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2025年7月31日、東京ミッドタウン日比谷 BASE Q にて、DX推進の最前線に立つ経営層・リーダー層を対象とした「ナレッジイノベーション 2025」を開催しました。ご好評いただいた昨年に引き続き2回目となる本イベントでは 、AIの進化がビジネスの常識を塗り替える現代において、企業の競争力の源泉となる「ナレッジ」をいかに活用し、イノベーションにつなげるか、その問いに対する先進的な取り組みや具体的なヒントが、第一線で活躍するリーダーたちによって語られました。
冒頭、アシストの上席執行役員 DX技術本部長の田畑 哲也が登壇。田畑は、ナレッジマネジメントの歴史を紐解きながら、「ナレッジイノベーションの元祖、総本山は日本であると言っても過言ではない」と述べました 。そして、AIの進化によって「必要な情報を獲得するまでの圧倒的時間短縮」や「精度向上」が可能になった今、ナレッジの活用は、新入社員の早期戦力化や技術伝承といった経営課題に直結する、不可欠な要素となっていると強調しました 。
続いて、アシストのDX技術本部 エバンジェリストの八木 康介が「DXの次のステップ」として、具体的なナレッジ活用のベストプラクティスを提案しました。多くの企業でSaaSアプリケーションの導入が進んだ結果、「情報はあるんだけれども、それが見えない、使えない」という新たな課題が生まれていると指摘 。この課題に対し、八木は「組織」「アプリケーション」「時間」「人」という4つの視点から、社内に散在する情報を統合的に活用する必要性を訴えました 。
その解決策として、社内のあらゆる情報を横断的に検索・活用し、AIが個人の文脈に合わせて最適な答えを提示するエンタープライズサーチであり、Work AI Platformを標榜する「Glean」と、経営層の想いや熟練者の実演といった「データとして残っていない」貴重なナレッジを動画資産として蓄積・活用する「Panopto」を紹介 。Gleanが「全社のナレッジを今の判断に」使い、Panoptoが「今流れているナレッジを未来の資産として」残すことで、ナレッジが循環し、企業活動を圧倒的に強化できると語りました 。
左からアシスト 田畑 哲也、八木 康介 |
左からヤンマーホールディングス 奥山 博史氏、アシスト 田畑 哲也 |
ヤンマーが掲げる「ぐるぐるモデル」とデジタルの役割
まず奥山氏より、同社がデジタル化で最も大事にしている「ぐるぐるモデル」について紹介がありました 。これは問題解決やビジネス推進のサイクルを示したもので、デジタルの役割は「これを高速に回し、一部を自動化すること」にあると定義しています 。今日のテーマであるナレッジは、このサイクルの中で「意思決定をするための情報が、必要なタイミングで、十分な精度できっちり手に入ること」だと位置づけました 。
実践から見えた、ナレッジ活用のリアルな価値
ヤンマーでは既にPanoptoや生成AI(RAG)を活用したナレッジ活用が進んでいます 。特にグローバルに事業展開する同社にとって、Panoptoの自動翻訳機能は非常に重要で、これまで多大な労力をかけていた多言語の字幕作成が自動化できる点を高く評価しているとのことでした 。
また、特に会場の注目を集めたのが、奥山氏自身のメディア記事やインタビューを読み込ませた「奥山氏のクローンAI」です 。部下は奥山氏本人に聞きにくい「アホな質問」でもクローンAIになら遠慮なくでき、心理的安全性の確保に繋がっていると言います 。これにより、奥山氏のナレッジが24時間365日、多くの社員に活用されています 。
「勘とコツ」から「データとファクト」の文化へ
対談の中で奥山氏は、CDO就任時に事業責任者としての経験から「意思決定したいタイミングで必要な情報がない」という課題を痛感し、まず現場のトップ25名にインタビューすることから始めたと語りました 。
ナレッジ活用の目的は、「勘とコツによる意思決定」から「データやファクトに基づく意思決定」へと文化を変えることにあると強調 。そのための具体的な施策として、ボトムアップの草の根活動(コミュニティ)と、経営会議での発信といったトップダウンを組み合わせる「サンドイッチ作戦」を実践し、組織全体の文化変革を促しているというお話は、多くの参加者にとって大きなヒントとなったのではないでしょうか 。
ナレッジ活用の未来:マルチモーダルAIへの期待
最後に、今後の課題として「本当の意味での暗黙知の活用」を挙げ、ベテラン営業担当者の表情や会話の間合い、熟練農家の技術といった、言語化困難なナレッジを学習できる「マルチモーダルAI」への大きな期待を語り、セッションを締めくくりました 。
このセッションでは、山九株式会社 技術・開発本部 デジタル技術活用推進部 部長の田中 義亮氏と、アシストでPanopto/Gleanの社内導入を推進してきたCX本部 新事業共創推進室 松山 晋ノ助が登壇。推進リーダーとしての本音を語り合いました 。
きっかけは「現場の強み」の可視化とコロナ禍
ナレッジ活用に取り組むきっかけとして、田中氏は「経営の見える化(定量的)」と並行し、100年以上の歴史で培われた組織文化や600を超える現場に埋もれた「現場の強み」といった「組織力の見える化(定性的)」を推進し、組織の力に変えるためにナレッジ活用をスタートさせていると述べました 。
一方、松山はコロナ禍でのリモートワーク移行を挙げ、「先輩後輩と話をしながら学ぶ機会が失われた」ことから動画活用(Panopto導入)が始まったと語りました 。
成功の鍵は「楽しさ」と「仲間づくり」
ナレッジ活用の推進における具体的な工夫として、両社から興味深い事例が紹介されました。山九では、社員が動画に登場することに恥ずかしさがあったため、現場にいそうな芸人さんを起用し、「現場あるある」をテーマにした動画コンテンツを配信。これが社内で大きな反響を呼び、動画活用のハードルを下げることに成功したと言います 。さらに、社名にちなんだ「39(サンキュー)チャレンジ」と題した39秒の自己紹介動画企画も実施し、社長や役員も参加してコンテンツを増やしています。
一方、アシストではまずツールを「有無を言わさず全社に展開」し、社員全員が当事者である状況を設定しました 。さらに、全社員が一度は動画作成を体験する仕掛けとして、「1分間の自己紹介動画」の作成を実施 。これにより、動画撮影への抵抗感をなくし、誰もが情報発信しやすい文化の土台を築きました 。さらに、推進役となる「アンバサダー」を任命し推進体制を整えました。
ツール導入が生んだ「効果」より「変化」
取り組みの成果について、両者とも「効果」というより「変化」という言葉で語ったのが印象的でした 。山九では、役員がフランクな動画で登場することで人柄が伝わり、現場で社長と社員の会話が生まれるなど、文化的な変化が起きていると語りました 。
アシストでは「ナレッジという言葉が社内で通じるようになった」こと、そして新入社員や中途入社者が「誰に聞かなくても自分で情報を見つけてこれるようになった」ことを挙げ、組織全体の生産性向上や、ナレッジが共有される文化の浸透といった変化が生まれています 。
ツール導入だけではなく、社員を巻き込むための人間らしい工夫こそが、ナレッジ活用の鍵であることが示されたセッションでした。
左から山九 田中 義亮 氏、アシスト 松山 晋ノ助 |
最後のセッションでは、アシストの営業部門の冨士木と好井、技術部門の若月、人事部門の長田の4名の部長陣が登壇し、ナレッジ活用でアシストの現場がどう変わったのか?を本音ベースで語りました 。
Before:情報が見つからないストレスと学びの機会損失
GleanやPanopto導入前は、「情報が膨大で目的の情報にたどり着けない」「結局人に聞くのが一番早いが、誰に聞けばいいかわからない」という状況が常態化していました 。アシストを退社後に再入社した経験のある長田は、再入社時にブランク期間もあり、社内に再適応するのに1年程度かかったと当時を振り返りました 。また、好井は、製品知識の習得に必要な勉強会が早朝や定時後に開催されるなど、特に子育て中の社員にとっては学びの機会が制約されていたと振り返りました。
After:「仕事の起点」となり、協働の意識が芽生える
現在では、Gleanは訪問前の顧客情報収集や提案書作成時の類似案件検索など「なくてはならない仕事の起点」となっています 。他メンバーの提案書を参考にすることで「チームで成果を出すという協働の意識が醸成されていっている」と冨士木は語りました 。
また、若月は、中途入社の技術者が、Gleanで必要な情報を検索・入手し、自身が持つ知見と掛け合わせ、社内向けの提案をPanoptoで動画共有するなど、入社後わずか半年で完全な戦力となった事例を挙げ、オンボーディング期間の圧倒的な短縮を実感していると語りました。
社内A-tuber登場!発信文化が新たなつながりを生む
本セッションで特に注目されたのが、数多くの動画を発信する冨士木の存在です 。冨士木は「普通の営業のおっさんが発信することで、他の人もやってみようと思うのでは」という仮説のもと、手軽なスマホアプリで編集した動画を投稿 。その結果、社内の様々な人から問い合わせが来るようになり、「やってなかったら生まれなかったかもしれないコミュニケーションが増えた」と、発信がもたらす効果を語りました 。
上部左より アシスト 冨士木 健治、好井 美恵 |
・他社様が実際に感じた「これが良かった」を直接的な熱量で聞くことができました
・社内での課題から解決した事例をご紹介いただき、気づきや学びが多かったです
・ナレッジの蓄積や活用について先進技術を用いて実務で実践しており、事例も分かりやすかったです
・ナレッジを貯めることで、どのように日々のビジネスが変わるのか具体的にイメージできるようになりました
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本イベントを通じ、「ナレッジ活用×DX推進」が企業文化と現場変革、意思決定の質向上、イノベーション創出にどのようにつながるかを、多彩な事例から体感できる内容となりました。 ヤンマーHDの挑戦、山九・アシスト推進リーダー陣の現場実例、アシスト社部長陣の本音トークから、単なるツール導入ではなく“人・組織・文化”を動かすナレッジ活用の可能性を強く実感しています。
ご参加・ご覧いただいた皆様の新たなヒントとなれば幸いです。
【見逃し配信】アシスト セッション動画を公開!
当日のアシストセッションより、以下の3つを動画でご視聴いただけます。ナレッジ活用の具体的なアプローチを、ぜひご覧ください。
・アシスト田畑 :「我々がナレッジに注目する理由」
・アシスト八木 :「ナレッジ活用のベストプラクティス提案」
・アシスト部長陣:「アシスト事例公開」
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宇野正行
株式会社アシスト
1990年入社。情報活用製品やCMS製品等のプリセールス、フィールドサポートを経て、マーケティング業務に従事。現在はGleanを中心としたWebサイト運営やイベント企画を中心に活動中。
2024年8月1-2日開催された「Google Cloud Next Tokyo '24」の出展報告です。
Gartner CIO リーダーシップフォーラム 2024にて、Gleanを出展しました。当日の様子を簡単に共有します。