Qlik Training Blog

ビジュアライゼーション・分析

Qlik Cloudで考える、人とAIのためのセマンティックレイヤー

New

公開日:
ビジュアライゼーション・分析
#Qlik Cloud
#運用者
#開発者
#利用者
#可視化・分析

この記事では、人とAIが同じ意味でデータを活用するために必要な、セマンティックレイヤーの考え方と、Qlik Cloudでの実現方法を紹介します。

※本記事は「2026年9月2日時点のQlik Cloud Analytics」で作成しています。

はじめに

「今月の売上はいくらですか?」

この質問に対して、誰もが同じ数字を答えられるでしょうか。

営業部では受注金額、経理部では請求金額、経営層では返品を除いた売上金額を見ているかもしれません。どれも間違いとは限りませんが、定義が異なるままでは、数字を見ながら同じ議論をすることが難しくなります。

生成AIを使ってデータを検索・分析する場合も、同じ問題が起こります。AIが質問の意味を正しく理解し、適切なデータや計算方法を選ぶためには、業務上の用語とデータの関係を整理しておく必要があります。

そこで重要になるのが、セマンティックレイヤーです。

セマンティックレイヤーとは

セマンティックレイヤーは、データを業務で使う言葉に結び付け、意味や計算方法を整理する仕組みです。「業務用語の辞書」と「数字の計算ルール」を用意するもの、と考えると分かりやすいでしょう。

例えば、売上金額について、返品やキャンセルを含むか、どの日付を基準にするか、「受注金額」や「請求金額」とどう違うかを定義します。

Qlik Cloudでは、データモデル、マスターアイテム、ビジネス用語集などを組み合わせて、このセマンティックレイヤーの役割を実現します。 

人とAIの両方に必要な理由

人が同じ前提で会話できれば、「売上が増えた理由」を数字の定義から確認し直す必要がなく、原因や次の行動について議論できます。

AIにとっても、業務用語とデータ項目の関係は重要です。利用者が「売上」「売上高」と質問しても、データ上の項目名は「売上金額」かもしれません。意味を整理しておけば、AIが質問を適切な項目や指標に結び付けやすくなります。ただし、定義を整備したからといって、AIが必ず正しい回答を返すわけではありません。回答の前提を人が確認できる状態にすることが重要です。

Qlik Cloudで実現できること

1. 「同じ数字」を見ながら議論できる

営業実績では、例えば売上金額を「返品と消費税を除いた販売金額」と定義します。この指標を次の式で表し、マスターアイテムとして登録します。

Sum(売上金額)-Sum(返品額)-Sum(消費税)

この指標を各チャートで使えば、会議で同じ定義の数字を確認できます。「地域別の売上高」などの分析にも、普段の業務用語で取り組めます。

2. 利用者が自分の言葉でデータを探せる

Qlik Cloudの画面を操作する場合、利用者は「地域」や「売上金額」など、分析軸や指標を選んで、チャートやフィルターを組み合わせます。

Qlik Answersを利用する場合は、「地域別の売上高を見たい」のように普段の言葉で質問できます。Qlik Answersは、データモデルやマスターアイテム、ビジネス用語集に登録された定義・類義語などを手がかりに、質問に合う項目や指標を選びます。

そのため、正式な項目名と、利用者が普段使う言葉の関係を用語集などで整理しておくことが重要です。

正式な名前

利用者が使う別名

売上金額

売上、売上高、販売実績

顧客名

得意先、取引先

粗利益

粗利

このように、画面操作では項目の意味を確認しながら選択でき、Qlik AnswersではQlikアプリの項目名を覚えていなくても、普段の業務用語で質問しやすくなります。

3. AI(Qlik Answers)との対話から気づきを得られる

例えば、利用者がQlik Answersに次のように質問します。

「地域別に、先月と比べて売上が下がったところを教えてください。」

この質問に対してQlik Answersが適切に回答するには、売上の定義、地域の項目、比較する期間を理解する必要があります。定義が整理されていれば、Qlik Answersは結果を表示するだけでなく、「どの地域で変化が大きいか」「どの商品カテゴリが影響しているか」といった追加の確認にもつなげやすくなります。

ただし、Qlik Answersに限らず、AIの多くは人に代わって業務上の定義を決めるものではありません。どの指標を正式とするか、何を含めるか、結果をどう判断するかは、人が決める必要があります。

セマンティックレイヤーはQlikの中でどう管理するのか

マスターアイテムで指標と分析軸をそろえる

「売上金額」「粗利益」「粗利率」「顧客名」「地域」など、共通して使う項目をマスターアイテムとして管理します。マスターアイテムには、名前だけでなく、業務上の意味が分かる説明も記載します。

売上金額:返品と消費税を除いた販売金額。受注日を基準に集計する。


マスターアイテムを各チャートで使うことで、担当者ごとに異なる計算式を作ることを減らし、同じ定義の指標を繰り返し利用できます。

ビジネス用語集で業務用語をそろえる

セマンティックレイヤーのうち、業務用語の意味を整理する役割を担うのが、ビジネス用語集です。ビジネス用語集は、組織内で使われる用語とその定義を標準化するための機能です。用語をカテゴリに分け、定義、略称、関連用語、関連するアプリやデータへのリンクなどを登録できます。

例えば、「売上金額」という用語を、次のように登録します。

  • 定義:返品と消費税を除いた販売金額

  • 略称・別名:売上、売上高

  • 関連用語:受注金額、請求金額

  • カテゴリ:営業指標

「金額」だけではなく、何の金額なのかを明確にすることがポイントです。


用語をマスターアイテムに関連付ければ、業務用語の定義と、実際の分析で使う指標を結び付けて管理できます。


用語集は個別登録だけでなく、Excelファイルのインポート/エクスポートにも対応しています。Excelで用語を整理してからQlik Cloudに取り込む運用も可能です。また、Qlik Answersを利用して、対話形式で用語集を登録することもできます。

※なお、参考動画に「関連用語」という記載がありますが、「関連用語」は、人が用語同士の関係を理解するための情報です。Qlik Answersに指標の意味を伝える場合は、用語をマスターアイテムにリンクし、定義と類義語を整備します。

Qlik Answersにデータの意味を伝える

作成したアプリケーションでQlik Answersをアクティブ化(有効化)すると、アプリケーション内の項目やマスターアイテムの説明が自動で作成されます。

作成された内容を確認するには、アプリケーションメニューの[AI最適化]を開きます。

[AI最適化]が開きましたら[セマンティック理解]※のタブから確認するこができます。
※本機能は2026/9/1に実装された新機能です。検証時点では生成された文章は英語表記です。


例えば、次のような説明が作成されたとします。

  売上金額:金額に関する項目

これだけでは、何の金額か分かりません。そこで、次のように修正します。

  売上金額:返品額と消費税を差し引いた販売金額。受注日を基準に集計する。


このように、何を表す項目なのか、どのように計算するのかを具体的に書いておくと、Qlik Answersがデータの意味を理解するための手掛かりになります。

操作は、対象の項目やマスターアイテムを選び、説明を確認して、必要に応じて修正するだけです。

ビジネス用語集が、社内で使う言葉の意味をまとめた「業務用語の辞書」だとすれば、セマンティック理解は、「Qlik Answersがアプリの項目をどのように理解しているかを確認する場所」です。例えば、ビジネス用語集で「売上金額」の正式な意味を管理し、セマンティック理解でQlik Answers向けの説明を確認・修正します。

ただし、説明を登録したからといって、AIが必ず正しい回答を返すわけではありません。また、説明欄はAIへの指示を書く場所ではありません。業務上の定義や計算方法は人が確認し、回答結果も必要に応じて確認することが重要です。

さいごに

セマンティックレイヤーは、AIの回答を良くするためだけの仕組みではありません。

人にとっては、同じ定義の数字を使って会話し、分析するための共通ルールであり、AIにとっては、利用者の質問をデータ項目や計算方法に結び付けるための判断材料です。

Qlik Cloudを使うことで、利用者は技術的な項目名を意識しすぎず、普段の業務用語でデータを探せるようになります。そして、人とAIが同じデータの意味を共有できれば、質問、分析、気づき、次の行動までをよりスムーズにつなげられます。

参考:
Qlik Cloud ヘルプ:ビジネス用語集の操作
Qlik Cloud ヘルプ:ビジネスロジックを使用してQlik Answers向けにアプリケーションを最適化する


この記事をシェアする

著者情報

著者の顔写真

DX技術統括部 DX技術統括部 データ活用基盤技術1部

今井 智恵

DX技術統括部 DX技術統括部 データ活用基盤技術1部

今井 智恵