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株式会社アシストでは、2022年より金融業界のお客様と共に「金融AI交流会」を定期的に開催しています。業界の垣根を越え、AIやDXに関する各社のリアルな取り組みや課題を共有する貴重な場となっています。

2025年10月9日、本交流会に参加されている株式会社セブン銀行、三菱UFJ信託銀行株式会社、東京海上ホールディングス株式会社、ライフネット生命保険株式会社、株式会社エムアンドシーシステムのAI現場リーダーの皆様にお集まりいただき、座談会を開催しました。

テーマは「2030年の金融業界」。
しかし、未来を語るはずの議論の焦点は、「2030年を待たずに始まっている変革」と、今まさに現場が直面する「リアルな現在地」にありました。

本記事では、AIと共に働く未来がすぐそこまで迫る中、最前線を走るリーダーたちがどのような視点で日々業務に向き合っているのか、その思考の裏側をお届けします。ぜひ最後までご覧ください。

金融AI交流会2025年 座談会をポッドキャストで公開中。
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第1章:未来のAI活用像 ― トップランナーが語る「パーソナルAI」の現実味

今回の座談会は、未来のAI活用を描いた2つのコンセプトビデオの紹介から始まりました。

一つは、社員一人一人の完璧な相棒となる「クリスタル」。もう一つは、自律的に開発を進める「Devin」の紹介です。どちらもただ単に人間の指示通りに動くのではなく、パーソナルAIの領域を大きく超え自律的に計画立案から実行、さらに試行錯誤を繰り返し行動を修正していく「AIエージェント」と呼ばれるものです。

これらはもはやSFの世界の話なのでしょうか。それとも、すぐそこまで来ている未来なのでしょうか。

(1)もはや実現可能?パーソナルAI「クリスタル」の衝撃

最初に紹介されたのは、社員一人一人に最適化された情報を提供するパーソナルAIアシスタント「クリスタル」(※参照)です。

クリスタルは、社内外のあらゆる情報を統合し、事業計画書の作成から海外出張の手配までを自律的に実行します。さらには自ら学習・連携して成長し続ける、まさに「最強の相棒」として描かれていました。

未来的なUI(ユーザーインターフェース)に「怪しい(笑)」との声も上がりましたが、その機能の本質については「中身自体はすぐにできそう」という意見で一致。
実際に、AIが社の規定を参照しながら出張計画を立て、外部サービスと連携して予約まで行う仕組みは、すでに他業界で実用化されている事例が共有されました。

(2)チームの一員として働く、自律型AIエンジニア「Devin」

次に紹介されたのは、テキストで指示するだけで、計画立案から設計、テストまでを自己完結させる自律型AIエンジニア「Devin」です。

単なる「道具」ではなく、開発チームの「一員」として機能するDevinは、すでにゴールドマン・サックスなどで活用が始まっていると紹介され、その能力の高さに参加者も注目しました。

(※)クリスタルとパーソナルAIエージェント
ユーザーに代わり自律的に判断・行動するAI(パーソナルAIエージェント)の構想を、企業向けに具現化したサービスが「クリスタル(Crystal Intelligence)」である(ソフトバンク公開動画内の表現より引用)。


~理想と現実のギャップ、金融業界を阻む「3つの要素」~

コンセプトビデオが描く未来がすぐそこまで迫る一方で、議論は「では、なぜ私たちの現場に導入できないのか?」という現実的なテーマに移ります。特にDevinのような自律型AIの導入には、金融業界特有の大きな要素が3つ存在することが語られました。

①乗り越えられない「セキュリティとデータ主権」
②100%の正確性を求めるが故の「信頼性」
③権限をどこまで与えるか?「管理」

コンセプトビデオが描く未来がすぐそこまで迫る一方で、「従来のRPAとAIエージェントは何が違うのか」から参加者の議論が始まりました。


第2章:主役は交代する ― 「AIエージェント」はRPAと何が決定的に違うのか?

数年前に業務自動化の切り札として期待されたRPA(Robotic Process Automation)が、なぜ期待されたほどの変革を起こせなかったのか。その反省とともに、AIエージェントは「RPAの再来」で終わるのか、それとも全く新しい価値をもたらすのか、その決定的な違いが議論されました。

(1)AIエージェントの本質は「自ら学習し、行動を修正する」能力

AIエージェントとは、一体何なのでしょうか。

座談会では、その本質が「外部から情報を取得し、その情報に基づいてアクションを起こし、結果のフィードバックから自らの行動を修正し続けられる」点にあると定義されました。

これは、単に質問に答えるだけのAIとは一線を画します。
自律的にコーディングから修正まで行う「Devin」のように、与えられた指示に対して、自ら計画を立て、試行錯誤を繰り返しながらタスクを遂行する能力こそが、AIエージェントの最大の特徴です。

(2)RPAの限界とAIエージェントのポテンシャル

では、かつてのRPAと何が違うのでしょうか。

RPAは、あらかじめ決められたルール通りに動く「自動化」であり、個人の業務効率化が主な目的でした。しかし、AIエージェントは、組織全体のプロセスを変革するポテンシャルを秘めています。

AIエージェントは、専門性によって生まれた部門間の「壁(サイロ)」を乗り越える力がある、と参加者は指摘します。例えば、「〇〇業務専門エージェント」が特定の部門業務を丸ごと代替することで、組織のあり方そのものが、より柔軟で横断的な形に再編される未来が予測されました。

(3)成功の鍵は「トップダウンの意思決定」

しかし、この変革を成功させるためには、現場レベルの導入だけでは不十分です。RPAがそうであったように、単に「自分の仕事を楽にするため」のツールで終わってしまいます。

AIエージェントの導入を、「仕事の形を変え、組織を次のステージに進める」という経営戦略として位置付け、トップダウンで推進する強い意志決定が不可欠である、という点で参加者の意見は一致しました。

この意思決定なくしては、せっかくのポテンシャルを活かせず、大きな変革の波に乗り遅れてしまう。AIエージェントの導入は、技術の問題だけでなく、経営そのものの問題として捉える必要があります。


第3章:AI導入を阻む「3つの壁」と、その乗り越え方

AIエージェントという自律的なパートナーの登場は、大きな可能性を秘めています。しかし、その導入には、特に金融業界特有の大きな壁が立ちはだかります。

議論では、①ハルシネーション(AIの嘘)②厳格なセキュリティ、そして最大の足かせである③データ整備という「3つの壁」が挙げられました。現場リーダーたちは、これらの壁にどう立ち向かっているのでしょうか。

(1)【信頼性の壁】100%の正確性をどう担保するか?

AIは誤情報と言われる「ハルシネーション」を生成する可能性があります。かつてAIが、存在しない論文を生成した例もあり、現場には「AIの回答は信じられない」という根強い警戒感がありました。

しかし、最近のモデルは出典を明記するなど説明性が向上し、その信頼度は着実に高まっています。重要なのは、AIを盲信するのではなく、その限界を理解した上で「使いこなす」リテラシーを全社で持つことです。

<期待値調整のうまいやり方:ライフネット生命の「AI短歌キャンペーン」>
ライフネット生命保険では、AIに短歌(57577)を詠ませるキャンペーンを実施。AIがうまく詠めないことを社内で共有することで、「AIは完璧ではない」という認識を遊び心をもって浸透させ、過度な期待や不信感を初期段階で払拭することに成功しました。

[note]社内向けAIサービスの開発者が語る! 生成AI導入を推進した3つの戦略
https://note.lifenet-seimei.co.jp/n/nb15c67a7d450

(2)【制度の壁】厳格なセキュリティとガバナンス

AI導入における最大の障壁として挙げられたのが、このセキュリティの問題です。

  • データ主権と「国内閉じ」の制約
    各種法規制などにより「データは国内サーバー」という制約が、海外の先進的なAIサービスの活用を阻む大きな足かせとなっています。機密性の高いソースコードやデータをAIが外部サーバーと連携して処理することへの懸念は根強く、セブン銀行やライフネット生命では導入を見合わせたという実情が共有されました。

  • 「シャドウIT」対策
    社員が許可なく外部AIを利用し情報漏洩を招くリスクに対し、各社はセキュリティを確保した「社内版AI環境」を構築し、研修などを通じて利用を促す対策を急いでいます。

  • 権限に関するガバナンス
    自律的に思考し、行動を修正し続けるAIエージェントに、「どこまでの行動を許すか」という悩みは尽きません。要件定義がずれたままAIが暴走した場合、人間が止められないリスクも指摘され、AIの自由度と統制をどう両立させるかが大きな課題として浮かび上がりました。

では、自律的に動くAIエージェントをどう安全に活用すれば良いのでしょうか。その一つの解として、「3環境分離」という技術的なアプローチが提案されました。

これは、「本番環境」、「開発環境」に加え、AIだけが自由に動ける「AI専用の仮想環境」を用意する考え方です。AIは仮想環境内で自由にコーディングやテストを行い、人間がその「完成品だけ」を本番環境に移す。この仕組みにより、AIの自由度とシステムの安全性を両立させることが可能になります。

<東京海上日動火災保険の社内版AI環境構築事例>
全社員向け生成AI “One-AI for Tokio Marine”の活用開始
~ChatGPTによる業務効率化を実現~

https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/company/release/pdf/231012_01.pdf

(3)【データの壁】暗黙知や散在するデータの整備

AIの進化スピードよりも、導入の遅れを生んでいることへの解決策は、単にデータ整備するのではなく、品質の高いデータを取得するための整備が必要であるという点で参加者の認識は一致しました。

AIが真価を発揮するには、社内のデータやナレッジが整理され、いつでも呼び出せる状態になっている必要があります。しかし、多くの企業では、マニュアル化されていないベテランの「暗黙知」や、各所に散らばったままの議事録などが多く、その整備が追いついていません。

<現場の工夫:Google NotebookLMの活用>
ある部署では、過去の議事録を全てGoogleのNotebookLMに登録し、AIで検索・要約できるようにする試みが自主的に行われているとのこと。これにより、他部署の活動内容をすぐに把握でき、組織横断での意思決定のスピードアップが期待されています。

結局のところ、AIを賢くするためには、地道なデータの整理が不可欠です。私たちは、「一生懸命データを整備する時代」に確実に入ったと結論付けられました。


第4章:ビジネスと人材の未来 ― 保険は「予防」へ、データサイエンティストは「ビジネス実装家」へ

AI技術は、単なる業務効率化に留まらず、金融機関が顧客に提供する価値の根幹、すなわちビジネスモデルそのものを変革します。

座談会では、特に保険業界の未来像と、それに伴い変化を迫られる専門職の役割について、未来を見据えた議論が交わされました。

(1)保険の概念が変わる。「万が一の備え」から「リスク予防サービス」への大転換

AIによるリスク予測能力の劇的な向上は、保険のあり方を根本から変える可能性があります。

スマートウォッチなどが収集するライフログデータをAIが詳細に分析し、個人の疾病リスクや事故確率を高い精度で予測できるようになる未来。そこでは、保険の役割が「事故後の金銭的な補償・保障」から「事故を未然に防ぐためのサービス」へと大きくシフトします。

これは、顧客の健康増進努力に応じて保険料を割り引く住友生命保険の「Vitality」のようなサービスに、すでにその兆候が現れています。

しかし、リスク予測が個人レベルで可能になると、「リスクの平準化」という大原則が崩壊し、「あなたの保険料は2億円、あなたは0円」といった極端な差が生じかねません。データサイエンティストは、「予測できすぎても、お客さんにとっては嬉しくないことがある」というジレンマに直面することがあります。

(2)専門職は消える? AI時代に求められる本当の価値

AIエージェントの台頭は、データサイエンティスト(DS)やコンサルタントといった専門職の役割に、根本的な変革を迫ります。

データサイエンティスト:「技術」から「ビジネス実装」へ

分析やモデル構築といった技術的な作業は、AIに代替され、コモディティ化していく。座談会では、極めて能力の高い一部を除き、専門職としてのDSは消えていくという厳しい見解が示されました。

では、DSはどこで価値を発揮するのか?答えは、技術力ではなく「ビジネス力」です。事業課題を発見し、AIでどう価値を創出するかの戦略を描き、分析だけで終わらずに現場で成果が出るまで踏み込む「実装力」。そして、「お客さんにとって本当に嬉しいことは何か」を考える顧客目線。これからのDSには、技術者ではなく、ビジネスを成功に導くプロデューサーとしての役割が求められます。

コンサルタント:価値の源泉は「責任」へ

市場調査、データ分析、戦略資料の作成といったコンサルタントの主要業務も、その多くがAIに代替される可能性があります。 AI時代にコンサルタントが提供できる真の価値は、AIにはない業界の深い知見や人的ネットワーク、そして何よりも、最終的な提案に対する「責任の所在」となるのではないか、と考察されました。

AIが進化すればするほど、私たち人間は、単なる作業者ではなく、ビジネスの価値や倫理観に責任を持つ、より本質的な役割を担うことになるのです。


第5章:【総括】AI時代を生き抜くために、私たちが「捨てるべき常識」と「獲得すべきスキル」

座談会の締めくくりとして、参加者全員が「未来への指針」を共有しました。

AIの進化がもたらす変化の波に乗り、未来のビジネスシーンで価値を発揮し続けるために、私たちは何を「捨て」、何を「獲得」すべきなのでしょうか。現場の最前線を走るリーダーたちの言葉は、私たち一人一人のキャリアとビジネス戦略を考える上で、重要な道しるべとなるはずです。

(1)今すぐ捨て去るべき「7つの古い常識」

議論の中で、もはや通用しなくなると指摘された「古い常識」は以下の通りです。

  • 「人間にしかできない」という思い込み
    「この仕事だけは人手が必要だ」と考えている業務こそ、5年後にはAIに置き換わっている可能性を常に意識する必要があります。

  • 「自分はAIに代替されない」という楽観
    自分自身の作業も例外ではないと捉え、どの業務がAIに置き換わるかを日々考える視点が求められます。

  • 「人間がAIより優れている」という前提
    AIの能力は1~2年で人間を超える、というマインドセットへの転換が急務です。

  • 完璧主義(100%でないとダメという考え)
    全ての業務に100%の正確性が求められるわけではありません。利益とリスクのバランスを考え、柔軟な基準を持つことが重要です。

  • AIを単なる「道具」として見る視点
    AIはもはや道具ではなく、共に仕事を進める「パートナー」です。その世界観を肌感覚で持つ必要があります。

  • リスクを恐れて「触らない」という姿
    AIを使っている人といない人の生産性の差は開く一方です。リスクを恐れて活用が遅れることこそが、最大のリスクになります。

  • サイロ化された非効率な業務
    多くの部署が同じような仕事をしている状況を捨て、ナレッジを共有し、業務の重複をなくしていくべきです。


(2)未来のために獲得すべき「3つの新スキル」

一方で、これからの時代に価値を提供し続けるために、新たに身に付けるべきスキルとして、以下の3つの方向性が示されました。

  • AIを使いこなす「実践力」
    AIを優秀なパートナーとして使いこなし、リスクを管理しながら成果を出す能力です。AIの出力を鵜呑みにせず、その内容を解釈し、説明する力、そして最終的なアウトプットに責任を持つ姿勢が求められます。

  • ビジネスを動かす「実装力」
    分析や資料作成はAIに任せ、人間は「事業課題の発見」や「AI活用戦略の立案」といった、より本質的なビジネススキルを磨く必要があります。分析結果を現場に実装し、顧客への価値提供まで繋げる実行力が重要です。

  • 人間ならではの「価値観と繋がり」
    AIによる均質化が進む中で、偶発的なチャンスや信頼を生む「人との繋がり」の価値は、より一層高まります。また、AIの提案に振り回されないための「自分自身のスタンス(軸)」や、他者との差別化に繋がる「個性」を磨くことが、最終的に人間ならではの価値となります。


おわりに ― 変革のリアルな現在地から見えた未来

今回の座談会は、「2030年の金融業界」という未来のテーマから始まりました。しかし、議論の核心は、常に「今、現場で何が起きているか」というリアルな現在地にありました。

パーソナルAIエージェントの現実味と、それを阻むセキュリティやデータ整備の壁。RPAとの決定的な違いを見せた「AIエージェント」のポテンシャルと、それを活かすためのトップダウンの意思決定の重要性。そして、AIによって「予防」へとシフトする保険ビジネスや、「ビジネス実装家」へと役割を変えるデータサイエンティストの未来像。

そこで語られたのは、AIという不可逆的な変化の波を前に、私たちがいかに思考とスキルをアップデートしていくべきか、という切実な問いへの答えでした。

「人間にしかできない」という思い込みを捨て、AIを優秀なパートナーとして使いこなす。その上で、自分自身の軸を持ち、人との繋がりを大切にする。

2030年を待たずに始まっているこの大きな変革の時代を生き抜くヒントが、この記事の中に一つでも見つかれば幸いです。


座談会 開催概要

開催日:2025年10月9日(木)15:00-17:00
開催場所:株式会社セブン銀行(本社)
参加者:株式会社セブン銀行         中村 義幸 様
    三菱UFJ信託銀行株式会社        西潟 裕介 様
    東京海上ホールディングス株式会社   川村 雅之 様、高橋 直希 様
    ライフネット生命保険株式会社    橋詰 青弥 様
    株式会社エムアンドシーシステム    諏訪 明梨 様





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