ボトムアップのアプローチでDXを推進
データ分析・活用の定着と横展開を図る浜松倉庫が掴んだ成果
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HEADLINE
プロフィール
代表取締役社長
中山 彰人 氏
ボトムアップの変革を見守り、支える経営者。
取締役
営業デジタル推進本部長 経営企画室長
伊藤 浩嗣 氏
DX推進の責任者
経営企画室 係長
渥美 朋子 氏
業務現場へのデータ分析・活用の啓蒙活動を担当。
DX推進の背景にあった課題
2015年8月から、DX認定制度取得につながる取り組みを始めた浜松倉庫。創業から115年たつ老舗企業が抱えていた課題とは、どのようなものだったのでしょうか。
人材確保に関する危機感の高まり
同社がDX認定を取得するに至った経緯として、同社 代表取締役社長の中山 彰人氏は次のように話します。
元々DX認定を取得する考えはなかったのですが、私たちと同じ浜松市に本社を構えるヤマハ様が2021年4月に認定を受けたという新聞記事を見て、私たちも「これまで自分たちがやってきた取り組みは、DX認定に値するのではないか」と考えたのです。浜松市で共に活動する中堅・中小企業のPRとなり、さらには日本の倉庫業界の地位向上にもつながっていけばという思いもありました。
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DX認定制度を取得するに至る取り組みは、2015年8月から始まりました。当時、浜松倉庫は人材育成の課題を痛感していたといいます。
昨今の少子高齢化、生産年齢人口の減少などの影響を最も受けるのは、地方の中堅・中小企業です。当社も今後どうやって必要な人材を確保し、育成していけば良いのか。限られた人材を最大限にいかすためにも、業務を抜本的に変革しなければならないという危機感がありました。「業務の変革」は既存の人材にとって大きな影響を与える取り組みです。そのため、現場の声を反映できるボトムアップ式で会社を変革していこうと考えました。
改革に注力してDXを推進
こうして、3年超に及ぶDX推進プロジェクトがスタートしました。同社 取締役 営業デジタル推進本部長 経営企画室長の伊藤 浩嗣氏は、その概要を次のように話します。
プロジェクトの1期目となる最初の4カ月で、自分たちが今後どういう方向に進んでいくべきか、全ての従業員にアンケートを取り、寄せられた意見を整理しました。アンケート結果に基づき、2期目としてさらに7カ月間をかけて、現場視点から営業、倉庫、事務所など、それぞれの既存の業務フローにおける問題点を洗い出しました。
浜松倉庫におけるDXへの取り組みは、システム導入ありきではなく、業務に内在している理想(To-Be)と現状(As-Is)のギャップを埋めるために、現場の様々な課題に寄り添ってきたことが特徴です。
2015年当時はまだDXという言葉が一般的でなかったこともありますが、私たちは一貫してD(デジタル)よりも、X(トランスフォーメーション)に重点を置いた施策を推進してきました。現場の課題を解決し、従業員にとって働きやすい労働環境を整備することが重要だと考えたためです。ただ、ボトムアップの社内変革といっても伊藤たちに任せきりにはしていません。私も本プロジェクトに参画し、「チャレンジしよう」と常に呼びかけてきました。ボトムアップ型DXであっても、経営層が積極的に取り組む姿勢を見せることが重要だと思っています。
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DXの実践によって得られた成果
推進役の抜てきと地道な社内啓蒙活動
理想と現実のギャップを埋め、業務に変革を起こすためには何が必要か――。その手段の一つとして浜松倉庫が決断したのが、約40年間使い続けてきたスクラッチ開発の倉庫管理システム(WMS)の刷新です。
また新たなWMSを通じて収集したデータを分析・活用し、顧客や荷主、さらには従業員に対して、新たな価値を提供する基盤として「Qlik Sense」を導入しました。
ただ、いきなりシステムを刷新・導入しても現場は混乱してしまいます。そこで浜松倉庫は、総力を挙げてデータ分析のスペシャリスト育成に取り組みました。
推進役として白羽の矢が立ったのは、経営企画室 係長の渥美 朋子氏です。渥美氏は本プロジェクトの開始前から、Excelを活用したデータ分析で現場の課題解決に貢献してきた背景があります。
先んじてデータ分析・活用に取り組み、現場に貢献してきた渥美は、周囲から慕われ、頼られていました。データ活用の必要性を感じている渥美だったからこそ、スペシャリストとして活躍してくれるのではないかと期待した側面もあります。彼女をデータ分析・活用の推進役に抜てきしたのは、システムに習熟しており、なおかつデータ活用を社内に広めることができる「伝道者」の役割を担ってほしかったからです。渥美を通じて少しずつデータ活用の理解者を増やし、社内の不安感を解消したいと考えました。
Excelで現場の課題を解決してきたことは、仕事への「やりがい」を感じられる非常に貴重な経験でした。今回データ活用の推進役に選んでいただいたことも、すごく喜ばしいことだと受け止めています。もともとExcelは業務での活用が期待できると思い積極的に使っていましたが、私は関数が使えるというだけでマクロやプログラミングといったものは使えません。そのためQlik Senseの導入にも最初は不安がありましたが、分からないところはベンダーやアシストに積極的に聞いて教えていただきました。Excelでは固まってしまっていたビッグデータが、Qlik Senseでは簡単に分析することができます。導入後は、今まで以上にたくさんのデータをより精度高く、現場にフィードバックすることができるようになりました。
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さらに浜松倉庫は、ボトムアップで業務変革を進める中で社内人材のモチベーションを高めるための活動も展開しました。
各部署に対して個別の説明会や勉強会を開催するほか、社員向け説明会では中山社長に登壇していただき、全従業員にメッセージを発信しました。また、手づくりの広報誌を発行したり、システムの名称を公募したりといったことも行い、変革に向けて全従業員の意識を一つに合わせていきました。これらの経験から、従業員の意識を統一する為の特効薬はない、と感じています。大切なことは、小さなことを一つ一つ積み重ねていくことですね。
倉庫現場においてシステム化による定量目標を達成
上記のような取り組みを経て、最初に成果が表れたのが倉庫現場です。
従来は電話やFAXで行っていた顧客からの入出庫依頼をWebやメール取込・EDIなど窓口を増やしデータ化に統一することで、データを手入力していた作業負荷を大幅に削減するとともに、全倉庫内を無線LAN化したことで在庫確認や入出庫状況をリアルタイムで確認できる環境が整備されました。
本プロジェクトと並行して、新たな拠点となる「都田流通センター」を2019年7月にオープンしたのですが、新たなスタッフを募集する必要はありませんでした。倉庫業務の効率化によって人的リソースに余裕ができ、10人の従業員を新センターに配置転換することができたのです。
こうした人材の有効活用を通じて、浜松倉庫はシステム化による定量目標をほぼ達成することができました。
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データ分析・活用のノウハウを全社に横展開
常駐相談会で現場の困りごとを解決
現在、浜松倉庫は倉庫業務で実証された効果を全社に広げるべく、営業や事務所へのシステムの横展開を進めています。その一環として、「常駐相談会」と名付けた取り組みを実施しています。
システムは導入よりも“定着”させることが重要です。そこで経営企画室のメンバーが各事務所を順に回り、丸1日滞在して現場の困りごとを発見し、データ活用による課題解決のサポートをしています。2018年9月に新システムをリリースして以降、常駐相談会は月1回のペースで実施し続けています。今後も継続していく予定です。
実際に常駐相談会は、現場に寄り添った業務の課題解決に大きく貢献しています。渥美氏は、次のような例を紹介します。
ある営業所を訪れた際に若手社員より、「先輩は出荷の物量から作業完了の予想時間を立てられるが、自分は経験不足で予想が立てられない。どうやったらそれが分かるようになるか?」という相談を受けました。そこでWMSに定期的にアクセスして進捗状況を入手し、データをQlik Senseに取り込み過去の業務効率をHHTのログなどと照らし合わせることで、作業完了までの残り時間を予測。さらにその画面をRPAでキャプチャして、ビジネスチャットを通じて自動でスマートフォンに通知する仕組みを作りました。この施策は現場から非常に好評で、その後口コミでこの仕組みを知った他の事務所から「うちでもぜひ使ってみたい」という声が殺到し、現在では全社的に利用が広がっています。
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エビデンスありきの営業活動へ
さらに新システムは、営業活動にも大きな変化をもたらしたといいます。
お客様と業務改善交渉をする際に、根拠の見えないどんぶり勘定では聞き入れてもらえません。実際に作業に費やした工数をWMS上でログとして管理し、Qlik Senseで集計して提示すると明らかにお客様の反応は変わりました。業務改善にも理解を示していただけています。その他に、事務所の従業員の業務内容も変わってきています。これまでは入力作業を主に行っていましたが、データを収集して得られた情報を基にお客様へ提案する業務が増えてきました。弊社の営業活動は、エビデンス(データ)ありきでお客様に提案・交渉する活動へと変化しつつあることを実感しています。
さらなるDXの推進へ
今後に向けて、浜松倉庫はDXへの取り組みをさらに進めていく構えです。物流業界における最大の課題は、依然として人材の確保と育成にあり、中山氏はこのような方針を示します。
今後ますます新規採用が厳しくなっていくのは疑いようがありません。当社としてもロボット化やAI活用など、さらなる業務変革を進める必要があります。今後はデータを扱える人材の育成がさらに求められるでしょう。
この言葉を受けて、渥美氏も今まで以上に大きな役割を担う意気込みを語ります。
各業務現場でデータ活用を促すためには、まだまだ下支えが必要です。様々な業務の担当者が自力でデータ分析・活用を行えるようになる日まで、私が現場とシステムとの架け橋になりたいと思います。
浜松倉庫の取り組みは、自社の変革だけにとどまりません。物流業界全体に変革を起こすため、伊藤氏は次のように将来を見据えています。
物流業界はDXへの取り組みが遅れていると言われていますが、その分大きな“伸びしろ”があるのも事実です。そうした中で私たちは、既存のサービスの延長線上ではなく、X(トランスフォーメーション)に注力した展開ができればと考えています。例えば、現在は紙でやりとりしている納品書などの帳票を、クラウド上からダウンロードできるようにするだけでも、当社も荷主様も、その先にいるお客様も業務を大きく効率化することができるのではと思います。
視野を広げて物流業界全体でデータを共有し、全てのステークホルダーがウィンウィン(win-win)の関係性を築く未来を目指し、浜松倉庫は前進を続けています。
※ 掲載内容は、取材当時(2022年11月)のものです。現時点の情報と異なる場合があります。
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