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2025.08.18

Amazon Q BusinessのAgentic RAG機能(Advanced search)とは?

Amazon Q BusinessのAgentic RAG機能(Advanced search)とは?

はじめに

2025年8月14日にAmazon Q BusinessにAgentic RAG機能が追加されました。これにより、これまでの単純なQ&Aのような質問だけでなく、複雑なやりとりが可能になりました。本ブログではAgentic RAG機能の概要と実際の検証結果をご紹介します。

Agentic RAGとは?

Agentic RAGは端的に言うと「AIエージェント」+「RAG」を組み合わせた技術です。従来のRAGが「データソースを検索して見つかった情報を基に回答する」という比較的単純なプロセスだったのに対し、Agentic RAGはAIエージェントがより自律的に、多段階の思考やツールの使用を駆使して、最適な答えを導き出します。

Amazon Q BusinessにおいてはAgentic RAGを利用することで以下のような動作をさせることができるようになります。


1. Agentic Toolの利用
ユーザーの質問と会話履歴内容の両方を分析して、最適な検索ツール(Tool Use)を用いて情報を検索します。Tool UseとはAIが外部のツールを利用できる機能です。計算機や分析ツール、翻訳APIなど様々な専門ツールと連携することでより高度な処理ができるようになります。Amazon Q Businessで用意されているツールに関する詳細はブログ公開時点では以下の情報のみです。Retrieval toolsに5つのツールが記載されています。なお、どのツールを利用するかはAIが判断するため、ユーザー側で指定する必要はありません。

引用:https://aws.amazon.com/jp/blogs/machine-learning/bringing-agentic-retrieval-augmented-generation-to-amazon-q-business/


2. クエリの分解
ユーザーからの質問内容を分解して、シンプルな質問内容に分解してから情報を検索します。
例えば
「顧客フィードバックと競合分析レポートを基に、当社の製品AAAAの次期バージョンで優先すべき開発テーマを教えてください。」
という質問があった場合、通常のRAGだと文章のまま検索が行われますが、Agentic RAGの場合は
「製品AAAA 顧客フィードバック 開発要望 優先度」

「製品AAAA 競合分析 製品BBBB 機能比較」
といった2つの質問に分解して処理されます。

3. 会話機能の向上
曖昧な質問がされた場合、Amazon Q Businessが応答の正確性を上げるためにユーザーに対して逆質問を行い、質問を明確化しようとします。


本ブログでは上記の中の「クエリの分解」を実際に試してみた結果をご紹介します。


Amazon Q BusinessのAgentic RAG機能の検証

Agentic RAG機能を有効にする方法

Agentic RAG機能を使いたい場合は、ユーザーが検索する際に「Advanced Search」を有効にするだけです。事前に管理者側で何か設定をする必要はありません。


「クエリ分解」による応答精度の向上を試してみる

検証のシナリオは以下の通りです。
・架空の製品「Analytica Pro」の開発、販売をしているA社
・A社は「Analytica Pro」の新機能開発戦略を考えるためにAmazon Q Businessを活用したい

A社では以下の情報をAmazon Q Businessのデータソースとして取り込んでいます。

①「Analytica Pro」のユーザーからの改善フィードバックに関する情報
8件のデータです。その内2件が「モバイル対応」を望むフィードバックになっています。


②「Analytica Pro」の競合製品に当たる「DataSphere」の調査レポート
レポートの一部をキャプチャーした結果を貼っています。実際は2ページ程度のレポートです。最重要競合相手がモバイルアプリをリリースしたことが報告されています。

※上記データは検証のために生成AIに作成してもらった架空の製品、及び情報です。


今回検証するための質問内容は以下です。

「顧客フィードバックと競合分析レポートを基に、当社の製品Analytica Proの次期バージョンで優先すべき開発テーマを教えてください。」


顧客フィードバック、競合分析レポートどちらも「モバイル対応」に触れられているため、モバイル対応が最優先のテーマという旨の回答をしてくれることを期待します。

まずは、Agentic RAGを使用せずに質問をしてみます。
Amazon Q Businessからは以下のような結果が返ってきました。

出力結果の全文は以下です。


競合分析レポートによると、Analytica Proの次期バージョンで優先すべき開発テーマは以下の通りです。

1. BI機能の強化 - 現在、DataSphereと比較して機能が劣っている部分を改善する必要があります。

2. チームダッシュボード機能の開発 - DataSphereは2025年7月にこの機能をリリースしており、競合に追いつくために優先的に開発すべきです。

3. AI分析機能の強化 - Insightifyが提供しているAI機能に対抗するため、AI分析機能を強化する必要があります。

これらの開発テーマに注力することで、DataSphereやInsightifyといった競合製品に対して競争力を高めることができます。


顧客フィードバックログの分析に基づき、Analytica Proの次期バージョンで優先すべき開発テーマを以下のように提案します:

1. モバイル対応の強化
- 株式会社ABCフーズから複数回要望があり、競合のDataSphere社が既にモバイルアプリをリリースしている点から最優先事項
- スマートフォン・タブレット向けの最適化されたインターフェースまたは専用アプリの開発

2. 共有機能の拡張
- グローバル産業HDから複数回要望があり、フォローアップの問い合わせもある重要機能
- アカウントを持たない社内関係者向けの閲覧専用リンク機能の実装

3. パフォーマンス改善
- ネクスト・ソリューションズから指摘された、大量データ処理時のUI動作速度の最適化
- 顧客満足度に直結する基本的な品質向上項目

4. コラボレーション機能の追加
- ダッシュボードの特定グラフへのコメント・注釈機能

5. AI予測分析機能の開発
- 過去データからの売上予測などAIを活用したインサイト機能

特にモバイル対応と共有機能については複数の顧客から要望があり、競合他社との差別化の観点からも優先度が高いと判断されます。


一見すると良い回答が返ってきているように感じますね。確かに、競合調査レポートから「チームダッシュボード」「AI分析機能」といった競合の動向を正しく抽出できています。また、顧客のフィードバックデータから「モバイル対応」「共有機能」「パフォーマンス改善」といった顧客の具体的な要望を、どの企業からの要望かも含めて正確に抜き出せています。

しかし、「顧客がモバイル対応を求めている(フィードバック)」という情報と、「競合がまさにそのモバイルアプリをリリースした(競合レポート)」という2つの情報を結びつけ、「だからモバイル対応が最優先だ」という一つの結論を導き出すことができていません。結果として、別々の質問に対する2つの回答が並べられているかのような出力になっています。最終的な統合と判断を、人がやる必要が残ってしまっています。



次にAgentic RAGを利用(Advanced searchを有効)にして同じ質問をした結果を見ていきます。

出力結果の全文は以下です。

顧客フィードバックと競合分析レポートに基づき、Analytica Proの次期バージョンで優先すべき開発テーマを以下のように提案します:

1. モバイル対応の強化(最優先)
- 株式会社ABCフーズから複数回要望があり(3月と6月)、競合のDataSphere社が既にモバイルアプリをリリース済み
- スマートフォン・タブレット向けの最適化されたインターフェースまたは専用アプリの開発が急務

2. BI機能とチームダッシュボード機能の強化
- DataSphereと比較して機能が劣っている部分の改善が必要
- DataSphereは2025年7月にチームダッシュボード機能をリリース

3. 共有機能の拡張
- グローバル産業HDから複数回要望あり(4月と7月にフォローアップ)
- アカウントを持たない社内関係者向けの閲覧専用リンク機能の実装

4. パフォーマンス改善
- ネクスト・ソリューションズから指摘された大量データ処理時のUI動作速度の最適化
- 顧客満足度に直結する基本的な品質向上項目

5. AI分析機能の強化
- Insightifyが提供しているAI機能に対抗するため、AI分析機能を強化する必要あり
- イノベート製薬からAIを活用した売上予測などのインサイト機能の要望あり(8月)

特にモバイル対応とBI機能の強化は、競合他社との差別化の観点からも最優先で対応すべき項目です。


今後の開発計画について、以下の点を確認させていただけますでしょうか?

1. これらの開発テーマの中で、特に注力したい機能はありますか?

2. 各機能の具体的な要件や優先順位について、さらに詳しくお聞かせください。

3. 開発スケジュールや予算についての制約条件はありますか?


Agentic RAGを利用した場合は、両方のデータの内容を解釈して一つの提案としてまとめ上げていますね。内容もモバイル対応が最優先として挙げられているので期待した通りです。

また、調査過程を見てみるとAgentic RAGを使わない場合は、(英訳された)1つの質問でドキュメントを探していますが・・・


Agentic RAGを使用した場合は「競合分析」と「顧客フィードバック」の2つの質問にちゃんと分割されて調査をしていることがわかります。


まとめ

これまでのAmazon Q BusinessのRAG機能は、単一の文書から事実を抜き出すような「シンプルな質問」には有効でした。しかし、複数の文書にまたがる情報を統合・分析して答えを導き出すような「複雑な質問」には対応しきれず、期待した回答が返ってこなかったり、人手で情報を統合する必要がありました。Agentic RAG機能を利用することで、この課題が解決され、より活用できるシーンが広がっていくことが期待できそうですね。



執筆者・シリーズ情報

佐伯竜輔 プロフィール画像

2008年新卒入社。eラーニング製品、MySQL、Verticaなどのエンジニアを経て、 2019年から2年間限定で採用活動を担当。2021年に技術職に戻り、AWSに関する支援や研修の提案に従事している。...show more



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