今年もオラクル社が主催する最大の技術カンファレンス「Oracle CloudWorld」へ、アシストのエンジニアたちが参加してまいりました。この記事ではデータベース製品のセッションから、Oracle Databaseの進化の方向性をテーマとしたSolution Keynote『オラクルデータベースの方向性(Oracle Database Directions)』で発表された内容をフィードバックします。
なお、このフィードバックはOracle CloudWorld 2023の開催された2023年9月19日から21日時点での情報であり、英語のセッション聴講内容を抄訳したものです。最新情報はオラクル社からの正式なプレスリリースも併せてご参照ください。
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Solution Keynote『Oracle Database Directions』の概要
データベース開発責任者のアンディ・メンデルソン氏によるSolution Keynoteに参加しました。この講演では、次の三つの観点からOracle Databaseの展望が語られました。
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1.Oracle Data Managementのビジョンと戦略
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2.Oracle Data Managementの最新情報(23c新機能など)
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3.Oracle Data Managementの今後の展開(AI技術とOracle Database)
それでは、これら三つの観点をそれぞれ紹介していきます。
1.Oracle Data Managementのビジョンと戦略
「何年も前からこのビジョンを掲げてきました」とメンデルソン氏がスライドを映して述べたことは、次のようなものでした。
『あらゆる規模の様々なユースケースにおける、最新のアプリケーションやアナリティクスを容易に開発・実行する』
メンデルソン氏はここで、Oracle Databaseは運用だけではなく開発サイドにも重点を置いたアップデートを行っている点を強調しました。またこのクラウド時代に、開発者たちがOracle Databaseを使用して生産的にアプリケーション開発を行えるようなツールを提供したいという意向を示しました。
さらに「この1年で『Open AI』や『大規模言語モデル』といった言葉を耳にするようになったでしょう」と述べ、生成AIの登場に伴いアップデートしたビジョンについても語りました。
『あらゆる規模の様々なユースケースにおける、最新のアプリケーションやアナリティクスを容易に"生成"・実行する』
ビジョンの実現
生成AIの登場によってアップデートされたこのビジョンを、メンデルソン氏は「コンバージドデータベース(Converged Database)」「Oracle Autonomous Database」という二つのシンプルなデータプラットフォームの考え方で実現していくと述べました。
コンバージドデータベース
「コンバージドデータベース」は、最新のデータタイプ、ワークロード、開発スタイルを全て完全にサポートするというOracle Databaseの概念です。Oracle Databaseにあらゆるデータ型を保存しデータを一元管理することで、データを移動したり異なるサービスを連携させる必要がなくなり、シンプルなデータプラットフォームを実現できます。
Oracle Autonomous Database
「Oracle Autonomous Database」は、システム規模や重要度に関わらず、あらゆるアプリを開発・実行できるシンプルなクラウドデータベースサービスです。このサービスは、クラウドへの移行において戦略的な選択肢となっており、その強みは「運用面」と「開発者の生産性」の両方にあります。
普段サポート業務を務める私の体感ではありますが、フルマネージドなAutonomous Databaseの利用は日本ではあまり馴染みがないように感じます。それに対し、メンデルソン氏の発表によると、グローバルなユースケースでは小規模なシステムにおいてもAutonomous Databaseが好まれている傾向にあるとのことが、非常に興味深い内容でした。特に、大人数のエンジニアやアナリストが在籍しているわけではない中小企業においては、フルマネージドサービスであることによる運用面のメリットからAutonomous Databaseがフィットするケースも多いようです。
同社のSaaSでも多くのサービスでAutonomous Databaseが活用されており、今後もさらにその範囲は広がりそうです。
2.Oracle Data Managementの最新情報(23c新機能など)
Oracle Databaseによるデータ管理の最新情報は、下記の観点から紹介されました。
- Oracle Database 23c
- Oracle Exadata X10M
- OCI & Multicloud Developments
- Autonomous Database Innovations
Oracle Database 23c
「23cは19cに続くLong-Term Releaseです」と述べて、23cでは300を超える大量の新機能が実装されることを発表しました。
この講演でメンデルソン氏は、「300の新機能について一つ一つを説明することはできませんが、興味深いものをいくつか紹介します」と10個の新機能を示しました。
DBA | Real-time SQL Plan Management SQL Firewall True Cache |
ANALYST | Automatic Materialized Views Improved ML Algorithms |
DEVELOPER | JSON Duality Views Property Graph Views JavaScript Stored Procedures SQL Domains AI Vector Search(coming soon) |
運用系のサポート業務が多い私個人としては『リアルタイムSPM』や『SQLファイアウォール』など、気になる機能が多々ありましたが、中でもメンデルソン氏が興奮気味に紹介したのは『AIベクトル検索』についてでした。
AIベクトル検索
Oracle Database 23cでは、写真、文書、ビデオなどの非構造化データをベクトル(数値の配列)として格納する技術が実装されます。これにより、新たな「ベクトルデータ型」というデータ型と、それに対応する新しい索引が追加されます。その結果、「ベクトル類似性検索」が可能となり、例えば、ある画像が他のどの画像に最も似ているかを高速に検索することができるようになります。
これは、Oracle Databaseがコンバージドデータベース(※1)の概念に基づいて、ベクトルデータベースとしての一面を持つことを意味します。オラクル社がAIや機械学習の領域にも深く関与していることを示しており、その取り組みに対する期待感が高まりました。
今後のリリースでも、ベクトルデータ型のような新たなデータ型やワークロードにも、Oracle Databaseは柔軟に対応していくことでしょう。
※1:全ての最新のデータタイプ、ワークロード、開発スタイルを完全にサポートするというOracle Databaseの概念
その他の機能については、今後のアップデートを待ちつつ、随時本ブログでご紹介していきます。
ビューの強化
Oracle Database 23cでは、JSON Duality ViewとProperty Graph Viewという二つの新しいビューメカニズムが導入されました。
Oracle Database 23cではJSONを扱いやすくする新しいビューJSON Duality Viewが追加されました。JSONはJavaScriptの開発者やRESTなどの開発手法を使っている人たちに大変人気のデータフォーマットです。
この機能により、開発者はテーブルからJSONドキュメントを生成するビューを宣言的に作成することができるようになります。また、これらのビューは更新可能で、開発者がビューを操作して更新した値をデータベースに反映することができ、基となっているテーブルの更新を自動的に行います。開発者はまるでJSONドキュメントに対し操作を行っているように感じることができるビューです。Property Graphでも、同様にデータをより効率的に扱えるビューが提供されます。
これらの大きな利点として、標準SQLを使用してデータにアクセスが可能である点をメンデルソン氏は強調していました。新たな標準SQLではJSONやProperty Graphもサポートされており、この標準に則って新たなビューが実装されているため、特定のデータベース技術に縛られることがない点が大きなメリットです。
Oracle Database 23c Free(23.3)
Oracle Database 23cは、現在Oracle Cloud Infrastructure(以下、OCI)上のデータベースサービスで利用可能です。オンプレミスではFree版がDockerイメージ、VirtualBox VM、Linux RPMファイルとして既に公開されており、Windows版も近日公開とのことです。
Free版はストレージが12GB、メモリ2GB、CPU 2スレッドという上限付きではありますが、23cの新機能をいち早く試したい方はぜひダウンロードしてみてください。
Oracle Database Free
https://www.oracle.com/jp/database/free/
Oracle Exadata X10M
Oracle Exadataの採用実績
Oracle Exadataは、Oracle Databaseを稼働させるために最適化されたプラットフォームです。この講演でメンデルソン氏は、Exadataがあらゆるワークロードに適応できることや優れた処理性能を持つことから、「Fortune Global 500」の上位100社にランキングされる企業の76%がExadataを採用している実績を発表していました。
Exadataのトピックとしては、「Oracle Exadata X10M」と、Oracle CloudWorld 2023開催の1週間ほど前に発表されたMicrosoft Azureのデータセンターでのサービス提供が紹介されました。
Oracle Exadata X10M
2023年6月にX10Mが発表されましたが、今回のイベントでもその性能とコストの優位性が改めて強調されました。
大きなトピックとしては、CPUがIntel製からAMD製へと変更されたことなどが挙げられますが、詳しくは以下のブログ記事で紹介していますので、ぜひご覧ください。
Exadata最新モデル「X10M」登場!圧倒的な拡張性を備えたOracle Databaseプラットフォームを徹底解説!
Oracle Exadata Exascale
この講演では詳しくは触れられませんでしたが、Exadataが搭載するDatabase Intelligent StorageやRDMAといった最適化された技術と、クラウドサービスにおけるマルチテナントのニーズに応える柔軟性に富んだインフラサービスが展開される予定とのことです。
OCI & Multicloud Developments
マルチクラウド - Oracle Database@Azure
私たちがアメリカへ向かう1週間前の2023年9月14日に、オラクル社とマイクロソフト社のクラウドサービス協業拡大が発表されました。OCIのマルチクラウドサービスのトピックとして紹介された下記の3点の中でも、今回大きな注目を引いたのは3点目の「Oracle Database@Azure」でしょう。
1. OCI Azure Interconnect
・OCIとMicrosoft Azureのデータセンター間で約2ミリ秒の低レイテンシーなインターコネクトを実現
・OCIとAzure間でのデータ移動に伴うエグレス料金(クラウドサービスが提供するストレージから
データを取り出す料金、ダウンロード料金)を撤廃
2. Oracle Database Service for Azure
・アイデンティティ認証の統合
・OCIのサービスメトリクス、イベント、ログをAzureから確認可能
3. Oracle Database@Azure
・AzureリージョンへExadataを設置することにより、
相互接続ではなくまさにAzureの中でOracle Databaseの利用が可能に
・レイテンシが従来のインターコネクトの10倍低くなりマイクロ秒台に
・Azureの消費コミットメントを使用して購入可能
・Oracle Support Rewardsが獲得可能
これまではOCIとAzureのデータセンターの連携強化に注力していましたが、ついにExadataの筐体自体をAzureのデータセンターへ設置したサービスの展開が発表されました。マイクロソフト社が提供するデータベースサービスとの競合も心配する方もいらっしゃると思いますが、うまくニーズのすみ分けができているための協業なのでしょう。
ExadataをAzureのデータセンターへ設置することにより、Azureのユーザーはこれまでの10倍速いネットワークでOracle Databaseを利用できます。さらに、Azureの消費コミットメントの一部として利用できる、
Oracle Support Rewardsが利用できるようになります。
Autonomous Databaseの進化
Autonomous Database Innovationsと銘打って四つの新機能が紹介されました。
1. Multicloud Data Warehouse
Autonomous Data WarehouseはじめAutonomous Database全般が他クラウドサービスに保存されているデータにアクセスできる機能です。Azure Blob Storage、Amazon S3、Google Cloud Storageなどのオブジェクトストレージにデータを持つことができ、それらに対してAutonomous Databaseから簡単にアクセスできます。
2. Rethink the Data Lake
Autonomous Data Warehouseのストレージの価格が、オブジェクトストレージと同じ価格に改定されました。これまではAutonomous Data Warehouseに最適化したExadataのストレージに大量のデータを置くと非常に高価になってしまいましたが、オブジェクトストレージと同じ価格に引き下げられ、データレイクとして最大限に利用できるようになりました。
3. Open Data Sharing
Database Cloud Service間でデータを共有する標準プロトコル「Delta Sharing」を採用しました。他のベンダーが独自の情報共有方法を持つ中、オープンスタンダードな方式を採用している点を強調していました。
4. Data Studio
Autonomous Databaseにビルトインされたローコード分析ツールです。様々なクラウドサービスに分散しているデータをあたかもAutonomous Databaseのローカルデータのように扱い、分析できます。
Data Studioについてはプロダクトマネジメント責任者であるパトリック・ウィーラー氏によるデモを拝見しました。デモでは映画の売上げについて、顧客のジャンルと顧客価値による分析が行われました。
分散されたデータはOCI、Google Cloudのオブジェクトストレージ、Amazon S3、Azure Blob Storageに存在しますが、Data Studioから例えば映画の「ジャンル」を検索するとAmazon S3に格納されたデータがヒットします。Data Studioのデータロードツールを使用してAmazon S3上のデータを読み込むことで、対象のデータをAutonomous Database上のデータと結合しながら分析していました。
また、Data Studioでプレビューした分析結果は、Oracle Analytics、Essbase、Power BI、Tableau、スプレッドシート型のインターフェースでも閲覧可能な形式にエクスポートできるため、汎用性にも富んでいました。
3.Oracle Data Managementの今後の展開(AI技術とOracle Database)
Oracle CloudWorld 2023の大きな潮流として感じたのは、やはり生成AIの分野でした。
「私たちが取り組んでいる大きなことは、開発者が従来のツールを使用してアプリケーションを開発する支援をするだけでなく、アプリケーションを”生成”することで開発者の生産性を10倍向上させる方法を検討しています」とメンデルソン氏。
具体的にはLLM(大規模言語モデル)を使って自然言語からSQLを生成する機能が紹介されました。
LLMを使った自然言語によるSQL生成
Autonomous Databaseによる「SELECT AI」機能も注目を集めていますが、メンデルソン氏の講演では、ソフトウェアツールアーキテクトのシャキーブ・ラヒマン氏によるApexの自然言語プロンプトからSQLクエリを生成する『Apex Assistant』のデモが行われました。
HRデータのサンプルから作成されたアプリケーションに、従業員データに関するダッシュボードを作成するためのクエリを生成AIにリクエストする操作を見ることができました。アプリケーションのページ作成画面を開き、プロンプトへ「chart of employees by department」と入力すると、部門別の従業員数を求めるSELECT文とチャートのタイトルが自動生成されるという内容です。
「万一AIがプロンプトを正しく理解しなかった際は人間がSQLを修正できるのか?」という疑問が生まれましたが、もちろん生成されたSQLに修正を加えた上でチャート化してアプリケーションの画面を作成することが可能でした。
この機能はまさにメンデルソン氏が掲げた「アプリケーション開発の支援をするだけでなく、アプリケーションを”生成”して生産性を向上する」一つの例であると納得しました。
まとめ
この記事ではOracle Databaseの最新動向について、オラクル社アンディ・メンデルソン氏のKeynoteからご紹介しました。
Oracle CloudWorldではデータベース製品のみならず、オラクル社のソリューションによる成功事例や、最新技術動向が数えきれないほどのブースで発表されていました。ここ数年までのクラウドビジネス強化の傾向から、今年はAI技術への注力が色濃く感じられる発表が多かった印象です。
目まぐるしく進化する技術と、それに応じた進化を続けるOracle Database。
私も一技術者として今後もOracle Databaseの進化に注目し、『アシスト現場ブログ』を通じて皆様に情報を発信し続けていきます。
執筆者情報
アシスト北海道
2016年アシスト北海道へ入社後、Oracle Databaseのサポート業務に従事。入社2年目より夜間休日帯など営業時間外の緊急対応を主に担当。現在は通常時間帯のサポート業務を担当しており、第一線で日々奮闘中。...show more