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データ活用の「理想と現実」を先進取り組み企業の事例から学ぶ

データ活用の「理想と現実」を先進取り組み企業の事例から学ぶ

2023年9月7日、アシスト主催のオンラインセミナー「企業対談で見るDX人材育成最前線」が開催されました。企業がDXを進める上で、「データ活用人材」の育成は欠かせない取り組みだと言われています。しかし実際には多くの企業がデータ活用人材の育成や確保に苦慮しており、このことが原因で思うようにDXやデジタル活用が進まない例も散見されます。

そこで本イベントでは、データ活用人材の育成に積極的に取り組まれている日本郵船株式会社、プライムアースEVエナジー株式会社、森永乳業株式会社の3社のキーマンをお招きし、各社の取り組みを紹介してもらうとともに、パネルディスカッション形式で苦労話なども含めた「生の声」を紹介していただきました。



データ活用人材にいち早く取り組んできた先進企業の事例


パネルディスカッションに登壇いただいた3社のデータ活用人材の取り組みについて、それぞれ簡単に紹介していただきました。


日本郵船株式会社


日本郵船は、船舶に取り付けたセンサーのデータを人工衛星経由で収集・分析し、燃費削減や機関異常の早期検知などに役立てる「SIMS(Ship Information Management System」という独自システムを早くも2008年から運用しています。このようにいち早くデータ利活用に取り組んできた同社では、データ活用人材の育成にも力を入れており、「Project Mt. Fuji(富士山計画)」というコンセプトの下にさまざまな育成施策に取り組んでいます。

これは富士山の形の特徴である「高い山頂」「分厚い中腹」「広い裾野」をイメージした人数構成を示すもので、具体的には「高い山頂」ではビジネスを牽引する革新的リーダーを育成するために「デジタルアカデミー」という社内トレーニング体制を設け徹底的に訓練する一方、分厚い中腹に当たる中間層に対してもさまざまな教育機会を提供して「全社員の“なんちゃってデータアナリスト”化」を目指しています。そして全社員が該当し企業文化を象徴する「広い裾野」では、さまざまな啓蒙活動を展開してデジタルやデータ活用のマインド・文化の醸成を図っています。



プライムアースEVエナジー株式会社


車載用電池製品の大手メーカーであるプライムアースEVエナジーでは、近年の市場競争の激化を受けて価格競争力やカーボンニュートラルへの取り組みなどをさらに強化するために、2022年1月からDXによる働き方改革に取り組んでいます。そのためのデジタル人材育成にも力を入れており、2023年4月から各種育成施策をスタートさせています。

同社ではデジタル人材をレベル1からレベル5までレベル分けしていますが、かつてはITツールを使うことに消極的な「レベル0」の非デジタル人材が多くを占めていたといいます。そこでまずはこれらの人々のITリテラシーを底上げし、全社員をレベル1の「ITを使う人」に移行させるための施策に取り組んでいます。具体的には全社員を対象に、IT=難しいという先入観を払拭してもらうために分かりやすさを重視したe-ラーニングを内製し、モチベーションを喚起させる工夫を凝らすことで、スキル習得とともにマインドチェンジを起こしてもらうことを重視しています。

加えてレベル2から4に相当する「ITを作る人」の育成策にも力を入れており、2023年5月に独自の教育プログラム「PEVEデジタルカレッジ」を立ち上げ、実務での活用を想定した実践的なデータ活用研修を実施しています。



森永乳業株式会社


森永乳業ではかつて大半の業務システムをスクラッチ開発していましたが、2017年からこうしたやり方を改め、クラウドやパッケージ製品を積極的に活用していく方針に舵を切りました。そのための重要施策として「クラウド活用」「BIツールの刷新」「デジタル人材の育成」を掲げています。具体的には、クラウドやBIツールを有効活用して従来のスクラッチ開発主体のシステム構築プロセスを短縮化し、そこで浮いた時間や工数をユーザーに対するデジタル教育やBI教育にあて、ユーザーが自らシステムのフロント部分を開発できるスキルを習得できるようにしています。

こうして一般社員の基礎的なリテラシーを底上げするとともに、BIツールやローコードツール、RPAなどを駆使して業務課題を解決できる「デジタル人材」、さらにその上位に当たる「ビジネスアナリスト」の育成にも取り組んでいます。将来的には、最上位に位置するデータ活用の「プロフェッショナル」人材の育成にも取り組んでいきたいとしています。



パネルディスカッション


続いて、登壇者の皆様にファシリテーターを交えて、DX人材やデータ活用人材の育成をテーマにしたパネルディスカッションが行われました。

・ パネルディスカッション登壇者 ・

 日本郵船株式会社 DX推進グループ グループ長 塚本泰司
 プライムアースEVエナジー株式会社 経営戦略室 DX企画推進グループ グループ長 木庭大輔
 森永乳業株式会社 情報システムセンター アシスタントマネジャー 豊島宝

・ ファシリテーター ・

 ネットコマース株式会社 代表取締役 斎藤昌義

DX推進のためにIT部門とユーザー部門の関係を見直すべし


斎藤 氏 斎藤氏

かつて企業のIT部門は、もっぱらユーザー部門の要請を受ける形でシステムを構築してきました。でもこれからはIT部門がユーザー部門に積極的にデジタル活用やデータ活用の提案を行い、全社のDXの取り組みを積極的にリードしていくべきだと思います。そうなると、自ずとデジタル人材に求められる役割も変わってくるのではないでしょうか。

デジタル人材は大きく分けて「使う人」と「作る人」に分けられますが、これまで両者は「使う人の要請に作る人が応える」という一方通行の関係性でした。しかしこれからは両者が1つのチームになって、アジャイル的な手法でともにDXを進めていくのが理想だと思いますし、そのためのマインド醸成が急務だと考えています。

塚本 氏 塚本氏

弊社でも長らくこの両者のすれ違いが問題となっていて、IT部門がシステムを導入してもユーザー部門が全然使わないというケースが多発していました。そこでユーザー部門にデジタル教育を施して市民開発を実施してもらったところ、「実際に自分たちで開発をやってみたらIT部門の立場が少し分かってきた」という反応が返ってきました。一方IT部門でも、「ユーザーが使い続けてくれるシステムを作るために必要なこととは?」という点を1つ1つの事例を振り返りながらIT部門と一緒に考え、行動に移してもらうことで、両者のコミュニケーションの改善に努めてきました。

木庭 氏 木庭氏

社内のあらゆる部門を同じ方向に向かせてDXを全社体制で推進していくためには、同じ問題意識を皆で共有することが必要だと思います。弊社では人口減少や人手不足といった経営環境の変化に対する危機感をあらゆる部門間で共有しており、「この危機を乗り越えるためにはDXを推進する必要がある」という共通認識が自然と芽生えています。

豊島 氏 豊島氏

経営陣こそがまずはデータ活用人材になりファクトベースの意思決定を

斎藤 氏 斎藤氏

そうした課題を克服してDXを推進していくためには、やはり必要な情報を経営陣から現場まで誰もが広く共有できる「フラット」なデータ基盤が必要になってくると思います。

その通りだと思います。ただ弊社に関して言えば、現時点ではまだシステムごとにデータがサイロ化されてしまっているのが実情です。こうした状況を打破するために例えば共有のストレージサーバを設置することも検討しているのですが、ただ単にデータ共有の場を提供するだけではダメで、積極的にデータを共有しようという“文化”をまずは醸成する必要があると考えています。

豊島 氏 豊島氏
斎藤 氏 斎藤氏

いくらデータ基盤を作っても、それを使いこなすための前提となる文化や、手に入れたデータを使いこなすための発想やスキルが必要ですよね。今回のセミナーのテーマである「データ活用人材の育成」がまさに求められてくるわけです。

かつて「KKD(経験、勘、度胸)」で意思決定を行っていたところを、きちんとファクトを基に経営判断を下せるようになるためには、やはりデータ活用の取り組みとそのための人材育成は欠かせないと考えています。

塚本 氏 塚本氏
斎藤 氏 斎藤氏

現代のKKDは「計画、科学、データ」だと言われていますが、こうしたデータ活用の取り組みはビジネスの現場はもちろんのこと、やはり会社全体のかじ取りを行う経営陣こそまずはデータ活用人材になるべきだと個人的には思っています。

経営がデータを基に判断を下したいと考えても、これまでは必要なデータをそろえるために現場の人たちが社内中を駆け回ってデータをかき集めて、1週間ぐらいかけてレポートを作成していたわけです。これをもっと効率化するためには、やはりデータ基盤とそれを使いこなすための人材が必須だと考え、現在データ基盤の構築や人材育成に取り組んでいます。

塚本 氏 塚本氏

弊社では幸いなことにデジタル活用に積極的な役員が多くて、自らDX推進部門に対して「BIを教えてほしい」と依頼してくる方もいます。そういう要請に応える形で、一般教育とは別に、役員や経営幹部に特化したBI研修などを開催しています。なぜ経営陣がそうやってデータ活用に積極的になったかというと、やはり現場にBIの市民開発が浸透して、データが見えることによる要因分析や予測技術などで、いろいろな効果が目に見える形で表れてきたからだと思います。そういう成果を経営陣に対して根気よく、何度も提示してアピールすることも大事だと思います。

木庭 氏 木庭氏

データ活用人材を目指すための「学ぶ時間」をいかにして捻出するか

斎藤 氏 斎藤氏

セミナー視聴者の方から「社員が学ぶ時間をどのように捻出すればいいとお考えですか」という質問をいただいています。

どの企業も同じような悩みを抱えていると思います。弊社でも社内研修への参加はあくまでも自己啓発という扱いで、まだ業務時間に含めることは認められていません。

塚本 氏 塚本氏

弊社の場合は、各部門に対して「研修に参加してください」というお願いを出して、各部門の判断で業務時間内になるべく含めてもらうようにしています。でも真っ先に参加してもらいたい人ほど業務を多く抱えていて、なかなか時間を捻出できないというのはどの部門にも共通している課題ですね。

豊島 氏 豊島氏

弊社が実施している社内教育制度「デジタルカレッジ」は、業務時間として認められています。確かに参加するための時間を確保するのは決して易しくありませんが、時間を捻出するための業務効率化の取り組みそのものがDXの活動につながります。ですので、生みの苦しみはあるかもしれませんが、まずはメンバーが「学ぶ」時間をマネージャーが確保し「現場での実践」を促すことが、まさにDXの両輪だと思います。

木庭 氏 木庭氏
斎藤 氏 斎藤氏

そうした組織的な取り組みももちろん大事ですが、個人的には社員一人ひとりの自助努力によって学ぶ時間は捻出できるような気もしています。例えば通勤時間を使って本を読んだりeラーニング教材を視聴するだけでも、学ぶ時間はかなり確保できます。結局、個人に「学びたい」というモチベーションがあればいくらでも工夫して時間は確保できますから、そういうモチベーションが自然と湧いてくるような文化や風土を醸成することこそが最も大事なのではないかという気がしています。

データ利活用を推進するためには「全社員のリテラシー底上げ」が不可欠


アシストが提供するデータ活用人材育成の支援サービスについて、アシストの染谷尚秀がご紹介しました。

IPAが公開している「DX白書2023」によれば、日本企業におけるDX人材の確保は、2021年から2022年にかけて「大幅に不足している」が増加傾向にあり、「社内人材の育成」「既存人材の活用」に力を入れているということが分かります。外部からの採用は競争が激化しており簡単ではないため、自社の業務に長けた人員にDXの素養を身につけさせる方針を取っている企業が多いということが伺えます。

その中でもとりわけ「データ活用人材」の育成については、一部の専門家だけではなく全社員のデータリテラシーの底上げが極めて重要です。データ活用人材は大きく『データサイエンティスト』『リーダー』『プレイヤー』の3種類に分類できますが、たとえ少数のデータサイエンティストが育成できたとしても、その周囲にいる上司や一般社員の理解や協力が得られなければ結果的にデータ活用は進みません。

そこでアシストでは、高度な知識とスキルを持つデータサイエンティストやリーダーにツールやノウハウを提供して伴走支援するだけでなく、一般ユーザーであるプレイヤーのデータ活用レベルの底上げを図る「データ活用リテラシー研修 」をあわせて提供しています。

この研修の特徴は、単にデータ集計・可視化の方法が学べるだけでなく、ビジネス課題から仮説を設定してデータを準備し、集計・可視化を行い、その結果を解釈して次のアクションにつなげるというデータ活用の一連のプロセスを、リアルなビジネスシナリオに沿って実践的に学べるという点にあります。

Zoomのライブ配信を通じて参加できる「公開研修」のほか、特定の企業向けに実施する「一社向け研修」も提供しています。さらには100人以上の大人数の受講者を対象に、自由な時間に視聴できる「オンデマンド研修」も用意しており、企業ごとの多様なニーズに応じた研修メニューを用意しています。(データ活用リテラシー研修についてはこちら


(本稿は、アシスト主催で2023年9月に開催したウェビナー「企業対談で見るDX人材育成最前線」を基にした記事です。)




DXのひろば


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