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ソリューション研究会 情報交流会
「論理的思考を鍛える~論理的思考を組み込んだフレームワークを使いこなそう!!~」

ソリューション研究会 情報交流会


よく耳にする「論理的思考」。言葉として聞いたことはあるものの、具体的にどのような能力を指すのか、また、その能力はどうやって鍛えればいいのか。アシストのユーザ会であるソリューション研究会「情報交流会」で、日本社会人ディベート連盟(JBDF)の2代目会長を務められた加藤亨氏にお話しいただきました。

講演者紹介

千代田システムテクノロジーズ株式会社
取締役 常務執行役員 IT事業本部長 加藤 亨氏

1978年、千代田化工建設株式会社入社後、同社の様々な情報化プロジェクトを担当。1999年、同社の情報子会社 ITエンジニアリング株式会社(現社名、千代田システムテクノロジーズ株式会社)設立とともに移籍。ネットワーク事業部長、ERM事業部長、C-IT事業部長などを歴任。現在、取締役 常務執行役員 IT事業本部長。

社外活動:ISO/TC258国内委員会、日本技術士会男女共同参画委員 など


NHKで放映された「めざせ!2020年のオリンピアン/パラリンピアン」で、メダリストが選んだ名言No.1は、バルセロナオリンピックでの有森裕子さんの言葉でした。「メダルの色は銅かもしれませんけど、終わってから何でもっと頑張れなかったんだろうって思うレースはしたくなかったし、今回はそう思ってないし、初めて自分で自分を褒めたいと思います」。数々の名言がある中、なぜこの言葉が選ばれたのか。マラソンという過酷なレースが終わった直後のインタビューに、自ら判断基準を明示し、その基準に対する自らのパフォーマンスを根拠として「自分を褒めたい」と言い切った論理的な説明が、多くのトップアスリートの共感を呼んだのではないでしょうか。

論理的思考


論理的思考を身に付けるには、論理的思考を組み込んだフレームワークを学び、使いこなすことが近道になります。フレームワークには次のようなものがあります。

トゥールミンモデル


物事を述べるときに「主張(何が言いたいか)」、「論拠(なぜそう言えるのか)」、「データ(証拠はあるか)」の3点をセットにして説明するのがトゥールミンモデルの基本です。
以下が、その3点の例示です。
 
主張の種類
1. 事実、真実として - 主張日本人は働き過ぎである など
2. 葉の定義に関する主張 - SQCとは統計的手法を活用した品質管理の活動である など
3. 価値観に関する主張 - 人生において、もっとも重要なのは幸せである など
4. 方針、政策に関する主張 - 日本はサマータイム制を導入すべきである など

論拠の種類
1. 論理的説明 - 因果関係、兆候、帰納法、演繹法、類推
2. 専門家の意見 
3. 情緒的説明
  
データの種類
1. 物証 - 写真、録音テープ、証拠物件など
2. 記録、報道 - 過去に起きたこと、報道記事など
3. 統計 - 統計資料など
4. 専門家の意見 - 専門書の記述など

例:原油価格が値下がりしている(データ)。原油とガソリンの価格は連動して動く(論拠)。したがって、ガソリン価格は値下がりする(主張)。

帰納法と演繹法


帰納法は、いくつかの事例から一般法則を見出す方法です。具体的な事例から始められるため、議論しやすいのが特徴です。ただし、少ない事例から結論を出すと誤った結論になったり、説得力に欠けたりします。

例:ハトは羽がある。カラスも羽がある。 ⇒ 鳥には羽がある。
間違った例:ハトは飛ぶ。カラスも飛ぶ。 ⇒ 鳥は飛ぶ。(ダチョウは飛ばない。)

演繹法は、一般化された考えを、個々の例に当てはめる方法です。「大前提」「中前提」「結論」の三段で進めることから、三段論法とも呼ばれます。一つひとつの前提を積み上げていくので説得力があります。デメリットは、前提を確認しながら進めるため時間がかかりやすいこと、そして、誤った前提から導きだされる結論は誤ったものになることです。

例:すべての人間は死すべきものである(大前提)。ソクラテスは人間である(中前提)。ゆえにソクラテスは死すべきものである(結論)。
間違った例:野菜は緑色である(大前提)。人参は野菜だ(中前提)。ゆえに人参は緑色である(結論)。

帰納法的アプローチと演繹法的アプローチの融合


業務上の具体的な課題解決には、帰納法的または演繹法的なアプローチを応用しますが、それぞれメリットとデメリットがあります。

現実の課題に対して解決法を考えるのが、帰納法的アプローチです。

帰納法的アプローチ

特徴
・現状の問題点の解決策議論に向いている。
・全体の統一性の保証がなく、組織の方針に対応策が合致しているかがわからない。
・優先順位が付けられない。

一方、世の中の状況などを分析して現状の課題を洗い出し、大方針から個々の対策へ落とし込んでいくのが演繹法的アプローチです。

演繹法的アプローチ

特徴
・組織の方向性を決めるプロセスであり、重要である。
・前提を決めるための議論に時間がかかる傾向がある。
・具体的な対応策に落とし込むのが難しい。
・現場の問題点との整合性のとり方が難しい。

そこで、両者の特徴を活かした「演繹的帰納法」とでもいうべき課題解決が有効となります。まず、帰納法的アプローチで課題と対応策を抽出します。次に、演繹法的アプローチでビジョンを設定し、そのビジョンから評価基準を設定します。その評価基準で課題と対応策に評価と優先順位を付ければ、組織の方向性に沿った優先順位を持った対応策が導き出されます。

帰納法的アプローチと演繹法的アプローチの融合1

帰納法的アプローチと演繹法的アプローチの融合2


仮説検証


仮説検証は、仮説を立て、その仮説の正否を確かめることによって妥当な判断を導き出す方法です。エジプト考古学者の吉村作治先生は、ピラミッドの発掘時に次のような仮説を立てて臨んだと語っています。「ピラミッドは巨大な石でできている。古代は自動車も列車もなかったので、巨大な石はイカダを組んで川で運んだに違いない。一方で、エジプトのナイル川は氾濫することで有名だが、国を挙げての建造物であるピラミッドが氾濫のたびに流されるような場所にあっては困る。したがって、ピラミッドはナイル川近くの、氾濫が起こっても水が届かない小高い丘の上にあったに違いない」。

この仮説を、実証するために、衛星から撮影した映像から発掘場所を特定し、吉村先生は大きな王族の墓を発見し、その中から未盗掘のミイラを見つけました。それは世紀の大発見で、日本考古学の第一歩を開いたと言われています。このように、仮説を立てて検証するのが仮説検証です。仮説検証は演繹法的アプローチの一種と考えても良いでしょう。

相手を見て法を説く


論理的説明とは異なりますが、「相手を見て法を説く」もフレームワークの一つとして覚えておくと効果的です。

・O(Objective:目的)
・B(Benefit:効果)
・F(Function:機能)

経営者への説明はO→B→Fの順に行います。これは演繹法的アプローチです。担当者への説明はF→B→Oの順に行います。こちらは帰納法的アプローチです。

経営者向けの例:
コミュニケーション能力の向上という目的を達成するためには、効率的なコミュニケーションを実践する必要があり、電子メールの同報配信機能は有効である。

担当者向けの例:
電子メールの同報配信機能は、コミュニケーションを効率的に行えるという効果があり、コミュニケーション能力の向上という目的の達成に貢献する。

全体感を持った文章を書くために


全体感を持った報告書や論文を書くためのフレームワークを紹介します。

2軸分析


漏れなくダブリなく考えるには、2軸分析が有効です。例えば事業を、収益性が「高い or 低い」、リスクが「高い or 低い」の2軸で4グループに分けると、すべての事業がこのどこかに入ります。このように2軸で全体を把握すると、全体感が見えます。

2軸分析


ピラミッド構造


ピラミッド構造の最たる例はワーク・ブレークダウン・ストラクチャー(WBS)です。WBSは、プロジェクトで作る成果物を分解し、その成果物を作るための作業をさらに分解し、さらに最後まで分解します。最後の分解レベルはその上の要素すべての作業が含まれていることになるので、全体感が見えます。

ディベート


一つの論題に対し、話し手が肯定側と否定側に分かれ、自分たちの優位性を聴き手に論理的に説明をするコミュニケーション手法です。証拠資料を用いて説明するので、トゥールミンモデルを使います。聴衆である第三者に「肯定側の論点」「否定側の論点」「どのような点で自分たちがロジック的に上回っているか」を説明し、「したがって自分たちのアイデアの方が優れている」と展開していきます。ディベートの手法からは「物事には必ず複数の視点があること」「相手の論理をよく聞くこと」「対立を恐れずに議論を高めること」などを学ぶことができ、論理的思考や全体を把握する力が身に付きます。

ディベートでは、肯定側が論題を採択する必要性があることを明確に示すことが出発点となります。そのための典型的な論理展開(フレームワーク)が“主要争点(stock issues)”です。主要争点は以下の3つの視点です。

・重大性(significance):現状に解消すべき重大な弊害があるか。
・相依性・内因性(inherency):その弊害は、現在の政策が原因か。
・可解性(solvency):提案する政策は弊害を解決するのか。

肯定側の立論は、重大性→内因性→新たな政策の提案→可解性、というフォームで展開されます。

起承転結


日本の典型的な文章の展開は、起承転結という形になります。

・起:ストーリーの導入部分
・承:導入を受けての展開部分
・転:新しい価値観を提示
・結:前の文章全体を受けてのまとめ

この文章構成は、よく見るとディベートにおける肯定側の立論の展開と同じ型になっています。わかりやすい文章を書く型は、世界共通なのかもしれません。

わかりやすく説明するために


プレゼンテーションのような口頭のコミュニケーションでは、語られた言葉は後から振り返ることができません。口頭で説明する時には、最初にロードマップを提示する、あるいは先に結論を示すことが重要です。また、発声と滑舌が良いとより伝わりやすくなります。さらに日本語の場合は、「~思います」「~思いません」のように語尾で意味が変わってきますので、日本語のプレゼンテーションでは語尾をはっきり言うと聴く側に親切です。

最後に


論理的思考を組み込んだフレームワークを繰り返し利用すると、課題解決力と応用力が身に付きます。それを繰り返し工夫しながら利用して、鍛えていくことで、コンピテンス(実務能力)が高まります。本日のお話がみなさんの実務能力向上のお役に立てば幸いです。

講演内で紹介した書籍
『働く君に贈る25の言葉』 佐々木常夫 著 (WAVE出版)
『英語ディベート実践マニュアル』 松本茂 著 (バベル・プレス)
『ミイラ発見!!』 吉村作治 著 (汐文社)
『実務で役立つWBS入門』 Gregory T. Haugam 著/伊藤衡 監訳 (翔泳社)
『図解 バランス・スコアカード』 松永達也 著 (東洋経済新報社)


ソリューション研究会とは

株式会社アシストでは、お客様主体のユーザ会である「ソリューション研究会」を運営しています。ソリューション研究会は、アシストの提供するソフトウェアおよび各種サービスをご利用いただいているお客様相互の交流を育む場として、日頃お客様が抱えておられる課題や疑問をお客様同士で討議し、意見交換を行っていただくことを目的に活動しています。ソリューション研究会は、定例会・情報交流会・分科会の3つの活動で成り立っています。

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