なぜAI導入は失敗する?AIプロジェクトの成功パターンから学ぶ、おさえておくべきポイント5つ
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こんにちは!アシストの熊谷です。
日ごろAIサクセスマネージャー(DataRobot社公認)として、お客様のAIプロジェクト推進をお手伝いしています。
昨今、企業としての競争力を獲得するために、AIをはじめとするデータの利活用への取り組みが強く求められています。
しかし、社内にナレッジがないなかで、ゼロからAIプロジェクトを立ち上げ、推進し、そして成功にまでいたる確率は、必ずしも高いとは言えないのではないでしょうか?
この記事では、AIプロジェクトをこれから始めようとされている方や、現在AIプロジェクトを推進されている方向けに、AI導入成功のために「これだけはおさえておきたいポイント」をわかりやすく解説します。
なぜAI導入は失敗するのか?
AIプロジェクトの成否を分けるポイント5つ
実際にお客様のAIプロジェクトをご支援させていただくなかで、プロジェクトを成功させるためには5つの共通点があることが分かってきました。それぞれのポイントと、考慮すべき内容について見ていきましょう。
1.目標・ビジョンの設定
組織として中長期的なビジョンを持ってAI導入を検討しているか?
2.AIテーマの設定
AIでできること、できないことを正しく理解し、適切なAIテーマを設定できているか?AIを使うこと自体が目的になってしまっていないか?
AIで解決できることや、AIプロジェクトの進め方は「DataRobot超入門」で解説
3.組織・推進体制の整備
AIプロジェクトの推進において必要な役割を認識し、目標・ビジョンと連動した体制を組めているか?
4.AI人材育成の推進
AIを活用し継続して効果を出していくために、社内の人材育成に取り組めているか?
5.データの整備
AIに取り込むデータの取得や加工プロセスの重要性を理解し、取り組めているか?
上記のポイントは、AIプロジェクトに限らず、すこし言葉を置き換えてみれば通常のシステム導入でもよく言われるポイントかと思います。
しかし、AI導入においては、各ポイントにおいてAI固有の要素が多く含まれています。
そのため、実際のプロジェクト推進では、AIプロジェクトの特徴を理解し、その特徴に合った進め方をする必要があります。
それでは、AIプロジェクトの特徴について、従来のシステム開発と比較しながら見ていきましょう。
従来のシステム開発とAI開発との違いとは?
以下の表は、上記の5つのポイントをもとに、従来のシステム開発とAI開発とを比較したものです。

上記のような違いを認識せずに、従来のシステム開発でのアプローチを取ってしまうと、AI開発が失敗に終わってしまう可能性が高まります。
これより先ではさらに掘り下げて、各ポイントごとにどのような失敗が起こりえるのか、また、それを回避するために取るべき対策についてご紹介します。
AIプロジェクトにおける、失敗あるあるとその回避策
1.目標・ビジョンの設定
失敗例
現場でAI導入を検討し、ボトムアップ型で自社でのAI活用を経営陣に働きかけてAI導入を推進するケースです。
ボトムアップ型のすべてのケースにこの失敗例が当てはまるわけではありませんが、このケースにおいては、自組織内に限定した範囲で短期的な目標を設定しがちです。
そして、スモールスタートゆえに初期活動はうまくいくことも多いのですが、組織全体としての目標・ビジョンの設定が曖昧なままでは横展開などのスケールアウトが見込めず、結果的に短期的な活動で終了してしまうリスクをはらんでいます。
回避策
AIを単一部門のみで導入すると、その効果は小さくとどまってしまい、経営にインパクトを届けられないことがあります。
ボトムアップ型で推進する場合においても、経営層に対する目標・ビジョンの合意や、全社への共有、そして活動中に更新が発生した場合には都度共有するといった活動が重要です。
2.AIテーマの設定
失敗例
「AIで実施可能なことをまず見つけて、そこから業務プロセスの改善に取り組みたい」という、AIという手段が先にあり、目的をあとから探すケースです。
新しい技術が出てきた際によくある話ですが、「AIでできること」ばかりに目がいってしまい、実際の業務で使われる見込みのないテーマで予測モデルの構築に取り組んでしまっていることもあります。
また、AIで実現したいことや求めるハードルが高すぎて、いつまでたっても業務適用の目途が立たず、永遠に終わらないテーマ設定や予測モデル開発をしてしまっているケースも見かけます。
回避策
予測モデルの開発において、仮に当初の要望に届かない性能であっても、自動化や業務の効率化に寄与するケースや、利用者に対して新しい気づきを与える効果が期待できることもあります。
そのため、当初の目標に縛られすぎず、まずは業務でAIを使ってみることも大切です。
「AIで実現できること」と「AIで実現したいこと」のバランスを取り、適切なテーマコントロールを行っていきましょう。
ビジネス効果の出せる、適切なAIテーマの選定方法は「AIスタートダッシュ超入門」で解説
3.組織・推進体制の整備
失敗例
AIへの期待の高さから、AIプロジェクトへの取り組みに対して積極的になるあまり、非常に多くのメンバーが参画されるケースがあります。しかしながら、プロジェクトメンバーが多いわりに役割分担が曖昧になっているケースが見受けられます。
回避策
AIプロジェクトは、データサイエンティストばかりが多くいてもうまく進みません。
以下のようにさまざまな役割があるため、各役割の定義をしっかりと意識し、組織を整える必要があります。
- AIの導入や現場への展開方法を企画する「AIプランナー」
- AIプロジェクトの進行を管理する「プロジェクトマネージャー」
- 予測モデルを構築する「データサイエンティスト」
- AIに必要となるデータを取得・整備する「データエンジニア」 など
4.AI人材育成の推進
失敗例
「AIは特殊な技術である」という判断から、予測モデルの開発をすべて外部委託するケースがあります。この場合、自社のAI人材の育成は置き去りにされ、一切未着手であることが多いです。
このケースでは、予測モデルが納品され、運用を始めたとたんにモデルの陳腐化が始まり、せっかく開発したAIを継続的に業務で使えなくなることがあります。
回避策
一次的に外部の力を借りてAI開発することは有用なひとつの手段ですが、AIは常に変化に追随していく必要があります。そのため、自社内で主体的にAIに取り組むことができる人材の育成も、同時進行で必須となります。
なお、育成は座学だけではなく、実際に手を動かして開発する実務との組み合わせで実施するようにしましょう。
5.データの整備
失敗例
AI開発において、最初からデータが揃っているケースはほとんどありません。そのため、AIに必要なデータを探す、つくる、加工する、などの工程が発生します。
失敗パターンとしてよくあるのが、「今あるデータの範囲でやれることにチャレンジしたい」との考えでAI開発に取り組んだ結果、期待した結果を出すことができず、AIに対して幻滅を抱くケースです。
データがあれば成功したかもしれないのに、データ不足に真摯に向き合わないことで、自社からAIを遠ざけてしまう悲しい結果となります。
回避策
データ集めやデータ加工に関する目途を持ったうえでAI活用に取り組みましょう。もしAIに必要なデータを集めることが難しい場合には、まずはデータを収集することから始める、といったように、時には立ち止まることを恐れないことも大切です。
ここまで、5つの視点から、失敗パターンとそれを回避するための考え方をお伝えしてきました。しかしながら、回避策が分かったとしても、自社の力だけでAIプロジェクトを推進するには限界があり、成功に至るまでに遠まわりをしてしまう可能性もあります。
上記であげたような失敗ケースに陥らず、なおかつ最短でAI活用の成功にたどり着くためには、AIの知見をもつ頼りになるメンバーにプロジェクトへ参画してもらい、支援を受けながら推進していくことをオススメします。
「自走」がAI成功のカギ!
自社の自走に向け伴走型でご支援するAI Buddy
失敗ケースでお伝えしたとおり、AIプロジェクトは自社のメンバー自身が主体的に取り組んでいくことが何よりも大切です。
アシストでは、AIに取り組まれるお客様を伴走しながらご支援するサービス「AI Buddy(AI バディ)」をご用意しております。
「AI Buddy」とは、お客様の頼れる相棒(バディ)として、お客様のAIプロジェクト推進をお手伝いしているアシストのAIサクセスマネージャーと、データサイエンスの知識と資格を持ったデータサイエンティストが伴走型でご支援します。
お客様は、AI導入から活用までを外部に委託することなく、自社のメンバーを主力に据えながら、AIプロジェクトの進行と自社メンバーの育成、AIリテラシーの向上を同時に実現できます。
以下では、「伴走型」のイメージがわかるように、実際に弊社のお客様へ提出した支援計画の一部を編集してご紹介します。
伴走型支援とは?実際にお客様へ提出した支援イメージ
こちらの例は、初期のAIテーマが比較的明確なお客様に向けたご支援メニューです。
AIの業務適用を支援しながら、社内での横展開に向けて新しいテーマを見つけ、AI活用の拡大を図っていく内容となります。

アシストでは、以下のような支援メニューを用意しており、お客様の活動に合わせて設計、提案をさせていただきます。
ご利用いただける支援メニュー
- 取り組み中のAIテーマに対してアドバイスを行う「テーマ推進支援」
- 新たなAIテーマを発掘するための「課題設定ワークショップ」
- 社内啓蒙のための「AI勉強会」
- 社内のAI活用事例を発表・共有する「事例勉強会」
- アシストが提供しているAIツール「DataRobot 」の使い方をマスターするための各種トレーニング など
上記の各種支援を、先ほどの5つのポイントにプロットすると以下のようになります。

テーマ推進を支援の中核におきながら、勉強会やワークショップ、トレーニングなどで各ポイントをおさえていきます。
AI Buddy支援の詳細は、「AI Buddyサービス紹介資料」をご確認ください
さて、ここまで、「AIプロジェクトに失敗しないためのポイント5つ」と、「AIプロジェクトを成功させるための伴走型支援、AI Buddy」についてご紹介してきました。
ここまでの内容は、AIサクセスマネージャーとしての視点でお話しましたが、AIプロジェクトにはデータサイエンティストの支援も必要となります。
そのためここからは、実際にお客様のAIプロジェクトをデータサイエンティストとして支援している小宮さんと、実際の事例をテーマにさらに話を深めていきましょう!
以下について知りたい方は、ぜひ読み進めていただくことをオススメします。
このような方にオススメです
- 企業のAI導入の現場では、どういったことが起こっているの?
- もしAIツールの標準機能で要件を満たせないときは、どうする?やっぱり諦めるしかない?
- 実際のAIプロジェクトでは、どんな問題が起こりうるんだろう?
AIプロジェクトはこうやって進んでいる、
実例をとおしてデータサイエンティストが解説

それでは、簡単な自己紹介と、お客様にどのような支援をしているか教えてください。
私は、データサイエンティストとしてお客様のAIプロジェクトのテーマ推進のお手伝いをしています。 たとえば、お客様の作成途中の予測モデルを見せていただきながら、時には私もモデル作成や検証を行い、より効果を出せる方法をアドバイスしています。

AI導入はハードルが高い?どんな企業がAI導入を検討しているかというと

実際にAIプロジェクトの推進を支援してみて、お客様の課題や支援の内容についてどう感じていますか?
まず感じるのは、お客様の課題や置かれている状況は非常に多種多様であるということですが、傾向としては大きく2つに分けられます。
ひとつめは「実施したいAIテーマや予測したい内容が明確になっており、技術的なフォローのみが必要なケース」、ふたつめは「まだAIテーマが決まっておらず、これからテーマの詳細化を図ったり、データ準備やモデル作成をしながらテーマの具体化を図っていくケース」です。


それではまず、前者の場合について、どのような支援を実施したのかを教えてください。
前者の場合は、お客様自身にはっきりとプロジェクトの進め方に対するイメージがあります。
そのため、アシストの役割としては、その進め方において発生するであろう課題のフォローや、ひとつのゴールを達成したあとの体制づくりや教育を支援させていただきます。
あるお客様では、実施したいテーマや予測したいターゲット、使うデータなどが明確でした。しかしながら、お話を伺うなかで、運用を見据えた場合にいくつかの問題があることが見えてきました。
具体的には、予測用のデータを現場のユーザーに入力してもらうことがあるため、その入力作業をできる限り最小限にとどめる必要がある、という点です。
また、ユーザーにAIを利用してもらうためには、既存システムの中に作成した予測モデルを組み込むことが必要でした。
実際にAIを業務適用した経験を持つ方がいらっしゃらなかったこともあり、システム運用の要件をヒアリングしながら、DataRobotでの実装方法についてアドバイスを重ねて、運用に結びつけることができました。



お客様主体で進めつつも、お客様がイメージできていない部分をAI Buddy支援によってサポートし、運用にいたった例ですね。それでは、後者のパターンについても教えてください。
後者のパターンにおいては、大きなテーマはもちろん決まっていますが、詳細な部分はプロジェクトを進めながら検討していきます。
このケースにおいては、まだ使えるかどうか分からないデータをもとに予測モデルの開発をはじめ、出力された予測結果をもとに、どういった使い方ができそうか、他に必要となるデータがあるのかなどをディスカッションしていきます。
しかし、ディスカッションを重ねていくと、目的が見えなくなることもあるんです。


目的が見えなくなるというと?
AIに取り組まれるお客様は、AIに多くの期待を寄せられていることもあるため、複数の目的をいっきに解決しようとされるケースがあります。そのため、作成している予測モデルに、その複数の目的をすべて担わせてしまうことがあるんです。
そうなると、必要なデータの選定や評価の仕方などがブレてしまうことがよくあります。
そのため、お客様のご要望や目的を理解しつつ、テーマや予測ターゲットを改めて確認をさせていただきます。
そこをしっかり意識しながら進めると、必要なデータや前処理の内容も整理されていきます。「現場で本当に使えるAI」を実現するために、目的にあった軌道修正をアドバイスさせていただくようにしています。



お客様は試行錯誤しながらAIに取り組んでいるため、第三者的にアシストがアドバイスさせていただき、軌道修正を図っているんですね。
つい諦めてしまいがち、ツールの標準機能で対応できない要件にはどう対処する?

今あげた2つのパターン以外に、実際の支援の現場で感じることがあれば教えてください。
2つありまして、ひとつめは「データの前処理の重要性」、ふたつめは「ツール単体の機能では実現が難しい要件への対応策」ですね。
まず前者において、お客様から実際にデータをいただきモデル作成のアドバイスをすることも多いのですが、そのモデル作成の前のステップとして、データの前処理に関するご相談をいただくことが実は非常に多いんです。
そのため、この前処理の部分もうまくこなせるようになると、モデル作成の効率が格段にアップします。


どれだけ高度なAIツールであろうと、取り込むデータの精度が低ければ、出力される予測結果もまた精度が低くなってしまいますから、「データの整備」は非常に重要ですね。 後者についても具体的に教えてください。
DataRobotは便利で多機能なツールではあるのですが、時にはお客様から、ツール単体の機能では実現が難しいようなご相談をいただくこともあります。
実際に支援させていただいた例では、「最適化問題」に関するご相談がありました。
最適化問題とは、「逆問題」とも言われたりしますが、普通に結果を予測するのではなくて、その結果を最大化するためには、どういった入力値の組み合わせがよいのか?を探し出すようなものとなります。
最適化問題を行うためには、DataRobotでは「最適化アプリ」というもので簡単に最適値をシミュレーションできるのですが、最適化したいパラメータが1つに限られてしまうんです。
実際にご相談いただいたお客様がやりたかったのは、トレードオフの関係にあるような2つのパラメーターを同時に最適化する、一般的に「多目的最適化」と呼ばれるような処理だったんですね。


製品機能だけでは実現が難しいご相談だったので、製品でどこまで対応するのか、どのような手法であれば、お客様の目的に対して効率的に対応できるのかを議論し、結果として外部の機能と組み合わせて実現する方法をご提案させていただきました。
はっきりした正解があるわけではないので、アシストとしても試行錯誤してアイデアを提示させていただきました。


よくお客様からは、「ツールさえあれば簡単に実装できるのでは?」というお話や、「ツールでできないことは諦めるしかない」といったお話をお聞きします。
しかし、DataRobotの製品知識とデータサイエンスの知識を組み合わせることで、できないと思われていたことでも、対応できる可能性があることをお伝えできたということですね。
現場ではいろいろなことが起きる、だからこそ伴走相手を!

それではさいごに、データサイエンティストの視点から、AIプロジェクト成功の秘訣を教えてください。
前段の熊谷さんのお話にもあるとおり、発生する課題に柔軟に対応できる体制をとることが重要だと思います。
AI推進においては、AIテーマの設定、データの取得、データの加工、モデルの作成、運用への組み込み、といったさまざまなプロセスがあるため、どこで問題が発生するのかを事前に予測することは難しいです。
そのため、どんな問題にも対応できる柔軟性をもった体制や計画を立ててもらうことが大切だと感じます。


小宮さん、ありがとうございました!
AIは常に試行錯誤が必要なプロジェクトです。
以下のように、AIプロジェクトではさまざまなフェーズで、あらゆる問題が発生します。

これらはツールがどれだけ高機能になっても、対応が難しい問題です。
アシストでは、AIプロジェクトの推進には最適な伴走相手が必要だと考え、日々ご支援させていただいています。
ぜひ皆さまも、AIプロジェクトの特性を理解し、本記事でお伝えした5つのポイントも意識しながら、AIの導入効果を最大化できる活動を実践されることを願っております!
AIの導入や活用におけるお悩み、ご相談などありましたら、ぜひお気軽にアシストへお問い合わせください。
著者紹介

熊谷 健司(KENJI KUMAGAI)
DataRobot社公認 AIサクセスマネージャー(AISM)
アシストに入社以来、データ分析を行うBIツールの担当技術として、お客様の情報活用環境構築に向けた提案およびご支援を実施。近年ではDataRobotも担当し、AIプロジェクトのマネジメントを行うAIサクセスマネジャーとして活動。多くのお客様をご支援した実績を評価いただき、2022年にはDataRobot社よりAI Success Manager of the Yearを受賞。

小宮 一真(KAZUMA KOMIYA)
DataRobot社公認 カスタマーフェイシングデータサイエンティスト(CFDS)
BI製品のフィールドエンジニアを経験後、情報活用製品全般のプリセールス担当に。中日本地区を中心に、重要顧客や大手製造業のお客様を複数社担当。現在はデータサイエンティストとしてお客様のAIプロジェクトのテーマ推進を支援している。DataRobot社が開講するAIアカデミー卒業生。