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AI-OCRとビジネスルールエンジンが切り拓く「保険業界のDX」の最前線

AI-OCRとビジネスルールエンジンが切り拓く「保険業界のDX」の最前線

2024年7月19日、アシストが主催する「3S会」のインタラクティブウェビナー「次世代保険業務の最前線『生命保険給付金支払いプラットフォーム』~人間とAIの共創による給付金査定における新時代の戦略~」が開催されました。3S会は、アシストのお客様である生命保険会社とともに2019年に設立した、生保業界に特化した情報交換会です。単なる情報交換や親睦だけに留まらず、参画企業各社が日々遂行する業務のうち、「非競争領域」にあたる業務の効率化をITで実現する仕組みを共同で検討してきました。

その最初の成果が、2021年11月にリリースされた「生命保険給付金支払いプラットフォーム」でした。入院給付金の支払業務をデジタル技術を使って効率化する仕組みを構築し、3S会の参画企業の間で共用できるようプラットフォーム化して提供しています。

今回開催したウェビナーでは、このプラットフォームの機能や中身について紹介が行われたほか、実際にこれを使って給付金支払い業務の効率化を実現した生保会社3社の担当者によるパネルディスカッションも行われました。


保険業界に特化したAI-OCRで帳票の内容を自動的にデータ化

本ウェビナーの冒頭には株式会社アイリックコーポレーションの山内諭史氏が登壇し、「生命保険給付金支払いプラットフォームにおける診療明細書のデータ化を支えるスマートOCRの概要」と題したプレゼンテーションで、同プラットフォームの中核技術として採用された同社のAI-OCRソリューション「スマートOCR」の紹介を行いました。

入院給付金の支払請求の受付や内容のチェック、審査といった一連の業務は、これまではもっぱら紙帳票を使った人手作業に頼ってきました。生命保険給付金支払いプラットフォームでは、これらをデジタル化して業務効率を向上させるとともに、請求から入金までの期間を大幅に短縮することで顧客サービスの品質向上を狙ったものです。

保険契約者は従来の紙の請求書に代わって、Webフォームから必要事項を入力するとともに、診療明細書や領収書といった関連書類をスマートフォンのカメラで撮影してアップロードします。プラットフォーム側ではこれらの帳票データを受け取り、スマートOCRを使って内容を自動的に読み取ってデータ化します。

次にこのデータは、株式会社Ubicomホールディングスが開発・提供する「保険ナレッジプラットフォーム」へと受け渡され、ここで業界標準コードに自動変換されます。さらにこれらのデータは、データ連携プラットフォーム「DataSpider」を介してビジネスルールエンジン「Progress Corticon」へと引き渡されて、ここであらかじめ定義された業務ルールに基づいて査定業務が自動実行されます。

スマートOCRは上記の一連のフローの中で、契約者がアップロードした請求書や各種帳票の内容を自動的に読み取ってデータ化するという極めて重要な部分を担っています。こうしたユースケースにおいてスマートOCRを採用するメリットについて、山内氏は次のように話します。

山内 氏
山内 氏
スマートOCRは保険業界に特化したパッケージソリューションとして提供されており、領収書や診療明細書、調剤明細書のテンプレートがあらかじめ用意されているので、帳票のフォーマットを個別に定義することなくすぐにご利用いただけます。また利用料金にはボリュームディスカウントが適用されますので、生命保険給付金支払いプラットフォームに参画する企業が増えれば増えるほど安価にご利用いただけるようになります。

ビジネスルールエンジンを使って各種の査定業務を自動化

続いてアシストの佐藤彰広が登壇し、「生成AIで高度化するビジネスルールエンジン」と題したプレゼンテーションで、生命保険給付金支払いプラットフォームにおいて査定業務の自動化処理を担うProgress Corticonについて紹介を行いました。

Progress Corticonは、ビジネスルールエンジン市場においてトップシェアを長年維持している製品で、これまで生命保険会社をはじめ数多くの企業のビジネスルール自動化を支えてきました。生命保険給付金支払いプラットフォームにおいては、あらかじめ定義したルールに基づいて給付金支払い申請の内容をチェックし、最終的に支払いを実施すべきかどうかの判断を人に代わって行います。

なお生命保険会社でのユースケースとしては、これまでは引受査定などの業務を自動化する目的で導入されるケースが多かったと佐藤は説明します。

佐藤彰広
佐藤
査定ルールをプログラムロジックとして実装するのではなく、Progress Corticonのような外部のビジネスルールエンジンで別途管理することによって、約款の変更や新商品の追加などに伴い査定ルールを変更する際に素早く対応できるようになります。

なおアシストは現在、海外のベンダーと協力しながらProgress Corticonと生成AIを組み合わせた新たなソリューションの開発に取り組んでいます。具体的には、規定や約款などの業務ルールが記述されたドキュメントのデータを生成AIが自動的に読み取り、ルールを解釈した上でProgress Corticonのディシジョンテーブル(ルールが記述されたデータ)を生成するというものです。

佐藤彰広
佐藤
技術的にかなり難しいチャレンジですし、私たちも完璧なディシジョンテーブルを自動生成できるとは考えていません。しかしProgress Corticonでビジネスルールを新たに定義する際、こうした仕組みを使ってルールのひな型を自動的に生成できれば、全体の作業を大幅に効率化できるのではないかと考えています。

生命保険給付金支払いプラットフォームの導入企業が
語る「生の声」

本ウェビナーの後半では、生命保険給付金支払いプラットフォームを実際に導入・活用して入院給付金支払い業務の効率化を実現しているチューリッヒ生命、ネオファースト生命、メディケア生命の担当者によるパネルディスカッションが行われました。

パネルディスカッション登壇者
  • チューリッヒ生命保険株式会社金子 稔功
  • チューリッヒ生命保険株式会社永井 雄介
  • ネオファースト生命保険株式会社饗庭 渉
  • ネオファースト生命保険株式会社萩原 孝
  • メディケア生命保険株式会社日下 雅二
ファシリテーター
  • メディケア生命保険株式会社奥村 真也
奥村 真也 氏
奥村 氏
本日のディスカッションについてですが、あらかじめテーマごとにトピックの候補を準備しています。ご視聴いただいている皆さんに、聞きたいとおもうテーマを投票いただき、多かったテーマからディスカッションをしたいと思います。本日の参加者数は約110名なので、半分投票がされた時点で締め切りたいと思います。

奥村 真也 氏
奥村 氏
投票結果はほとんど同数ですが、その中でも一番多かったAI-OCRにおける精度向上からお聞きしたいと思います。残りの2つについても各社さんの発表の中で網羅いただけると思います。
まずは給付金査定領域においてテクノロジーをどのように活用されているのか、各社に伺えればと思います。まずはチューリッヒ生命さんからお願いします。
AI-OCRの精度を向上させるために取り組んだ内容について説明します。AI-OCRによる帳票の読み取り精度は100%ではありませんので、この精度を少しでも高めるための工夫を凝らしています。例えば、読み取ったデータをUbicomホールディングス様が提供するマスターデータと照合することで、読み取り内容の揺らぎ補正と標準コード化を行っています。
また、中には1枚の紙に複数の診療明細書をコピーして提出されるお客様もいらっしゃるのですが、これをそのままAI-OCRに読み込ませても十分な精度が出せません。そこで前裁きの処理を行っております。あらかじめ帳票を1枚1枚分けたり、順番を整えたり、帳票の区分を整えるなど、読み取りの工夫を凝らすことで精度を高めています。
永井 雄介 氏
永井 氏
メディケア生命ではAI-OCRに加えて、2023年12月にルールエンジンを導入することで査定業務の効率化を実現できました。商品内容や支払い条件などは年々複雑になってきているので、支払い事務作業をAIで完全に自動化するのはかなり困難だと思います。ただしAI-OCRやルールエンジンを活用することで「人の判断がいらない領域」を増やすことは可能ですから、こうした取り組みを進めることで人間が「人の判断が必要な業務」に注力できるようにしていきたいと考えています。
日下 雅二 氏
日下 氏
ネオファースト生命でも2023年7月に、AI-OCRを使った給付金請求のWeb手続きサービスの提供を開始しました。単にAI-OCRを使って帳票の内容を読み取るだけでなく、読み取った診療明細書の内容からお客様が受けた診療内容を推測して、Webの入力フォームに入力候補を自動的に表示するなどして、お客様の入力作業の負担を減らす工夫をしています。そのおかげでお客様からは、このWeb手続きに対して非常に高い評価をいただいています。
萩原 孝 氏
萩原 氏

給付金の請求から支払いまでに要する日数を大幅に短縮

奥村 真也 氏
奥村 氏
次に、生命保険給付金支払いプラットフォームの導入によって得られた効果について伺えればと思います。先ほどと同様に、ディスカッショントピックの投票をお願いします。

奥村 真也 氏
奥村 氏
今回は全く同数ですね。それでは各社から順番に発表をお願いします。
ではネオファースト生命さん、請求から支払・着金までの日数短縮についてお願いします。
ネオファースト生命では、かつてはお客様が給付金を請求されてから実際に支払いが行われるまで、約40日かかっていました。しかし先ほどご紹介したWeb手続きサービスを開始し、生命保険給付金支払いプラットフォームを使って書類のチェックや査定業務をシステム化したことで、請求から支払いまで平均で3日間、最短では翌営業日に支払いを行えるようになりました。
また、必要書類の提出有無をチェックする作業も、ほぼ100%に近いレベルでチェックできるようになりましたので、業務全体がスムーズに進捗するようになりました。
萩原 孝 氏
萩原 氏
チューリッヒ生命でも、最短2営業日で給付金をお支払いできるようになりました。2024年7月末時点で、書類不備や事実確認がないお手続きにおいて2営業日以内の支払は全体の約30%、3営業日以内であれば約60%、5営業日以内であれば約95%という迅速な支払いを実現しています。これを実現する上で肝となった1つが、「コード化」でした。AI-OCRが診療明細書から読み取った「薬剤名」「手術名」などは、医療機関によって微妙に呼び方や記述が異なる場合がありますから、これを標準コードに変換することでその後に続くルールエンジンの査定処理の精度を高めることができました。
永井 雄介 氏
永井 氏
メディケア生命でも、やはり請求から支払いまでの日数をかなり短縮できました。請求手続きが紙からWebに変わり、お客様の利便性が向上したことで、請求の回数がかなり増えています。これを従来の手作業で対応するとなるとかなりの時間がかかることが予想されましたが、生命保険給付金支払いプラットフォームを導入したことでスピーディーに対応できています。今後Web請求の数が増えていくにつれ、その導入効果もさらに高まっていくと思います。
日下 雅二 氏
日下 氏

今後さらに給付金支払い査定業務の効率向上・高度化に
取り組んでいく

奥村 真也 氏
奥村 氏
3つ目のディスカッションテーマです。今後さらに給付金支払い査定業務の改革を進めていく上で、どのようなテーマに取り組むかについて投票をお願いします。

奥村 真也 氏
奥村 氏
皆さん、請求の利便性の追求についてご興味あるようです。皆さんにこちらと、あと自動査定の実現にはルールエンジンによる網羅性向上というものがとても重要なポイントなので、こちらについてもご意見あればお願いします。
メディケア生命としては、さらに多くのお客様にWeb請求の便利さを知っていただき、利用者を増やしていきたいと考えています。そのためには、まずは一度Web請求を体験いただくことが最も重要です。実際、一度体験していただいたお客様は、次回以降もかなり高い確率でWeb請求をご利用いただいていることが分かっています。
既に約3割のお客様がWeb請求をご利用いただいていますが、まだ紙で請求されているお客様の方が数としては多いので、少しでも多くの方にWeb請求を体験いただき、マイページを登録してもらうことで、自動査定による業務効率化の効果をさらに高めていきたいと考えています。
日下 雅二 氏
日下 氏
ネオファースト生命ではこれまで、生命保険給付金支払いプラットフォームを中心とする自動査定の取り組みを強化してきましたが、これからはそれ以外の「人が行う査定作業」の効率化にも力を入れていきたいと考えています。具体的には、査定の難易度に応じて案件を振り分けて、難易度が低いものについてはプロセスを簡略化するなどして、業務の品質と効率化をさらに高いレベルで両立させていきます。
萩原 孝 氏
萩原 氏
チューリッヒ生命では、ルールエンジンを使った査定業務の自動化の取り組みをさらに高度化していきたいと考えています。例えばルールエンジンから医療機関のマスターデータを参照することで、「この医療機関には病床がないにも関わらず、入院給付金の請求が行われている」といったような不正請求チェックが行えるような仕組みの実現を考えています。
永井 雄介 氏
永井 氏
奥村 真也 氏
奥村 氏
ありがとうございました。各社とも生命保険給付金支払いプラットフォームを導入したことで成果を上げつつ、さらにレベルアップを図っていることが分かりました。
改めてエコプラットフォームの大きな差別化として、
 ・クラウドでもオンプレでも
 ・バッチでもオンラインでも
各企業の事情に合わせて色々な組み合わせが出来ることが大きな特徴、ポイントである。
ちなみにメディケア生命はクラウド×バッチスタイル、チューリッヒ生命はオンプレ×オンラインスタイルと全く違うスタイルで導入しています。

なおアイリックコーポレーションさんのプレゼンテーションでも説明がありましたが、生命保険給付金支払いプラットフォームで採用しているAI-OCRは、読み取り枚数が増えれば増えるほどボリュームディスカウントが効き、プラットフォームそのものも安価に利用できるようになります。そのためぜひ多くの企業様に生命保険給付金支払いプラットフォームのエコシステムに参画いただき、コストメリットを享受してもらえれば幸いです。

(本稿は、アシスト主催で2024年7月19日に開催したウェビナー
 「次世代保険業務の最前線『生命保険給付金支払いプラットフォーム』~人間とAIの共創による給付金査定における新時代の戦略~」を基にした記事です。)






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