分科会

ここでは、アシストのユーザー会、ソリューション研究会の2021年度「分科会成果報告書」全国第一位に輝いたAIプログラミング分科会(東日本)の活動を紹介します。

AIプログラミング分科会は企業課題を機械学習でどう解決するかというテーマで活動しましたが、この分科会が採用した集団学習のアプローチやその手法は、人材育成に取り組む企業だけでなく、今後当研究会の分科会活動やその他のプロジェクト型学習に取り組む方に非常に参考になる内容です。

新しいことにチャンレンジするには、一人あるいは一社でやるよりも、仲間を見つけて、しかも企業の枠を超えて実施する方が互いに切磋琢磨したり、先行学習者によるヘルプが得られたりと極めて有効であることが、このAIプログラミング分科会の実体験から明らかです。ぜひ複数メンバーによる研究活動やプロジェクト型学習に取り組む方は、最初にこの内容を参考にされることをお勧めします。


どんな点が評価されたのか

「AIプログラミング分科会」の成果報告書が全国第一位に選ばれたのは、どんな点が高く評価されたのでしょうか。審査員からは、次のようなコメントが寄せられています。


  • 世を席巻しているAIだが自社で取り組むにはハードルが高いという企業もまだまだ多い。それに対するアプローチとしてとても興味深い。人がいない、知見がない、どう取り組めばよいか分からない、という状況に対するひとつの答えを具体的に示している。
  • AI知識の取得という目的は元より、学習プロセスを客観的に評価し、研究成果とした点は非常に良かった。東京、名古屋、福岡と各地に散らばる参加者がオンラインでしか活動できないという制約がある中、メンバー各自が習得に取り組んだ結果、スキルレベルを向上させたことは明確な成果である。

課題

企業課題をAI(機械学習)で解決するには、その企業の事業領域に関する知見と、AIや機械学習などの技術に関するスキルの両方が必要です。しかし、その両方を兼ね備えている人材を外部から採用することは極めて困難です。そのため企業は、AIや機械学習を理解した人材を確保するために、そうした人材を社内で育成することが急務になります。しかし、それはたやすいことではありません。

なぜでしょうか。それはAIや機械学習の習得には、複数の高度な知識が要求され、しかもそれぞれスキル習得の難易度が高いためです。機械学習を理解するためには数学や統計学の知識、実装するためにはプログラミングスキルやロジカルシンキング、コンピュータサイエンスなど様々な知識やスキルを習得しなければならないからです。

AIプログラミング分科会は、この状況に対する一つの解として「集団学習」を提言しました。


集団学習の提言に至った理由

なぜ集団学習を提言することになったのでしょうか。

ソリューション研究会のような研究活動を進めていく際に必ずといっていいほど問題になるのが、参加メンバー間のレベル差や知識差です。1996年発足のソリューション研究会は、26年間にわたり、このようなグループ研究を毎年繰り返してきましたが、このレベル差が研究課題を進める際の第一のハードルとして指摘されることが多くあります。

2021年度のAIプログラミング分科会も同様でした。参加メンバー間で、自社へ持ち帰りたい共通テーマ「機械学習で企業課題をどう解決するか」を検討したくとも、それぞれのスキルや知識にかなりのばらつきがあり、すぐにこの議論を開始できる状態ではありませんでした。それは、発足当初に実施した「スキルレベルアンケート」の結果にも明らかでした。

発足当初の2月、全メンバーに対し、プログラミングレベル、数学や統計の知識レベル、AI技術の基礎知識などについてアンケートを実施したところ、Pythonプログラミングのスキルレベルは、メンバー9名のうち4名がスキルや知識なし、3名が初級、2名が中級程度のスキル・知識という結果でした。しかし、6月、10月と、学習プロセスを進めていくに従って、着実にPythonプログラミングや機械学習の知識やスキルを身に着けていきました。


Pythonのスキルレベル推移


機械学習のスキルレベル推移


集団学習の内容

最初の「スキルレベルアンケート」実施後、分科会内のプログラミングスキル,機械学習に関する知識の差を埋め,共通テーマ「機械学習で企業課題をどう解決するか」について議論するために、段階を追って基礎学習を進めていくことにしました。そこでライブラリを活用して「Pythonのプログラム(PG)をマスターするチーム」(4名のプログラミング未経験者対象)と、活動終了までに高度なデータ分析レベルを目指す「AI分析チーム」(5名)に分かれて学習を進めました。


学習プロセス1 Pythonによるプログラミングを学ぶ

PGマスターチームは、書籍『Python1年生 体験してわかる!会話でまなべる!プログラミングのしくみ』第1版(森巧尚著、2017/12、翔泳社)を活用しました。書籍内の学習する範囲と期日を定め,各自が宿題として学習を進めた上で、次の定例活動で集まる際に疑問点や理解点の共有や議論を行いました。

AI分析チームは、「機械学習プログラミングの実装工程」を学ぶために、菖蒲分類とタイタニック生存予測を学び実践、またサッカーくじtotoの試合予測モデルを構築しました。

2チームに分かれての学習プロセス1を進めた結果、全メンバー間のPythonプログラミングの知識・スキルの最低ラインを合わせることができたといいます。


学習プロセス2 Pythonを利用した機械学習を学ぶ

学習プロセス2では、PGマスターチームが先行学習者からの支援がないと、次の機械学習のモデル構築などの応用に進めなかったため、チーム全員で同じ課題・同じ要件で活動することにしました。

具体的には、コンペティションに参加することにしたのです。メンバーに参加経験者がいたこと、チュートリアルコードが公開されていたこと、また機械学習に明るくなくとも内容が理解しやすいことから、Nishika株式会社主催の「中古マンション価格予測」のコンペティションを選択。コンペティション経験者が講師役となり機械学習の初学者に講習を実施し、全員が同じスタートラインに立つところからスタートしました。最終的には、4名のメンバーがコンペティションに参加し、176名中、最上位は15位にランクしました。(残りの3人は、17位、71位、168位でした。)

全員がコンペティションを通して機械学習プログラミングの知識やスキルを向上させ、結果、機械学習による予測の精度を高めるための議論ができるところまでこぎつけました。一方で、Pythonのコーディングができるという基礎スキルだけでは、高度なデータ分析・加工技術が追いつかず、コーディングで手がとまってしまいコンペティションに投稿できなかったメンバーも出たとのことです。データ分析の知識を個人で積極的に習得する必要があったのはもちろんですが、チームとしての連携や役割分担、フォローがもう少しできたのではないかという反省点が残りました。


学習プロセス3 機械学習で企業課題を解決する

学習プロセス1と2を経ることで、ようやく企業課題を機械学習でどう解決するかについてメンバー全員で議論ができる素地ができました。企業課題は「Web通販サイト」を選択し様々な仮説をたて、それをもとに機械学習を用いたデータ分析導入時に確認すべき事項の検証を行い、AI導入検討シートにまとめました。


★AI導入検討シートDL先URL


機械学習の導入 6ステップ


学習手法の考察

分科会のメンバーには、個人学習として30時間、分科会の集団学習として100時間、合計130時間の学習を行った方もいました。同メンバーは全76回の活動のうち、2~3時間の定例活動に14回、作業や質問相談が可能なもくもく会や勉強会に49回、合計63回参加しました。

あるメンバーの学習時間

個人学習: 分科会活動時間外で捻出       約30時間
集団学習: 計100時間を目安に分科会活動を企画 約100時間

同じ時間に集まって全員で実施する「同期型集団学習」、共通の学習単元を個人で学習していく「非同期型集団学習」、完全に個人で実施する「単独学習」と学習方法を3種類に分類した場合、この分科会では、以下7種類の勉強方法を活用しました。


同期型集団学習


非同期型集団学習


単独学習


講義学習は、リアルタイムに質問ができたり、その場で不明点が解決でき、学習に行き詰ることがないものの、講師役の負担が大きいなど、それぞれのメリットとデメリットも、実際にやってみたメンバーの実体験として考察されています。詳細は、成果報告書や発表内容をご参照ください。

2021年度 成果報告書 最優秀賞

※成果報告書の閲覧にはパスワードが必要です。
 事務局までお問い合わせください。(sol_web@ashisuto.co.jp



結論

AIプログラミング分科会は、結論として、集団学習を活用して従業員の職能開発を行うことを提言しています。分科会活動を通して、プログラミング未経験者がPythonプログラミングを行えるようになったこと、機械学習未経験者が機械学習モデルを構築して予測を求める、あるいは分類を行えるようになったという実体験をもとに、各企業においても、同期型/非同期型の集団学習、単独学習を使うことで同じように職能開発の効果が得られるのではないかと結論付けています。

企業内の通常の業務時間内で学習を奨励すれば、同僚や上長の理解が得にくく、すぐに役に立たないものに時間を使うことへの抵抗があったり、さらには成果や結果の可視化と定量評価の難しさがあるかもしれません。それに対して、AIプログラミング分科会は、各企業内で、ソリューション研究会のような「コミュニティ」を企業内研究会として設置し、一定期間ごとに報告を求めるような仕組みにすればよいのではないかと提言しています。例えば半年に一度研究報告を提出させ、上長など決済者が審議、報告内容を企業にとって有用と判断できれば研究費を支給するなどして活動を奨励する方法です。

各企業内でこうした集団学習の場の設置が難しければ、アシストの「ソリューション研究会」の分科会活動を活用することをお勧めします。


2023年度「分科会」メンバーを絶賛募集しています。
https://www.ashisuto.co.jp/solution-studygroup/workgroups-apply/