「横から見ても、なんか自分事にならない」という声が出ました。
コロナ禍のWeb会議のように、使わなければ仕事が進まない状況をつくる案や、評価制度と連動させる案も出ました。ただ、決められたから使うだけでは、「やらされるAI活用」になってしまいます。

ここから出てきたのが、「ワクワク」という言葉でした。
家庭では、夕飯の献立や子どもの進路を相談するために、誰に言われなくてもAIを使う。
「仕事になると使わないんです。その違いはなんだろう」
社員によってAIとの距離感も違います。
話題は、「まずどの層を動かすのか」へ。そこで挙がったのが、「中間層」でした。
「一番パイが多い、この中間層のワクワクゾーンを見つけると、きっと成果が見えてくる」
何があれば、自分たちの仕事でも一度試してみようと思えるのか。参加者それぞれが、自社の社員の顔を思い浮かべながら話されていました。
AIで「何時間減ったか」の先に、何を成果として見るのか
ここでは、率直な一言から議論が始まりました。
「AI云々の話の前に、業務分析ができないんですよね」
日々の仕事が、どんなプロセスや作業で成り立っているのか。そこを整理しないままAI活用を求められても、どこに使えばいいのか分からない。
「まずAIありきで、それを使って何かやる。という発想になってしまう」
そんな声から、話は仕事そのものへ向かっていきました。
もう一つのテーマが、AIの効果をどう見るかです。
「例えば生産性が上がって、何時間空きましたと言っても、人件費としては変わらない」
「社員は切れない。じゃあ、どうするんですか」
「3時間削減できた」として、その3時間はその後どうなったのか。
そんな話を続けていると、空いた時間の使われ方まで見ないと、成果を説明するのは難しいのではないか、という声が出てきました。

象徴的だったのが、社内で検討されていたAIボットの話です。
「これ、誰に聞けばいいかを答えるボットなんです」
すぐに返ってきたのが、「聞く前提や」という一言でした。
誰に聞くかをAIに探してもらう。その先には、人に聞かなければ仕事が進まない仕組みそのものを見直す余地もあります。
一方、実際に仕事を変えていく段階では、別の難しさも出ます。ITやDX部門からPoCを持ちかけるところまでは進んでも、本番化で事業部門の決裁が必要になると、反応が鈍くなるという経験も共有されました。
AIを入れられそうな場所を見つけても、それだけでは仕事は変わりません。
業務のことを知っている人と、AIでできることを知っている人が、どこで一緒に考えるのか。
議論の後半では、そんな組織の進め方にも話が及んでいました。
「AIなら、もっと簡単に作れるはず」の先に残ったもの
議論の中心になったのは、AI駆動開発でした。
小さな範囲で試し、手応えがあったものを横へ広げる。そんな進め方が話される中、議論はAIでコードを作れるようになった「その先」へ進みました。
「経営層は、AIで開発は簡単だろうって思ってしまうんです」
議論では、「AIで短期間に開発した」「少人数で作った」といった事例も話題に上がりました。
他社ができるなら、自社でもできるはず。そんな期待が高まる一方で、品質の担保、コードレビューの必要性、テストといった仕事は残ります。
さらに出てきたのが、
「一人でチャチャっと作れる。でも、それを誰が面倒見るんだ」
という言葉でした。
AIで作れるものが増える一方で、その後を誰が引き継ぐのかという話も出てきました。
議論はそこから、既存システムへ移りました。

古いソースコードをAIで新しいコードへ変換できても、コードだけでは分からないものがあります。
なぜ、この設計になったのか。当時どんな判断をして、何を優先したのか。そうした設計思想や暗黙知は、担当者やベテランの頭の中に残っていることがあります。
コードを移すことはできても、その背景にある「なぜ」はどう残すのか。
話は、開発効率とは別の難しさにまで広がっていきました。
AIで「作る」が変わった後、システム会社は何を担うのか
システムを発注する側と提供する側、双方が参加したテーブルでは、提供する側からこんな言葉が出ました。
「人月で売っている会社なので、やればやるほど人月が下がる。何がうれしいんだろう」
AIによって開発が速くなり、必要な工数も減れば、顧客にはメリットがあります。
一方、人月を前提にしてきたシステム会社にとっては、自ら売上の前提を崩すことにもなります。
それでも、「やらなければ会社自体がなくなるかもしれない」という危機感もありました。
そこで出たのが、「価値ってなんだ?」という問いです。

一年かけて何人ものエンジニアが作ったシステムと、AIを使って短期間で作ったシステム。得られる結果が同じなら、価値は何で決まるのか。
発注する側からは、「企業にお願いする理由は、最後に結果へ責任を持ってもらうためではないか」という話が出ました。
提供する側からも、「ものを作るところは、もうAIには勝てない。その前の『何を作るのか』を考える」という声が続きます。
さらに、AIで作れるものが増えれば、社内にはエージェントやスキルも増えていきます。
「今まで、それを面倒を見るという業務ってなかったですよね」
「誰がずっと見続けて、良くしていくんですか?」
作るところだけではなく、その後を見続ける仕事もある。
システム会社の役割について話していたはずが、最後はそんな話になっていました。
議論しているその裏で、実装が始まっていた
参加者がラウンドテーブルで議論している間、会場のバックヤードでは、各テーブルを担当するDay0開発チームが、その会話をリアルタイムでモニタリングしていました。

AITではDay0を、MVPを通じて関係者が自分たちの業務に引き寄せ、次に何を確かめるかを話し始める最初の一歩と捉えています。
流れてくる議論から目の前の課題を拾い、その場でアプリケーションの実装を進める。
参加者が話している、まさにその時間に開発は進行していました。
ラウンドテーブルが終わり、食事の時間になると、その日に生まれたアプリケーションを披露しました。
参加者同士の本音から出てきた課題をもとにしたアプリケーションが、数時間後には画面上で動いていました。参加者も画面を真剣に見つめ、説明を聞きながら頷いていました。

オープニングで松山が置いた「次に何を試すのか」という問い。
話したことを、その日のうちに一度、形にしてみる。
この日のDay0は、ラウンドテーブルで生まれた問いを、次の試行へつなぐ時間になりました。
別々の問いが、最後の総括でつながった
最後の総括で松山は、各テーブルの発表を聞きながら、それぞれの議論がつながっているように感じたと振り返りました。
四つのテーブルでは、参加者がそれぞれ自社で今抱えていることを自由に話していましたが、最後にそれを持ち寄ってみると、別々に見えていた問いの間につながりが見えてきました。

他社ではどう考えているのかを聞き、自社の状況と重ねてみる。
一つのテーブルで生まれた問いが、別の参加者の問いにもなっていく。
今回のラウンドテーブルでは、そんな場面がいくつも生まれていました。
