
- アシストの視点
Bダッシュ委員会 DAO分科会発信
「DAOをビジネスに適用できるか」社内で実証実験
新商材・サービスの発掘・育成に取り組むBダッシュ委員会活動の中で、分散型自律組織(DAO)のビジネス適用の可能性を探り、アシストのビジネスにどう活かせるかを研究する「DAO分科会」についてご紹介します。
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仮想化テクノロジーやクラウドの利用範囲が広がる中、「運用業務の自動化」というキーワードを優先課題に掲げる企業が増えてきています。その実態は、弊社が昨年の秋から今年の春先にかけて行った運用関連イベントでのアンケート調査からも垣間見ることができます(図1参照)。これまでもIT部門では、運用改善強化やサービス向上、さらには運用コストの最適化に精力的に取り組んできており、効率化や省力化、自動化などを行ってきました。しかしながら、ITプロセスの標準化や人材育成などの、ここ数年注力課題として挙げられていたものと並び、アンケートでは、「運用業務の自動化」がトップとなりました。これは実に興味深い結果です。
そこで本稿では、昨今運用部門で注目される「運用業務の自動化」のキーワードに対する解の1つとして「RBAソリューション」の解説を行います。
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「運用業務の自動化」が課題として高まってきている背景には3つの理由があると考えています。
これまで「ジョブ管理」や「監視業務」、「インシデント管理」など運用管理項目ごとに対応してきた運用改善対策の狙いが、「統合化」から「標準化」へ、さらに「高度化」へと発展してきていることです。従来のサービス・レベルをより高いものにするための環境作りに注力していることが挙げられます。
手作業を主としていた運用オペレーションを自動化し、作業品質の均一化や作業統制に取り組む企業が増えてきたことです。
そして、最も大きな理由として挙げられるのがIT環境の変化ではないかと考えています。ここ数年で、仮想テクノロジーの採用やクラウドの利用が一般化し、当たり前の利用形態となりつつあります。仮想環境やクラウドは、必要な時に必要なリソースをダイナミックに割り当てたり、OSイメージのクローン生成を容易にするなど、ユーザがIT環境を利用する時の物理的リソース上の制約をある程度解消することに大きく貢献しました。従来、リソースやIT環境の新規増設や拡張などの環境整備は、H/W機器類の調達から構築、リリースまでの時間的猶予が必要でしたが、仮想化やクラウドの利用は、これらの課題を解消する原動力になっています。
しかしながら、ITサービスやITリソースを提供するIT部門にとって、この変化は新たな業務を生み出す要因ともなりました。これまでの維持管理業務に加えて、デプロイやプロビジョニング、環境変更などの業務要求が増え、さらには、開発サイクルの工期短縮化傾向などもあり、今まで以上のスピードで今まで以上の業務サービスを提供する必要性に迫られるという状況を生み出しました。
仮想環境やクラウドを最大限利活用するためのバックボーンとしての自動化推進は、量と時間、そして質の対応において今後必須機能となってくると思われます。このIT部門の課題とビジネス側からの要求に応えるための解決策として、「運用業務の自動化」が今注目されているのです。
「運用業務の自動化」へのニーズが高まる中、ここ数年国内外含めて様々な自動化を促進するソリューションがリリースされています。いわゆる「ラン・ブック・オートメーション(Run Book Automation)」(以下、RBA)と呼ばれる分野です。「ラン・ブック」とは、運用オペレーションや操作手順をまとめたドキュメント類で、RBAはこれらの手順化された手動オペレーションを自動化するためのソリューションです。元々は、大量のサーバ等の維持管理を行うデータセンター等で利用されてきたもので、RBAではなくDCA(データセンター・オートメーション)と呼ばれることもあります。
RBAは、システム運用※に付随する様々なオペレーションを自動化および省力化することを目的としたソリューションです。そのため、自動化による工数削減や省力化という面が強調されがちになりますが、RBAを適用することでの効果はそれだけに留まりません。
※RBAはシステム運用に限定されたソリューションではありませんが、本稿では敢えてシステム運用と限定して記載しています。
代表的な効果としては、次の4点が挙げられます。
従来、人手で行ってきた作業などを自動化することによるオペレーション工数および時間の短縮です(※作業内容や回数によっては人手の方が早いケースも稀に有)。慢性的な人員リソース不足の課題を抱えるユーザにとっては大きな効果となります。
RBAによる自動化の推進で、当初見落としがちになるのが、オペレーション品質の改善です。定常運用時に発生する障害の要因の7~8割が「変更作業」に起因していると言われています。「変更作業」時を含めて、単純な「オペレーション・ミス」や確認漏れによる誤判断、作業漏れなども挙げられます。あらゆる対策を施したとしても、人手で行う以上完全に作業ミスを防ぐことは困難であり、そうした意味でも定型作業を自動化することは、オペレーション品質を常に均一に保つという観点で大きな利点となります。
RBAの導入/展開を推進する場合、まずは、ITプロセス(=運用手順)を標準化していくことが成功の近道となります。もちろん、標準化しなくとも、今ある運用手順を自動化することは可能ですが、運用ポリシーやルールが統一されない状態で自動化を推進しても、後々の運用を考慮すると得策ではありません。自動化を成功させるための過程で自ずとシステム運用のポリシーや標準化が形成されていきます。
意外な面として挙げられるのは、内部統制対策やセキュリティ対策面での効果です。作業オペレーションを自動化することで、作業の統制を行ったり、職掌を超えたサーバ利用などの統制対策を行うこともできます。必要な作業をRBAサーバからの実行指示により行うこともできますので、重要なサーバでの不要な端末操作やアクセスなどをなくすこともできます。
従来、データセンターのような大規模なオペレーションの自動化でなければ費用対効果の見えづらかったRBAソリューションも、近年では機能、コスト面ともにより身近になってきました。海外製だけではなく国産メーカーによる提供も増え、それぞれの特徴を活かした展開をしています。
RBAは、自動化する処理の指示/制御を行う実行環境(マネージャ・サーバ)と自動化する処理の定義やシミュレーション/テスト/デバッグを行う開発環境、そしてそれらを操作するための操作環境で構成されます。自動化処理を受け付ける側のサーバ(エージェント)は基本的にはモジュール等を配置することなくエージェントレスでリモート実行によって構成されます(図2)。
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実装されている代表的な機能として、次のようなものがあります。
オペレーション手順を処理フロー化し、定義する機能で、ジョブ管理ツールのジョブネット定義画面と同じようなイメージです。操作も簡易化されており、予め提供されている標準テンプレート(アイコン)を使い、必要なパラメータ類の設定および処理順序の定義を行いワークフローを作成していきます。難しいスクリプト知識がなくてもほとんど処理は定義できますし、スクリプト等を記述して独自の処理を作成することもできます。
定義したワークフローを実行するためのエンジンです。簡易的なスケジュール機能や、何らかのイベントをトリガーとした起動、手動起動、コマンド指示など様々な方法でワークフローを実行することができます。
実行されたワークフローの実行状況、実行結果をロギングし、レポートを提供する機能です。定義済みの処理フローを出力する機能などもあります。
標準テンプレートは、機能ではなくRBAソリューションに標準的に付属する自動化処理定義用のスクリプト・サンプルを指します。標準テンプレートは、OSやミドルウェアのインストールやセットアップ手順を予めスクリプト化し、ワークフロー定義を簡素化します。OSやミドルウェア、アプリケーション、ストレージの設定や機器類の設定など、そのカバー範囲は多種多様で、4,000を超えるテンプレートを提供しているRBAソリューションもあります。
また、これら基本的な機能の他に実行状況や実行結果などの全体を俯瞰するための「ダッシュボード機能」や本番稼働前の擬似実行を行う「シミュレーション機能」、実行状況をトレースする「監査機能」などを有しているものもあります。「ドキュメント・ジェネレーション機能」を実装しているソリューションでは、定義している処理フロー内容を解析し、定義内容から手順書のようなドキュメントを自動生成します。自動化することで、ある意味見えなくなってしまう処理内容を容易にドキュメントとして残すことができるので、手順のブラック・ボックス化を防ぐことにも有用です。
これらの機能を使い、これまで手動で画面操作やスクリプト化してはいるものの1つひとつ手順の確認を行いながら実施してきた作業を飛躍的に改善することができます。単純な事例ではありますが、筆者の検証において、仮想環境上でのOSのデプロイからOS設定、ミドルウェアのセットアップまでをRBAソリューションで自動化したところ、時間にして約42%、作業ステップ(手数)は70%削減という結果を得ることができました。
RBAソリューションを始めとする自動化推進に注力したが、期待したほどの効果が見込めなかったというケースもあります。陥りやすい失敗例としては、RBAの適用範囲をいかに拡大していくかに邁進し、軽微な処理まで自動化し、自動化すること自体が目的になってしまう場合です。
RBAソリューションは、システム運用自動化をスムーズに行うための1つの有用な選択肢ですが、あくまで手段に過ぎません。手段を目的化することなく、常にビジネス的かつユーザ・サービスの視点を持ち、どのような効果や成果が得られるのかを見極めながら展開することが必要です。
弊社では、自動化を検討する場合、ワークフローを適用する前段階で以下の3つのステップに沿ってプランニングすることを推奨しています。
●自動化の目的/ゴールの設定と効果予測
●運用基盤の整備/強化
●対象オペレーションの洗い出し
最初のステップでは、自動化の展開を進める上での自動化の目的やゴールの設定、その効果予測を行います。
また、自動化を検討する前に、自社内の運用基盤状態の見直しも必要です。運用基盤には、「ジョブ管理」、「監視」、「バックアップ」、「インシデント管理」など様々なものがあり、その各々の業務に最適化されたソリューションが提供されています。RBAは各々の管理分野に特化した機能を提供しているわけではありませんが、各運用プロセス間の連携を補完する上では大いに役立ちます。まずは、各運用基盤をしっかりと整備していくことで全体最適化の土台となります。
そして、自動化する対象オペレーションを洗い出します。すべてのオペレーションを自動化し、無人運転することは理想ですが、RBAによる自動化で効果が出るもの、出にくいものを様々な観点で洗い出し、特に高い効果が見込める部分やユーザ・サービスへの貢献が高い部分を優先的に展開していくことが成功の早道となります。
●運用手順の標準化とドキュメント化
RBAは本来手順書を自動化する仕組みです。そのためには、システム運用のポリシー決めと手順の標準化が重要です。ハードウェアや利用するソフトウェアなどもある程度標準化ができていれば、様々なオペレーションに伴う仕様差異等のリスク発生を低減させ、個別の対象ごとにオペレーション手順を策定するようなコストも抑えることができます。
●RBAの適用
●効果測定とナレッジ化
いよいよRBAへの実装です。標準テンプレートは、実装負荷の低減に役立ちます。様々な分岐処理が発生するようなワークフローは事前に十分な検証を行い、リリースします。リリース後に実践していただきたいのが、適用効果測定とナレッジ化です。「最初に想定した期待効果がきちんと出ているか」、「なぜ、期待通りにならなかったか」など指標の計測とフィードバックは、次の改善活動に活かされるとともに、RBA展開の推進力にもなります。
RBAによる自動化にはデメリットもあります。最後に注意すべきポイントを紹介します。
手作業でオペレーションを経験していれば自動化されたとしてもバックグラウンドで何が行われているか想像できますが、経験がなければ想像できません。自動化は便利ですが、一方でオペレーション・スキルの低下や育成面での弊害となる場合もあります。何らかの障害が発生し、マニュアル・オペレーションに切り替えざるを得ない場合には相当なリスクになるため、日頃のトレーニングも必要となります。
RBAの自動化は、例えば、サーバ障害発生時の切り替えオペレーションの自動化など、稀にしか発生しないオペレーションも対象となりえます。RBA実装時には十分な検証を実施した上でリリースしているはずですが、定常的に発生するシステム変更などに起因して、必要な時にエラーとなってしまうケースがよくあります。定常的に発生しないオペレーションをRBAで自動化している場合は、定期的に稼働リハーサルを実施することが望ましいと言えます。
場合によってはRBA適用がかえって非効率になったり、コスト高になるケースもあります。作業統制や作業品質向上が目的であれば問題はありませんが、省力化を目的にする場合は、運用全体を俯瞰した上で進めることが必要となります。
RBAは、システム運用全般の様々なオペレーションを自動化/省力化し、システム運用に大きく役立つソリューションです。仮想化やクラウドの浸透の中で注目を集めているこのソリューションは今後ますますニーズが高まると思われます。システム運用で様々な課題を抱えているユーザの方々に是非ご検討いただきたいソリューションです。
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蝦名 裕史
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