スぺシャル座談会 待ったなしの人不足!どう乗り越える?どう育てる?
2019年10月25日
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先端技術を担う技術者、どう確保する?
蝦名:昨今、2020年問題として、技術者の定年や高齢化などによるIT人材不足が様々なメディアで取り上げられています。経済産業省の調べによると、2015年で約17万人だったIT業界での人材不足規模が、2030年には約59万人になると予測されています※。この統計情報を踏まえて、各社の現在の状況をお聞かせください。
(※2019年2月現在)
佐藤:既に数年前から人手不足は始まっています。定年退職者と新入社員の数が見合わず、毎年従業者数は減っています。少子化などにより減っていかざるを得ない状況であるため、人員を補充するだけでなく、少ない人数でも滞りなく業務が行えるように、仕組みを変えていかなければならないと思っています。また、SRE※のような先端技術を担う技術者はSIerやベンダーの力を借りて確保できればと思います。
(※Site Reliability Engineering)
幕田:私はアナリストとして、多くの運用管理部門のお客様とお付き合いがありますが、佐藤さんのおっしゃる通り、どこの会社も人員が不足している状況のようです。年代別に運用管理業務を行っている人数を調査したところ、50代、40代、30代と続き、20代が一番少なく、比率はわずか3%でした。圧倒的に若手が足りていない現状です。
河田:私はIT業界に特化した活動はしていませんが、人材不足はIT業界だけではなく、あらゆる業界で問題になっています。ただ一方で、世界の人口が増え続けていることや、仕事がない若者がいることを考えると、働く準備が出来た人員をどう採用するか、どう働く準備をさせていくのか、という視点を持つ必要があるのではないでしょうか。企業が大学などと連携して、「働くうえで使える知識や経験を教える」といった取り組みをすれば、大きな変革を生み出すことが出来ると思います。また、人が集まるような会社の仕組み・風土・雰囲気作りができれば、そこには優秀な人が集まってきますし、他企業との大きな差別化を図れるポイントにもなります。
IT業界を支える2タイプの人材像。能力を最大限に発揮できる環境作りとは?
蝦名:IPA※発行の「IT人材白書」2018年度版には、今後のIT業界を支えていく人材として、「価値創造型」と「課題解決型」の2種類のタイプが必要とあります。前者はアジャイル型で開発しており、「独創性・創造性」と「新しい技術への好奇心や適用力」が求められます。後者はウォーターフォール型の開発をしており、「IT業務の全般的な知識・業務ノウハウ」と「IT業務の着実さ・正確さ」が求められます。どちらのタイプも欠かせず、両輪をバランス良く回すことが必要とのことです。これを踏まえて、自社で不足している人材・スキル像をお聞かせください。
(※情報処理推進機構)
幕田:「価値創造型」のタイプは、技術力があるので、自分のやりたい仕事が出来るか否かで職場を選択する傾向にあります。環境が整わなければ新しい職場を求めて転職することもできます。技術力があるので転職先にも困らないでしょう。
河田:たしかに、「価値創造型」のタイプは、自由裁量で仕事を進めて行きたいという志向をもっているので、既存のルールに合わせなければならない場合には、そこで働くことに満足感を得られないケースがあります。それを解決するためには、「価値創造型」の人員を育て、マネジメントできる人員が必要ではないでしょうか。マネジメントのポイントは、チャレンジする場を提供する、評価基準を変える、この2つです。たとえば評価基準であれば、「課題解決型」は定時や残業時間のように時間を決めて働くタイプが多いですが、「価値創造型」は思いついたら夜中であってもやりたい、と考えるタイプが少なくないのではないでしょうか。価値創造型の人員を育成するために、既存のルールをどんどん変えていければ良いと思います。
蝦名:「働き方改革」が推進されるなかで、社員に働きやすい環境を整えながら、一方で残業時間の削減を行わなければならないとなると、好きな時間に好きなだけ働くということが難しくなってきました。
河田 :働くことが楽しければ、好きなだけ働くことは問題にならないことだと思います。「価値創造型」のマネジメントに必要なことは、マネージャーが現状を壊す勇気を持つことだと思います。例えば5年部長をやれば役職定年を迎える場合、その5年で何か変化を起こすより、何事も起こさず5年間を過ごすという発想をしがちだと思います。それでは変革は起こりません。自分が変える、という強い気持ちを持つマネージャーが現れるといいですね。
瀬戸山:組織内で変革を起こすために、マネジメントする立場の人間に必要なのは、決断と行動力、これに尽きると思います。あとは、積極的に部下とコミュニケーションを取るなど、風通しの良い職場環境を整えて、部下のモチベーションを上げることも大事だと思います。
蝦名:ここ数年、若い世代と仕事に対する感覚や考え方にギャップを感じることがあります。皆さんはいかがですか?
河田:若い世代に必要なことは、「生きがい」だと考えています。そして、仕事を通して生きがいを得られるようにすることが、会社にとっても大きな課題です。「働く」ということがどんなことかは、小中学生の頃から伝えていく必要があると思います。なぜならば、平日疲れ果てている親を見ているだけでは、働きたくない、大人になりたくない、と思ってしまうからです。将来働くことを通して「生きがい」を得るためには、働くということを、子供の頃からよく考えることが重要ではないでしょうか。
多種多様な人員の採用、魅力的な職場に向けてさらなる変革を
蝦名:これから私達は人材不足に向けてどういう準備をしていけばよいでしょうか?
幕田:運用管理分野に特化すると、子会社や海外から人員を確保するか、自動化するか、この2つしか解決策はないと思います。ただ、人件費も高騰している、自動化を作り上げる人員もいないという現状で、どうすればよいでしょうか。とある建設会社では、採用担当者がベトナムに渡り、現地でベトナム人を採用し、日本に連れてきたという事例があります。ベトナム人の平均年収が約2.5万円なのに対し、ITエンジニアは約15万円とかなり高く、優秀な人員も多いそうです。ベトナムからSREを担う優秀な人員を登用し、自動化を推進するという手段もあるのではないでしょうか。また、データサイエンティストや、機械学習の技術者などの雇用も、海外での採用が有効なのではないかと思います。
瀬戸山:育児休暇から復帰した社員は、休暇前よりも仕事のパフォーマンスが上がり、決断も早くなる傾向にあります。それは、育児が人を成長させるからだと思っています。育児休暇を取得しやすく、復帰後も仕事がしやすい環境を整えることも重要だと思います。
佐藤:SIerやベンダーへの委託だけではなく、外国人の採用も増えてきています。そのように多様な人員の活用に加えて、自社の社員に対しては、本人の希望や能力を鑑みて、チャレンジできる場やポジションを与え、外部の教育制度なども利用しながらスキルアップしてほしいと思っています。
河田:「今時の若い者は」という言葉をよく耳にしますが、誰でも若い頃はそう思われていたのです。若い人を否定するのではなく、その価値感や考え方が素晴らしいことを受け入れて、会社全体に変化を起こしていくことが大事なポイントだと思います。変化を起こすために一番大事な質問は、「本当に?」です。「本当にこの伝票が必要なのか?」「本当にこのやり方は正しいのか?」と、立ち止まって考える必要があります。日々の業務に慣れてくるにつれ、だんだんと思考が停止してきます。そうなると、変化は起きません。会社のすべての業務において、「本当にこれでいいのだろうか?」と見直すプロジェクトを立ち上げると、何かしらの変化が起こってくるはずです。
パネルディスカッション後記
アシストJP1ユーザ会 事務局 代表
パネリスト・モデレーターのご紹介
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