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2021.02.19

ディシジョンインテリジェンスとは?
目的の異なるAIの融合で実現する判断と意思決定の高度化

ディシジョンインテリジェンスとは? 目的の異なるAIの融合で実現する判断と意思決定の高度化

現在のビジネスにおいて、私たち人が予測した通りの未来が描けることはまずありません。予測通りに物事が進まない理由の多くは、その予測モデルでは捉えられない何か不確実な要因が存在するからです。

しかし、時代背景によりその内容は異なりますが、「技術革新」が人の役割を常に変化させてきました。工業分野においては製造の自動化が進んで久しく、今では大部分の工程で機械による自動化が進められています。近年ではホワイトワーカーの机上の作業も機械(RPA)によって置きかえる動きが加速しています。

これらは全て人が予測できる範囲内の出来事に限定されていますが、AI技術が飛躍的に進歩した今、この予測を含めた機械化が、巨大IT企業を中心に進められているのです。これはリアルタイムデータに対する判断と意思決定を機械が下せるよう、そのモデルを作り上げてきた結果です。

本記事では、人の介在を最小化するスマートビジネスを実現するためのキーファクター「ディシジョンインテリジェンス」について解説していきます。


判断と意思決定ってなんだろう?

日常における意思決定

「判断」と「意思決定」。本来この二つは異なるものですが、私たちは日常無意識に同意語として使っているのではないでしょうか。「判断」とは、物事の解をその専門性より論理的に導出できる事柄を指し、「意思決定」とは、「判断」を基に、取りうる選択肢の中から行動を選択することです。つまり、意思決定は「判断に対して“決断する”こと」と本コンテンツでは定義します。

判断と意思決定の違いを、天気予報と自らの行動を例に、もう少しわかりやすく説明しましょう。

例文:「明日は天気が崩れそうなので傘を持っていこう」

上記の例文のどこが判断でどこが意思決定でしょうか。TVやWebの天気予報のように信頼できる筋からの「明日の天気は曇り時々雨。降水確率は50%」といった情報(論理的推論より導きだした確率)をもとに「明日は天気が崩れそうだ」と判断できます。そして天気が崩れた場合を想定し「傘を持っていこう」という行動を選択し決断したのです。この選択・決断が意思決定になります。

また、上記のように専門家による「明日の降水確率は50%」といった情報(ここでは「ラベル」と表現します)や、模試では「志望校に合格できる確率は20%」といった人が理解しやすい「ラベル」を入力に、自らの論理的推論規則に則り意思決定することは可能です。しかし、第三者による判断基準や我々自身が判断するための情報や推論スキルを持ち合わせていない場合、どのように意思決定しているのでしょうか。

仮に天気予報を確認せずに、現時点で「西の空が暗い」という事実があるならば、この事実をもとに、「数時間後には雨が降るかもしれない」という判断を下し、「傘を持参して備えよう」という意思決定を行うことができます。このように信頼できる確かな情報がなければ、我々は現時点での事実をもとに日々無意識に様々な場面で意思決定を行っています。

さて、この判断と意思決定が個人にだけ影響するならさほど大きな問題にはなりません。例えば、降水確率が50%と聞いて、「カバンはできるだけ軽くしたい」私としては、傘を持たずに日頃の行いの良さに賭けようと意思決定します。この場合、傘を持たないという意思決定により雨に濡れることになったとしても、それは「自分の判断が甘かった」と反省するにとどまるのではなないでしょうか。しかし、地震が発生した場合はどうでしょう。津波警報が出るよりも前に、危ないと判断し高台へ避難することを決定するなど、この意思決定が、自分だけでなく、家族や周囲に大きな影響を与えることもあります。つまり、得た情報に対する主観的確率の程度と影響により、推論(意思決定)が変化することを表しています。

判断と意思決定の瞬間はいついかなる時でも発生し、その判断と意思決定が結果として正しい場合も誤る場合もあるのです。


企業活動における意思決定

日常生活と同様、事業活動においても様々な判断をもとに組織のリーダーたちが熟考した上で意思決定を下すことに変わりありません。大きなことから小さなことまで判断と意思決定の両方を人が担っています。

しかし、間の知能を模倣するために必要なテクノロジーの飛躍的な進歩に伴い、今まさにこのような判断をAI(機械学習)が担う事例が次々に生まれてきています。例えば、前述の天気予報は、AIがデータを分析して「降水確率は50%」とラベルを付与してくれるのです。

このように、判断(以下ジャッジ)をAIに担わせ、意思決定(以下ディシジョン)は人間が下す「ヒューマンディシジョン」が注目されているのですが、この「ヒューマンディシジョン」のAI化は、実は機械学習が世に出る遥か前の「第二世代AI:エキスパートシステム(現ルールベースAI)」で実現されていることをご存じの方は、残念ながらとても少ないのです。

(参考記事)
10分で理解する「ルールベースAI」。今求められるAIとは?


つまり、「ジャッジ」も「ディシジョン」も人ではなく機械が下す(AI化)テクノロジーは既に存在しているのですが、各々を個別に活用したがために、ノーコードによる一気通貫の「デジタルディシジョン」には繋がらず、中途半端に終わっているのです。機械学習用とルールベース用の2つの汎用AIプラットフォームは、同じAIと名が付けどもジャッジとディシジョンという異なる性質のものをそれぞれ機械化するものであり、これらを連携させればノーコードで人の介在を完全に不要にする「ハイブリッドディシジョン」が完成するのです。

このハイブリッドディシジョンの事例でよく知られているものは、例えば金融をはじめとした民間企業や官公庁での審査業務、電力会社の需要予測、オンラインサービスに於けるリコメンドエンジンや広告、物流会社のリアルタイムルート最適化や配車マッチングなどが挙げられ、これらの取り組みは組織と社会に絶大な効果をもたらしています。

収集したデータをアルゴリズムにかけ、ひたすら修正を繰り返し、一番妥当性の高いジャッジ結果を既存のルールベースディシジョンに組み込み、リアルタイムデータに対して機械がディシジョンを下すもので、この運用には例外対応を除き人はもちろん介在していません。

AIの最終系は、ジャッジとディシジョンに修正を含めて人間の介在を一切必要としない「マシンベース・ディシジョン」ですが、まだこのスウォームネットワークのテクノロジーが産業で誰もが活用できるようになるまでには時間を要しますので、ここでは割愛します。


ハイブリッドディシジョンを実現する「ディシジョンインテリジェンス」

現在のビジネスは非常に複雑で、ディシジョンを下す状況もこれに比例して複雑です。しかし、周囲にはデータが溢れており、クラウドコンピューティングやAIの進歩といった要因も相俟って、これをビジネスのジャッジとディシジョンの高度化に最大限活用すれば予測と結果の乖離は極小化され、企業の成長に直結することは前述の事例が証明しています。

しかし、現在機械学習による確率的推論と少々のルールベースジャッジのみを入力にディシジョンまで完結できるのは、主にGAFAやBATHなどプラットフォーマーのオンラインビジネスが中心です。その理由はディシジョンを完結させるに十分かつ大量の整備されたデータを既有しており、そもそもビジネスモデルは企画段階より人の介在を最小化することを前提に考え出されたものだからです。

それでは一般的な企業ではどのようにすればよいか?と言えば、既存のルールベースのジャッジとディシジョンをまずは汎用ルールベースAIプラットフォームで機械化し、そこにデータサイエンス(機械学習)を少しずつ組み込んでいけばよいのです。

これが、点在するディシジョンのモデル化に繋がり、最終的にはそれらが要素間接続され、全てがAI化されたスマートビジネスへの道筋となる「ディシジョンインテリジェンス」になります。

ルールベースであれ機械学習であれ、結局のところAIはもともと知性を保持していないので、人間がディシジョンプロセスのステップをコンピュータに落とし込まなくてはならず、ディシジョンインテリジェンスの実現には人によるインプットが欠かせません。このため、人があらゆる状況化において、どのようなディシジョンを下しているのかをまず理解する必要があります。

ディシジョンに採用される要素間には強い因果関係があり、ディシジョンインテリジェンスモデルはこの因果関係のチェーンを再構築する新しい分野です。この因果関係を可視化し、意思決定を科学するための視覚的な手法を「ディシジョンモデリング」と言います。ディシジョンモデリングは「ディシジョン」、「知識」、「知識ソース」、「入力データ」で構成され、因果関係を有する要因を接続し、ダイヤグラム(DRD:Decision Requirement Diagram)で表現します。

例:DMN表記法(Decision Model and Notation)によるディシジョンモデリング


注:DMN表記法とは、米OMG (Object Management Group) が意思決定をモデル化するために標準化した規格です。

例えば「知識2」の全てまたは一部にルールベースより機械学習による精度の高いアナリティカルモデルを組み入れられれば、ディシジョン2および1の精度が高まることが期待できますが、ダイヤグラムに変化はありません。つまり、ジャッジは人が下そうがAIが下そうが違いはその精度か速度に過ぎず、ディシジョンはルールベースで決定するものです。つまり、以下のダイヤグラムはディシジョンインテリジェンスによるハイブリッドディシジョンの完成形で、ルールベースと機械学習が組み合わされた例を示しています。

例:機械学習によるアナリティカルモデルを取り入れたディシジョンモデリング


このあたりは後日詳細を解説しますので、お急ぎであれば末尾よりお問い合わせください。


ディシジョンインテリジェンスがもたらす効果

ディシジョンインテリジェンスの効果は、以下のように3分類できます。

1)偏向、偏見、恣意性など人が介在する場合に発生しがちなバイアスを除去した意思決定を実現できること。
2)ビジネス上の重要な当事者がオンライン上で機械化されていること
3)判断と意思決定がリアルタイムに行われること。

これは人の行動や体力、能力などに依存しないので、当然ビジネスにより良い結果をもたらします。

ディシジョンインテリジェンスとそれを構成するモデルの考え方は、「各々のディシジョンモデルがどのような結果につながるか?」を理解することに基づいたもので、ディシジョンロジックにおける人間の直感を排除することなく、人間の感覚と機械学習より得られる洞察をミックスしてAI化するアプローチです。

このことより、担当や状況がどのように変化しようとも、ディシジョンロジックが可視化とデジタル化され、かつノーコードで実装されていれば、変化に対して柔軟に備えられるのです。変化に対して柔軟に備えること。これこそ最高の計画だと言えないでしょうか?

ディシジョンインテリジェンスの先駆者である中国のアリババ集団では、2017年に科学技術の研究とイノベーションを通じて未知の世界を探求することをミッションとした阿里巴巴達摩院 (Alibaba DAMO Academy for Discovery, Adventure, Momentum and Outlook)を設立し、その中の人工知能研究部門でディシジョンインテリジェンスを専門的に研究しています。基本的にデータと行動、結果をどのようにチェーンさせればよい世界を実現できるのか?という考えに基づき研究を重ねている組織です。ここでの研究成果は小売、医療、司法、交通など、中国国内における様々な分野の効率向上や産業革新に繋がっており、その事例を一度は耳にしたことがあるかもしれません。


ディシジョンインテリジェンスの考え方

様々なイベントをトリガーに、決められた手順に則り行動するケースは、どのような業界、業務にも存在します。これは目前の前提条件の中、担当者が論理的推論に基づき実証実験を繰り返して導出した解を運用しているもので、フローなどで説明可能です。

身近な例として、車検を考察してみましょう。

車両の劣化と走行距離、重量には因果関係があるので、
劣化する=>危険な状態になる=>定期的な検査で回避する

これは蓄積された経験をもとに決められた、ルールベースのジャッジとディシジョンです。

ただ、車両やその構成パーツの劣化進行度や故障を定期的に把握するのは面倒ですし(道路運送車両法第47条で、運行前点検が義務付けられていますが。。)、目検は人によって偏りがあります。また、目検以外の点検手段と運行前点検を周知徹底させるのは難しいので、自家用自動車は「新規登録」より3年後、その後は2年毎に車検が必要と定められています。(2021年2月現在)

参照:自動車検査証の有効期限

自動車検査証の有効期限は図のように4分類されており、車両の事業用途や区分、車両総重量などで決められています。例えばバスやタクシーなどの運送事業用車両は、自家用車両よりも乗車日数が多く、また、走行距離も長いことから短く設定されています。


しかし、この制度の始まりは1930年で、確立されたのは1951年。もし、様々な事柄を考慮する必要がないならば、現在の技術下で一律のこの期間設定に疑問は残ります。そもそも劣化は走行距離と重量に比例するのであれば、どちらもデジタルデータとして取得できるので、その単位で検査を実施すれば良いのではないでしょうか。


おそらく車両の劣化は走行距離と車両重量だけで決まるものでもなく、その乗り方や利用地域など、他の様々な要素の掛け合わせで個体ごとに異なります。もし、データインテリジェンスで個体の異常や故障が予測でき、乗り手の癖に依存しない自動運転技術が普及すれば、最適な時期に保守を施すスマート整備が実現され、安全観点での車検制度自体を不要にできるかもしれません。

この考え方は、故障予測という単純なディシジョンのみならず、他の分野の最適化、予測、因果関係の発見にも応用できます。

しかし、現在、データインテリジェンスに必要な資源を潤沢に保有し、ディシジョンインテリジェンスが組織内、パートナーや関連子会社を含む事業全体で機能する状態にある企業は皆無に等しいはずです。

つまり、ディシジョンインテリジェンスに必要なのは、既存のディシジョンの整備とディシジョン精度を高めるために必要なデータとその取得手段であり、どの部分をデジタル化することで何を変え、何を無くすのかを明確にすることが必要です。

この考え方は、ジャッジとディシジョンを含むビジネスタスクのオールデジタル化が前提となり、これはそのままデジタルトランスフォーメーションに繋がります。


ディシジョンインテリジェンスの実施方法

ディシジョンインテリジェンスを実現している先進企業のモデルを考察すれば、結局のところ何を変えて何を無くしたかったのかが見えてきます。

具体的には一連の営業とその周辺業務だったり、手続きとその確認のための事務方だったり、他にも色々考えられますが、纏めれば人によるジャッジとディシジョンを徹底的に排除することをベースに編み出されたモデルです。つまり、仕組み化の時点よりデータで始まりデータで終わるようなモデル設計と、プロセス中に存在するジャッジとディシジョンのAIによる機械化が必須で、これにより全てがオンライン上で完結し、プロセスやタスク間の遷移に人の介在がなくなるよう設計します。

現行業務をディシジョンインテリジェンスで高度化する場合、プロセスとタスクを分離して考えるとモデルは意外にシンプルに収まるもので、ジャッジとディシジョンをどのようにAI化するか、また、その組み換えにより無くなるものが見えてきます。


運用が始まれば、人の役目はジャッジとディシジョンを下すことではなく、このモデルの精度を向上させる「AIの保守」が主となります。


ディシジョンインテリジェンス まとめ

現在AIを含むIT技術が爆発的な速度で進化しています。この進化速度を考えると、10年後には人による様々な点検行為自体が過去のものとなり、人々はイノベーションにフォーカスする時代になっているかもしれません。そのような未来を早急に実現するために、私たちはお客様のディシジョンインテリジェンスとデジタルトランスフォーメーションを強力にサポートしていきます。


執筆者のご紹介

アシスト中尾 有揮

中尾 有揮
DX推進技術本部

1994年中途入社。 システム運用やセキュリティ、仮想化など、10を超えるメーカー製品のグループマネージャ、新規事業開発マネージャを経て、現在「AIのアシスト」を実現すべく事業戦略とマーケティングに従事。言語学、数学、認知心理学を組み合わせ、日々世間と戦う漢語の教師。 Progress認定ビジネスアナリスト、人工知能学会 会員。

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