アシストのブログ

  • 特集
2018.12.07

北海道で情報サービスの未来を築く
~北の大地をデジタルトランスフォーメーション~

対談×トップインタビュー:ほくでん情報テクノロジー株式会社 泉高明 様


縄文文化やアイヌ文化など、独自の歴史や文化と豊かな自然環境を持つ北海道。2018年は「北海道」と命名されてから150年になります。日本の国土の22%を占めるその広大な大地の隅々まで電気を送っているのが道民から「ほくでんさん」と呼ばれている北海道電力。その情報システム子会社として、ほくでんの基幹業務システムの構築や運用を手掛けているのがほくでん情報テクノロジー株式会社です。同社取締役社長 泉高明様をお訪ねし、大塚辰男がお話を伺いました。

泉 高明 様 プロフィール

ほくでん情報テクノロジー株式会社 取締役社長

1978年、北海道電力入社。情報通信部長、旭川支店長などを歴任し、2013年ほくでん情報テクノロジー株式会社 取締役社長に就任、現在に至る。


ほくでんのITを支える


大塚(以下色文字):9月に起きました北海道胆振東部地震では、北海道の皆様は本当に大変だったことと思います。また地震による停電では、北海道電力グループ様の昼夜を問わない復旧対応に感謝申し上げます。

泉様(以下略):地震により北海道全域で停電が発生し、道内を中心に皆様には大変なご不便とご迷惑をお掛けし、北海道電力グループの一員として深くお詫び申し上げます。大規模停電発生後、復旧作業は急ピッチで進められ、当社も本社HP情報発信のサポート、情報システムBCP対応など、関係者が不眠不休で対応し災害時における電力供給の後方支援を担いました。

──改めて貴社の概要をお教えください。

当社は北海道電力グループの情報システム子会社として1991年に発足し、以来高い信頼性が要求される本社の情報システムの構築・運用・保守を一貫してサポートしてきました。2001年にはH-IXデータセンターを開業し、電力事業で培ってきた運用力と確実なセキュリティで道内外の企業、自治体などのお客様にサービスを提供しています。

──泉様のご経歴をお聞かせいただけますか。

北海道電力に入社し主に技術部門を経験した後、1995年からIT部門の仕事に携わってきました。国内ではインターネットの商用化が始まった頃で、電子メールの導入、クライアント・サーバシステムの開発など当時の最新技術の活用に取り組みました。私自身はITに対して柵が無く怖いもの知らずで新技術導入には貢献できた反面、システム運用・保守に関しては全く素人だったので、私が担当したシステムはその後課題も抱え大きな反省点になりました。2001年からは営業システムなど基幹業務システムを担当しましたが、電力会社ではソフトウェアは企業活動を支える重要資産で長年にわたり維持、改良していく必要があるため、「ITガバナンス」「システムの全体最適化」などの重要性に気づかされました。

──電力自由化により大きな変化やチャレンジに直面されていると思いますが、貴社の強み、または課題は何ですか。

当社の強みはシステム構築・運用・保守の総合力です。今直面している電力システム改革のプロジェクトでも多くの協力会社と連携し、当社は中核となる全体プロジェクト管理に力を発揮しております。一方でこれまで情報システムの開発は動いて当たり前だったので、当社の企業文化は完全性・信頼性志向が強く社員のリスク意識も高い反面、提案力・スピード感が弱点で、今後のDX(デジタルトランスフォーメーション)などに向けて課題となっています。

──弊社は札幌に「アシスト北海道」を設立しサポートサービスを提供していますが、貴社のデータセンターは道内の企業や自治体に向けたソリューションを提供されていらっしゃいますね。

H-IXデータセンターは札幌都心から3km圏内というアクセスに加え、ファシリティ・セキュリティの質の高さがセールスポイントです。また、北海道の冷涼な気候を生かした間接外気冷房システムを採用し環境負荷の少ないグリーンなデータセンターです。サービス面では、ハウジングやプライベートクラウドの他、AWSの設計から運用までをサポートするサービスやバックアップデータの保管などに最適な1/6ラックの提供も行っています。なお、北海道胆振東部地震では道内で最大震度7を記録しましたが、H-IXデータセンターでは震度4にとどまりました。地震発生後は商用電源が常用・予備ともに停止しましたが非常用発電機を10時間にわたって運転し、設備を正常に稼働させ全てのサービスを無停止で提供し、インフラ事業者としての使命を果たすことができました。

──新しく取り組みたい分野や今後力を入れたいと思われる分野はありますか。

電気事業は電力システム改革とDXの二つの面で大きな変革期にあるため、当社が今後目指すべき将来像として2015年に中長期ビジョンを策定しました。ビジョンでは主力事業であるグループ本社向け事業の生産性向上を図るとともに、IoT、AIといった新たなITの活用に挑戦し外販事業の拡大に取り組むことを目標にしています。外販についてはH-IXデータセンターを核に取り組んでおり、これと当社の強みであるSIや情報セキュリティ技術を連携した新たなサービスを展開していきます。

震災で役立ったメッセンジャーサービス


──弊誌夏号にLINEの記事を掲載しましたが、貴社もビジネスチャットツールの外販を開始され、弊社も小規模ですが利用させていただいています。このビジネスに参入された理由や、今後の展開についてお聞かせください。

今チャットツールは個人だけではなく企業においても電子メールに代わるツールとして導入が進んでいます。当社は外販の一環としてセキュリティを確保できAPIが公開されている株式会社L is Bの「direct」を採用し、H-IXデータセンターのクラウド上で企業向けメッセンジャーサービスを提供しております。貴社にもご利用いただいており、報連相がスピーディになり、チャットボットとの連携によって効率化・高度化が図られ現場力のアップにもつながります。アシスト誌を通じてLINEは東日本大震災がきっかけでメッセージ機能を重点に開発されたということを知りましたが、当社でも北海道胆振東部地震ではメッセンジャーサービスのグループトークを活用して、システム障害・復旧確認など関係者の情報共有、意思決定をスムーズに行うことができ、まさに効果を実感しました。今後ビジネスチャットツールは業務システムやRPA・AIと連携して企業のITインフラに成長していく可能性があるので、他企業とも協業しながら様々なサービスを提供していきます。

──テクノロジーが目覚ましく進化する一方、少子高齢化や人口減少による労働力の不足といった課題もある中で、イノベーションの活用は益々不可欠になっています。貴社における新技術の利用状況や計画などについてお聞かせください。

当社は今年RPA導入・運用サービスの提供を開始しました。提供にあたっては「EneRobo」ブランドでサービス展開されている株式会社エネルギア・コミュニケーションズならびに製品提供元のRPAテクノロジーズ株式会社と業務提携を結び、緊密な協力関係のもとで取り組んでいます。今後道内でもRPAの導入が進んでいきますが、企業や自治体の生産性向上や人手不足解消に向けてお手伝いしたいと考えています。AIやRPAといった最新技術を効果的に活用しイノベーションにつなげていくためには、既存システムとの連携やセキュリティ確保など適切な「ITガバナンス」が不可欠です。ガートナー社が「バイモーダルIT」を提唱しているように、今企業には「SoEシステム」と「SoRシステム」の2種類の情報システムが必要ですが、二つのうちどちらか一つで良いというものではなく両者を共存、連携させていくことが重要です。これは私が20年ほど前インターネットなど当時の最新技術導入の際、既存システムとの連携で苦労した経験に似ていて「デジャヴュ(既視感)」を感じます。さらにDXでは業務自体のデジタル化が前提で対象領域も自動運転、スマートグリッドなど加速度的に広がっていくので、当時とは大きく異なり組織の在り方や働き方改革など事業戦略と一体で考えていく必要があります。

積極的な人材交流を


──今後はRPAなど業務効率化を目指したソリューションの利用とともに個々人の力の最大化が重要だと言われます。人を育て、強い組織を作るために、泉様は何が一番大切だとお考えになりますか。

「バイモーダル」はITだけではなく経営の分野でも「二刀流の原理」という考え方があります。企業が成長するためには主力事業の「活用」と新規事業の「探索」という2種類の活動を同時に行う原理を組織内にバランスよく埋め込む必要があるという考え方です。「探索」では「活用」とは異なる組織やマネジメントが必要ですが、同時に主力事業で蓄積した技術・ノウハウを新規事業に有効活用していくことが重要です。当社は今年小さな新組織を立ち上げ、まず企業向けメッセンジャーやRPAのサービスを開始しましたが、段階的にIoT・AIの活用と基幹業務システムとの融合などに取り組み、主力事業と新規事業のシナジーにもつなげていきたいと考えています。そのためには今の当社のリソースでは限界があるので、他企業と積極的に関わっていくことが必要ですし、人づくりもポイントです。新組織のメンバーは社員のチャレンジに期待して社内公募を行いましたが、次のステップでは新しい経験を社内で共有し広めていくため経験者を主力事業に戻すなど、人材交流を活性化していきます。

※二刀流の原理とは、米スタンフォード大学ジェームズ・マーチ教授が1991年に発表した考え方。東北大学柴田友厚教授が「イノベーションの法則性(2015年出版)」や、日経新聞やさしい経済学「イノベーションを考える 第3章 組織の作用(2016年)」でも詳しく紹介している。

──貴社にはWebFOCUS、QlikView、NORENをはじめ多くの製品をご利用いただいております。アシストへのご意見、ご要望がありましたらお聞かせください。

特にWebFOCUSについては、先進企業の導入事例なども紹介いただき、ユーザー教育やサポートを含め貴社のきめ細かい対応に感謝しています。また当社はLinux、PostgreSQL、ZabbixなどのOSS(オープンソースソフトウェア)の活用に取り組んでいますが、貴社が保有するOSSのサポート力や活用ノウハウを提供いただくことにより、当社社員の能力底上げやスペシャリスト育成にも協力いただいています。IoTやAIへの取り組みでも、ゼロから作るのではなくOSSライブラリなどを効果的に活用していく必要がありますので、今後とも貴社にはメーカーとは異なる企業ユーザー目線での提案・サポートを期待しております。

──全力でご支援させてただきます。本日はどうもありがとうございました。

(対談日:2018年10月)

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