
株式会社アシスト 代表取締役会長
ビル・トッテン
9月は徳島県を訪問する機会に恵まれました。家庭菜園の師匠であるアイトワの森さんからお誘いいただき、伝統的農業を営む剣山周辺地域の世界農業遺産認定を目指した活動をされている林博章先生の案内で、「持続可能な農業システム」を見学できることになったのです。
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林先生は鳴門の高校の先生で、「ソラ」と呼ばれる剣山周辺の伝統的農業や文化を調べ、昨年はその研究成果を『剣山系の世界的農業文化遺産』としてまとめた本も出版されています。その特徴は傾斜地農業で、剣山系の山麓部にある斜度30度を超える急斜面を、棚状にしないでそのまま畑にしていること。山の上でも湧水が出ていたり、山頂に向かって下から上昇気流で霧が上がってくる水分もあるため、作物が大きく育つのだそうです。
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もう一つの特徴は、肥料や傾斜地の土壌流出を防ぐためにカヤ(ススキ)を使っていることで、カヤを刈り取り、それを積み上げたものを「コエグロ」と呼び、これが保水や保温にも効果があるそうです。山の急斜面に家々が点在し、向かいの山にも同じような山上集落が見えて、雲がその下にかかっている様子はまるで空の上で生活しているかのようでした。そのため人々は古くからこの地域を「ソラ」と呼び、下のほうの吉野川流域は「シモ」と呼ぶのだそうです。
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カヤを裁断して畑に敷く農法は伝承的に古くから行われてきたようですが、竹も微生物のエサとなって繁殖を促し、肥料として最適だそうです。しかし竹は固いためにそのままでは分解されにくいので、それをパウダーにして竹肥料を作る研究をされている農大の野田先生や、機械を作られた武田さんも訪問しました。竹パウダーを畑にまくだけで、微生物の働きで土壌が柔らかくなり、実際に果樹の下の土に棒を刺すと、40~50センチ簡単に突き刺さるのには驚きました。
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人間は食べ物がなければ生きていけません。ソラ集落では畑地に複数種類の農作物を混植で栽培していました。天候異変等が起きても農作物が全滅して食糧不足にならないような伝統的な危機管理システムだそうです。また自家採種で雑穀や伝統野菜の「種」も確保しています。種があれば食糧危機に陥る心配はないからです。
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気候変動や天変地異などが起きても、自給自足が可能なシステムが機能していれば耐えしのぐことができるでしょう。そうした知恵が長年実践されてきたソラ集落の様子をこの目で見て、それを維持し後代につなげる重要性を改めて強く感じました。
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