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金融業界におけるDX・AI活用の最先端についてキーマンが語る

金融業界におけるDX・AI活用の最先端についてキーマンが語る

 2023年12月15日に、オンラインセミナー「AI・DX現場キーマンが見た組織立ち上げから人材育成、戦略的活用の成功・失敗事例」を開催しました。株式会社アシストでは2022年から「金融AI交流会」を定期的に開催しており、お取引のある金融企業6社の担当者にお集まりいただき、AIやDXをテーマに各社の取り組み状況を共有しながら、会員同士で活発な議論や情報交換を実施しています。

 本セミナーでは、この金融AI交流会に参加いただいている株式会社セブン銀行(以下、セブン銀行)、三井住友信託銀行株式会社/Trust Base株式会社(以下、三井住友信託銀行/Trust Base)、三菱UFJ信託銀行株式会社(以下、三菱UFJ信託銀行)の3社の担当者が登壇し、各社のDX推進やAI活用の事例を紹介するとともに、パネルディスカッションの形でAI・DXの導入・活用にまつわる様々な課題について意見を交わしました。



AI・DX人材の育成施策はまず「EXの向上」から始める


 本セミナーの冒頭には、株式会社アシスト DX推進技術本部 AI技術部 佐藤彰広が登壇し、「アシスト流『AI・DX組織の立ち上げと人材育成』の極意」と題して、アシストにおけるDX推進やAI活用の取り組みを紹介しました。

 アシストでは2019年にAIビジネスを新たに立ち上げて以降、AIエンジニアやデータサイエンティストの社内育成に取り組んできました。2019年から2020年にかけて、DataRobot社のAI人材育成プログラム「AIアカデミー」に約20名の社員を選抜して送り込んだのを皮切りに、2022年からは社内でデータサイエンティスト育成のためのプログラム「データ活用リテラシー研修」を立ち上げ、さらに2023年にはクラウドエンジニアとビジネススキルに長けた人材の育成プログラムも新たに立ち上げました。

 こうした数々の育成施策を講じるにあたって、最も重視した点は「体験・実践」と「EX重視」でした。

 「単に知識を習得するだけでなく、業務の場で活かすことを常に意識して『体験』『実践』『定着』を重視した教育施策を心掛けています。また学びのモチベーションや動機を高めるためには、EX(Employee Experience)の向上が不可欠です。学ぶことを称賛する文化を根付かせたり、心理的安全性を確保してEXを高めることが、結果的にCX(Customer Experience)の向上につながります」

 またEXが向上してくると、社内でDX推進の知見や情熱を人一倍持ついわゆる「チャンピオン」が生まれてきますが、こうした人材をいかに発見して保護できるかがDX推進の鍵を握ります。

 「弊社の人材育成や組織作りの取り組みはまだ道半ばですが、これまでの経験を通じて得た知見やノウハウをお客様にもフィードバックすべく、AIプロジェクトを成功に導くためのスキルを学べる育成講座の提供を始めました。興味をお持ちの方は、ぜひお問い合わせいただければと思います」




各社のDXの取り組み


 続いてセブン銀行、三井住友信託銀行/Trust Base、三菱UFJ信託銀行の3社が、それぞれにおけるDX推進やAI活用の取り組み内容について紹介しました。


セブン銀行


 セブン銀行 コーポレート・トランスフォーメーション部長 中村義幸氏が、「DXに向けた取組紹介」と題して、DXの取り組みの概要を紹介しました。

 セブン銀行では2018年に始めたAI技術のPoCに端を発し、その後徐々に取り組みを拡大していき、現在では「SEVENBANK Academia」と呼ばれる全社体制のDX人材育成プログラムの中でデータサイエンスや市民開発などのスキル習得に多くの社員が取り組んでいます。その成果は早くも様々な場面で表れており、現場の従業員がノーコード・ローコードツールを用いて各種アプリケーションを開発・運用しているほか、AIを用いたATM設置候補地の探索など、様々なビジネス活用が新たに生まれています。

 こうした一連の活動で重視しているポイントについて、中村氏は「DXやAIは不確実性が高く、手戻りや中止も当たり前なので、内製で行うことが前提となります。またデータ人材育成にあたっては、よりビジネスインパクトの大きな課題領域を見つけるための『ビジネス力』を重視しています。加えて、技術やツールは常に進化し続けるので、生成AIをはじめとする先進技術の動向に常にアンテナを張り巡らせて、積極的に取り込んでいくようにしています」と述べました。



三井住友信託銀行/Trust Base


 三井住友信託銀行/Trust Baseの鈴木みゆき氏および川田真也氏が、「信託銀行で実践するデータドリブンな組織、カルチャーへの挑戦」と題して、データドリブン文化の醸成およびその成果を紹介しました。

 三井住友信託銀行/Trust Baseでは過去2年間、データドリブンの取り組みを「業務ユーザー主体の民主化」「データドリブン文化の醸成」「民主化からモデルの業務適用へ」「モデルの精緻化・自動化」というステップを踏んで進めてきました。同行は信託銀行という業態上、データを外部ベンダーに預けて分析を依頼することができません。そのため現場主体の内製体制(民主化)によってデータドリブンを推進する必要があり、現場の業務ユーザーのデータリテラシー向上やデータドリブン文化の醸成にこれまで注力してきました。

 「データの民主化によって『データで話す文化』を醸成しながら現場で課題を顕在化させ、それをAIモデル化しています。さらにこのように構築したモデルの効果をしっかり検証した上で、効果が認められたものだけがその後の精緻化・自動化のステップへと進みます」(鈴木氏)

 こうした一連のプロセスを通じて、既に「お客様の声はがきDX化」「受電量予測」など複数のデータドリブンのユースケースが生まれ、日々の業務の中で活用されています。



三菱UFJ信託銀行

 続いて登壇した三菱UFJ信託銀行 デジタル企画部 ジュニアフェロー 西潟裕介氏は、「AIデータ活用/DX取組紹介」と題して、同社における取り組みを紹介しました。

 西潟氏が所属しているデータサイエンスグループは現在、「データドリブン経営への変革」をミッションに掲げデータ活用を推進していますが、常に「ユースケース起点」を心掛けて取り組みを進めています。

 「データ起点でいきなりデータを集めるのではなく、まずは具体的なAI・BIのユースケースにおいて『使われるデータ』を特定したうえで、収集・活用する検証プロジェクトを小規模で実施しています。その後、効果が見込めると判断したものについて、本格的に自動化や集中管理の仕組みを検討するという手順を踏んでいます」

 また現在話題の生成AIについても、2023年7月からChatGPTの全社利用を始めるなど積極的に取り組んでいますが、特に内製にこだわることなく、SaaSやローコード、さらにはマイクロソフトのAIアシスタントツール「Copilot」などを積極活用する方針を立てており、現在、様々な業務への適用を検討しています。



DX・AI組織の立ち上げはボトムアップとトップダウン両方の力学が必要



 本セミナーの後半では、プレゼンテーションの登壇者が一堂に会したパネルディスカッションを実施しました。あらかじめ視聴者から募った3つのディスカッションテーマ「DX組織立ち上げの初期段階における課題と解決策」「DX・AI人材の育成」「最新の技術トレンドとその影響」を中心に、様々なトピックについて活発な意見交換が行われました。

・ パネルディスカッション登壇者 ・

 左から
 三菱UFJ信託銀行 デジタル企画部 ジュニアフェロー 西潟裕介
 三井住友信託銀行/Trust Base 鈴木みゆき
 三井住友信託銀行/Trust Base 川田真也
 セブン銀行 コーポレート・トランスフォーメーション部長 中村義幸

・ ファシリテーター ・

 株式会社アシスト DX推進技術本部 AI技術部 佐藤彰広

佐藤 佐藤

弊社はよくお客様にDX推進やAI活用のPoCをご提案するのですが、その際に「上層部に対してプロジェクトの費用対効果をきちんと示せないと上申できない」という声を頻繁に伺います。本日お集まりいただいた皆様の会社では、こういったことはなかったのでしょうか。

PoCはそもそも「うまくいくかいかないかまだ分からないもの」について評価する活動ですから、始める前から投資対効果を正確に示すのは不可能です。従って「やりながら投資対効果を探っていく」、あるいは「投資対効果の見込みが明らかになってきた時点で示していく」ということになります。弊社でこうしたやり方が通用するのは、内製化しているからだと思います。やはり外注すると費用が発生するので、どうしても事前に投資対効果を示すことを求められてしまいます。

鈴木 氏 鈴木氏
佐藤 佐藤

DX推進やAI活用のための組織作りの最初の一歩は、どのように踏み出したのでしょうか。

やはり課題意識を強く持っている人や、先進テクノロジーを使って課題を解決したいという熱意を強く持っている人たちが中心となって進めないことには、このような変革の取り組みは成功しないと思います。そういう人たちは組織の中に必ず一定数いると思いますので、まずはそのような思いを持っている人たちでプロジェクトを組み、小さな成果を上げていくことが第一歩になると思います。

西潟 氏 西潟氏

例えばITツールの導入一つをとっても、実はIT部門の目の届かないところでそのツールの活用に熱心に取り組んでいて、その人を中心に現場レベルで自然発生的にコミュニティが形成されていることもよくあります。そういういわば「チャンピオン候補」の人を見つけ出して、そこから人のつながりを広げていくのが有効だと思います。

中村 氏 中村氏

ただそういう現場起点の草の根運動だけでは、せっかく人が集まってもその成果を会社としてきちんと評価して、次のステップにつなげていくことができません。従って会社としてきちんと組織を立ち上げるためには、まずはある程度トップダウンで組織の器を用意して、その初期メンバーを数名でもいいので社内で正式に公募する必要があるのではないでしょうか。

鈴木 氏 鈴木氏

柔軟にやり方を変えていきつつも本来の目的を見失わない

今日では多くの企業が経営戦略や事業戦略の中でDXを掲げていますが、DXはあくまでも事業目標達成や事業課題解決のための手段の一つにすぎません。日本企業では往々にしてDXそのものが目的化してしまいがちなのですが、事あるごとに「当初の目的は何だったか?」と振り返りながら、DXの本来の目的を見失わないように進めていく必要があります。

またそれと同時に、事業環境は時とともにどんどん移り変わっていきますし、技術も日進月歩で進化していきますから、最新の状況に応じてやり方を柔軟に変えていくアジャイル的な発想を持つことや、それに適した組織設計を行うことも大事だと思います。

川田 氏 川田氏

そういうマインドを持つ人材の確保には、現在どの企業も苦労されていると思います。弊社では今のところ中途採用でそうした人材を外部から招き入れることと、内部の人材を育成するという2軸で企業文化の変革に取り組んでいます。ただし一気に文化を変えるのは難しいので、まずは小さな成功体験を積み重ねながらその周囲の変革マインドを徐々に醸成していく必要があると感じています。弊社もまだ道半ばで、特に内部人材の育成に関しては課題が山積みです。

西潟 氏 西潟氏

人材育成に関しても、外部研修を受けていくら知識を身に付けても、それが実際の業務現場の課題解決につながらなければ意味がありません。ちなみに弊社の社内教育プログラム「SEVENBANK Academia」では、社内で先行してDXやAIのスキルを身に付けた社員が、実際に社内で行われている業務へ適用することを前提に研修コンテンツを作成しています。こうすることで、「実際に使える知識」が効率的に習得できるよう工夫を凝らしています。

中村 氏 中村氏

現実の課題解決を前提に生成AIの情報収集や技術検証を進める

佐藤 佐藤

最近話題の生成AIについては、各社様どのような取り組みを行われていますか。

これまでの機械学習ベースのいわゆる「予測AI」は、業務効率化というよりはむしろ収益拡大に貢献できる技術として期待を集めてきました。例えばRPAとの比較でいえば、「コスト削減のためのRPA」「収益拡大のためのAI」という捉え方が当社内では一般的でしたが、生成AIは同じAIでも業務効率化の領域で大きな効果が期待できる技術であり、従来の予測AIとはアプローチが異なってくると考えております。収益への貢献というよりは、むしろ現場にとって身近で分かりやすい業務課題の解決から広がっていくのかもしれません。

西潟 氏 西潟氏

ちなみに弊社では現在、全方位で生成AIの検証を進めているところです。現実の業務課題を解決するために適している活用方法は一体どのようなものか。プロンプトエンジニアリングなのか、RAGによるハルシネーション防止か、はたまたファインチューニングが適しているのか。さらにはLLM単体だけではなく、他のプロセスやサービスと組み合わせて問題解決を目指す方法も十分考えられます。事実、既に数千ものプラグインが世に存在していますので、そういった組み合わせによって課題解決や新たなビジネスモデルの創出につながるのではないかと期待しています。

中村 氏 中村氏

弊社も、現在オープンなLLMやファインチューニングなどを様々検証しているところですが、やはりLLMだけで現実の業務課題を解決するのは難しいのではないかと考えています。もちろん今後画期的な技術革新が起こる可能性も十分ありますが、現時点では課題特化型の製品やサービスが出てきたり、様々なオプションサービスと組み合わせることで現実の課題に対処できるようになっていくのかなという感触を持っています。

鈴木 氏 鈴木氏
佐藤 佐藤

三菱UFJ信託銀行さんでは、マイクロソフトのCopilotの検証も始められたと先ほど伺いました。

はい。Copilotも触っていますし、ChatGPTについても様々な検証を進めていますが、弊社の場合はファインチューニングにはそこまで大きく踏み込まないようにしています。世界中の先進テック企業がAI研究に惜しみなくリソースをつぎ込んでいる中、弊社のような非IT企業が限られた人的リソースと資金を投じても、大きな成果は得られないだろうと考えているからです。従って現時点では、先進他社の取り組みに関する情報収集に専念しながら、その有益な活用方法を探っているという段階です。

西潟 氏 西潟氏

(本稿は、アシスト主催で2023年12月15日に開催したウェビナー
 「AI・DX現場キーマンが見た組織立ち上げから人材育成、戦略的活用の成功・失敗事例」を基にした記事です。)





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