アシスト基幹刷新の取り組み

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2024.07.10

経理部門が語るS/4HANAによる変革と期待 ~前編~

経理部門が語るS/4HANAによる変革と期待 ~前編~

アシストでは創立50年を迎えた2022年、激変するビジネス環境、ますます加速されるスピード化に対応するため、今まで20年以上にわたり利用し続けてきた基幹システムの刷新を行うためのプロジェクト(社内名称:NEXIS)を発足しました。
この、基幹システム刷新の状況をなるべくリアルタイムに近い間隔で、社内キーパーソンへのインタビューを中心に、良い話も悪い話も区別なく皆様にお届けしたいと思います。

今回は2024年1月にカットオーバーした会計領域(SMILE(旧会計システム)をSAP S/4HANAに刷新。これをStage0.5と呼ぶ)について、経営管理部長の小牧健一と財務会計チームのプロダクト・オーナーである小島陽子へのインタビューを通して業務担当側の視点でお伝えします。

こんにちは。インタビューを担当させていただきます営業の真下(ましも)と駒形(こまがた)です。
これまではシステム部門の方々にインタビューしてきましたが、今回は経理部門責任者である経営管理部長の小牧さんとNEXISプロジェクトの財務会計チームのプロダクト・オーナーである小島さんにお話を伺います。

経理部門における業務プロセスの課題

真下:今回の再構築に先立って業務の棚卸を実施されたと聞いています。ビフォー・アフターという観点も含めて、経理部門としての業務プロセスの課題や、現場での感触についてお聞かせいただけますか。

小牧:以前、「経理業務のデジタイゼーションの取り組み」と題して社外向けセミナーで発表した内容に課題をまとめているので、この資料を使って説明します。経営管理部として、経営企画課5名、経理課9名という体制で業務に取り組んでいましたが、売上や社員数の伸長に伴って伝票件数が増加し、業務負担も増加してきました。このような状況でも体制強化(増員)は難しく、限られた人数で業務を遂行していくためには業務分担の適正化とシステム化が必要になると考えていました。試行錯誤していた中で最終的には今回のNEXISプロジェクト(基幹システムの刷新プロジェクト)で対応することになった、ということが背景です。

真下:どのような試行錯誤をされたのでしょうか。

小牧:経理業務の分析や月次における繁閑の波を把握し、システムを改修することなくルール変更などで具体的な問題の解決策を検討していました。しかし、この取り組みでは限界がありました。主な課題は「ベテラン経理社員の実務経験に依存している」、「繁忙時でも人手による対応を実施している」、「属人的な仕事がある」という3点です。これらが解決されることをNEXISプロジェクトには期待しています。

図1(「経理業務のデジタイゼーションの取り組み」より)

真下:SAPの導入は経理部門でも検討されていたのでしょうか。

小牧:いいえ。SAPの導入はITS(社内IT部門)が主導で検討しており、そこに経理部門が抱えていた課題の対応が合流した形です。正直なところ、会社がここまで投資してくれることにびっくりしました。ご存じのとおり、販売管理システムはAMIS(スクラッチの内製システム)、会計システムはSMILE(会計パッケージ)を使っています。この2つのシステムを当面使い続けると考えていましたが、企業規模が拡大するに連れて不足するところもあったので、その点が改善されることを期待できるのでとても嬉しかったです。

※NEXISプロジェクトではAMISとSMILEをSAP S/4HANAで刷新します

真下:SAPの導入によって作業工数も減るのでしょうか。

小牧:現時点ではそうなる予定である、としか回答できません。2024年1月にカットオーバーしたStage0.5はSMILEだけをS/4HANAに移行し、会計部門の効率化を目指しています。その後、2024年9月にカットオーバーされるStage1.0でAMISの全面的な切り替えが完了すれば、より効率的なシステムに置き換わりますので上流から請求までの一気通貫の流れが実現され、効率化を実感できると期待しています。

駒形:これまでSMILEとAMISは、CSVなどを使った連携をしていたと聞いていますが、今はまだこの仕組みに変更はない状況なのでしょうか。

小牧:はい。その部分には変更はありません。やはり販売管理が変わらないと経理処理は変わらないです。

真下:小島さんから何か補足事項はありますか。

小島:そうですね。AMISは仕入情報を個別に持てないため、売上に付随して管理しなければなりません。仕入情報がないため、経理は買掛金の管理を別途行う必要があります。この点はAMISと一般的なERPで大きく異なります。時代にあってないと思うところであり、現在対応に苦慮しています。

小牧:AMISは元々Oracleを販売するための見積システムでした。そこから利便性の向上と対応範囲拡大のために機能追加を繰り返して現在のAMISとなっています。一般的な販売管理システムとは出どころが異なるため、プロダクトごとに仕入ルールや価格などの情報をシステム上で持つことができません。そのため、AMISからデータをダウンロードした後に情報を付加してから戻す作業を行います。そうするとSMILE内でも仕分けの情報しか見えず、実際に何を処理しているのか分からないのが大きな問題です。

小島:あとは時代の流れに伴い取引状況が変化しています。特に外貨での取引が増加しているのですが、AMISは外貨処理が得意ではないので経理部門はとても苦労していました。しかし、Stage0.5で会計がS/4HANAになったことで、レートマスターを導入できたこともあり、外貨のまま伝票入力できるようになったため、その点がかなり改善されました。

Stage0.5カットオーバーによる会計業務の現在

真下:現在、Stage0.5として会計領域がカットオーバーされた状態ですが、具体的にどの業務がS/4HANA化され、全体の業務の中でどの程度の割合がS/4HANAで担うことができるようになったのか教えていただけますか。

小島:SMILEの部分が完全にS/4HANAへ切り替わりました。

駒形:会計業務という点では、債権債務の処理もS/4HANAへ置き換わったのですか。

小島:いいえ。債権管理以外が完全にS/4HANAに移行された状態で毎月の処理を行っています。 債権の管理は従来どおりAMISで行っています。

小牧:現在は、AMISが移行されないと債権管理も移行できないという状況であるため、Stage1.0がカットオーバーされる2024年9月以降に移行することになると思います。アシストでは、仕分けや伝票登録などの業務をほぼ100%、SAPに移行できていると思います。ただし、販売管理システムと会計システムがシームレスに接続できないため、売上計上の確認など、他社では現場経理や営業部門が行っているような業務を本社経理が行っています。Stage1.0がカットオーバーされれば一気通貫で情報が流れるようになり、このようなチェックや承認業務が前の工程に移行することとなり、本社経理としての業務や負荷は減っていくと思いますし、営業現場でも仕入や売上、入金の状況がリアルタイムで確認できるようになると思います。

駒形:それらの業務は具体的には新設予定の業務改革センターが行うのでしょうか。

※アシストでは今回の基幹システムの刷新を機に全社最適の視点で組織の再編を行いました(2024年5月)

小牧:業務改革センターが行うものもあると思いますが、システム内で吸収されたり営業側で行ってもらうような仕事に変わる可能性もあります。

真下:計上セット(売上計上に必要な書類一式)の最終確認が自動化されれば、業務は楽になりますね。その観点からも早くS/4HANAに移行したいと思いますか。

小牧:はい。もちろんです。

駒形:一般的にSAP導入は経営が喜ぶもので、現場はかえって負荷が高くなることが多いと聞きます。プロジェクトに確認したところ、今回のアシストの導入目的は、一般的なERPシステムが目的とする「経営層への見える化」ではなく「業務の標準化・整流化」であるため、必ずしもそうではないと教えてもらいました。そして、本日のお話からも経理部門の業務が効率化されるという印象を持ちましたが、実際にそうだと思われますか。

小島:プロジェクトの初期段階では経理部門の現場メンバーからは自動化されること、標準化されることに対する期待がとても大きかったです。しかし、プロジェクトを進める中で自動化よりも、正しいマスターの設定と正しい項目の入力がされることにより販売管理から正確な情報が経理部門にスムーズに流れるようになることが最も重要だとわかりました。自動化が経理を楽にするかどうかはまだ分かりませんが、少なくとも現在のように手作業でデータを加工する必要はなくなり、情報の質が向上することが期待されます。これにより経営層への報告のタイミングもこれまでより早まると考えています。

駒形:経営層だけではなく、現場にもメリットがあるということですね。

小島:はい。売上や仕入の計上作業が自動化されることで、時間をかけていた作業を効率化できることを期待しています。

小牧:少なくとも不完全なデータや内部統制の問題が解消されると想定しています。しかし、経理部門の業務が楽になるかどうかは、これからのシステム設計次第だと考えています。

駒形:確かに、システム的にデータが一気通貫に流れるようになると、これまでファイル経由でやり取りしていた業務は楽になるかもしれませんが、実はこれまでやっていなかったような業務が増えるということはありませんか。

小牧:過去7年間で業務効率を上げるための活動を行ってきましたが、その他にも消費税やインボイス制度の導入など新たに対応しなければならないこともありました。このように今後も何かしら、新たに対応しなければならないことが発生することは十分想定されますが、その時に余裕を持って対応できるように、効率化できるところは効率化を進めておきたいです。

駒形:SMILEはかなりカスタマイズして利用されていたのでしょうか。

小牧:いいえ。正確にはわかりませんがほとんどカスタマイズせずに利用していたと思います。AMISからデータを抽出して、Excelで加工してからSMILEに入力する使い方をしていたので、カスタマイズが必要な処理はありませんでした。今考えると、もしかしたら加工処理もSMILEで実行できたのに活用しきれていなかっただけかもしれません。

駒形:法令や消費税、インボイスなどの対応は、SMILEのバージョンアップで対応できなかったのでしょうか。

小牧:もちろんバージョンアップで対応できました。しかしSMILEはあくまでも経理処理で利用していたので、大元であるAMISの対応は自分たちで行う必要がありました。AMISチームには、本当に一生懸命努力していただきました。ここまでAMISを発展させていただきましたが、これ以上メンテナンス体制を維持することが難しいなど、様々な課題が積み重なってERPシステムへの移行が避けられない状況になったのかもしれません。

駒形:ERPシステムを導入することを検討する時に、経理部門としてSAPである必要はありましたでしょうか。アシストの企業規模を考えるとSAPはToo Muchで他のERP製品でも良かったのではないでしょうか。

小牧:そのとおりです。経理部門としては、SAPにこだわりはなく、別の製品でも現状の課題改善ができるのであれば良かったです。

真下:経理の観点からすると、他社製品でも良いけども、販売管理システムとの連携がなければ、経理の業務は楽にならないし、本来の経理の姿にならないと理解しました。

小牧:そのとおりです。しかし、経理側から販売管理システムを入れ替えてほしいと要望を出すのは、難しい話であるため、経理部門だけでの改善検討が難航していたのですが、SAPの導入を検討しているなかで、販売管理も経理もまとめて入れ替えるということになりました。

駒形:S/4HANAの導入にあたって経理の部分ではほとんどアドオンしていないと聞きました。それは、アシストの経理業務が標準的な処理で行われていたからなのかなと思うのですが、もし他のシステムを導入していたとしても、同じようにカスタマイズせずに使えたのでしょうか。

小牧:純粋な経理業務に関してはどの会社も似たようなもので、カスタマイズは必要ないと思います。

小島:Stage0.5の導入に際してカスタマイズ機能は4つ提案されましたが、どれも費用が高額でした。そのため、便利だからではなく、この機能がないと業務ができないという観点で選定しました。

真下:どのような機能をアドオンしたのですか。

小島:明細の仕分け作業です。Excelにデータを出力し、そのデータの仕分けを行ってから、SAPに戻す作業があります。この作業では7,000件のデータを一度に処理するのですが、この時にエラーが1件発生しても、全件処理されてしまい、エラーの原因を探す作業が非効率的でした。そこで、1件でもエラーがあれば全ての処理を実行しないようにするシミュレーション機能をアドオンしてもらいました。もう一つは、支払いの明細チェック時の明細出力機能ですが、この機能は内製してもらいました。

真下:一括入力機能はよくある話で、アシスト特有のニーズではないですよね。

小島:はい。SAPは、伝票を1件ずつ処理する機能はとても優れていますが、今回のようにバッチ処理に関しては苦手だと聞いているので、他社もきっとアドオンしていると思います。

標準化の進捗状況について

真下:標準化の進捗についてお伺いします。経理部門の業務において当初の計画と比較してどの程度標準化が達成できそうですか。実際にStage0.5のカットオーバー後にシステムを使用してみた感想はいかがでしたか。

小島:Stage0.5ではなく、Stage1.0に期待をしています。ただ、会計部門が先行してシステムを導入したことで、本番環境での作業が先行して可能になったのは大きな進歩だと思います。

真下:最終的な標準化はStage1.0で販売管理と完全に連携することで達成されるのだと理解できました。今回は、会計領域だけがStage0.5で先行してカットオーバーすることに対して、身構えていたことなどあるのでしょうか。

小牧:一年前は、打ち合わせのスケジュールが遅延するなど、暗中模索でした。

駒形:Stage0.5に対して、ベンダー側の担当者は何名の体制だったのでしょうか。

小牧:3名です。双方進め方を調整する中で2023年夏頃に体制変更などもあり、現在はプロジェクト開始時とは違う方がメイン担当をしてくれています。

小島:2024年1月にStage0.5の導入を考えた理由は、データ移行対応が大きな要因でした。期中だとBSだけでなくPLの全てを移行対象に含めなければならなかったので、これを年度切り替えの1月に行うことで、BS科目だけを移行することに集中できたのが効率的だったと思います。

駒形:前段でお聞きした業務の棚卸し時、それを元にあるべき姿(TOBE像)を検討されたと思うのですが、元々設定したTOBE像と実装内容との乖離はありましたか。

小牧:これまではルールの変更やガイドラインの修正などで乗り切ってきました。今回も似たような対応をしようと考えていたのですが、システムの導入により初めて抜本的な対応をすることになりました。そのため、Stage0.5で実現できたことは、当初の計画を大幅に上回っていると個人的には感じていますし、Stage0.5時点では本プロジェクトは成功だったと自信を持って言えます。


後編へ続く
(本記事は2024年2月に行ったインタビューをもとに執筆しています)


※記載されている会社名、製品名は、各社の商標または登録商標です。






インタビュアー&執筆者情報

​真下 悦拡(ましも よしひろ)
東日本営業本部 東日本営業統括部

粘り強い営業に定評あり。同世代のエース。



駒形 美鈴(こまがた みすず)
東日本営業本部 東日本営業統括部

童顔からは想像できないキレキャラ。番犬的存在。


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