
企業システムのクラウド移行が進み、「コストをどう抑えるか」「どう価値につなげるか」が、改めて問われるようになってきました。しかし、日本ではまだ、クラウドへの支出を「削るべきコスト」ではなく「価値を生む投資」として組織全体で捉え、最適化していく文化や仕組みが根付いていません。
そうした背景からアシストが目を留めたのが、AWS・Azure・Google Cloudなど複数のクラウドやSaaSにかかるコストを一画面で可視化し、経営判断につなげる米国発のFinOps(※)プラットフォーム「Vantage」です。アシストは今、この領域でVantage社と共に日本市場を切り開こうとしています。
※FinOps:「Finance(財務)」と、Development(開発)とOperations(運用)から成る「DevOps(デブオプス)」を組み合わせた造語。財務担当とエンジニアの協働でクラウド利用における費用を継続的に改善しながら、ビジネス価値を創出するための概念
日本ではまだホワイトスペースに近いFinOps分野で、アシストがなぜVantageを選び、どのような挑戦をしようとしているのか。その立ち上げの様子を、アシスト社内のインキュベーションストーリーとしてお伝えします。
1.クラウドシフトの次に見えた課題「FinOps」とは
── コスト管理と価値最大化をどう両立するか
近年、多くの企業でクラウドの利用が主流となり、マルチクラウドの利用も珍しくなくなってきました。また、SnowflakeやDatabricks、DatadogなどのSaaS利用も広く普及しています。
クラウド・SaaSは、利用者が増えるほどサービス提供側のインフラコストが上がるため、定額ではなく従量課金にせざるを得ないという構造は避けられません。そのため、従量課金による予算管理の難しさや、利用拡大に伴うクラウドコストの増加という経営課題が注目されるようになりました。
また、クラウドコストについては、部門やプロジェクトごとに管理されているケースが多く、さらにクラウドベンダーごとに料金体系や請求形式が異なるため、最適化や正確なコスト配分が難しい状況となっています。加えて、Excelやスプレッドシートによる手作業での集計は手間がかかるうえ、1組織だけでなく全社視点でも「トータルでどのぐらいの支出があるのか」「どこに無駄があるのか」「どこに投資すべきか」が見えにくいことが大きな課題となっています。
柔軟かつスピード感を持って事業を強化・拡大するための手段としてクラウドを利用し始めたにも関わらず、コストへの不安により利用が停滞し、結果として事業の成長が鈍化するようでは本末転倒です。こうした状況を背景に、海外ではFinOpsというフレームワークが広がりつつあります。クラウドコストを「削るための経費」ではなく、見える化して「価値を生み出す投資」として捉え直し、財務・経営・ITが一体となって最適化を進めていくためのカルチャー(文化的慣習)です。
日本でも注目され始めた分野ですが、「企業全体でのコスト管理が難しい状況」において、課題の本質を理解し、伴走しながら価値を一緒に形にしていくパートナーが求められているのではないでしょうか。アシストは、その役割を担える存在になれると考え、この領域への挑戦を決めました。
2.検討の土台へ
── 目利きのアシストがVantageに目を留めた理由
年間1,000件以上に及ぶリサーチ情報からの製品選定・評価
アシストの将来の成長につながる新しいテクノロジーやビジネスのタネを見つけ、共創を通じて事業化につなげることをミッションとする部門が「イノベーション共創Lab(以下、iLab)」(※)です。
※Vantage検討時の部門名は「新事業共創推進室」
iLabでは、海外メディアやレポートを日々ウォッチしながら、将来の事業のタネになりそうなスタートアップや製品情報を独自のリサーチ用データベースに蓄積しています。年間の発掘件数は1,000件以上にも及びますが、その膨大な情報の中からチーム内で議論を重ね、約300件まで絞り込みます。さらに、それらが未来のアシストの取扱製品となり得るか、以下の独自の視点で評価しています。
技術革新性(単なるトレンドではなく、本質的な技術的価値があるか)
市場ニーズ(お客様の課題に本当にフィットするか)
事業親和性(アシストの既存ビジネスや強みとどのようにつながるか)
実現可能性(日本市場で現実的に展開できるか)
パートナーシップのしやすさ(文化や価値観も含めて、信頼できる関係を築けるか)
調査会社のレポートでは、IT部門の重要な課題として「コスト管理」が常に上位に挙げられています。そうした中、iLabで技術検証を担当する本田益之は、2024年3月頃から、海外メディアや各種資料で「FinOps」という言葉が頻繁に出てくることに気付き、調査対象として注目するようになりました。
当時、FinOpsに関するスタートアップは世界で30〜40社ほど存在しており、AWSやAzure、Google Cloud Platformといった3大パブリッククラウドのコスト管理をうたう製品も数多くありました。そこで本田は、「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」にも対応し、SnowflakeやDatabricks、DatadogなどのミドルウェアSaaSも含めて幅広く対応している「Vantage」に目を留めます。
さらに本田は技術的な観点からVantageの開発背景や機能を綿密に調査し、次の点を高く評価しました。
マルチクラウドとSaaSを横断して可視化できるプラットフォームであること
導入負荷が低く、運用と拡張性を重視した設計思想であること
クラウドコストを単に削るのではなく、「価値を引き出す」ことを重視した製品哲学
ドキュメントの分かりやすさと、開発元のサポートチャットの対応の速さ
そんな折、開発元であるVantage社がパートナープログラムを開始した、というニュースが飛び込んできました。ここからiLabはVantage社とのコンタクトを開始します。市場ニーズや事業親和性などの評価も並行で進めながら、まずは、アシスト自身がユーザーとしてVantageを使ってみることにしました。そして自社のAWS環境で可視化してみると、「思っていた以上にコストがかかっている部分」が見え、身をもってその価値を実感しながら、「これはお客様にとっても役立つツールである」という確信を深めていきました。
後にお客様とVantageのPoCを進めたiLabの松山晋ノ助(現所属:アシストAIテラス)は、当時を次のように振り返ります。
コスト管理は様々なクラウドプロバイダーやSaaSプロバイダーが提供する機能の一つです。一つのサービスだけで価値を提供できることは少なく、多くの場合、複数のインフラや製品の連携が必要になります。コスト管理の視点では、これを実現することが重要で、そのためには単一ベンダーではなく、サードパーティーベンダーによる横断的なアプローチが必要であると考えていました。そうした中で出合ったのがVantageです。
Vantage社は多くの企業が抱えるコスト問題にアプローチするFinOps Foundationにも加盟しています。自分たちの独自の考えだけで開発するのではなく、コストマネジメントにおける課題やあるべき姿も描きながら実装していると理解しました。
3.「入れない」イベントに飛び込むところから始まったVantage社とのパートナーシップ
── 「会いに行く」ことで掴めた確信
製品そのものの評価や事業親和性、実現可能性などに加えて、アシストが製品の取り扱いを決めるために重視する、もう一つのポイントがあります。それは、「人」や「会社」として信頼できるパートナーかどうかです。
「入れない」なら会場のロビーで待てばいい
2024年の秋、iLabの立山あきは、FinOpsの動向を探るため、FinOps Foundationが主催するイベント「FinOps X Europe」への参加を検討しました。場所はスペインのバルセロナです。Vantage社とのコミュニケーションの中で、同社のCEOとCTOも当イベントに参加することも分かりました。
ところがこのイベントは、出展ベンダーやFinOps Foundationのメンバーでなければ参加できないクローズドな場。通常であればイベントへの参加を断念するのですが、立山はここで諦めませんでした。
LinkedIn(ビジネス特化のSNS)で事前にVantageのCEOとCTOへDMを送り、「イベント会場のホテルのロビーで会えないか」とアポイントを打診
イベント会場となるホテルに前泊し、チェックアウト後もロビーで粘り強く待機
アポイントが確約していない状況だったため、指定した面会希望時間になっても相手が現れず、不安がよぎる場面もありました。それでも顔写真だけを手がかりに、粘り強く待ち続けた結果、ついに2人との面会に成功。イベント会場内のVantageの商談ブースに「最初の顧客」として招かれたのです。
創業者の想いに触れて、「一緒に挑戦したい」と思えた
商談ブースでの対話では、Vantage社の創業者2人から、次のような想いが語られました。
「とてもお金がかかっているのに、十分に管理されていないクラウドコストを何とかしたい」
「クラウドの価値をもっと引き出せるようにしたい」
「そのためには、技術だけでなくお客様との長期的な信頼関係が必要だ」
当時のVantage社は、アジア進出や日本市場への本格参入は視野になかったようでした。それでも立山がアシストのこと、そして日本の市場ポテンシャルを丁寧に伝える中で、「日本初のFinOps事例を一緒に創ろう」という共通認識が生まれていきました。
4.PoCから正式取扱製品へ
── 「Vantage」のPoCで見えてきたもの
Vantage社との対話を重ねる一方で、アシストは、iLabが定例的に主催する招待制イベント「S.E.E.D.S.」でも、FinOpsをメインテーマとして取り上げました。S.E.E.D.S.は、日本国内では未導入、またはまだ広く普及していない優れたソフトウェアや技術を対象に、ユーザー企業・スタートアップ・アシストの三者による共創を通じて検証し、事業化の可能性を広げていく取り組みです。
その後、S.E.E.D.S.を契機に複数のお客様との出会いが生まれ、iLabの松山晋ノ助、システム基盤事業部の中村利一、吉田雄希が中心となり、VantageのPoCがスタートしました。
お客様から感じた手応えと現実
PoCでは、大規模なマルチクラウド環境や、お客様がこれまでExcelやクラウドサービスの標準ツールを利用して行っていたコスト管理、複雑なコスト配賦ルールの運用に、Vantageをどのように組み込んでいくかを伴走支援するケースなどがありました。
例えばスプレッドシートでは、管理番号などの「ビジネスコンテキスト(コスト管理業務上の背景情報)」を細かく保持できる一方で、Vantageは「どのクラウドアカウントで、どのサーバー(サービス)にいくらかかっているか」といったITインフラ視点での可視化を得意としています。そのため「今までできていたことが、そのままではできなくなる」現実も見えてきます。
スプレッドシートからVantageに置き換えるケースでは、業務や管理の前提の見直しも必要になり、お客様にとって負荷が高くなります。そのため、全てをVantageに置き換えるのではなく、スプレッドシートの「細やかな業務管理」とVantageの「俯瞰的なリソース管理」を適材適所で使い分けるといった選択肢をアシストからご提案していくことも必要だと感じました。
現在は、PoCを通じて検証した結果、「まずはVantageで一からチャレンジしてみよう」と有償利用に踏み切るケースが増えています。
目利きから1年半で「正式取り扱い」が決定
年間1,000件以上収集するリサーチ情報の中から、正式なアシスト取扱製品として採用されるのはわずか2~3件です。また、取り扱い候補となった後も条件が整わず、実際の取り扱い開始までに数年かかるケースもあります。
Vantageに関しては、FinOpsという新たな潮流をいち早く捉え、iLabが早期から調査を進めてきたこと。さらに、S.E.E.D.S.やPoCを通じて、お客様の反応や市場としてのポテンシャルが見えてきたこと。加えて、クラウドコスト管理に対する課題感をお客様から直接伺っていた経営層の期待も追い風となり、iLabの目利きから約1年半で、正式取り扱いが決定しました。
Vantageは発展途上の面はあるものの、企業組織の階層構造、単一製品が提供するTag管理をまとめる仮想Tagなど、実務上求められる機能を備えています。PoCを通じて、これらの機能が企業利用において不可欠であると判断しました。他社に先行してこうした機能の実装を実現しているVantage社と共に、日本市場でビジネスを推進していきたいと思いました。
5.これからのFinOps市場とアシストの挑戦
── 経営とITの対話を変える市場へ
正式な取り扱いを始めてから、製造業を中心に複数の大手企業からVantageへの関心が寄せられています。現在の主担当は、複数のPoCを経験した中村利一と吉田雄希の2名です。彼らはこうしたお客様との対話を通じて、次のような手応えを感じていると話します。
クラウドコスト管理は、どの企業でも無視できない課題になりつつある
マルチクラウドとSaaSを横断的に可視化したいというニーズは確実に存在する
「Excelやスプレッドシートによる手作業での管理」には、既に限界が見え始めている
一方で、お客様との対話が前に進まないケースもあります。その要因の一つが、企業内に、部門横断で全体最適を担う組織や役割があるかどうかです。
個別システム単位での判断が中心の場合、「自部門にはそこまで必要ない」と捉えられてしまうことがある
全社ITやDX推進組織など、全体を横断して見る組織が存在する企業では、FinOpsの重要性が理解されやすい
FinOps市場は、まだ日本ではホワイトスペースに近い領域です。「なぜ今、これをやるべきなのか」「どこまで投資するべきなのか」といった問いに、明確な正解はないかもしれません。しかし、お客様への提案を続ける中村は、FinOpsを次のように捉えています。
Vantageは「絶対に入れなければならない」ツールではなく、「クラウドの価値をもっと引き出したい」と考える組織のためのツールです。だからこそ、アシストとしても単なる機能説明ではなく、経営課題や組織課題とのつながりを一緒に言語化していく伴走が欠かせないと考えています。
クラウドコストを正しく可視化し、どこに無駄があるのか、どこにもっと投資すべきなのかを、経営と現場が一緒に考えられるようにすること。そのプロセスの伴走役として、Vantageとアシストが果たせる役割は小さくありません。
また、アシストにはこうした取り組みを現場でインキュベーションしていくための土壌があります。
世界のどこでどんな技術や潮流が生まれているのかを、自分たちの目で確かめること
技術の中身だけでなく、「誰が」「どんな想いで」創っているのかも含めて見極めること
まだ市場が整っていない段階から、お客様と一緒に価値を形にしていくこと
こうした過程で生まれるストーリーも、お客様にとって価値のあるフィードバックとして、今後もお届けしていきます。
ページトップへ戻る




