オブザーバビリティとは?ユーザー満足度を向上させるクラウド時代のシステム監視
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現代のIT環境は、クラウドやコンテナ技術の進化により劇的に変化しています。この変化に伴い、システム監視の手法も根本的な見直しが求められています。そんな中、システム監視にまつわる考え方で最近注目されているのが「オブザーバビリティ」です。
本コラムでは、オブザーバビリティの概要やポイント、ユースケースなどをご紹介します。
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<執筆者> 塩澤 正寛 Shiozawa Masahiro
ビジネスインフラ技術本部
システム基盤技術統括部 課長
2004年にアシストに入社し、JP1、Zabbix、JENNIFERなどの監視製品を担当。
インフラ監視からアプリパフォーマンス管理まで、システム監視分野の業務に従事する。
プライベートではクラフトビールにはまっているが、飲みすぎないように努力している。
クラウド環境におけるシステム監視の課題
近年、アプリケーションおよびインフラストラクチャーの性質は、クラウドやコンテナ技術の俊敏性とスケーラビリティにより大きく変化しました。この変化により、従来の監視手法では対応しきれず、以下のような課題を耳にすることが多くなりました。
- クラウドサービスの様々な機能を利用するケースが増えており、十分な監視ができているか分からない
- 複数のコンテナ・複数のアプリケーション・複数のデータベースを利用しており、
管理が複雑な上に問題発生時の原因特定に時間がかかる - 複数のクラウドサービスを利用しており、それぞれ異なるマネジメントサービスを使用して監視しているが、
コストが高くなる上に問題発生時の原因特定に時間がかかる
(例:Azure環境では Azure Monitor、AWS環境では Amazon CloudWatch を利用する、など)
このような課題を解決するのが、新しいシステム監視の概念「オブザーバビリティ」です。
システム監視の新しい概念「オブザーバビリティ」とは
オブザーバビリティ(Observability)は、オブザーブ(Observe:観測する)と、アビリティ(Ability:能力)を組み合わせた複合語で、システムに関わる「こと」および「もの」を統合的に観測するという考え方です。
ユーザー体験やシステム構成、ネットワーク、アプリケーションの動作など、システム全体を包括的に監視し、メトリクス、イベント、トレース、ログなどのデータを収集・分析する仕組みによってオブザーバビリティを実現します。
オブザーバビリティとは
システムに関わる「こと」および「もの」を統合的に観測するという考え方
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----- 参考動画:オブザーバビリティに対するアシストの考え(約3分) -----
オブザーバビリティの概要や、オブザーバビリティとモニタリングの領域の違いなどを解説します。
オブザーバビリティを実現することで、
- クラウド、コンテナ、マイクロサービスなどの最新テクノロジーや頻発する変化に対応できる
- ハイブリッド環境から外部サービスまで幅広い環境を全体俯瞰で把握し、問題が発生した際に原因を特定できる
といったメリットがあります。
システムの健全性を維持し、ビジネスの信頼性を高めるためにも、オブザーバビリティを実現すべきだと言えます。
オブザーバビリティを実現する3つのポイント
オブザーバビリティを実現するために、以下のポイントに留意すると良いでしょう。
1.ユーザー視点で監視をする
システムが安定稼働しているかだけでなく、ユーザーが問題なくシステムを利用できているかを監視します。
そうすることで、ユーザー体験を向上させ、ビジネスの信頼性を高めることができます。
2.リアルタイム監視をする
システムの健全性を維持し、問題発生時の迅速な原因特定・対応をするためには、リアルタイムに監視をする必要があります。
3.監視状況を可視化する
担当者が必要な情報を迅速に確認できる環境を用意します。
問題の早期発見はもちろん、業務の効率化やコスト削減などを検討する際にも役に立ちます。
特に着目したいのが「ユーザー視点で監視をする」という点です。これは、システム導入の目的やユーザー数の変化が背景にあります。
これまでシステム導入の目的といえば「業務の効率化」でしたが、最近は「ビジネスへの貢献」となっているケースが多いです。
さらに、システムの重要性が高まるにつれ、利用するユーザーも増加しています。
その結果「ユーザーが満足するシステムになっているか」に重きを置かれるようになってきました。
システム監視でユーザー満足度を向上させる方法
では、ユーザーが満足するシステム監視とはどのようなものでしょうか?
よくあるのは「問題発生時にスピーディに対応してほしい」というケースです。
例えば、クラウド上に複数リージョン、複数コンテナ、複数アプリケーションが存在し、ロードバランシングされるような環境で、ユーザー側でレスポンス上の問題が発生したとします。通常のシステム監視では、運用担当者が調査を行おうとしても、アプリケーションの処理が複雑すぎて原因の特定や対応に時間がかかってしまうことも多いでしょう。
システム監視のイメージ(Before)
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このような環境でオブザーバビリティを実現する場合、ユーザーサイドからサーバーサイドまで状況を把握できる以下の監視を行うと良いでしょう。
APM(アプリケーションパフォーマンス管理)
アプリケーションの内部動作を詳細に監視します。
トランザクションの応答時間、SQL時間、エラーレート、リソース使用状況などのデータを取得します。
→ パフォーマンスの最適化、問題の迅速な特定が可能
RUM(リアルユーザーモニタリング)
実際のユーザーの行動とパフォーマンスをリアルタイムで監視します。
ユーザーの地理的位置、デバイス、ブラウザ、ページロード時間などのデータを取得します。
→ ユーザーエクスペリエンスの向上、実際の使用状況の把握が可能
Synthetic(外形監視)
スクリプト化されたシナリオを用いて、ウェブアプリケーションの可用性とパフォーマンスを定期的にテストします。
設定されたテスト結果、応答時間、エラーレートなどのデータを取得します。
→ 問題の予防、ダウンタイムの削減、パフォーマンスの維持が可能
さらに、ツールなどを使って監視内容を確認できるようにしておくと、視覚的に分かりやすく、スピーディな原因特定が可能となります。
オブザーバビリティツールによるシステム監視のイメージ(コンテナ監視の例)
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先ほどのケースにあてはめて考えると、オブザーバビリティの実現により、
- ツールやタグ※ を活用することで、障害発生箇所が特定できる
- APM(アプリケーションパフォーマンス管理)によって、アプリケーションに問題があるかどうかを確認できる
- Synthetic(外形監視)によって、どのアクセスに問題があるかを確認できる
という状態となり、スピーディな問題解決ができるでしょう。
( ※タグ:データやリソースに対してラベルを付与し、リソースの管理や検索をしやすくするもの )
システム監視のイメージ(After)
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このようにシステム監視の方法を変えることで、問題解決のスピードを向上させ、結果としてユーザーの満足度を向上させることができます。
システム監視の効果を最大化させる方法
システム監視の効果を最大限に引き出すためには、監視状況を可視化し、分析する必要があります。そのためには、ダッシュボードの活用が欠かせません。運用担当者、開発担当者、管理者、経営者ごとに適した情報を提供することで、以下のような対応・改善が見込めます。
運用担当者
- システムの稼働状況をリアルタイムで監視し、障害発生時に迅速に対応する
- ダウンタイムの削減をする
- リソースの最適化を図る
開発担当者
- パフォーマンスのボトルネックを迅速に特定し、コードを最適化する
- エラーレートを低減する
- デプロイの成功率を向上させる
管理者
- システム全体の稼働状態を確認し、システムの健全性を保つ
- ユーザーエクスペリエンスを把握し、運用コストを管理する
経営者
- KPIをリアルタイムで監視し、データに基づく迅速な意思決定をする
- ユーザーの利用状況を確認し、ユーザーの満足度向上を図る
システムの全体像を把握するだけではなく、担当者ごとに必要な情報を可視化して迅速に連携することで、業務の改善に繋がります。
また、チーム間の連携強化や、情報の一貫性を確保できることも大きなメリットになるでしょう。
おわりに
システム監視の成熟度を向上させるには、以下のような段階的なステップアップが必要です。
本日はSTEP3について重点的にご紹介しましたが、自社のクラウド移行の進行度に応じて、監視対象や監視項目、体制、ツールなどをご検討ください。
オブザーバビリティ監視のステップ
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本コラムが皆様のシステム監視の一助になれば幸いです。
アシストではシステム監視やオブザーバビリティへの取り組みに向けたご相談を承っております。
お困りごとや質問があれば、ぜひお気軽にお問い合わせください。
参考
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開発から運用まで、IT部門のお役に立つ情報をお届けするサイト「縁(ENISHI)」
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