Amazon Q Developer徹底解説!開発を変える生成AIアシスタントとは?
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2022年11月にChatGPTが公開されて以降、生成AIの成長スピードは加速し続け、今やビジネスや開発現場において革新的な変化をもたらしています。
本コラムでは、生成AIの基本や注意点に加え、開発の強力なパートナーとなる生成AIサービス「Amazon Q Developer」の魅力や機能、料金などをご紹介します。
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<執筆者> 山庄 菜摘 Yamasho Natsumi
ビジネスインフラ技術本部 クラウド技術統括部
2021年に新卒入社し、AWSのフィールド業務を担当。
最近は生成AI分野に興味を抱き、日々Amazon Qの検証を行っている。
自他共に認める韓国好きで「有給休暇 = 韓国旅行」だと思われることもしばしば。
生成AIとは
生成AIとは、文章や画像、アイデアといった新しいコンテンツを「ゼロから生成できるAI」です。
これまでのAIは、データからパターンを学習し、物事を「分類・予測」するのが主な役割でした。
例えば、迷惑メールの判別や、顔認証などがこれにあたります。
一方で生成AIは、学習した膨大な知識を応用し、問いかけに応じて文章を作成したり、指示通りの絵を描いたりできます。
従来のAIが「データの中から正解を探す」AIだとすれば、生成AIは「新しい答えを自ら創り出す」AIと言えるでしょう。
生成AIの基本と注意点
生成AIに関連する用語には専門的なものも多く、理解するにはハードルが高いと感じる人もいます。
そこで本章では、生成AIに関する基本的な用語と、生成AIを活用する時の注意点をご紹介します。
AIの関係性
AIには様々な種類があると思われがちですが、並列で並ぶものではなく、下図のような関係性にあります。
AIは、基盤モデル(FM)をベースとした、人間の知的な行動をコンピュータで模倣しようとする技術全般を指します。
そのAIの分野の一つが生成AIです。
AIの関係性
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日本語名 | 略称 | 英語名 | 概要 |
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人工知能 | AI | Artificial Intelligence | 人間のように学習・判断・推論を行うAI |
機械学習 | ML | Machine Learning | 人工知能(AI)の一分野で、データからパターンを学習して、予測や分類を行う技術 |
深層学習 | DL | Deep Learning | 機械学習(ML)の一分野で、人間の脳に似た「ニューラルネットワーク」という手法を使い、より複雑な学習を行う技術 |
生成AI | GenAI | Generative Artificial Intelligence | 深層学習(DL)を基盤とし、人間のように文章や画像などを新たに創り出すAI |
基盤モデル | FM | Foundation Model | 幅広い分野に対応する土台のようなモデル |
大規模言語モデル | LLM | Large Language Model | 基盤モデル(FM)の中でも自然言語処理に特化したモデル |
AIの頭脳であるモデル
モデルはAIの「頭脳」とも言えるもので、私たちがAIと接する上での知的な応答を可能にしています。
ここでは、AIの進化を牽引する重要な概念である「基盤モデル」と「大規模言語モデル」(上図の緑色の部分)について、それぞれの特徴を解説します。
- 基盤モデル(FM:Foundation Model)
基盤モデル(FM)とは、インターネット上の膨大な情報などをあらかじめ学習した、非常に大規模で高性能なAIモデルを指します。
従来のモデルは、翻訳なら翻訳、画像認識なら画像認識と一つの作業に特化して作られていたため、他の用途に応用することは困難でした。
それに対して基盤モデルは、特定の目的に縛られず、幅広い知識と能力を持つのが最大の特徴です。
その名の通り、様々なAIアプリケーションの共通の「基盤」となり、文章の要約から対話、アイデア出しまで、多彩なタスクを柔軟にこなすことができます。
- 大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)
大規模言語モデル(LLM)とは、特に「言語」の理解と生成に特化して訓練された、巨大なAIモデルを指します。
従来のモデルが限定的なタスクしかこなせなかったのに対し、人間のように自然な文章の作成や複雑な対話、要約、さらにはコード生成まで、言語に関する多彩なタスクをこなします。
大規模言語モデル(LLM)は、より大きな枠組みである「基盤モデル(FM)」の一種です。
基盤モデル(FM)が言語だけでなく画像や音声なども扱う高性能AIの「総称」であるのに対し、大規模言語モデル(LLM)はあくまでその中で「言語」を専門とするモデルです。
生成AIを活用する時の注意点
生成AIの能力を最大限に引き出し、正確な情報を得るためには、いくつかの注意点があります。
ここでは、特に注意したい「プロンプトエンジニアリング」と「ハルシネーション」という2つのポイントについて詳しく解説します。
- プロンプトエンジニアリング
プロンプトエンジニアリングとは、AIに対して意図通りの回答を引き出すために質問文や指示の構成を工夫する技術です。
単語の選び方や情報の与え方を調整することで、曖昧さを減らし、精度の高い回答を期待できます。
シンプルすぎるプロンプトでは、希望する回答が得られないこともあります。
WEBで「生成AI プロンプト テンプレート」などを検索して参考にするのも良いでしょう。
プロンプト例
プレゼン資料の内容を考えてほしい場合
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- ハルシネーション(幻覚)
ハルシネーションとは、事実と異なる情報や誤った内容をあたかも正しいかのように回答してしまう現象です。
AIは意味を理解している訳ではなく、確率的に最も繋がりやすい言葉を選んで文章を作ります。
そのため、事実を知らない/学習をしていない場合でも、自信満々に正しくない情報を創作してしまうことがあります。
AIが回答した内容が正確かどうかのチェックを行うと良いでしょう。
AIの誤った回答例
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AWSの生成AIサービス3選
生成AIブームとともに多くのサービスがリリースされていますが、Amazon Web Services(以下、AWS)でも用途に応じて使い分けられる多彩な生成AIサービスを提供しています。
AWSのサービスを使うことで、以下のメリットがあります。
- 一から仕組みを構築する必要がないため、すぐに試すことができる
- サービスの多くは従量課金のため、イニシャルコストを気にする必要がない
本章では、AWSの生成AI関連サービスの中でも、基盤モデル(FM)や大規模言語モデル(LLM)に関わる主要なサービスである「Amazon SageMaker AI」、「Amazon Bedrock」、「Amazon Q」シリーズをご紹介します。
生成AIサービスの住み分け
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Amazon SageMaker AI
Amazon SageMaker AI は、機械学習(ML)モデルの構築からトレーニング、デプロイまでを一貫して行えるフルマネージドサービスです。
開発者やデータサイエンティストが生産性高くモデルを開発できるよう、様々な機能が整備されています。
- 特徴
・データの前処理、学習、評価、デプロイまでを一貫してサポート
・機械学習を実装するために役立つ専用のガバナンスツールを提供(機械学習ガバナンス)
・既存のモデルやテンプレートを手軽に使える機能を整備(Amazon SageMaker JumpStart)
・WEBベースの統合インターフェイスによる一貫した開発(Amazon SageMaker Studio)
・コーディング不要、ノーコードでモデルを作成/可視化(Amazon SageMaker Canvas)
- こんな方におすすめ
・モデルの拡張性を重視する開発者やデータサイエンティスト
・自社のデータを活用し、独自モデルの構築・運用を検討している組織
Amazon Bedrock
Amazon Bedrock は、複数の大規模言語モデル(LLM)をAPI経由で簡単に利用できるフルマネージドサービスです。
モデルのトレーニングやインフラ構築が不要で、選択した基盤モデルをすぐに活用できます。
- 特徴
・様々なモデルの利用が可能(例:Claude(Anthropic)、Llama(Meta)、Nova(Amazon)など)
・自社データを活用するRAG(検索拡張生成)やプロンプトテンプレートなど便利な機能を多数提供
・モデルの比較や切り替えが簡単で、用途に応じた使い分けが可能
- こんな方におすすめ
・モデル構築ではなく、既存の高性能モデルを活用したい開発者
・生成AIを迅速にビジネスに取り入れたい組織
Amazon Q
Amazon Q は、生成AIアシスタントのフルマネージドサービスです。
「Amazon Q」という名がつくサービスは複数ありますが、ここでは「Amazon Q Business」をピックアップしてご紹介します。
Amazon Q Business は、社内ナレッジ活用に利用できる生成AIアシスタントです。
企業のシステムにあるデータや情報に基づいて、質問への回答、要約の提供、コンテンツの生成、タスクの実行を行うことができます。
- 特徴
・社内ドキュメントやFAQを活用した自然言語でのQ&Aが可能
・社内SaaS(SharePoint、Confluence、Salesforceなど)やAWSサービスと容易に連携
・専門知識がなくてもノーコードでAIアシスタントの構築が可能
- こんな方におすすめ
・日常業務の効率化を目的とした正確な情報アクセスを求めるビジネス部門
・社内ナレッジの検索性を向上させたい組織
もう一つのサービス「Amazon Q Developer」については、次章で詳しく見ていきましょう。
開発者の強力なパートナー「Amazon Q Developer」の魅力
Amazon Q Developer は開発者の生産性を飛躍的に向上させる強力なパートナーとして注目を集めています。
2025年4月9日には日本語にも対応し、さらに多くの開発者がその恩恵を受けられるようになりました。
そこで、本章では、多忙な開発者の日常を変える Amazon Q Developer の魅力と、その活用方法を深掘りしていきます。
Amazon Q Developerとは?
Amazon Q Developer は、ソフトウェア開発などを支援する「生成AI」を活用したアシスタントです。
単なるコード生成ツールに留まらず、コードの理解、生成、リファクタリング、バグ修正といった開発業務のあらゆる側面を強力にサポートします。
特に注目すべきは、既存のドキュメントやリポジトリから文脈を深く理解し、的確な提案を行う能力です。
これにより、開発者は煩雑な作業から解放され、生産性の向上や作業の効率化、開発プロジェクト全体の品質向上を期待できるでしょう。
- 特徴・魅力
リアルタイムで強力な開発支援
Amazon Q Developerは、まるで熟練のプログラマーが隣にいるかのように、リアルタイムで開発作業を支援します。
統合開発環境(IDE)内で、コード補完やバグの修正提案、コードの解説などを行い、開発者がよりスムーズにより質の高いコードを書けるよう手助けしてくれます。
開発環境とのシームレスな連携
Amazon Q Developerは、様々な統合開発環境(IDE)上で、開発に関する膨大な知識を提供してくれます。
開発画面とは別にWebブラウザを立ち上げて検索したり、マニュアルを開いて必要な情報を探したりする必要はありません。
ドキュメント作成の自動化
開発において疎かになりがちなドキュメント作成も、Amazon Q Developerに任せられます。
ユニットテストのコードや関数に関するドキュメントを自動作成してくれます。
開発者は手間をかけずにコードの品質と保守性を高め、チーム全体のコードの理解度を向上できます。
- こんな方におすすめ
・コードの保守性や開発スピードを高めたい開発者
・生成AIを活用して開発業務の効率化を図りたい組織
- 対応環境など
対応環境 | 統合開発環境(IDE) 開発者が日常的に使う統合開発環境(IDE)内で、チャットやインライン補完、コードレビュー、エージェント機能などが利用可能です。 ▼対応しているIDE例 Visual Studio Code、JetBrains系(IntelliJ、PyCharm、WebStorm など)、Visual Studio、Eclipse(プレビュー) コマンドライン環境 macOS および AppImage や Ubuntu などの特定の Linux 環境でサポートされています。 bash/zsh/fish シェル内や git/aws/docker/npm/yarn の CLIs で動作し、CLI補完や自然言語–to–CLI変換が利用可能です。 クラウドコンソール AWS Management Console(WEB&モバイル)や Chatアプリ(Slack、Microsoft Teams)と連動し、アカウントや構成に関する対話が可能です。 |
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対応言語 | 日本語、英語、標準中国語、韓国語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語、ヒンディー語 など |
対応プログラム言語 | Java、JavaScript、Python、C# など |
* 2025/6/12時点の情報です
* 対応プログラム言語は機能によって異なるため、詳細は以下のメーカー公式ドキュメントをご覧ください
参考:IDE の Amazon Q Developer でサポートされている言語
統合開発環境(IDE)に Amazon Q Developer が連携されている様子
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* 上図は Visual Studio Code に Amazon Q Developer を連携しています
Amazon Q Developerの主な機能
Amazon Q Developerは、開発のあらゆるフェーズで、多岐にわたる魅力的な機能を提供します。
これらの機能は、単に作業を効率化するだけでなく、開発プロセス全体の質を底上げします。
ここでは、特に注目すべき主要な機能とその具体的な活用例をご紹介します。
- チャット
チャット機能は、自然言語での対話を通じて、技術的な質問への回答やコードの提案、問題解決のヒントを提供します。
IDE上で気軽に相談できるため、WEB検索の手間を省きながら、開発中の疑問や課題にリアルタイムで対応できます。
▼チャットの活用例
IDEでPythonプログラム(.pyファイル)を開いた状態で「このコードは何を表していますか?」と質問すると、プログラムの内容を解説してくれます。
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- コード補完
コード補完機能は、入力中のコードに応じて次の処理を自動予測し、候補を提案します。
変数名や関数、構文の文脈を理解したうえで補完されるため、ミスを減らしつつ、コーディングのスピードと精度を高めることができます。
▼コード補完の活用例
31行目までコードを入力した状態で、33行目に「def」と入力すると、次に記述する必要があると思われるコードを提案してくれます。
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- コード確認(/review)
「/review」コマンドで、既存コードの改善点を自動でチェックしてくれます。
冗長している処理や非推奨な書き方、パフォーマンス上の懸念などを指摘し、より安全で保守しやすいコードへの見直しを支援します。
▼コード確認の活用例
チャット内で「/review」と入力してEnterを押すと、プログラムのコードレビューが自動で開始され、レビュー結果を表示してくれます。
どの行に対してどのような問題が発見されたか、重要度はどれくらいか確認できます。
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* 上図の場合、33行目(Ln33)に重要度の高い(High)指摘があることが分かります
虫眼鏡マークをクリックすると、より詳細な内容が確認できます
- テストコード生成(/test)
「/test」コマンドで、既存コードに基づいた単体テストコードを自動生成できます。
想定される入力と出力に応じたテストケースを提案してくれるため、テストの抜け漏れ防止や品質の担保ができます。
▼テストコード生成の活用例
チャット内で「/test」と入力してEnterを押すと、自動でテストコード生成が開始され、別ファイルでテストコード案が展開されます。
提案内容を受け入れるか否かの確認があり、「Accept(受け入れる)」を選択すると、テスト用のプログラムファイルが作成されます。
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* 上図右側の緑色の部分が、作成されたプログラムです
- ドキュメント生成(/doc)
「/doc」コマンドで、関数やクラスの説明文を自動生成できます。
引数の意味や処理内容の詳細などを明文化することで、コードの可読性と共有性が向上します。
▼ドキュメント生成の活用例
チャット内で「/doc」と入力してEnterを押すと、対話形式でREADMEファイルの新規作成か更新かを選択することができます。
提案内容を受け入れるか否かの確認があり、「Accept(受け入れる)」を選択すると、READMEのファイルが作成されます。
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* 上図右側の緑色の部分が、作成されたドキュメントです
参考:IDE での Amazon Q Developer の使用
Amazon Q Developerの料金
Amazon Q Developerの料金はユーザー課金制で、2種類のユーザーから選択が可能です。
無料の範囲もあるので、気軽に試してみてはいかがでしょうか。
Amazon Q Developer Free tier | Amazon Q Developer Pro tier | |
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料金 | 無料 | 1ユーザーあたり毎月19USD |
追加料金 | 月の上限*を超えるものは請求 * 生成したSQLの件数や、トランスフォーメーション機能のコード行数など |
基本なし |
ユーザーやポリシーの管理 | ✕ なし | 〇 あり |
カスタマイズ機能 | ✕ 利用不可 | 〇 利用可 |
認証 | AWSビルダーID または IAMユーザー | IAM Identity Center |
さいごに
生成AIの進化は目覚ましく、開発者やビジネスパーソンにとっても、日々の業務に革新をもたらす存在となりつつあります。
中でも Amazon Q Developer は、開発の質とスピードを大幅に向上させる新たなパートナーとして注目されています。
生成AIを単なる「自動化ツール」として捉えるのではなく「知的な協働者」として活用することがこれからの時代の大きな鍵となるでしょう。
本コラムが、皆さまの現場での生成AI活用の一助となれば幸いです。
参考
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ソフトウェア開発などを支援する「Amazon Q Developer」。 |
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