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AI現場リーダーが語る/AI成功の手法をともに学ぶ

AI現場リーダーが語る/AI成功の手法をともに学ぶ

2024年12月10日に、オンラインセミナー「AI現場リーダーが語る / AI成功の手法をともに学ぶ」を開催しました。株式会社アシストでは、2022年からお取引のある金融企業7社の担当者にお集まりいただき、「金融AI交流会」を定期的に開催しており、AIやDXをテーマに各社の取り組み状況を共有しながら、会員同士で活発な議論や情報交換を実施しています。

本セミナーでは、この金融AI交流会に参加いただいている株式会社セブン銀行(以下、セブン銀行)、三井住友信託銀行株式会社/Trust Base株式会社(以下、三井住友信託銀行/Trust Base)、三菱UFJ信託銀行株式会社(以下、三菱UFJ信託銀行)、株式会社エムアンドシーシステム(以下、エムアンドシーシステム)の4社の担当者が登壇し各社のAI活用事例をご紹介いただきました。

また、各ご登壇者毎にブレイクアウトルームを設け、ご聴講頂きました皆様とバーチャルな金融AI交流会を模して各社のお悩みや課題を共有し合い活発な討議が交わされました。

集合写真


セブン銀行
AIデータ活用の失敗からの学び

 
講演者 セブン銀行 中村 義幸 氏

セブン銀行の中村義幸氏は、IT部門、ビジネス部門での豊富な経験を持ち、現在はAI・データ部門に所属しています。また、金融データ活用推進協会でも活動しており、AI・データ活用の専門家としての知見を共有しました。

セブン銀行の概要

セブン銀行は、セブン‐イレブンをはじめ全国に 27,000 台以上展開しているATMプラットフォーム事業を展開し、最短 10 分で口座が開設できる「My セブン銀行」アプリなどユニークな商品・金融サービスを提供しています。中村氏は、セブン銀行のコーポレート・トランスフォーメーション部の役割についても触れ、企業変革の推進と意識変革を進めるための取り組みを紹介しました。

セブン銀行紹介資料01

AI・データ活用の推進体制

セブン銀行では、データサイエンティストチームを編成し、AI・データ活用の企画から実装・推進までを一気通貫で担当しています。具体的な取り組み事例として、人流データとATMの利用データを組み合わせて設置候補地の利用件数を予測するプロジェクトや、インドネシアのATM進出におけるAI活用が挙げられます。

失敗事例と学び

中村氏は、AI・データ活用の失敗事例についても紹介しました。以下に、具体的な失敗事例とそこから得られた学びを紹介します。

デビット利用者のペルソナを推定するプロジェクト

このプロジェクトでは、顧客データとデビットカード利用データを組み合わせて、個々のお客様のペルソナを推定し、ターゲットに応じて文面をカスタマイズしたダイレクトメールを送る試みが行われました。しかし、毎回同様のプロセスを実施することが必要で、しかも外部委託で取り組んでいたため、コストがかかり過ぎて採算が合わず、継続性がありませんでした。この失敗から、内製の重要性が学ばれました。

セブン銀行紹介資料02

ローン督促の架電順序を最適化するプロジェクト

各ローン延滞者の貸し倒れリスクを予測して、リスクの高い顧客に優先的に電話をかける方法が試みられましたが、実際には貸し倒れが多く、電話を優先的にかけるだけでは効果がありませんでした。現場の人たちと協力して、新たに督促手段としてショートメッセージ(SMS)を活用するなどの新しいアプローチが試みられました。その結果、副次効果としてSMS督促が現場に定着しました。この失敗から、従来の方法にとらわれず、新しいアプローチを試みる重要性が学ばれました。

AI・データ活用の流れと重要性

中村氏は、AI・データ活用の一連のプロセスについても説明し、ビジネス理解の重要性を強調しました。

AI・データ活用はトライアンドエラーで進める必要があり、ビジネス効果を追求することが重要です。そうすれば、失敗しても社員の成長につながり、社員の成長が会社の成長にも寄与し、ビジネス効果につながっていくことを強調しました。

まとめ

セブン銀行の中村氏の講演では、AI・データ活用の失敗から学ぶことの重要性が強調されました。失敗事例から得られた教訓を次の取り組みに生かし、内製化とビジネス理解の重要性、新しいアプローチの試行とビジネス効果の追求が示されました。これにより、AI・データ活用の効果を最大化し、企業全体の成長に寄与することが期待されます。

三井住友信託銀行
サイロ化されたシステムとデータへの挑戦

 
講演者 三井住友信託銀行/Trust Base 鈴木 みゆき 氏

三井住友信託銀行/Trust Baseの鈴木みゆき氏は、デジタル企画部の企画チームとビジネスデザインセンターに所属しており、データサイエンスを含めたビジネスデザインに取り組んでいます。サイロ化されたシステムとデータへの挑戦についての知見を共有しました。

三井住友信託銀行の概要

三井住友信託銀行は、個人事業、法人事業、マーケット事業に加え、証券代行、不動産、年金の運用を含めた多彩な事業を展開しています。これらの事業がサイロ化されているため、データの横断利用が難しい状況にあります。

三井住友信託銀行紹介資料01

サイロ化されたデータへの挑戦

鈴木氏は、サイロ化されたデータに向き合うためのチャレンジについて説明しました。以下に、具体的な取り組みとその成果を紹介します。

ボトムアップでのデータ活用

まず、ボトムアップでデータ活用を進めることが重要であると述べました。現在できることから始め、データの利活用を進めることで、徐々にデータの価値を引き出していくアプローチを採用しています。

合成データの活用

次に、合成データ技術を活用して、過去のデータをつなげた未来をシミュレーションする取り組みを紹介しました。具体的には、25万件の個人データをもとに合成データを作成し、これを活用して新しいアイデアを生み出す試みを行いました。これにより、データの利活用の可能性を広げることができました。

三井住友信託銀行紹介資料02

環境構築の重要性

鈴木氏は、データの利活用基盤を整備することの重要性を強調しました。システム間の連携を進めるためのユースケースの発掘や、システム間の連携の重要性を認識してもらうための取り組みを紹介しました。これにより、データの横断利用が可能となり、業務の効率化や高度化が実現しました。

具体的な取り組み事例

鈴木氏は、具体的な取り組み事例として以下のプロジェクトを紹介しました。

マーケティングや業務効率化のユースケース

部門内のユースケースを発掘し、マーケティングや業務効率化のためのデータ活用を進めました。これにより、業務の簡素化や効率化が図られました。

システム間の連携

システム間の連携を進めるためのユースケースを発掘し、その重要性を認識してもらうための取り組みを行いました。これにより、システム間のデータ連携ニーズが高まり、データの利活用に対する意識が高まりました。

データ利活用の文化の醸成

鈴木氏は、データの利活用を進めるための文化の醸成が重要であると述べました。データの利活用を進めるためには、協力を得るための環境を整備し、データの価値を理解してもらうことが必要です。

まとめ

三井住友信託銀行/Trust Baseの鈴木氏の講演では、サイロ化されたシステムとデータへの挑戦についての具体的な取り組みとその成果が紹介されました。ボトムアップでのデータ活用、合成データの活用、環境構築の重要性が強調され、データの利活用の可能性が示されました。これにより、業務の効率化や高度化が実現し、データの価値を最大限に引き出すことが期待されます。

三菱UFJ信託銀行
金融機関における生成AIプロジェクトの推進方法

 
講演者 三菱UFJ信託銀行 西潟 裕介 氏

三菱UFJ信託銀行の西潟裕介氏は、2019年に中途入社し、全社のAIデータ活用に係る企画立案を担当しています。金融機関における生成AIプロジェクトの推進方法についての知見を共有しました。

三菱UFJ信託銀行の概要

三菱UFJ信託銀行では、デジタル戦略を推進するために、攻めの組織と守りの組織の両立を目指しています。攻めの組織はデジタル化を進め、守りの組織は従来型のITシステムを担当しています。

三菱UFJ信託銀行紹介資料01

AIプロジェクトの推進体制

生成AIプロジェクトの推進体制について、三菱UFJ信託銀行での具体的な取り組みを紹介します。

ユーザーの支援体制

三菱UFJ信託銀行 デジタル戦略部では、事業部門のデジタル化の案件の企画立案をサポートし、それに係るPoC予算執行やリスク評価を行う組織を設けています。これにより、事業部門のデジタル化の推進がスムーズに行われるよう支援体制を整えています。

生成AIの社内推進の取り組み

生成AIの社内推進では、全社的にChatGPTを導入し、直後に社長との生成AI活用における対談動画を全社に配信するなど、生成AIの認知を高める取り組みを行いました。また、関心の高い一部の社員に対しては、アイデアソンを通じて生成AIの活用を促進しています。

具体的な取り組み事例

具体的な取り組みとして、以下事例を紹介しました。

プロンプトアイデアソン開催

プロンプトアイデアソンの取り組みでは、ユーザーの認知を深めるためのポータルを作成し、生成AIの活用方法を紹介する取り組みを実施しました。また、インセンティブを設けることで、ユーザー個人個人が生成AIを試行錯誤する動機付けや触れる機会を増やしています。

47部署へのヒアリング

47部署に対して、生成AIの活用方法についてのインプットセッションを行い、業務課題解消に向けたユースケースの選定を進めました。これにより、各部署のリテラシーを向上しつつ、実務ニーズに応じた生成AIプロジェクトの推進が可能となりました。

三菱UFJ信託銀行紹介資料02

ユースケースの選定方法

上記取り組みにて集まったユースケースの選定方法について、具体的な選定基準とその成果を紹介します。

ビジネスの効果と技術的な難易度

ユースケースの選定においては、ビジネスの効果と技術的な難易度を考慮しています。具体的には、定量的な効果(人件費の削減や業務効率化)だけでなく、定性的な効果(品質の向上)も評価しています。

各部の優先度

各部の優先度も考慮し、ベテラン社員のノウハウが失われるリスクが高い場合など、優先度の高い案件を選定し、リスクも踏まえたAIユースケース選定を意識しています。

データ利活用の文化醸成

生成AIをはじめとするデータの利活用を進めるためには、文化醸成が重要です。協力を得るための教育や環境を整備し、データの価値を理解してもらい協働してデータ利活用推進を行うことが必要です。

まとめ

三菱UFJ信託銀行の西潟氏の講演では、金融機関における生成AIプロジェクトの推進方法についての具体的な取り組みとその成果が紹介されました。ユーザーの支援体制、ユースケースの選定方法、データ利活用の文化醸成が強調され、生成AIプロジェクトの効果的な推進が示されました。これにより、業務の効率化や高度化が実現し、データの価値を最大限に引き出すことが期待されます。

エムアンドシーシステム
データ活用組織立ち上げからのヒストリー

 
講演者 エムアンドシーシステム 大西 健司 氏

エムアンドシーシステムの大西健司氏は、2009年にグループプロパーとして入社し、2015年頃からデータ活用の推進に取り組んでいます。彼は、データ活用推進組織の立ち上げからのヒストリーについての知見を共有しました。

エムアンドシーシステムの概要

エムアンドシーシステムは、情報システム部門の中でデータ活用推進組織を立ち上げ、データの収集から分析、予測モデルの構築までを一気通貫で行っています。2019年に創設され、最初のメンバーは社内公募で募集。

エムアンドシーシステム紹介資料01

データ活用推進体制

大西氏は、データ活用推進体制について説明しました。以下に、具体的な取り組みとその成果を紹介します。

組織の立ち上げ

データ活用推進組織は、2019年に創設され、メンバーは社内公募で集められました。特にFINTECH事業を中心に、エポスカードのデータウェアハウスの運用と中央集権的な分析業務を行っています。

メンバー構成とスキルアップ

メンバーは分析担当者と開発担当者で構成されており、スキルの向上を図るために研修やコンサルティング会社の支援を受けています。これにより、統計知識やプログラミングスキルを向上させ、効果的なデータ活用が可能となっています。

エムアンドシーシステム紹介資料02

失敗事例と学び

大西氏は、データ活用の失敗事例を中心に話を進めました。以下に、具体的な失敗事例とそこから得られた学びを紹介します。

内部と外部の認識のずれ

組織内のメンバーがやりたいことと、外部から期待されることが一致していなかったため、徹底的な対話を通じて認識のすり合わせを行い、組織のビジョンや行動指針を整理しました。

スキル不足とツールの使いこなし

エポスカードのデータを活用した価値創出の検討を行っていましたが、スキル不足やツールの使いこなしに課題がありました。これを解決するために、コンサルティング会社の支援を受けたり、メンバー自身が研修に参加してスキルを向上させる取り組みを行いました。

事例の創出と事業への貢献

技術やモデルの精度にこだわりすぎてビジネスインパクトにコミットできていなかったため、依頼者との対話を重視し、プロジェクト形式で取り組むようにしました。また、評価指標を見直し、アウトプットが活用されることを重視するようにしました。

具体的な取り組み事例

大西氏は、具体的な取り組み事例として以下のプロジェクトを紹介しました。

サービス利用客予測モデル

サービス利用を促進するために、スコアリングモデルを活用し、利用率の向上と電話オペレーターの生産性向上を実現しました。

ロイヤルカスタマーのクラスタリング

ロイヤルカスタマーの戦略を立てるために、クラスタリングを行い、お客様の特徴を整理しました。これにより、マーケティングのタイミングや訴求内容を最適化するなど、利用額向上施策の検討が行えます。

データ利活用の文化環境の構築

大西氏は、データの利活用を進めるための文化環境の構築が重要であると述べました。データの利活用を進めるためには、協力を得るための環境を整備し、データの価値を理解してもらうことが必要です。

まとめ

エムアンドシーシステムの大西氏の講演では、データ活用推進組織の立ち上げからのヒストリーについての具体的な取り組みとその成果が紹介されました。組織の立ち上げ、メンバーのスキルアップ、失敗事例からの学びが強調され、データ活用の効果的な推進が示されました。これにより、業務の効率化や高度化が実現し、データの価値を最大限に引き出すことが期待されます。

終わりに

金融AI交流会では、23年に引き続き、24年もこのようなかたちで金融業の皆様に有益な情報提供を実践させて頂きました。単なる情報提供に終わらず、各社の課題を共有し具体的な解決策を見い出す討議の場を提供して参ります。

25年も企画して参りますので、皆様、大いに期待してお待ちください。


(本稿は、アシスト主催で2024年12月10日に開催したオンラインセミナー「AI現場リーダーが語る / AI成功の手法をともに学ぶ」を基にした記事です。)




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