
- アシストの視点
Bダッシュ委員会 DAO分科会発信
「DAOをビジネスに適用できるか」社内で実証実験
新商材・サービスの発掘・育成に取り組むBダッシュ委員会活動の中で、分散型自律組織(DAO)のビジネス適用の可能性を探り、アシストのビジネスにどう活かせるかを研究する「DAO分科会」についてご紹介します。
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筆者は、西日本地区のお客様向けに、技術分野や製品などを特定せず、幅広く課題解決の提案や支援を行っています。また、2020年よりアシスト社内においてBIマイスター*という役割を拝命し、所属組織の活動とは別に、データ活用やアナリティクスなどの面を中心に情報収集や発信などを行っています。
本記事では、価値創造という観点に対して、いわゆるビジネスインテリジェンス(BI)がどういうスタンスで関わっていくとよいのかについてご紹介します。
*BIマイスター
アシストは、次世代のアシストをリードするために必要な、高度な専門的スキルを持つトップ技術者を育成するために、2017年に「マイスター制度」を導入しました。トップ技術者として、何を習得すべきか、目指すべき技術者像を定め、技術職のキャリアパスを明確にすることで、技術者のスキルアップとモチベーションアップを図っています。
https://www.ashisuto.co.jp/corporate/about/meister/
本題に入る前に、価値創造についての社会動向を確認してみましょう。
下の図は、2022年6月に公開された、経済産業省の『デジタルトランスフォーメーション調査2022の分析』という資料にある、デジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組み状況についてのアンケート結果を抜粋したものです。
デジタルトランスフォーメーションの取組状況 |
経済産業省では、中長期的な企業価値の向上や競争力強化に結びつく戦略的IT投資の促進に向けた取り組みの一環として、DX認定制度というものを設け、その中でも優れた実績を上げている企業を「DX銘柄」などの形で公開しています。出典となる資料は、このDX銘柄などの選定のために東京証券取引所に上場している企業に対してアンケートを行い、その結果として得られた合計338件の回答をまとめたものです。
その中に、「既存ビジネスの変革」と「新規ビジネス創出」という二つの切り口で、DXの取り組み状況と効果についてのアンケート結果があるのですが、「既存ビジネスの変革」は、ほぼすべての企業で何らかの取り組みを実施しているという回答だったのに対し(図左)、「新規ビジネス創出」については、まだ実施していないという企業が2割近くあることが分かります(図右)。
「新規ビジネス創出」は、「既存ビジネスの変革」に比べて、ハードルが高いテーマであることは事実ですし、成果が出にくいということもあると思いますが、取り組みへの着手自体にも大きな差があるということが見て取れます。
新規ビジネス創出に遅れが生じる要因の一つは、新規ビジネス創出につながるような、新しい価値(製品やサービス、あるいはそうしたものを含めたエコシステムなど)を生み出す、いわゆる「イノベーション」というものが、そうそう簡単に起こるものではないという想いがあるからではないでしょうか。つまり、イノベーションは、一部の優れた人や行動力のある人の存在に依存していたり、何か別のものを研究・開発する中で生まれる偶然の産物であって、組織的に生み出せるものではない、と認識されている方が多いのではないでしょうか。
しかし、新しい価値が生み出されたケースを分析し、そこに何かしらの共通点が見い出せれば、共通する環境やプロセスを意図的に用意することで価値を生み出しやすくすることができるのではないでしょうか。
そのような発想から、世界中でそうした環境を用意するマネジメントが研究されていて、実際にイノベーション・マネジメントシステム、ISO56000シリーズとして国際標準化されています。イノベーションと標準化という相反する組み合わせを不思議に思われるかもしれませんが、実際に新しい価値が生み出せるかどうかは別として、価値を生み出すためのやり方や考え方はある程度まとめられているのです。
さらに、このISO56000シリーズを踏まえて、経済産業省では2019年10月に『日本企業における価値創造マネジメントに関する行動指針』という資料を公開しています。余談ですが、その前年となる2018年9月に「2025年の崖」で有名なDXレポートが公開され、それがあまりにもセンセーショナルに取り上げられたためか、こちらの資料は大きな話題にならなかった記憶があります。
さて、この資料では、企業が新規事業創造を行う際に直面する課題に対して、それを克服するための重要項目、国内企業の先進的な取り組み、ISOにおける該当箇所等について、今後の経営の変革の一助となるような考え方や実践方法などを紹介しています。内容は「イノベーション100委員会」という実際に何らかの行動を起こしている企業経営者が集まった場で議論されたもので、その観点で日本企業の経営者への7つの問いかけ(以下を参照)と12の推奨行動が提示され、それに対して基本的な考え方とよくある失敗例、推奨される行動をまとめています。
DXの取り組み状況についてのアンケート結果にあったように、まだ新規ビジネス創出の取り組みに着手されていない、成果までたどり着けていないというお客様は、こうした問いかけと推奨行動などを参考にして、是非取り組みを進めていかれるのがよいかと思います。
本記事では、DXの取り組みに欠かせないデジタル部分の中でも意思決定を支援するビジネスインテリジェンス(BI)やそのシステムとしての実装は、こうした問いかけや推奨行動を踏まえてどうあるべきなのかについてご紹介していきます。
さて、BIによる意思決定と、そのベースとなる情報分析による知見の獲得について考えるために、価値創造プロセスを少し掘り下げてみましょう。
価値創造プロセス |
ここまで、新しいビジネスを創出するためには新しい価値を創造する必要があるというお話をしてきました。しかし、新しい価値のもととなる発想やアイデアが、必ずしも新しいビジネスの創出につながるわけではありません。アイデアや発想は、様々な試行錯誤や仮説検証を繰り返す中でどんどん絞り込まれていき、最終的にビジネスとして価値を創造するに至るものはごくごくわずかです。つまり、価値創造には、数えきれない試行錯誤の積み重ねによる探究活動が必要であるということです。
最終的な成果につながる割合が非常に少ない中で、どうすれば価値創造につなげることができるでしょうか。それには、できるだけ手数を増やす、つまり数多くチャレンジしてみること、また、少しでも成果に至る割合を高める、という二つの方向性が考えられます。
チャレンジを増やすためには、試行錯誤のもととなる要素を増やして試行錯誤のパターンを増やすこと、さらに、仮説検証サイクルを高速化して同じ時間の中で多くのチャレンジができるようにすることが考えられます。
一方、成果に至る割合を高める活動はなかなか難しいものがありますが、一つ挙げるとすれば、いわゆる「失敗は成功のもと」として、過去の失敗も参考にするということが挙げられるかもしれません。
試行錯誤によってイノベーションを生み出すためには二つの発想方法があります。一つは「新結合」、もう一つは「視点転換」です。
新結合は、既存の要素をこれまでとは異なる方法で組み合わせることで新たな要素が生み出される、というもので、イノベーションという言葉のもとになったと言われています。一方、既存の要素に対して違った見方をしてみたり、異なる場所や文脈に置いてみることで、新しい価値や意味が現れてくる「視点転換」も重要です。
この二つの発想方法につながるイノベーションの理論について深くは触れませんが、試行錯誤とは、今までやったことがない組み合わせを試してみたり、いろいろな角度から要素を見ることと言い換えることができます。
試行錯誤の対象によっては、こうした新結合や視点転換を現実世界で実施するにはコストや時間がかかり簡単に実施できないことや、頭の中で考えるには複雑すぎるといったこともあります。そのため、現在であればコンピュータの中でデータ化してシミュレーションし、その結果をもとに、ある程度の確信をもって実証実験を行う、いわゆる「デジタルツイン」のような発想が有効です。
つまり、価値創造のための試行錯誤をデジタル空間で繰り返し、その結果を知見や意思決定として活かす、価値創造の達成を目的としたデジタルツインシステムがBIシステムだ、と考えることができます。
価値創造を目的としたBIシステムを実現するためには、以下の四つの押さえるべきポイントがあります。
●既存要素をデジタルデータ化する
●多様な新結合を数多く試行できるようにする
●多様な視点からデータそのものやその組み合わせを確認できるようにする
●仮説検証結果をビジネス価値の観点で説明・報告するための材料を提供する
これらを順番に解説していきます。
従来のBIシステムでは、ターゲットとなる業務のデータだけ、もしくはその周辺を取り込んでデータウェアハウスとして用意するものが多かったかと思います。しかし、デジタルツインという観点では、仮想空間を現実世界に近づける必要があります。
実ビジネスへのフィードバック |
また、様々な組み合わせを試すにあたっては、要素が多いほど多様なパターンをシミュレーションできます。したがって、自社のビジネス全般について横断的、網羅的にデータを収集することはもちろん、顧客の声や市場データ、オープンデータなど、外部のデータも取り入れる必要があります。さらに、成果に至る割合を高めるために、成功・失敗問わず、過去のイノベーションの取り組み結果を参照できるようにしておくことも大切です。
今までにない新しい価値を生み出すためには、今までとは違う組み合わせや視点を数多くシミュレーションすることが必要です。そのためには、仮説と検証の繰り返しを阻害する要因を極力排除しなければなりません。
仮説と検証の繰り返しを阻害する要因を排除 |
例えば、シミュレーション用のデータを使うために、何段階もの申請・承認フローが必要になったり、データを入手するために別のプログラム言語を覚えなければならないのであれば、それだけで時間がかかってしまい、試行の回数を増やすことができません。また、データの意味や位置付けが分からなければ、判断や解釈ができません。さらに、データの中身が意図したものでなければ、シミュレーション結果をどう捉えればいいのか判断できないですし、「データAとデータBはシステム的に組み合わせ不可」といったシステムの設計や機能面での制約なども試行を妨げます。
ガバナンスやセキュリティポリシーなど、データの扱いについて守るべきルールはあるべきですが、その範囲の中でいかに阻害要因を減らしていけるかが一つの大きなポイントです。
多様性には、複数の視点があります。
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多様性には複数の視点 |
●データの種類が多様であること
ある特定業務やその周辺データだけでは、データの多様性が低く、新しい組み合わせパターンが限られてしまいます。そのため、「1.既存要素をデジタルデータ化する」で述べたように、横断的・網羅的にデータを収集するべきです。
●データ利用者に多様性があること
例えば、人に相談してみたら、思いも寄らなかったような案が出てきた、という経験をお持ちではないでしょうか。一人で発想できる組み合わせや視点には限界があり時間もかかりますが、異なるバックボーンや属性を持った人とコラボレーションすると、新しい組み合わせや視点、発想が生まれやすくなります。
こうした領域では今後、より新しいコミュニケーションやコラボレーションの形としてメタバースやVR/ARなどの技術が使われるようになってくるのかもしれません。
新しい事業を始める際には、組織的な合意が不可欠です。今までのビジネスの延長戦上で新しい価値創造につながりそうなものが見つかった場合は、それを聴き組織的な意思決定を行う立場の方も比較的理解しやすいかと思いますが、これまでとまったく別次元の発想に基づく場合は、価値を説明するのが難しく、共通理解を構築するところから始めなければなりません。
BIシステムは、そうしたときに使える材料を提供できるように備えておくべきです。例えば、事業計画や商品戦略などを立案する上で必要な周辺データを準備したり、計画の推移に関するシミュレーションや数値予測の提示、過去のイノベーションの取り組み結果(成功・失敗問わず)を引き合いに出すことなども必要になります。
ここまで見てきた四つのポイントを満たし、得られた知見を意思決定に活かすBIシステムを用意することは重要です。しかし、BIシステムの用意だけでは不十分で、システムがきちんと活用され、価値創造という目標やミッションにつながるような仕掛けが必要なのです。ここではBIをマネジメントするための仕掛けを「インテリジェンスマネジメント」と呼び、次の項から価値創造のためにどうマネジメントしていくかを見ていきます。
価値発見を価値創造につなげるインテリジェンスマネジメントには、以下の四つのポイントがあります。
●BIの目的は価値発見にあると明確に宣言する
●価値発見に本気で取り組むことを経営とコミットする
●既存事業に囚われず、スピード感のある試行錯誤を実現する
●価値創造の組織文化を醸成・定着させることを意識する
以降で順にみていきましょう。
マネジメントの基本として、まず最初に目標や目的を明確にする必要があります。目的を明確にしないとどのようなシステムであるべきなのかを決められません。また、目的が違えば、要件も変わってきます。
例えば、「既存ビジネスの変革・改善」と「新規ビジネス創出につながる価値発見」では、明らかに要件が異なります。「既存ビジネスの変革・改善」の場合は、現状収集済みのデータ範囲から既存ビジネス周辺にデータ範囲を拡大し、課題と解決策を探索し、どの解決策を採用するかを決めたり、現在との比較予測を行うことが目的となります。一方、「新規ビジネス創出につながる価値発見」の場合は、価値発見が目的であるため、社外データまでデータ範囲を拡大し、仮説などから企画推進を判断していくことが目的となります。
ビジネスインテリジェンスを構成する活動と求められる機能 |
特に、価値創造のための活動は、戦略的なものであり、コスト削減や、短期間で直接的な収益へ貢献することとは違い、投資対効果のような物差しで測ることはできません。そのため、「BIの目的は価値発見にある」と宣言し、関係者間の共通認識にすることが重要です。
二つ目は「価値発見に本気で取り組むことを経営とコミットする」ということです。そもそも、価値創造の取り組みは必ずしも成果が出るとは限らず、また成果が出るとしても長い時間がかかります。
『日本企業における価値創造マネジメントに関する行動指針』でも、以下に挙げた文章のほかに、「継続的に・粘り強く・予算やリソースを投入することが重要である」ことが繰り返し説かれています。
“自社のコア事業から離れた領域の新事業は、短期的な経営合理性がないので社内でも潰され易く、投資家にも理解されがたい。しかしながら、一見して経済合理性がない分野でも、経営トップの大胆な意思決定と、途中であきらめず、継続的に投資を行うことが、イノベーションへとつながる。”
出典:経済産業省
『日本企業における価値創造マネジメントに関する行動指針 ~イノベーション・マネジメントシステムのガイダンス規格(ISO56002)を踏まえた手引書~』 2019.10
https://www.meti.go.jp/press/2019/10/20191004003/20191004003-1.pdf
p.23 「行動指針4」より著者が抜粋
一つ前の項で、目的を明確にすることが重要であるとお伝えしましたが、BIシステムの目的が価値創造の取り組みの一環であることを明確にすることで、周囲の理解と覚悟を得られやすい環境に設定することが重要です。
企業におけるデータ活用やDXに関する人財育成は、現場部門の従業員に対するデータ活用リテラシーやデータサイエンスなどのスキル研修を通じて行われているケースがほとんどです。
しかし研修を受けただけでは、実業務の中でデータを見ても今までのやり方や発想に囚われ視点転換ができなかったり、担当業務が優先となってデータ活用が進まないということになりがちです。既存ビジネスの改善という観点では「視点転換」ができなくてもさほど大きな問題にはなりませんが、新しい価値創造という観点では「担当業務が優先」でデータ活用が進まなければ、思い切った新結合や視点転換ができないことになります。また、担当外の領域のデータを見たり、扱ったりすることに対して、無意識のうちに遠慮が働いてしまうこともあるでしょう。
コラボレーションにより視点変換に注力する |
これまでにない視点を取り入れるためには、(1)データ活用の専任になって現場の発想から離れる、(2)これまでのキャリアとは全く異なる業務に就く、(3)社外の視点も取り入れるといった方法があります。
例えば、育成した従業員をそれまでの担当業務からDX専任とし、現場部門とペアで活動するような取り組みで成果を上げている企業があります。担当者はDXが本業になるので腰を据えて活動できるだけでなく、経営からのお墨付きがあることで活動しやすくなるはずです。また、ある事業部門にDX人財を派遣してその中で活動させるケースや、既存ビジネスとは切り離して価値創造チームを作り、既存ビジネスやそこで発生するデータは必要に応じて事業部門にヒアリングするような形をとるケースもあります。
この辺りは自社の状況や文化、新結合と視点転換のどちらに重きをおくのかなどの観点で、どのやり方を採るのか検討すればよいかと思います。
繰り返しになりますが、こうした活動を実際に進めるには、組織としての危機感や戦略・本気度をトップダウンで周知するとともに、価値創造のための活動を推奨して時間を確保させたり、チャレンジそのものを評価することが必要です。そうすることでDX担当者のモチベーションが維持できるとともに、事業部門の担当者の意識も協力的なものにすることができます。
ここまで取り上げてきたようなポイントを徹底的に繰り返すとともに、その進捗を見える化して成果を共有したり、チャレンジそのものを評価する姿勢を社内外に向けて発信し続けることが大切です。これらを繰り返し行うことで、徐々に価値創造の取り組みそのものに意義があることが従業員に伝わり、価値創造の取り組みに積極的に関わりたいという雰囲気ができあがります。
価値創造の組織文化を醸成・定着 |
そうした雰囲気が醸成されれば、従業員の中から自発的に価値創造に取り組むような動きが生まれ、いくつもの価値創造プロセスが並行して進むことになり、イノベーションを生み出すことができる組織に近づけるのです。
目的の明確化は重要 |
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上田 信治
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最後までご覧いただきありがとうございました。
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